輝く笑顔をもう一度   作:TAYATO

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3ヶ月ぶりです。はい。すみません。

長々と書いてもアレなので、本文をどうぞ。

※2019年12月31日追記
原作における時系列に対して、作者が誤って把握していたことに気づき、本文の修正を行いました。
申し訳ございません。


第13話

 

「このバンドって、最終的に何人構成にするとか決めてたりするのか?」

 

 練習も終わって、機材の後片付けをしている時。そんな中で、俺が発した言葉がそれだった。

 りみの加入により、戸山さんを初めとした3人はこれまで以上にバンドらしい活動をするようになった。洋ロックに邦ロック、アニソンに至るまで、いろんな曲に彼女たちはチャレンジしている。

 素人目でも分かるほどに、彼女達は成長を続けていた。戸山さんのギター演奏なんて、日に日にその熱量を増しているようにさえ錯覚する。

 

 話を戻そう。現在、このバンド――つい最近『蔵Party(仮)』という仮名が付けられた――には、ギター、ベース、そしてキーボードがいる。ドラムは有咲が流す自動演奏で補っていた。キーボードのパートがない場合は、有咲がタンバリンを叩いたりすることもあった。

 そんな練習風景を見ていて、ふと思ったのだ。このまま、ドラムパートはなしでやっていくのかと。

 

「そういえば……ちゃんと考えたことなかったかも」

 

 その後に続けて、「増えたらライブがしたいな、なんて考えてたけど」と小さく呟いたのは戸山さんだ。

 そんな彼女は、りみに増えるアテを問われて俯いてしまった。おのれニンジャ。

 

「あたしは五人がいいかな。もちろん、まずは参加者を募れるくらい上手くならないとだけどね」

「編成はどんな感じに?」

「ギターボーカルがかすみん、ベースにりみ。キーボードはあたしで、あとはリードギターとドラムが欲しいわね」

 

 顎に手を添え、有咲が思案顔で話す。

 彼女が欲しているのはドラムと、もう一人のギターだった。

 ギターボーカルである戸山さんが現在担当しているギターパートは『バッキングギター』、或いは『リズムギター』と呼ばれるパートであり、楽曲の主旋律ではなくリズムに沿った演奏をしている。

 故に演奏の主体はコードのストローク。イヤホンを付けて歌を聞く時に聴こえてくるような激しいギタープレイは、基本的に彼女の役割ではない。

 そしてリードギターは、その激しいギタープレイの主。主旋律を担う重要なポジションだ。

 

(なんて、つい最近調べたネットの知識なんだけど)

 

 実態がどうなのかはわからない。多分、リードギターとバッキングギターのどちらが難しいとかはハッキリわかったりしないのではないのだろうか。

 ただわかることといえば、リードギターは楽曲でもかなり目立つということだ。聴く側からすれば、バッキングよりハッキリとその音を知覚される。

 

「……まぁ実際、今のところアテはないんだよね。暫くはこの体制でやっていくことになるんじゃないかしら」

「そうだよね……」

 

 あぁ、また戸山さんが沈んじゃった。

 

「ハイハイ顔を俯けないの。『アテがないなら作っちゃえ!』くらいの勢いでやっちゃうのよ。あんたにはその力があるんだからね」

「戸山さんのライブを見たら、興味を持つ人だって出てくるんじゃないかな」

「師匠のナ・ニモを見れば……」

「ギターを握れば術は解けるのよ」

「知ってた!」

「とにかく! 今のままじゃ、まだ全然足りない。だから今は練習あるのみなんだからね。いい?」

「……うん、頑張る」

「よし。じゃあ、今日はこれで解散にしましょうか」

 

 ありがとうございましたーと挨拶を交わして、笑いあって。ちょっとした話なんかもしながら歩いて。

 やがて、各々が帰路に着く。

 夏にしては涼しげな、心地のいい夜の道。月明かりが照らす彼女達と別れた。

 

 先程まであんな話をしていたからだろうか。

 そこには誰もいなかったのに――戸山さんの周りに、二人分の月明かりを見た気がした。

 


 

「お昼を頂戴しにきた」

「お、おう……これでいいか」

「かたじけなもぐもぐウマーーー!!」

「落ち着け」

 

 食べるだけ食べたら、りみは去っていった。

 昼食を再開しようと自分の弁当箱を見れば、いつの間にやらご飯の量が増えている。多分タンバの米だ。美味しいから別にいいのだが……。

 そんなやり取りを見ていた桂は、苦笑した顔で俺に話しかける。

 

「おかずと米の交換って、交換レートおかしくないか?」

「気にしたら負けってやつだよ……そんなことよりも、だ。なんの話だっけ」

「そうそう。最近風の噂で知ったんだけどさ、どうやらこの学校って屋上が開放されてるらしいんだよ」

「へぇ?」

 

