MONSTERS SAGA 序章   作:神乃東呉

6 / 6
孤高の突風

 なぁ…じいさん…昔は村民もたくさん居たな。

 年寄りばっかりで若いのは皆都会に流れて行ったな。

 そのせいで今はもう過疎化が進行して行政にダムを作るとか言われて立ち退けられて皆バラバラになって…

 俺の両親も結局最後はあんたみたいに老衰だったよ。

 じいさん…長生きしたな…もう…もう…休んでくれ。

 

 24歳の初夏、享年102歳の長寿老が亡くなった。

 その人は俺にとって祖父のような人だった。

 防衛大卒業の年に習志野駐屯地勤務が決まった日に亡くなった。

 俺の出身地は岩手県北上川の上流の小さな集落程度の村だった。

 けれども過疎が深刻化し今はダムの貯水の底の底、『ダムを作って生活を良くする』とか息巻いてた若手の政治家が主体で始めたダム事業だが結局その政治家も政界から総辞職で消えたよ。

 防衛大の学生の時に雀路羅の原子力発電所も事故で数千世帯が避難を余儀なくされて学生隊として派遣されたこともあった。

 俺たちが懸命に捜索活動をしている間に政治と会社同士の責任追及ばかり…見る価値も無かった。

 人の人生が左右することに政治ってやつは人じゃ無くなる…この人生の中で学んだことだ。

 幹部レンジャー資格、空挺資格、ああっ後、格闘徽章も持ってたよな…いろんな徽章を取ったが全部捨てた。

 捨てるキッカケに成ったのは…あの地震だ。

『日本時間の今日ネパールを震源としたアジア圏で複数の同時多発的な地震が観測されました―』

『地震観測所の見解ではアメリカの地質学者アーノルド・シュターゲン氏が提唱したアジア連動プレートの―』

『余震は九州に到達する恐れがあるとして現在対馬と―』

『現在、世界各国での派遣が検討され、日本政府も自衛隊と消防救助機動部隊の派遣を目下視野に入れ海外派遣を検討し災害大国日本の―』

『先ほど日本政府は自衛隊と消防救助機動部隊から海外派遣を発表され、発表された―』

『習志野第一空挺団、木更津―』

 そのニュースを直接は見なかった。

 ニュースが報道される以前から命令が下り習志野第一空挺団すなわち俺の所属する部隊に1日でも早く迅速に迎えるように準備が進められていた。

 勤続10年…災害派遣は幾度もあったが…今回は海外派遣だった。

 おまけにベテラン若手問わず迎えとの御達しだが若手の勤続1,2年程度のキャリアしかない若手だらけだった。

 直接言えばすべて俺の部下だ。

 どれくらい居たのか…年を重ねるにつれて段々と昔のことを覚えていけなくなっている自分に対して負い目を感じる部分はある…が、その時の向かうまでの待機時間に何度考えたんだ?

 とにかくそん時は幹部自衛官としての管理仕事と指揮、上司との会議を重ねていた。

 

 そもそも自衛隊の海外派遣での任務の多いは直接の武力行使を目的としないに紛争地帯の復興支援、地雷・機雷などの除去、難民の対処をしてきた。

 自衛隊の海外派遣が検討されるようになったのは、1983年に仲宗根内閣が発端だ。

 あの当時の新聞会社が仕掛けた世論調査の賛成反対が反対の7割を占めてイラク戦争でのペルシャ湾の機雷除去の任務は実現しなかったとか…当時の日本にはそんな余力もない程の怪獣頻出期にあった。

 場所を変えて怪獣は世界中に現れた時期でも世界中の人間は争いを止めなかった。

 イラク戦争も結局怪獣が多発的に出現したっけ?

 

 海外での災害派遣は2001年にハワイ州オアフ島沖で、愛媛県の水産学校の練習船だった『えひめ丸』に浮上してきた米海軍の原子力潜水艦グリーンビルが衝突し沈没させる事故が発生して、その後8月に愛媛県からの要請を受けて政府が潜水艦救難艦ちはやを災害派遣させて捜索作業に当たらせたってのが精々これくらいだが海外派遣で震災による災害派遣は異例中の異例だ。

 上が何を言われて政府が何を考えて世界がどんなことを回っているのか俺には考えるより命令を待って動く…それが自衛官と言うより労働社会における人間の基盤的な動きだと俺は思う。

 そう言われるとロボットみたいだというやつもいるだろうな…そうだよ、俺たちは機械も同然だ。

 そんな機械にだって考え事をする。

 なぜなら俺たちには心があるからとか言うと思ったか?

