文字数少ないのは許して……許して……
少し先の、あるかもしれない未来のお話です。
七月十四日。天体観測をしようと彼女が持ちかけてきたのは、バンドの練習が終わってすぐのことだった。
「……バンプの?」
「そっちじゃないよ有咲ちゃんっ」
「天体観測、っすか。」
「そもそも、かすみんって望遠鏡とか持ってるの」
「そ、それは」と、戸山さんが口ごもる。つい先程までロックスターだったカッコイイ彼女は、練習の終わりとともに霧散したようだった。
「えっと、そんなしっかりした天体観測じゃなくて、ただみんなと星を眺められたらなー……なんて」
「ラジオは背中に結んでいくのか!?」
「牛込は引っ張りすぎ」
「知ってた!」
それにしてもここまで積極的に誰かを自分のしたいことへ誘うなんて、彼女にしては珍しいことだった。それもギターを持っていない状態で。
「まぁ特にやることもないし……人混みもなさそうだし……私は行くわ」
「俺も行こうかな。他の皆は?」
「行きたいっす!」
「夜はニンジャのテリトリーなり」
「えっと……ちょっと、お父さんに聞いてみるね」
「らしいよ、かすみん」
好感触。山吹は家の事情が事情だから仕方がないとはいえ、一緒に行こうという意思は持っているようだ。
牛込も多分行くのだろう。多分な。日本語話してくれないかな。
「わぁ……みんな、ありがとう!」
「皆さんと夜空の下で……楽しみっす!」
「おにぎりはおやつに入りますか!」
「主食ね」
「知ってた!」
「あはは……もし行けたら、パンでも持っていくね」
楽しそうに笑い合う彼女たちを見て、思わず笑みが溢れる。楽しそうな姿が一番だ。
「ねぇねぇ、千葉くん」
「戸山さん?」
「楽しみだねっ」
「………………そうだね」
――思わず顔を逸らしてしまったのは、いきなり話しかけられてびっくりしたからに違いない。
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「雨とか降らなくてよかったね、かすみん」
日は既に沈み切っていて、辺りには夜の帳が下りていた。空に輝く月や星達が、闇を照らす。星を見るために来たこの丘に、家並みの明かりは何処にも見えない。
「うんっ。沙綾ちゃんも、来てくれてありがとう……!」
「どういたしましてっ! パンもちゃんと持ってきたから、みんな食べてね」
「以前は負けたが、やはり小麦など邪道。真の主食を教えてやらんとな。ふむふむ。このパンめっちゃビミー!!!」
「綺麗な夜空っすね……みなさんとこんなステキなものが見れて自分、感激っす……!」
花園の言う通り、本当に綺麗な星空が広がっていた。虫の声を聴きながら眺める空は神秘的で。今立っている地がまるで、どこか知らない別世界のよう。
星座なんて殆どわからないけど、星と星を指でなぞる。オリオン座がこれで、夏の大三角形が……
「確かあっちに……えっと、あれがデネブで、こっちがアルタイル。それでこっちがベガかしら」
「『君の知らない物語』だね」
「かすみんの誘い方もそれっぽかったよねー」
……冒頭の歌いだしのことだろう。
去年のこと、まだポピパのメンバーが3人しかいなかった時。バンドスコアを探しに行った際に見つけた一曲だ。今では彼女達の、演奏のレパートリーの一つとなっている。
「そう言われれば……」
「ホントか師匠」
「どうなの、かすみん――」
「――――♪」
騒がしい彼女たちと対照的に、目を閉じた戸山さんが、何かに惹かれるように歌を歌っていた。彼女の意識は、完全にそちらへ向いている。
自分の声にまるで気づかないのを見た有咲が、仕方ないと言わんばかりに苦笑している。山吹も笑っていた。
花園はキラキラした目で戸山さんを見ていて、牛込は感心したように頷いている。
「――――あっ、私」
「歌っちゃってたねぇ、かすみん」
戸山さんが顔を赤らめる。恥ずかしそうなその表情は、それでも笑顔混じりの良い表情だった。ポピパに対する信頼が、見えた気がした。彼女はもう、人前で歌うことを苦に思わなくなっている。
