ぐんし と りゅうおう   作:悪手を具現化して人にしました。

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めっちゃアクセスもらってる(底辺作家の喜び)

再試験終わったとか思ってたら地元で開催中の大会運営の手伝いが(´・ω・`)

更新できるようにがんばります


三手目(2六歩)

 正直なところを話せば、俺は銀子ちゃんの将棋––––いや、将棋に関する感性が嫌いだ。

 

 もちろん、彼女の将棋を否定しているわけじゃない。

 

 しかし、彼女の将棋には”相手を尊重する”と言うものが欠陥している。そう感じている。

 

 勝つための将棋ではない。叩きのめす将棋。それが彼女の棋風だと俺は考えている。

 

 現状、彼女はそうだ。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 研修会の入会試験に合わせて、わざとあいちゃんと奨励会による指導対局を組んだ銀子ちゃん。

 

 奨励会員による研修会員への指導対局を逆手に取った巧妙な手口だ。

 

 彼女の作戦はあいちゃんに過換気症候群––––俗に言う過呼吸の状態にすることで判断力を下げるというものだ。

 

 あいちゃんが吐く瞬間に指すことでハッと息を吸ってしまう。もちろん、あいちゃんは気迫に押されてか無自覚のうちにだ。

 

 過呼吸は苦しいから吸いたくなる。しかし、吸うことで逆に苦しさが増してしまうものだ。

 

 普通なら紙袋で酸素を吸いすぎないように呼気を多く吸わせるのだが、対局中にそんな事はできない。

 

 だが、こうしないと勝てないと言うのは確かかもしれない。

 

 

「最悪だな…」

 

 

 俺はボソッと呟いた。

 

 隣りにいる八一、そして研修会入会試験を見守るあいの両親、研修会全体がこの対局を見守っている。

 

 あいちゃんの母親は棋士を目指すことを快く思っていないらしく、試験全勝がここに残る条件だそうだ。さっき八一から聞いた。

 

 研修会という完全なる奨励会の下位互換性組織、その入会試験の相手が駒落ちとは言え三段に上がろうとする女子棋界の天才。普通に考えて負けるのが当然だろう。

 

 だが、あいちゃんは銀子ちゃんを一時的とは言え追い詰めていた。

 

 

––––決まったな

 

 

 銀子ちゃんの手は確実にあいちゃんの玉将を寄せていく。この状況からの持ち直しは不可能に近い。

 

 あいちゃんの顔色が悪い。過換気症候群は死に至らずとも失神することがある。

 

 このまま倒れてもおかしくないんじゃないかと気が気じゃない。

 

 

「まだっ!」

 

 

 あいちゃん最後の粘り。しかし、それは6回以上続かない。

 

 

「まだ! まだまだまだまだm––––ッ!」

 

 

 銀子ちゃんの攻めを受けるためには駒が足らなすぎる。

 

 あいちゃんの駒台にはすでに駒はなく、玉は必死。受けがない以上詰んでいるという表現でいいだろう。

 

 

「……………ま……け、ま……した…………」

 

 

 力なくあいちゃんが投了。

 

 投了後すぐに立ち上がった銀子ちゃんは、感想戦もせずに部屋を出ていってしまった。八一は慌ててその後を追いかける。

 

 そんな中あいちゃんは涙と嗚咽を我慢するように唇を噛んでいる。

 

 研修会員達は誰も近づかない。いや、さっきまでの気迫を前に近づけないという方が正しいか。

 

 

「あいちゃん、お疲れ様」

 

 

 そんなあいちゃんの肩に優しく手を乗せる。

 

 本来部外者であり、立ち入ることを許されないだろう俺をプロの先生は止めなかった。

 

 紙袋でも渡してあげたいけど、生憎持ち合わせがない。今は呼吸を落ち着かせてもらうしかない。

 

 

「孔明…さん?」

 

「ああ、本気の将棋を見せてもらったよ。実に見事だ」

 

「で…でも…私は……負けました……」

 

「負けたら家に帰るみたいだね。でも、君の師匠が黙ってない。俺はプロじゃないし、君にとっては()()()()()だけどね––––」

 