 なわけねぇだろう、脳があるからだ。

 人が考えるのは生きるためだ、考えを止めた奴は死人も同然だ…これは俺の人生の中で得た経験則だ。

 さらに言えば心を失った奴も同類だ。

 脳で考えて感じることのできない人間は怪獣と一緒だ。

 そう言っちまえば現代社会に生きる人間は怪獣だらけだろうなぁ。

 そんなことを考えていたら防衛大入学時の事を思いだしている自分がいた。

 婆羅陀トビオ 防衛大学入学時

 

 当時の俺は田舎中の田舎ゆえに金の余裕も勉強の知識も乏しい中ギリギリのビリ成績で入学した時期の俺はさぞ浮いていたんだろうなぁ…

 入学当時、見るからに偉い階級が格段に上の人物に対して代表者が宣誓を述べる入学式は規律正しい正装たる防衛大の制服で着飾り整えた衣服を着るのは少々きつかったのが印象的な入学式だった。

 式が終わって知り合いが1人も居ない空間に俺は取り残されていた。

 ガキみたいに学校のクラスに馴染めないとかの次元じゃない…完全なまでの孤立、孤独、そう言った言葉が似あう世界に自分がいるってことを実感させた。

「よっ!お前一人か?」

 その時、俺に話しかけてきた陽気な奴が居た。

 誰にでもフレンドリーに接するそんなタイプの人間だった。

「おれは青木カズマ、よろしく!良かったらこれから同期で飲みに行くけどお前もどうだ?」

 青木はそう言うと俺を防衛大近場の店で飲みに誘って来た。

 当然未成年である当時の俺たちは酒など飲めないから飲みに行くは食事を意味していた。

 当然飲む…コーラ等の飲料で…

 格好はつかないが…これが後に二十歳後のバカ騒ぎを引き起こす羽目になるとは思わなかった。

「ええー俺たちが今日この場で同じ志を持つ者、すなわち同士!形は違えど、酒でもない、雰囲気でもない、同期にして同士たちの宴じゃぁあああ!!」

「「「「うぉおおおおおおおおお!!」」」」

 あれ?…飲み会ノリとあんまり変わらねぇな…

 そんな思い出を考えて居たら滑走路に付いて居た。

 自衛隊の輸送機は空港の普段一般人の出入りは疎か見ることすら敵わない場所から出発する。

 本来は空港から現場に向かうが、海外での大規模地震災害とあって向かう方法は誰にも知られずこっそりとまるで泥棒の如く飛び去る。

 言い方が悪いがそれほどしなければ空港内は大混乱に成り、派遣反対運動のデモだったり、反発する人間は少なからずいる。

 今回の派遣が決まる前の国会前で大騒動のデモが万単位で溢れかえっていた。

 本来の海外派遣とは違う異例の海外派遣、危険は承知だった。

 この場に預かった俺の部下はすべてレンジャー徽章を持つ若手ばかりだった。

 当然、顔色が優れない青さが目立った。

 家族も居る、妻子も居る、愛する者をすべて故郷に置いて海外派遣される気持ちは先程挙げたすべての無い俺には解らない。

 陸自に入隊して既に10年以上の月日と共にキャリアを重ねた俺でさえ自分の心境に揺らぐ気持ちだったが部下にそれを見せられるはずも無かった。

 そんなことを考えていたら輸送機の『C-2』が俺たちを現地まで運ぶため飛び立った。

 乗員100名以上を乗せるこの機体が向かう場所は『アジア連鎖型地震』の最初の震源地・ネパールだった。

 俺はネパールに到着するまでの間に少しばかりの仮眠を取った。

 寝ている中で俺は防衛大時代の夢を見た。

 過酷な訓練とそれに比例するかの如き勉強量、休む暇も与えない常人なら辛いと投げ出すような状況もこれも自衛官に成るためと言うだろう。

 従来の自衛官は入隊後9か月の訓練を経て初めて階級と配属が命じられる。

 だが、俺たち防衛大生は専攻と教育課程を経るのに丸4年だ。

 そこは大学と変わりない。ただ学ぶものが違う。

 まず絶対的に防衛学を学び防衛学基礎、国防論、軍事史序論、戦略、軍事と科学技術、作戦等の科目や選択科目もあるが2年次は陸上、海上、航空へと要員配分がある。

 各学年全員が同じ訓練を行う共通訓練と俺の場合は陸上要員訓練に指定されて訓練を区分して毎週2時間も過程訓練と年を通しての定期訓練があった。

 そんな切り詰められた生活の中でも至福とも言える時間が『休日』だった。

 人間休まねば過労死する。それは何処も同じだ。

 1学年時制限が多い中で外出は防衛大学校生の自覚を持つため基本的に制服を着て外出しなければならない。

 点呼の10時以降までに学生舎に戻る為、基本近場が多かった。

「よっ、いつもの店行こうぜ」

 同居の青木は俺をいつも誘ってくれた。

