ぐんし と りゅうおう   作:悪手を具現化して人にしました。

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リアルで作者がめっちゃ忙しかったんです。
今も変わらず忙しいですが(白目)


四手目(8四歩)

 竜王戦の予選をアマチュアが勝ち上がった。そんな事をしても絶対に受けないといけないものがあった。

 

 

 

 ––––校内テストである

 

 

 

 億劫だとは思うんだ。うん、思うんだよ。でもさ、受けないと進級できないから仕方ない。

 

 テストは5日間かけて行われる。国語、さんs––––数学、イヒ学、物理、日本史などなど。

 

 学校に来てないやつが出来るわけ無いじゃんなんて思われるかもしれないんだが、出来るんだなぁコレが。一応、家では勉強しているし。

 

 ひねりもない基礎問題と解かせる気のない応用問題を相手に一週間平日を戦いきった俺は現実から逃げるように先生の家に向かった。

 

 

「孔明くん? こんにちは」

 

 

 先生の家に行くと桂香さんが家に入れてくれた。先生は順位戦の対局らしい。

 

 八一は研究会、あいちゃんは学校か。時計を見ればまだ11時、二人の家に突撃するのはまだ後で良い。

 

 

「孔明くん、ちょっと研究相手をしてほしいんだけど良いかな?」

 

「良いですよ。居飛車と振り飛車どっちが良いですか?」

 

「振り飛車かな、先手もらっても良い?」

 

「はい。お願いします」

 

 

 頭を下げてチェスクロックを押す。

 

 ピピッと電子音がなりカウントダウンが始まった。

 

 桂香さんはじっくりとした居飛車党。師匠である先生と同じく各道を止めた矢倉囲いが得意。ただ、各交換矢倉は苦手らしい。最近は流行形や定跡をなぞらえた棋風で桂香さんらしい将棋は見れていない。

 

 振り飛車、と言われたがどの振り飛車をするか迷ってしまう。俺の得意な三間飛車、オーソドックスでアマチュアプロ問わず高い人気の四間飛車、現在の振り飛車のエースゴキゲン中飛車、大駒の飛び交うのが特徴的な一間飛車、対居飛車の向かい飛車。振り飛車はどこに振るかで定跡が全く違ってくる。

 

 桂香さんの初手2六歩にひとまず角道を開ける3四歩。2五歩、3三角、7六歩、4四歩、4八銀、3二飛者……居飛車とノーマル三間飛車の戦いになった。この後、俺が美濃囲いに桂香さんが左美濃囲いに玉を囲った。

 

 三間飛車は決定的な対応策がなく、アマチュアで再び人気が出てきた振り飛車希望の星。ゴキゲン中飛車対策の超速や超休戦、丸山ワクチンなど様々な対応策が練られた戦術とは違い、圧倒的な破壊力は他を寄せ付けない。

 

 左美濃は居飛車の囲いの一つ。居飛車相手ならその効果は薄いものの、対振り飛車戦ではその真価を発揮する。また、手数が遅れるながらも銀冠へ変化させることも可能である。

 

 カバンの中から扇子を取り出し軽く扇ぐ。

 

 

難解…

 

 

 桂香さんは対振り飛車の持久戦を仕掛けてくると予想していたが早仕掛けで戦ってきた。局面は俺が角を桂香さんが飛車を成っている局面で、一進一退の攻防、と言うわけでもなく俺が詰ませそうなのだが詰みが見つからないという局面だ。

 

 途中までは定跡通り、そこからは過去の対局に似たような棋譜を辿ったが俺の定跡外の一手から激戦になった。

 

 自然と扇子をを扇ぐスピードが上がり、姿勢が前に傾く。

 

 チェスクロックが電子的な秒読みを始める。一、二、三、四、五––––

 

 

 

 見えた。

 

 詰みまで33手。

 

 極限までの集中で研ぎ澄まされた読みは桂香さんの王を完全に捉える。

 

 すかさず駒台の桂馬を持ち強きの打ち込み、桂香さんは迷いなく王を逃した。

 

 ノータイムでの香車打ち、王の動きを連続の王手で縛っていく。

 

 

「負けました」

 

 

 負けを悟った桂香さんの投了。総手数は114手、チェスクロックを使ったので対局時間は短いが体感的にはとても長い時間だった。

 

 

「ありがとうございました。では、感想戦を初めましょうか」

 

 

 玉を元の位置に戻し、そこから板状に散った駒を戻していく。

 

 初手から終局まで、一手一手丁寧に検討と自分の読み筋を話し合う。時にはコンピューターの手を借りながら、感想戦は日が暮れるまで続く。

 

 

「研究会で振り飛車相手に負けちゃってね。研究したかったの」

 

「清滝一門は居飛車党ばかりですからね」

 

「孔明くんくらいよ、ここまでのオールラウンダーは」

 

「いえ。自分の師匠がオールラウンダーでしたから自然となっただけです。望んだのではなく、あの人を追いかけていたら必然的に、と言ったところでしょうか」

 

 

 師匠、あの人は俺が将棋を始めたきっかけでもあり恩師であり、目指すべき目標であり、越したい存在でもある。

 

 角換わりから横歩取り、急戦持久戦関係なくこなす一流の居飛車党でありながら振り飛車でもその実力は高い。

 

 

「奨励会でオールラウンダーだったのは一重に、あの人を超えたいから。決して勝ちたいからではなかったんですよね」

 

「そうなの?」

 

「はい。師匠に指導してもらう時自分は3回以上同じ戦法は使いませんでした。その予行練習みたいな感じで奨励会に行って、今思えば真摯に取り組む人に失礼な話ですよね」

 

 

 やっと感想戦が終わった時、すでに時計の短針は7の数字を指していた。

 

 部屋には変な空気が流れている。

 

 

「孔明くん、泊まってく?」

 

「お世話になります」

 

 

 投了と同じくらい、いやそれ以上丁寧に頭を下げた。




HAPPY BIRTHDAY TO ME.

久々に書いたので下手になってました。ごめんなさい。

あと、短くてごめんなさい


※学年末テストから校内テストに変更いたしました。(時系列的にパラレルになるため)

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