そんな彼女の変化が、本当に嬉しく思えた。
「よし、私たちも歌おっか」
「スタービート歌いたいっす!」
「チョココロネおいしい〜」
「チョココロネも歌っちゃう?」
歌を笑わない少女達。むしろ一緒に歌おうと、共に
「……誕生日に友達と、こんな景色を見れて……本当によかった」
「それはよかった。ちゃんとプレゼントもあるから、楽しみにしててね」
「うん、ありが…………えっ?」
……この反応はどちらだろう。プレゼントを貰えることに対しての驚きか、そもそも皆が誕生日を知っていたことへの驚きか。
「…………えっ、知ってたの!?」
「そりゃあね。みんなからプレゼント預かってるから後で渡すわよ」
「じゃあ今日天体観測に来てくれたのも……」
「誕生日だから……というのも多少はあるけど、誕生日じゃなくても行ってたんじゃないかな。頻繁には、無理だけどね」
どうやら皆が、自分の誕生日を知っていると考えていなかったようだ。戸山さんが頬を赤らめながら慌てている。口はにやけていた。
嬉しさと驚きが同時にやって来て、混乱しているのだろう。
「有咲さん、ここで『ハッピーバースデートゥーユー』歌わないっすか? ギター持ってきてますし!」
「ベースもあるで!」
「そうしよっか。私と沙綾はカスタネットだよね」
「三刀流だよ!」
「灯りは任せろ」
「えっ、えっ、えっ」
演奏が始まった。予想外な事態の連続に戸山さんの頭から煙が出ている錯覚を覚えた。
『誕生日おめでとう!』
「あ、ありがとう……?」
「……やりすぎちゃった?」
「いや、いきなりこれだと誰でも困惑するだろ」
「ひっひっふーだ師匠」
「なんで出産してるんすか」
「いや、嬉しいん……だよ? ただびっくりしたというか、なんというか……」
頬をかく動作が可愛い。いや、そうじゃない。
「友達に誕生日を祝ってもらったことなんてなかったから……」
……。
「これからは毎年祝ってあげるからね」
「えっ」
「大丈夫か師匠。おにぎり食べるか?」
「あの」
「かすみんセンパイ……」
「えっと」
「お姉ちゃんの胸に飛び込んできてもいいんだよ?」
「沙綾ちゃん!?」
皆が途端に、戸山さんへと優しい目を向けた。山吹なんてキャラすら変わっていた。
弟達がいるからだろうか。小動物じみた彼女に、母性本能ならぬ姉性本能でも働いたのだろうか。
「でも、本当にありがとう。こんなに楽しい誕生日は初めて」
「どういたしまして。これからは毎年、この日を最高の一日にしちゃうからね。覚悟しときなよ? かすみん」
「でも誕生日がこんなに幸せなら……他の日がなんだか寂しく思えちゃいそうで」
「何言ってんのさ! あくまで一番よ」
俯きかけた戸山さんが、顔を上げる。
「いい? 私達はPoppin’Party、弾けるパーティーよ。そんなバンドの日常が、寂しいものなんかになると思う?」
「思わない、かな」
「そりゃそうよ。どうせならさ、あんたも私も、他のメンバーも。思いっきり楽しんでやろうよ。『命短し、楽しめ乙女』、ってね」
「有咲ちゃん……」
「そうっすよ!」
戸山さんの目が、他の皆へも向けられる。
「せっかく集えたんすよ! BanG Dreamの名のもとに!」
「そうだぞ師匠。師匠からは『ナ・ニモ』以外の忍術も学ばせてもらわねばな」
「一緒にバンドライフを楽しもうよ! 香澄ちゃん!」
「みんな――うんっ」
青春だなぁ、なんて呟いてみた。
過ぎてしまえば、取り戻すのが困難なもの。だからこそ、今得られるこの一瞬で、弾けるように。
サイテーな毎日なんて、もうどこにもない。ポピパの皆が、ポピパに出会ったから。
(命短し、楽しめ乙女)
楽しいのが何よりだ。これからもずっと、彼女たちのパーティーが続いていけばいいのにな。
七夕は終わったが、そんな願いを込めてみる。
勇気を込めるように。でもそれに力を借りるのではなく、共に叫ぶために。
彼女は赤い、星を掲げた。
「弾けるパーティーを、みんなで
返答するように、一筋の流れ星が空で光る。
――優しい願いが、空を駆けた。
Happy Birthday!