輝く笑顔をもう一度   作:TAYATO

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なんとか書けました……遅くなってすみません。


第5話

 視線の先には、キラキラしたマスキングテープに銀色のマーカーで書かれた星と矢印。

 矢印が指す方向に視線を向けると、確かにそこには何かがあるように見える。

 

 じっとそこを見つめていると、壁にある何かが反射した夕焼け色の光が目に飛び込んできた。突然の視界へのダメージに一瞬目が眩む。

 数瞬の後に恐る恐る目を開け、視界がはっきりしてきた頃に矢印の指す方向へと足を向けた。

 

 そして辿り着いたそこにも、また同じようにマスキングテープと星、あと矢印。

 

(この矢印は、何処へ繋がっているんだろうか)

 

 家に帰っても特にすることは無い。ちらりと腕時計を見ると、針は午後五時前を指している。

 俺は、この矢印を追っていくことにした。

 

 好奇心に駆られたというのも理由の一つだが、多分他にも理由はあったのだろう。

 

 朝に見た夢――自分の中で渦巻く自己嫌悪から目を背けたかったからか。

 

 先程の出来事で湧き上がってきた、黒い感情を無意識的にどうにかしようとしていたからだろうか。

 

 自分の中の弱い心が、俺の体を動かしていることに気付こうとしないまま俺は歩き始めた。

 

#########

 

 彼が、彼女をいずれ輝く未来へを連れていく真っ赤なお星様(ランダムスター)に出会うまで――――

 

――――あと少し

 

#########

 

「……ここか。」

 

 矢印の指示に従って歩き回り、ようやく辿り着いた目的地。そこには古い民家があった。

 

(なにか特別変わったところはないようだが……)

 

 中に何かあるのかと、古家に近づいていく。

 まるで不法侵入をしているようだと、自分の中でその行動を少し躊躇う気持ちが無いわけでは無かったが、わざわざここまで案内するような事をするならば……と後ろめたい感情を飲み込んだ。

 

「――今度は、ふっつーの男が釣れたわね」

 

 少女の声が自分の耳に入ってきたのは、そんな心境の中で古家の前に立った時のことだった。

 

「下を向いている人間って、案外いるものなのね。空にも星はあるのに。"今日だけ()()は私達の上ではなく下にある"ってことかな?」

 

 声の方へ振り向くとそこには、金髪で俗に言う"ぱっつん前髪"、そしてツインテールな少女が俺の方を見ている。完全に油断していたため、思わずビクッと肩を震わせてしまった。

 

「……君は? ここの住人か、誰かか?」

「まぁ、そんな所よ。それであなたは……あのマスキングテープに導かれてここに来たという認識でいいわね?」

「あぁ、そうだ」

 

 ここで特に、何か嘘をついたりする必要も無いので彼女の問いに対して普通に肯定の意を示す。その答えに満足したのか、彼女は笑顔で数回頷いた。

 ここの住人のような人間だという確認もできたので、今度はこっちから彼女に問いを投げる。

 

「それで、どうしてそんなことを?ここには特に何も無いようだけど」

「ふっふっふ、それはね――」

 

 目の前の少女が自分の問いに答えようとした時、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。こんな場所まで、しかもわざわざ走ってくるとは。

 音から推測するに、その走りはあまりに迷いのなく、音の主は以前にここへ来たことでもあるのかと……自分の中でどうでもいい推理を組み立てつつ彼女の話に耳を傾けようとした。

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……あれ……?」

 

 

 

 

――その主が、戸山さんの物であると気づくまでは。

 

 

 

 声の主が誰か、気づいた瞬間頭が一瞬フリーズする。

 一方の戸山さんは俺のことに気づいていないのか、一心不乱に古家のショーケースへ向かっていった。

 

「なんで……? 今朝はあったのに……」

 

 ガラスに手をついたまま動かない戸山さんの下へ、目の前の少女は歩み寄る。

 

「あんた、今朝釣れた地味な子よね? どうしたの?何か用?」

 

 問いを投げかけられた戸山さんはおずおずと話し出す。

 

 その話と金髪少女の会話から推測すると、どうやら彼女は今朝もここに訪れていたらしい。遅刻の理由はそれだったのか。

 

 それでその時に『ランダムスター』というギターを見たらしく、戸山さんはまたそれを見るためにここへ走ってきたみたいだ。

 

 一方金髪少女――有咲という名前らしい――はそのギターを既にお蔵入りにしていて、朝にギターが飾ってあったショーケースには何も置いてなかったと。

 

 そして、戸山さんの望みを叶えるため再び有咲は彼女を蔵へ連れていくことにしたようだ。

 

「それじゃあ行きましょうか。――あんたもよ! 折角ここまで来たんだから、見ていったら?」

「有咲ちゃん?誰に話してるの…………え? 千葉、くん……?」

 

 どうやら本当に、今の今まで全く気づいてなかったようだ。どれだけランダムスターに夢中だったんだろうか。

 

