輝く笑顔をもう一度   作:TAYATO

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本能シリーズ第3話。
ちょい暗めです。


第3話

 中学校3年間をサイテーに過ごし、高校でもスタートでつまづいてしまった。

そんな私、戸山香澄の目の前には今……

 

「俺は、ずっと君のファンだった」

 

 自分のファンを名乗る1人の男の子が現れていた。

 

「ファン……?」

「……えっ、あっ、ごめん! 急にそんなことをっ……」

 

 何故かいきなり慌てて謝罪し出す目の前の彼に若干困惑してしまう。

 私の歌の、ファン。そんな人がいたのか。

 

 歌を歌えていたあの頃にそれを聞けたなら、笑顔で「ありがとう」と感謝の言葉を述べられただろう。

 

――――でも、

 

 今の私には、そんなことは出来ない。

 

 

―――――――

 

 小学生の頃、私は歌うことが大好きだった。自分のココロを歌詞にして、歌に載せて表現するのが楽しかったんだ。

 

 嬉しい時も悲しい時も。

 

 お腹がすいた時もお腹がいっぱいの時も。

 

 晴れの日も雨の日も。

 

――私は、ずっと歌を口ずさんでいた。

 

 

――でも、

 

――――あの事件以来、私は人前で歌を歌わなくなってしまった。

 

 

 何もバカにされたからと言ってすっぱり歌を捨てたわけじゃない。

少しの間――私からすると永遠とも思えるような間――私はそれに耐え続けた。

 歌うことが好きだったから。そう簡単に捨てることは出来なかったから。

 

 耐え続ける私に対して、懲りることなく彼等は私を馬鹿にし続けた。

 私は歌っているだけなのに、なんであんな視線を向けられなきゃいけなかったのか。

 あの男子の視線が、言動が、私の心にヒビを入れ続けた。

 

 

『私の歌は、気持ち悪いの?』

『私の歌は、間違っているの?』

 

 

―――やがて私は彼らのからかい……いや、いじめに耐えきれなくなり始め

 私は、歌う楽しさを日に日に失っていた。

 

 

『私が歌えば、私はみんなからバカにされる』

『こんなことを続けて、なんの意味があるんだろう』

 

 

 このいじめは最終的に、クラスで学級裁判が開かれる事態に発展することになる。

 そしてその頃にはもう、私の心は限界を迎えていた。

 

 私を弁護する側、私をいじめている側。互いの論争が激化している中、先生が私に

「その時、戸山はどんな気持ちだった。」

と質問する。

 

『私は、歌いたかったから歌っていただけだ』

 

『それが楽しかったから続けていた』

 

『でも、それでこんな辛い思いをするくらいならもう――』

 

 

「私は、歌なんて好きじゃないです」

 

 

『――もう歌なんて、歌いたくない』

 

―――――――

 

「なんで……なんで今なの……?」

 

――――歌うことを馬鹿にされ続けたから、歌うのが怖くなってしまった

 

「なんであの時、その一言をくれなかったの?」

 

――――私の歌を純粋に楽しんでくれる人はいないと、そう思い込んだから心が折れた。

 

「もし、もっと早く、君が私の歌を好きだと言ってくれたら…………!」

 

 過去の傷、それはもう治ることは無い。

 今更、自分の認識は間違っていたと分かったところで。

 

 そうだ、自分の歌が好きだという人がいたんだと今更知ったところで―――

 

 

―――砕けたガラスは、もう元に戻ることはないのだから

 

 

「……今更、ファンなんて言われても……もう遅いよっ……!」

 

「っ、戸山さん!」

 

 

 私は走り出した。

 もうここにはいたくなかった。

 

――――――

――――

――

 

 

走って、走って、走り疲れて。彼の姿が見えなくなるところまで走ってきて。

 

………そして自分の言葉を思い出し、自己嫌悪に陥る。

 

「……サイテーだ、私」

 

 彼は何も悪くない。彼は私の歌を好きだったと言ってくれただけだ。

 

―――なのに

 

『今更ファンなんて言われても………もう遅いよ』

 

 私は個人的な八つ当たりで、彼の思いを無下にしたのだ。

 

「もう、帰ろう」

 

 何も考えたくなかった。早くベッドで横になりたい。

 

 

……こうして私の高校生活は、サイテーな始まり方で幕を開けた。

 

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 思いを伝えた。彼女の歌が輝いていたこと。彼女の歌が好きだったこと。

 

―――そして、

 

―――俺が彼女のファンだということ。

 

 気持ち悪いと思われることは、正直覚悟していた。でも、これを伝えなきゃの心の中の靄が晴れることはないと思った。

 

―――結果として、俺の心の中の靄はほとんど晴らすことには成功した。

 

 

しかし、最早そんなことはどうでもよかった。

 

 

「もう遅い……か」

 

 一連の発言のおかげで、彼女に何があったのか……その大体の事情は予想出来た。

 あの河原からいなくなった理由の大半はやはり、あの男子集団によるものだったのだろう。

 

―――黒い感情が湧き上がってくる。

 

『あいつらは、あの輝く笑顔を奪った』

『あいつらは、世界を震わす歌を奪った』

『何よりあいつらは……』

 

『かけがえのない一人の少女の、大切なものを奪ったのだ』

 

――――許せない。許してたまるか。

 

――――あいつらがいなければ今でも彼女は……!

 

 

 しかしそこまで考えた時、俺はあることに気がつく。

 

――その感情は、正義とかそんな高尚なものから来ているのではなく

―――『好きなものに傷をつけられた』、その事実に怒りを覚えている。そんな醜いファン心理から来ているモノだということ

 

 それに気づいた瞬間、自分の中の熱が急速に冷めていく感覚を覚えた。

 

 

 思考が切り替わる。黒い感情の対象が、彼らではなく自分に向く。

 

 

 

(何が『あいつらのせい』だ)

 

―――あいつらだけのせいではない

 

(何が『許してたまるか』だ)

 

―――あいつらを許す権利を持っているのは彼女だけだ。俺にはない。

 

(何が『君のファンだった』だ)

 

―――そんな簡単な一言で、彼女は救われたかもしれないのに。彼女が好きなものを手放すことはなかったかもしれないのに。

 

 

(俺は何を一丁前に、彼女の味方ぶっているんだ?)

 

 

―――何故、あの時それを伝えなかった

 

 

 

(結局俺も、加害者の一人なんじゃないのか?)

 

 

 いじめという物は、いじめる側だけが悪なのではない。『何もせずただ傍観する』選択をする者達も悪そのものなのだ。

 いじめだと認識していなくても、違和感を感じた時点でなにか行動を起こすべきだった。

 

 

(気付いていたのに行動を起こさなかった。些細なことですら、俺はしなかった)

 

 

 あの時の俺はただ呑気に、彼女の歌を待つだけだった。彼女の欲していたものに気付かず、彼女の苦しみに目を向けようとしないまま。

 

 後悔しても、もう遅い。俺は間違えたのだ。

 

 そしてその間違いは―――

 

―――かけがえのない、一人の少女の輝きを曇らせてしまう事に繋がってしまった。

 

 

 失意の中、俺は家へと足を向けた。

 その胸中に、激しい自己嫌悪を募らせながら。

 




一応、ここまでがプロローグです。

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