 

 俺は一瞬言葉を詰まらせた。彼女に言って良いものなのか、それをすぐに判断できなかったからだ。

 

 だけど、少し間を開けて力強く続ける。

 

 

「––––君の才能は空銀子を超えている。俺はそんな君といつか、本気で指してみたいと思うよ」

 

「––––ッ!」

 

「話はそれだけだ。師匠も帰ってきたことだし、ここからは一門の時間。またどこかで(対局上で)

 

 

 あいちゃんに対する激励(?)の言葉を伝え、八一と入れ替わるように部屋を出ようと歩き出す。

 

 出る瞬間、あいの母親がすれ違いざまに言った。

 

 

「貴方は嫌いです」

 

 

 表情一つ崩さないであんなことを言えるなんてすごいな、と感心しつつ俺も小さな、それこそ当人にしか聞こえないくらいの声で

 

 

「どう思われようが貴女の勝手ですが、私はあいちゃんの味方で居続けますので」

 

 

 あいちゃんの才能は本当に銀子ちゃんを超える。将棋界という才能が実力を左右する世界でも指折りの才能。

 

 その才能を失うことは棋界の大損。俺という将棋ファンとしても、ぜひ将棋界に入ってほしい。

 

 そんなことを思いつつ、足早に会館を後にした。

 

 すぐにやってくる次の対局––––竜王戦6組優勝者決定戦に思考を切り替えながら俺は駅まで歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 竜王戦6組決勝。

 

 将棋会館で行われる対局のため、わざわざ関西から上京してきた。

 

 まあ、家があるのは茨城なんですけど。対局が終われば久々の帰省になる。

 

 

「失礼します」

 

 

 対局室へ入室。今日の俺は和服だ。気合を入れるためにわざわざ家から送ってもらった。

 

 アマチュアが粋がるなとかネットで叩かれそうだけど、全く問題ない。自分のエゴサはしない趣味なので。

 

 扇子は無地の対局扇子。普段はコンタクトで済ませるが、今日はメガネを掛けてきた。

 

 対局中、盤にのめり込みドライアイとかになるとコンタクトが乾いて地獄を見る。取り外しが楽なメガネの方が最適だ。

 

 

「失礼する」

 

 

 今日の対局相手である神鍋歩夢六段の入室。

 

 失礼を承知で考えるが痛い。18歳にもなって中二病+白スーツマントは流石にキツイ。

 

 自称ゴッドコルドレン。神鍋での『神』と『鍋』を分けてゴッドコルドレンらしい(八一から聞いた)

 

 プロ棋士には珍しい女流棋士を師匠とした例で挙げられ、理想の女性も師匠のような女性だそうだ。師匠思いな弟子で、足の悪い師匠の釈迦堂里奈名跡をサポートしている。プロ入りしてからも師匠を思う弟子の鏡だと思っている。

 

 両者席に着くが時間が早くまだ駒は並べない。

 

 神鍋六段はお茶を嗜んでいるが俺は適当に視線を泳がせる。事前研究も済ませたし特にすることがない。

 

 

「駒、並べますか?」

 

 

 暇に耐えかねた俺が進言、

 

 

「うむ」

 

 

 神鍋六段も了承し、駒を並べ始める。

 

 もちろん神鍋六段が上座、俺が下座。余談になるが俺は下座のほうが好きだ。だって出入り口が近いからトイレまでの距離が近いじゃん。

 

 並べてて思ったのだが、神鍋六段の並べ方が非常に独特だ。オリジナルの並べ方なんて久々に見た。

 

 定時になり記録係が告げる。

 

 

「神鍋先生の先手番でお願いします」

 

「ゴッドコルドレンでお願いします」

 

 

 神鍋六段、いつもの反応。そんなのに応じる記録係は世界中どこを探してもいない。将棋自体日本の競技人口がほとんどだから日本に居なかったら世界にも居ないだろうけど。

 

 

「「お願いします」」

 

 

 こうして始まる竜王戦予選当組最終局。

 