「……じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「よし。それじゃあこっちよ、着いてきて。…………かすみん、置いてくよ」

「……ぁ、ごめんなさい」

 

 一瞬反応に遅れた戸山さんは、慌ててトテトテと小走りで自分たちの後ろについてきた。………可愛いな。

 

――――『自分のような者がいるから、反応が遅れたのだろう』

 

 そんな暗い思考を押し込めて、俺は有咲に続いて歩いていった。

 

 

――――――

――――

――

 

 不思議な造りの家を抜け、庭のような場所に出る。そこにはポツンと、白塗りの壁の建物が建っていた。有咲はどうやらここへ向かっていたらしい。

 

「靴は脱いでね。あと、足元暗いから気をつけて」

「あぁ」

「は、はい」

 

 靴を脱ぎ、階段を上る。

 

 先に着いた有咲が、照明のスイッチを押したのだろう。上の方が少し明るくなった。

 

「Welcome to dream warehouse!! ようこそ、夢の蔵へ!」

 

 英語と日本語。同じ意味の文をテンション高めに口にした有咲の後ろには、確かに『夢の蔵』と形容してもいいような――そんな風景が広がっていた。

 無造作に散らかっているようでどこか輝きを持っているようなモノたち。無機質で、死んでいるようで、しかしどこか暖かい。

 

(あぁ、たしかにこれは……いいな。)

 

 『現実離れした景色』とでも言うべきであろうか、何処か異世界じみた雰囲気に呑まれていた自分と戸山さんを置いて有咲は何かを手に取る。そして彼女は、それを自分たちの目の前に置いた。

 

 魂の輝きを放つような錯覚を覚える雑貨の数々。そんなモノたちの中に、一際眩い輝きを放つ赤色の星が――今その姿を現した。

 

「これが……ランダムスター」

 

 それの外形は一般的な形とは遥かにかけ離れていて、パッと見でこれをギターと判断するのは相当困難であるだろう。

 深紅のボディに大小様々な星のマークがところどころにちりばれられていて、まるでそれがひとつの宇宙であるような錯覚を覚えた。

 

「また、会えた………」

 

 覚束無い足取りのまま、戸山さんがそのギターの下へ向かっていく。そして眼前にランダムスターが見える位置まで進むと、ペタンと腰を下ろしてじっとそれを見つめたまま動かなくなってしまった。

 

――――――

――――

――

 

 どこから持って来たのか、5枚重ねた座布団の上に腰を下ろしている有咲がこの蔵の中にある物について説明をしているが戸山さんはまるで聞いていない。そして、それに気づいた有咲も黙って戸山さんの方を見つめたまま黙ってしまう。

 

 一方の戸山さんはというと、彼女はランダムスターを前にして何やら挙動不審な様子でいた。

 真顔でそれを見つめていたと思ったら、今度は口をにやけさせて下から横からあらゆる方向から舐めまわすように観察していた。

そして今度は、見るのは満足したのかギターを抱えるポーズを取り始めた。何やら照れている。

 

 そんな彼女の写真をぱしゃり。有咲によって、戸山さんの凄いニヤケ顔が写真として残ってしまった……可愛いけど。

 

「………ねぇ、かすみん! それ、触ってもいいんだよ?」

「………え?」

「見たり嗅いだりしてるだけじゃ、意味無いでしょ。ねぇ、普通ボーイ」

「普通ボーイってなんだ………まぁ、有咲の言う通りではあるんじゃないか」

「え、あ、その………じゃ、じゃあ……」

 

 戸山さんは恐る恐るギターのボディに触れる……そう、触れただけ。ギターをじっと見つめてボディをタッチ。手を引っ込めて別のところをタッチ………何度も何度もタッチタッチ………いつまでやってるんだろう。

 横をちらりと見ると有咲が呆れたように溜息をついている。

 

「かすみん? それはギターだよ。武器は装備しないと」

「……武器? 装備?」

「そう。ギターはね戦争だって終わらせちゃう、最強の武器なんだよ。わかったらさっさと装備する」

「え、えっと………」

「ほら、立って。装備するの手伝ってあげるから」

 

 テキパキと、戸山さんにギターを持たせていく有咲。さながらその姿は夫のネクタイを締める妻のようで……

 

「うん!これでよしっと」

「わぁ……!」

 

 目を輝かせながら、自分の持っているギターを眺める戸山さん。しかし、彼女は目を輝かせるだけでは終わらなかった。

 

 

 表情はキリッと。ほんのりと頬を赤らめつつ、スーッと深呼吸をした次の瞬間――彼女の周りの世界が変わる。

 

 

「………ん?」

 

 有咲が少し訝しげな声を上げる。それもその筈、戸山さんが纏うオーラが一変したのだ。

 

 

#########

 