 安全に配慮だとかそういった理由で、基本的に屋上が封鎖されていることも多い昨今。そんな中で屋上を開放しているとは。

 

「……普通に危険じゃないかそれ?」

「いやまぁそうなんだけど! それはそれとして屋上とか最高じゃねぇか! こう、青春って感じがしてさ!」

「お前の中の青春像はどうでもいいかな」

「辛辣だな……で、だ。試しに一回行ってみないか?」

「いいけど、試しに行ってみてどうするのさ」

「…………風を感じる?」

「やっぱりお前馬鹿だろ」

「酷くない!?」

 

 男同士で下らない軽口を交わしつつ、屋上へ行くことに決まった俺たちは弁当の残りをかき込んだ。別に、急ぐ理由はなかったのだが。あと数分で昼休みが終わってしまうという訳でもない。

 ……興味がないような口振りでも、なんだかんだで屋上とやらに興味が湧いている自分がいるようだった。

 

 


 

 

 屋上で1人、木製の相棒に触れていた。

 訪れる人なんて誰もいない。いたとしても本当にごく僅か。いつもここはびゅうびゅうと、風の音だけが弾んでいる

 誰もいないことは確認済みだ。それならば今日は、この歌を弾いてみようか――――

 

 


 

 

 ――――優しい旋律と共に、やがて訪れる出会いは……そうだ。

 

 まるで、雷が落ちてきたかのような衝撃を齎したのだ。

 

 


 

 

 

「……すげぇな」

「あぁ、これは凄いな」

 

 思わず俺たちの口から漏れ出たのは、聞こえてきた演奏への感嘆の言葉。

 綺麗なメロディが扉の隙間から耳に入ってくる。アコースティックギター特有の、穏やかだが力強い音。

 そこには確かな技術が伴っていると、知識に乏しくても容易に理解できた。

 

「で、戸山さん達はそれに聞き惚れていたと」

 

 そんな演奏をBGMに。目の前にあったのは、見覚えのある先客の後ろ姿で。

 ドアの隙間から除くその姿は、「私たちは不審者です」と言わんばかりのもの。

 

「なぜここが分かった! ムム、お主さては甲賀の者」

「俺の出身は滋賀じゃない」

 

 『取り敢えず忍者に結びつければいいや』みたいな考えをやめろ。

 

「すごく綺麗な女の子だったんだよ」

「うむ。師匠やベンケー殿のような、ちんちくりんとは違う」

「戸山さんはお前みたいにちんちくりじゃないですぅ!」

「何を張り合ってんのよ」

 

「戸山さん……だったっけ。いつもこんな感じなの?」

「え、えっと……」

 

 桂に話しかけられた戸山さんは、彼が慣れない相手だったからか。目を泳がせながら言葉を濁した。

 『女三人寄れば姦しい』とはよく言うが、そこに男が加わるとさらに騒がしくなるのは相手がコイツ(りみ)だからだろう。少し小声で騒ぎながら、扉の前から階段へと移動した。

 

 桂が少し自己紹介なんかをして、『千葉と仲良くしてやってくれ』みたいな言葉を残して去っていったのだが、彼なりに気を使ったのだろうか。申し訳ないことをしたかもしれない。

 その発言があったからか、三人からは暖かい目を向けられた。だけど彼女達に比べればクラスに馴染んでる自覚はあるので何も思うはずがなかった。嘘だ。戸山さんからの視線は少し辛かった。

 

 そんな騒ぎもすぐに止んで、辺りには静寂が訪れていた。先程までの喧騒の中にあった、そこにあった熱のようなものは、既にどこかへと消えてしまったらしい。

 それを打ち破ったのは、まだ迷いのある控えめな提案の声。

 

「少し、いいかな」

 

 ……言いたいことは、何となく予想がついていた。

 

「私たち、リードギター、探してるんだよね」

 

 昨夜の話。『メンバーが増えたらいいな』なんて、未来の事だと夢想しながらした話。

 それが今ここで、僅かにだが現実味を帯び始めていた。

 

「それは……実はあたしも考えてたところ」

 

 戸山さんの発言の意味するところは、有咲の考えていた事と同じものだったらしい。

 ツインテールに結んだ髪を揺らした彼女が、少し間をあけて発言した。

 

「うちは考えてなかった」

「あんたはそれでいいわよ」

 

 有咲の気持ちは、既に戸山さんと同じ方へと向いていたようだ。牛込はいつも通りだった。

 

「かすみんはどう思う? あの子、誘ってみたいと思う?」

「……それは、もちろん仲間が増えたら嬉しいけど……でも、やってくれるかな?」

「そんなの訊いてみなきゃ分かんないわよ。ねぇ? 普通ボーイ」

「だろうね。だけど、有咲。わかってると思うけど、彼女はどう見ても経験者だ」

 