 では、対局中の様子は俺がよく見る感想サイトの当該記事で振り返ろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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<竜王戦第六組 最終局>

竜王戦第六組予選 決勝

先手  神鍋歩夢六段

後手  高月孔明アマ

持ち時間 各4時間

 

 

九頭竜八一竜王への挑戦権を巡るトーナメントへ進むのはどちらか、将棋ファンの注目の一局は東京都 渋谷区にある将棋会館で行われた。

当サイトで行った事前投票では、神鍋六段勝利と投票した方が全体の80%を占めた。戦型予想は相掛かり20%、角換わり15%、相矢倉5%、残りは分からないが多数となった。

 

まず、本局の戦型だが高月アマの四間飛車に神鍋六段の対振り持久戦。正解者は投票した方の0.1%、おめでとうございます。

 

私が最初に書きたいのは両対局者の服装だ。神鍋六段が白マントなのはお決まりとして。高月アマは和服。高月アマの服装や姿勢はタイトル戦を彷彿とさせるものがあった。

次に扇子。神鍋六段の扇子は普段と変わらない。しかし、高月アマは無地の扇子を用意していた。今までは実質の文字が記されており、私も密かに注目していたのだが、今回は無地。初心に戻ってという意味なのかと私は印象を受けた。

 

では、戦型について書いていこう。

高月アマはここまで振り飛車と居飛車を交互に指し続けた。順番的に今回は振り飛車になる。

一重に振り飛車と言っても三間飛車、四間飛車、中飛車など多くの戦法があり、どの筋に振るかが注目された今回は飛車を四筋に振る四間飛車。囲いは高美濃となった。

 

一方の神鍋六段は一貫した居飛車戦術で戦い抜いた。今回は持久戦を意識した駒組みに始まり、最終的に銀冠穴熊となった。

 

今回の対局の結果は総手数110手、神鍋六段が投了した。絶好調の若手相手に白星を奪った高月アマは、さらなる強豪ひしめく決勝トーナメントまで進む。

 

対局を通しての印象としては、理想的な四間飛車と理想的な対振り居飛車の将棋と言ったところか。コンピューターだと振り飛車で評価値がガクンと下がるので正確には分からないが、私の目には終始振り飛車やや良しのように見えた。

振り飛車と居飛車の将棋は最近見れなくなっている。若手のプロが居飛車党に転向することが多くなっているから。そんな中このような熱い将棋を見れたことは嬉しい限りだ。

 

序盤、比較的ゆっくりとした駒組みの時間が続いた。四間飛車側は相手王将の囲いの途中で仕掛けることはせず、ゆっくりと力をためていく。最初の攻め手は高月アマ。持久戦の相手に玉頭銀で攻める。その攻めにも神鍋六段は落ち着いて対応。結果、銀を交換した。

 

中盤、珍しい妙手が飛び出すわけでもなく進む。じわりじわりと後手が良くなっていく。神鍋六段、焦りが見えた頃一気に仕掛けた。持久戦らしからぬ大胆な作だが、ここは高月アマも華麗な捌きで駒損を抑える。結果として、神鍋六段が優位を築けないまま終盤に突入した。

 

終盤、一進一退の攻防。神鍋先生渾身の受けを高月アマが捌く、高月アマの捌きは振り飛車党総裁も驚きだろう。オールラウンダーとしては破格の、それこそ名人のような棋士ですら指せるかどうかという見事な捌きだった。

長い攻防戦の末、神鍋六段が投了。神鍋六段の竜王挑戦権争いは次のシーズンに持ち越された。

 

最後に、私は高月アマを応援している。彼の将棋は間違いなくプロに劣らない。ぜひ、竜王への挑戦を見てみたいところだ。




駆け足で書きました。どうも、悪手を具現化して人にしました。です。

今回は観戦記(?)中心になります。原作で描かれている話はあまり書かないつもりで居ます。なので対局話はこんな感じかと…いつか棋譜、考えててみたいです。

お気に入り登録してくださる方が多くて嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたします!


コルドレンをチルドレンと勘違いしてた自分を殴りました。


追伸、夜中更新で申し訳ありません。

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