 輝くものを胸に抱き、どこか遠くに思いを馳せている。

 自分の中にある()()に手を伸ばし、渦巻く(ホシ)を形にしようとする彼女の姿はまるで星座のような……そんな輝かしい存在のように見えて――

 

#########

 

 

 久しく見ていなかったあの頃の輝きが、頭の中に想起された。

 

――――あぁ、これだ。

 

――――これこそが戸山香澄だ。

 

 

 暗くて地味でオドオドした彼女ではなく、(スター)を纏ったムテキのシンガー。それこそが彼女の――

 

 

「………聞こえた。聞こえたよ!! やっぱり聞こえたよ有咲ちゃん!!」

「聞こえたって……何が?」

「すっごく微かなんだけどね、やっぱり聞こえたの! あの時と同じで……星の鼓動が!!」

 

 星の鼓動というものを見つけたと言う彼女の目は、キラキラとそれ自体が星であるかのように輝いていた。

 

「星の……鼓動ねぇ……なにか惹かれ合うものが、あったのかも」

 

 朝に見たこのギターを、再び目にしようとするくらい……彼女は夢中だったのだろう。惹かれたのだろう。現に彼女は「この子に呼ばれた気がした」と言っている。

 

「………確か、この辺に……」

 

 ウキウキとギターをかき鳴らす、戸山さんの熱にやられたのだろうか。先程までポカンとしていた有咲は今、熱に浮かされたような表情を浮かべながら棚の上で何かを探していた。

 

「あった…………今日はお父さんの命日だし、ド派手にいってみようか」

 

 有咲が見つけた黒いジャケットとその中に入っていたレコード盤。それに針を落とすと、大音量でコンサートホール内を埋め尽くす歓声とともにボーカリストの声が耳に入ってくる。

 

『YOU WANTED THE BEST!』

 

 魂の叫びが、胸にダイレクトに飛び込んでくる。

 

「―――わたしは"最高"が欲しい!!」

 

 ロックンロール!と、彼女は叫んだ。デタラメなギター音が部屋に響く。有咲もそれに続いて箒を手に取り、戸山さんと一緒にエアジャムセッションを始めた。ギターとホーキ、意味がわからない。でも何故か、そのセッションはキラめきを放っている。

 

 自分は、そんな彼女たちのの輝きに魅せられて……自然と指でリズムを刻んでいた。ぐちゃぐちゃで不規則で、意味のわからない音楽は、それでも何故か聞いていて胸が熱くなる。

 

 

 

――過去に、その輝きを曇らせたのは分かってる。間接的にでも自分に責任があることは重々承知だ。

 

 

――でも、この輝きを前にして俺は――

 

 

「――――キミも!! そんなのじゃ全然足りないよ!!」

 

 

――彼女は手を伸ばす。それが例え、臆病で平凡で、何も無い男相手だとしても。

 

 

――星の鼓動を胸で響かせ、彼女は音楽(キズナ)を奏でる。

 

 

 

 

あぁ、本当に――――

 

 

 

「――――おう!!」

 

 続く言葉が頭に浮かぶ前に、俺は叫んでいた。

 有咲と同じように熱に浮かされた俺は、立ち上がり彼女たちのセッションに加わる。

 

 デタラメギターとホーキと男の拙いシャウトによる一夜限りの即興蔵ライブは、その尋常じゃない熱量で蔵の中の温度を10℃位上げているような錯覚を覚えさせた。

 

 今この瞬間、俺の中には暗い感情も自己嫌悪も存在しない。星の満ちた夢の舞台にそんなものは不要だ。

 

 こんな時間がずっと続けばいいのにと、そう願わずにはいられない。

 

――――――

――――

――

 

 成程、『ギターは戦争も終わらせちゃう』か。実際にこの目で戦争を止めるのを見た訳ではないが、ギターがすごいパワーを持っていることは確かな事実らしい。

 

「夢を撃ち抜け!」

 

 そう言い放つ彼女の姿は、幼い頃の――否、それ以上にキラめきと輝きを持っている。有咲は戸山さんの言った夢を撃ち抜けという言葉に驚愕しているようだが、しかし今はそんなものは目には入っても頭には入ってこなかった。

 

 過去の出来事でその輝きを無くしてしまったはずの彼女が、このギターによって過去のソレよりも眩しいモノを見せてくれた。この事実がどうしようもなく、俺に衝撃を与えた。

 

 

(真っ赤なお星様が、俺たちにまた"夢"をくれたんだ)

 

 

 彼女に光を取り戻させたそれに、俺は叫びながらどこか期待を持たずにはいられない。

 

 

――『贖罪がしたいから』、その思いがあることは否定しない。

 

――所詮は、自己満足でしかないことだというのも認めよう。

 

それでも俺は彼女が輝きを取り戻す手伝いがしたいと……いや、

 

――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

……どうしようもない程に、願ってしまったんだ。

 




ゴリ押しと言いますか………展開が雑になっているかも知れません。大筋は原作通りなのですが細かいところが………お目汚し失礼しました。

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