少し未来の、あるかもしれないお話です。
クリスマス番外編
――クリスマス。
かのイエス・キリストの誕生日であるその日は、しかしその本来の意味で世間が騒ぐことはごく稀である。
その前夜、クリスマス・イヴはその傾向が特に顕著であった。
町中見渡す限りのカップル達。腕組み、恋人繋ぎ、なんでもござれだ。
皆、仲睦まじく歩いている。その顔は幸せに満ち溢れていて、嫉妬の気持ちなんて湧くわけがなかった。
「……寒いな」
スマホによると、現在の気温は2℃。
氷点下に達していないとはいえ、それでも十分に寒い。
息を吐く度に、目の前に白い靄が浮かんで消える。
「……戸山さんまだかな……」
既に空の色は黒く染まり、しかし辺りに広がるイルミネーションがこの夜の暗さをかき消している。
輝かしい人並みの中に、ぽつんと1人佇んでいる自分を認識する度自分の心は――我ながら女々しいとは思うのだが――孤独感でいっぱいになってしまう。
それを誤魔化すかのように腕時計の針に目を向ける。既に集合時刻を少しすぎているのだが、まだ許容範囲内ではあった。
女の子の用意は、時間がかかると相場が決まっているから。
……だけど、それでも『彼女に早く会いたい』という欲がないなんて、到底言えるはずもなく。
「――ち、千葉くん」
時計から目を離し、空を見上げているとふと声をかけられた。
恥ずかしげに呟かれたその言葉は、しっかりと自分の耳に入っていて。
その声は、いまかいまかと大人気なく自分が待ちわびていた――
「……ま、待った?」
「ううん、今来たところだよ。戸山さん」
――聖なる夜。
憧れの少女と共に過ごしたこの日を、俺は一生忘れることは無いだろう。
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人が賑わうショッピングモールを2人で歩く。
今日はクリスマス会。
明日は遅くまでライブがあるため、「じゃあ今日やろう」と有咲が決断したのはほんの数時間前のことだ。
食糧の買い出し役として戸山さんに白羽の矢が立ち、そしてその手伝い(雑用係)に男の俺が抜擢されたのだった。
「飾り付けは有咲ちゃん達がやってくれるから、私達は食料だけ調達すればいいん、だよね」
「うん。えっと、何を買うんだったか……」
有咲から貰ったメモ用紙を読む。
なになに、チキンにケーキ、あんみつ、チョコ、ハンバーグ、ペペロンチーノ……
(統一性が無さすぎる)
よく見ると、チキンとケーキとあんみつ以外はそれぞれ字体が異なっていた。
多分、メンバー各人が各々の好きな物を書き連ねて行ったのだろう。
『食料品のお金は俺が出す』なんて、そう言ってみた途端にこれだ。別にいいけど。
「……戸山さんは、何か食べたいものとかある?」
「……え、私? え、えっと……うーん……フライド、ポテトとか」
「了解」
持ってきていたペンで、メモ用紙に『フライドポテト』と書き足す。
はてさて、これらをどうやって揃えるか……揃うのか?
――――――
――――
――
…………揃った。揃ってしまった。
流石、この辺りで一番大きなショッピングモールだけあって、取り扱ってる商品の幅が広い。
あっちへこっちへ探し回ることも無く、買い物は無事終了。
想像以上に事がスムーズに進んだので、どうせだからと、現在は2人でショッピングモールをぶらついていた。
しばらく歩いていると、アクセサリーショップ……だろうか? 最近オープンしたらしきそのお店が、自分たちの視界に入ってきた。
女の子はこういうのが好きなのかなと、ちらりと横を見ると、戸山さんはキラキラした目でそのお店を眺めている。
なんだろう。何か惹かれるものがあったのか。
「戸山さん。ここ入る?」
「……う、うん」
店内は程よい賑やかさだった。
綺麗なものから面白いものまで、幅広く商品がディスプレイしてあり、見ていて飽きることはなさそうだ。
戸山さんも、顎に手をついてじっとアクセサリー達を見つめている。
(俺も何か見てようかな……)
見ていて飽きはしないとはいえ、俺自身にアクセ集めなんて趣味はない。
故に、そこまで商品達を熱心に見ることはできなかった。
戸山さんが満足するまで適当に時間を潰そうとでも思っていたが、その矢先にふと、あるひとつのアクセサリーが目についた。
(……これは……)
――見つけたそれから、俺は目が離せなかった。
今日は、クリスマス・イヴだ。
世間ではクリスマスプレゼントを送り合う所もあるだろうこの日。
日頃の感謝を込めて、戸山さんに何かプレゼントをしたいと考えていたのだが……しかし、特にこれといったものが見つからず、少し困っていたところだった。
……アクセサリーは少し、重い気がしなくもない。
受け取り手が負担に感じるようなものは贈りづらいから、それは辞めておこうかとも少し思っていたのだが……
チラリと後ろの方を見る。
どうやら戸山さんはまだ、他のアクセサリを見ているようだ。
悩みを吹っ切り、それを買うことを決意した俺は商品を持ってレジの方へと歩を進めた。