 防衛大生御用達のレストランだがそこのランチが特に美味かった。

 青木は既に同期の富樫や早川と言った数名の同期を連れていた。

「おう、ショウちゃん!お前も店に行くか?」

「カズマ君…いいえ結構です、私はあなたたちとは違って外出する時間は無いので…」

 本を抱えて厭味ったらしい口調で喋るこの男の目は常に死んだ魚のように俺たち同期を見ていた。

 名は黒木ショウ、人を見下すような目つきで同期間との付き合いは全く持ってない男だ。

「おい黒木!そんな言い方ねぇんじゃねぇか!?」

 けど今回ばかりは一人の同期の仲間が黒木の態度に業を煮やしたのか黒木に向かって怒鳴った。

 俺たちはその一触即発の状況を止めようと怒る同期を宥めたが…

「あなた達のような能天気に生きているわけではありません…今もこうして怪獣が消えた現代でも脅威に対して対策も取らずに間抜けな事をしていると思うと虫唾が走るだけです」

 怒りが煮えたぎる者が増えて抑える側は少なくなった。

「わ~ったわ~った!まぁまぁ、いいよ。ごめんな急に声かけて」

 青木が仲裁に入ってこの場を引いてみんなで店に向かった。

 店では黒木に対する悪い愚痴をこぼす者も居ればそこから派生して担任官たちの話や訓練の話などを持ちかける者が居た。

 俺と青木は向かい合って炭酸の気泡が泡立つコーラを流し込みながら語っていると青木も同じく黒木の話をし始めたが愚痴では無い。

「だからね、ティラノサウルスは今でこそトカゲの爬虫類イメージが大きいけど恐竜全般の子孫は鳥なんだよ!プテラノドンだって――」

 青木の別名は『恐竜バカ』だった。

 超が付くほどの恐竜マニアで後に休暇の殆どを国立博物館に連れ回される日々が待って居たが…この時、黒木ついて語っていた。

「ショウちゃんはねぇ…俺の従兄弟なんだ。互いに近所も近かったし何せショウちゃんの親父は自衛官幹部だったんだよ。でも、ショウちゃんが小学校の頃に最後の怪獣災害の1999年に亡くなってるんだ…殉職だよ、子供の頃の憧れであった親父さんの意思を次いで自衛官に成るために中学から既に勉強に手を付け始めてたなぁ…あれから付き合い悪くなって…」

 俺は青木から聞かされた黒木の身の上話が黒木の成績の良さと努力が比例することを知った。

 黒木ショウは入試トップの成績で入学し同期の周囲から余り良い印象が無かった。

 トップの人間というのは才能が有る者として特別な存在感ゆえに周りから避けられる傾向にあるが黒木自身も自ら俺たち同期を避けていた。

 同期が嫌い…そんな気持ちだったのだろうか。

 ところが、その後に事件が起きた。

 俺は中間のテストで1位を取ってしまった。

 偶然とかでは無く俺の実力で獲った1位だ。

 しかし、黒木のように人付き合いが良くない俺も僻まれると思われていたが…寧ろ同期間に敬意が現れた。

 黒木のようなタイプで無い俺が1位を獲ったことは逆に『凄い』と認識された。

 入学時のビリ成績の俺が努力して登り上げた成績に同期たちが称賛した。

 ギリギリのビリから1位という成績は他の同期から親近感を与えた。

 『落ちこぼれも努力すればエリートを勝る』なんてどこの誰が言ったかのようなセリフが俺に様々な感覚を突いて来た。

 別にこれと言って悪い感じはしなかった。

 しかし、俺の1位の後には黒木がいる。

 俺の後に2位の黒木を皆が『ざまぁみろ』と言った言葉を成績発表の表を見て口にしていた。

 それほどまでに黒木の印象はよろしく無かったのだろう。

 別段俺自身も黒木に勝ちたいと言う気持ちで獲ったわけでもなかった。

 だが、黒木自身それがよろしくない気持ちを俺に対して抱いたのだろう。

「婆羅陀トビオくんですね」

 突然俺を呼び止めた黒木は廊下の通路で俺に話しかけてきた。

「中間1位…まぐれにもあなたは私に勝ったおつもりでしょう。とりあえずは祝福しておきますよ」

 黒木の口調はまるで俺がまぐれの1位獲りと言わんばかりだった。

「ですがまぐれでは現場の指揮統制など到底無理でしょう。運だけでやっていける世界じゃありませんよ…聞けばあなたは入試ビリで入った運の良い方だそうで…私はあなたのような運だけで生きている人間が大の苦手でしてねぇ…別にあなたの将来どうこうを語る気はありませんが、あなたのような人間は自衛隊に向いてませんよ…ご忠告いたします」

 何とも安い挑発が小物臭をするセリフを口にしてきた黒木だったが…黒木に対する俺への印象は何処か敵対とも取れた。

 ネパール 災害現地

 