 有咲に話を振られたが、『それに全面に同意することはできない』と暗に伝える

 ……現実味を帯びたからといって、必ずしも実現するわけではない。訊いてみなきゃ分からなくても、そもそも訊くべきかすらもわからない。

 その姿は見ていないが、音の繋ぎ方が滑らかだったと言えばいいのか。まだ荒削りに思える戸山さんのそれとは違って、その演奏は明らかに熟達していた。

 

「すごく上手かったよね。表現力があったというか」

「だよね。一応うちにもりみという経験者はいるけど、彼女もりみが最初言ってたように『上手い人とバンドが組みたい』と思っているなら……」

「このすっとこどっこいみたいに、かすみんの演奏で誘えるとは限らないしね。やっぱり、もう少し上手くなってから……」

 

 有咲のそれは、妥当とも言える判断だった。まだ彼女達のレベルは高いとは言えず、もう少し練習を経てから勧誘する方がいいのかもしれない。

 蔵Party(仮)としての活動を開始してから、それほど時間も経っていない。昨夜も言っていた通り、今はまだ彼女たちのスキルアップが最優先事項なのだろう。

 

 そもそも、俺はそんな彼女の名前も学年も知らなかったりする。

 

「戸山さん達は、そのギター少女の名前を知ってたりするの?」

「知らない、かな」

「知らないわね」

「りみは?」

「知ってるぞ」

「まぁ知らないよな。じゃあこの件は取り敢えず…………ん?」

『ええ!?』

 

 ……完全に予想外なところからの発言だった。二人も驚いた様子でりみの方を見ている。

 そんな驚いた彼女たちを前にしながらも、平然とした顔で牛込はそこにいた。

 

「お前ほんとにりみか……?」

「ヤケにシツレイだなお主。両隣のクラスの生徒については調査済みだ」

 

 眉を少し潜めたが、直ぐに元の表情に。そのままつらつらと、ギター少女について話しだした。

 少女の名前が花園たえだということと、クラスは自分たちの隣だということ。いつもパーカーを着ていること。彼女がいつも、アコギを背負って学校に来ていること。分かったのは、これら四つのことだった。

 牛込が言うには、ギターを弾いている姿を見たのは今日が初だったらしく、背負ってきている理由はわからないとのこと。

 

 牛込の、意外なところでの有能さを思い知らされてしまった。有能と言っていいのかは甚だ疑問だが。

 「忍者がはじめて役に立った」と有咲が言ってるし、そういうことにしておこう。

 

 ……結局、リードギターに関しては、一旦保留ということに。

 候補が見つかって、そしてその候補についての情報が入手できただけでも一歩前進と言えるかもしれない。

 腕時計を見てみる。予鈴が鳴るまであと二分だと、二本の針が示していた。

 

「まて」

「どうしたの? りみりん」

「……アコギの音が、途切れた」

 

 ……そんな言葉が聞こえたのは、いざ教室に戻ろうとしたとき。

 

「あああ! ああやっ! ややあっ!」

 

 ――後ろから衝撃を感じたのは、階段を駆け降りる音が聞こえてから間もなく。次の瞬間には、狼狽した声が耳のすぐ近くで聞こえてきた。

 

 慌てた様子の彼女の匂いが、ふわりと鼻腔をくすぐった。

 

「いたた……なっ!? おっ、男の人!?」

「……えっと、取り敢えず落ち着いて」

 

 そんな言葉を聞くまでもなく、素早い動作で離れた彼女は、頭をペコペコさせながら謝罪のような言葉を叫んだ。

 

「――ごご、ごめんなさい! じ、じぶ、じぶん不器用なんで!」

 

 「……不器用?」なんて、俺が首を傾げた時には既に階段を駆け下りていた彼女は、まるで脱兎のごとく。雷鳴のごとく。

 咄嗟に放たれた戸山さんの「待って」という言葉は、拾う相手もなく霧散した。置き去りにされたという表現の方が正しいのかもしれない。

 

「ごめんなさい……ってもう遅いけど」

 

 牛込はその速さに感心して、有咲は演奏時とのギャップに困惑していて。戸山さんは数秒遅れの謝罪を口にしている。

 どうやら先程までの会話は、あちら側に丸聞こえだったらしい。彼女の演奏が漏れ出ていたように、ドアの隙間から話し声が漏れ出ていたのだろう。

 

 ぶつかった時に感じた衝撃は、まだ身体から抜けていなかった。

 

 


 

 

 ……そんな、ファーストコンタクト。

 あっという間に過ぎ去った、予鈴の音で幕を閉じたそれは。

 

 

 ――いつの日か、〝うさみみサンダーボルト〟なんて呼ばれる彼女との出会いは

 

 ――正しく、()()()()()()()()()()。そう思えるようなものだったのだ。

 




遅くなって本当に申し訳ありません。

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