……明日のライブ終わりにでも、プレゼントしようかな。
――――――
――――
――
「ごめん千葉くん。待たせちゃったかな……?」
先に会計を済ませ、店の外で待っていた俺の元に戸山さんが小走りで近づいてきた。
「大丈夫。それより、欲しいものは買えた?」
「うん!」
そう言って、持っていた紙袋を見せてくれた。
「よし、じゃあ蔵に戻ろうか。有咲達も待ってるだろうし」
そうして帰ろうとすると、咄嗟に伸ばされた戸山さんの手に袖を掴まれる。
「……戸山さん?」
「えっと……ちょっと、待って」
戸山さんが、先程見せてくれた紙袋をガサゴソと漁る。
――取り出したのは、皮でできたブレスレットだった。
「……は、はいっ」
「……これ、は」
「……いつも、私達のことを手伝ってくれてありがとう……といいますか、なんといいますか……日頃の感謝を込めて……あの……受け取って欲しい、な」
――――予想していなかった攻撃に、思わず変な声が出そうになる。
……手で、口を覆った。
……ダメだ。口元が勝手にニヤけてしまう。
嬉しさと恥ずかしさのあまり、彼女の顔を直視できない。
「千葉くん……?」
「だいじょうぶ。きにしないで」
「そ、そう……?」
なんとか呼吸を整える。
ダメだ、きっとダメだ、こんなことをしていちゃダメだ。
……彼女に先を越されてはしまったが、俺にもまだ、渡すものが残っている。
「戸山さん」
「?」
「あの……これを戸山さんに」
鞄から紙袋を取り出して、彼女に渡す。
受け取った戸山さんは驚いた表情と共に、一度俺の方に視線を向けた。開けていいかというサインだろう。
それに小さく頷くと、彼女が紙袋を開封する。
「――わっ……お星様」
出てきたのは、星を象ったネックレスだった。
――彼女の
星の鼓動を聴いた、星のカリスマである彼女に贈るならこれしかないと、見つけた瞬間に思ってしまった。
「戸山さんに似合うかなって、買って、みたんだけど…………ごめん! やっぱりこんなの」
「……こんなの、なんて言わないで」
少し出過ぎた真似かと、つい口走った一言を戸山さんが否定する。その語調は強くはない。
けれど確かに、彼女の言葉には力強さがあった。
戸山さんは優しく微笑んでいる。
今ではよく見せてくれるようになった、星のような笑みを浮かべて、彼女は紙袋を抱きしめていた。
「ありがとう――凄く嬉しい」
……嗚呼、その一言だけで救われる。
遠く、届かない場所にいる彼女のその笑みに、少しでも報いることが出来たと言うなら、これ以上の喜びはない。
――始まりは憧れだった。
そして今も、その憧れは消えることは無い。
一度行き場を失ったその感情は、再び彼女を目にしてより一層強くなった自覚がある。
何度だって言おう。何度だって、声を大にして叫ぼう。
――――俺は、彼女のファンだ。
彼女の事を尊敬し、彼女に憧憬の念を抱く1人のしがないファン。
彼女の笑顔のためなら。彼女の輝きのためならなんだってやれる。
「千葉くん」
「帰ろう。
……とある少年少女の、聖夜の出来事。
世界には何百何千、いや、何万もの少年少女がいて、その中で見たらそれは、ごくありふれたものなのかもしれない。
でも、当人達にとってはその一つ一つが輝いていて。
「うん。帰ろう」
目が眩むようなその輝きに、いつまでも目を灼かれていたいとさえ思ってしまう。
でもこの輝きは、刹那の物だからこそ美しいのだ。
俺達は蔵の方へと足を進める。
腕を組むことは無い。恋人繋ぎもしなかった。
彼女の輝きに触れるなんて、そんなことは俺にはできない。目にするだけで満足なんだ。
いつもの道なのに、その道はどこか違う景色を見せていた。
戸山さんと過ごしたこの日は、彼女のいつも以上の輝きを見れたこの日は、俺の中の宝物となるだろう。
どこか満足気な感覚で前を向いた。
明かりが見えてくる。見慣れたフォルムの建物が目に入ってきた。
「遅いわよー!」
遠くで有咲が叫んだ。
「悪いー!」
それに返答して、歩くスピードを早める。
二人の時間は終わった。
弾けるような楽しいパーティー。ポピパのクリスマス会はこれから始まる。
「戸山さん、先行ってるね」
「あ……うん」
料理の準備はまだ済んでいない。
もう、時間も遅いから少し急がなければならなかった。
山吹も牛込も花園も中で待っているだろう。
そう思いながら、俺は小走りで蔵の方へと向かっていった。
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「……手、繋げなかったな」
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End
クリスマス番外編なのにクリスマス・イヴの話書いてすみませんでした○| ̄|_
あと解釈違いバリバリ起こってるかもしれません。すみませんでした_○/|_
あと突貫工事になって本当に、本当に申し訳ありませんでした_:(´ω`」 ∠):_
感想や意見、誤字報告等お待ちしております。