 現場は倒壊した家屋や湧き出る水は水道管の破裂、逃げ遅れた人が生き埋めの状況だった。

 俺たちの任務は被災者の救助、被災地キャンプ場への支援物資の配給、瓦礫撤去などを目的としていた。

 俺たちの部隊は被災者の捜索、時に生きている者も居たが…遺体と成っている者も居た。

 瓦礫に生き埋め状態からの救出、瓦礫などを撤去しながら進められる中でも俺は学生時代のあの体験を思い出していた。

 雀路羅市 原子力発電所爆発事故

―防衛大学校学生隊災害派遣時

 

 雀路羅原発事故後に閉鎖された町から取り残された生存者を探す任務に当たっていた。

 基準値が徐々に越えようとしていた放射線濃度のメーターを見ながら時間が迫る捜索範囲を探して回った。

「そろそろ時間が無い!ここの地域で最後に引き上げよう」

 青木がメーターと時計を見て判断で最後に足を踏み入れた俺は民家に足を入れた。

 『誰かいますかー!!』っと声を掛けるが返事は無い。

 その家は妙な家だった。何か誕生日パーティーの準備をしていたのか天井には幾つもの紙を輪の鎖にして繋げた様子だった。

 子供部屋と思わしき部屋にはその子供が作ったのだと机に折り紙を切った後があった。

 きっと誰かの誕生日を祝う前に事故が起きて逃げだしたのだろうと思った。

 部屋を抜けて生存者がいないことを見た俺は家を出ようとした時にピシッと足で何かを踏んだ。

 落ちて砕けたのか写真縦がバラバラに散乱していた。

 写真縦の残骸から写真を抜き取ってパタパタと叩くと砂ぼこりが舞い上がり写真の被写体が見えた。

 そこには欧米人の夫婦とその幼い男の子の子供が映る家族写真だった。

 防護マスクで息を音が聞こえるマスク越しから見える写真の様子はつい先ほどまでの平和な日常があったことを連想させた。

「婆羅陀!何してる、早く行くぞ!」

 マスクで雲った声で俺を呼ぶ同期たちに俺はその欧米人家族の家を後にした。拾った写真を胸にしまって…

 それから俺は避難所の役場へと戻ると炊き出しなどで人が行きかう現場に居合わせた。

 これだけの人が財産や家、様々な物を捨てて避難して来たのかと思うと彼等の今後どのような運命が待つのかと思わされた。

 避難所を歩いていると先ほど入った家の写真に写る少年が居た。

 座り込んで両親を待って居るのか…ただ茫然とそこに座り込んでいた。

 俺はその子に近づいて話を掛けた。

 少年の両親は原発で働く職員と聞けば普通なら絶望的だ。

 それでも俺はこの子の手を引いて両親の懸命に探した、自由時間すら捨てて何時間も…

「フォード!!」

 少年の名前を呼ぶ声が聞え、見ると中年太りの写真に写る少年の父親だった。

 父親は少年を抱えて俺に必死に『Thank You』と連呼した。

 俺はそんな父親に胸ポケットにしまっていた写真を手渡した。

 その場に母親は居なかった。恐らくそう言うことだ…と…

 父親は写真を見るなり涙を浮かべて少年の頭を手で押さえるように抱きしめて避難所の奥へと消えて行った。

 ネパール災害現場は過酷極めた、特に俺たちが捜索に回っていた地域は飲食街で有るためにガス等のパイプに亀裂が有ると暴発して爆発する恐れもあった。

 既に消防の方でガスを当てて爆発の二次災害が起きて負傷者が出ているため危険な状態だった。

 更にもっと危険な状態なのはガスだけでは無かった。

 俺たちが中計司令拠点にしている避難所も暴動寸前だった。

 連日住民の騒ぎが絶えない避難所ではもはや精一杯だった。

『いつに為ったら家に帰れるんだ!?』

『こんな窮屈な状況どうすんだよ!!』

 詰め寄る現地の住民は我慢の限界だった。

「落ち着いてください!まもなく別の避難地からの応援が来ますので…」

 対応に追われる若い隊員が現地語で説得するが住民たちは納得がいくはずも無かった。

「三佐!もはやこれ以上持ちません!他の避難所へ回せませんか?」

 無理な話だ。他もどこも定員一杯だ。

 更に彼等を難民として受け入れきれる余力が日本には無い。

 皆がこぞって日本への移民を求めるが無論自衛官である自分たちは外交官でも弁護士でもない自分たちにその様な許可の下ろしようが無い。そんな権限も無い。

 防衛大学校卒後

 

 ある授業の担任官が『人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして報いを求めぬよう』と述べた。

 第二次世界大戦時のリトアニア・カウナス領事として赴任していた外交官の杉原千畝の出身校のモットーらしい…

 俺はそんなモットーとは真逆に位置していた。

 幼少期から村の大人たちに世話に成り続け…今がある。

「卒業おめでとうございます」

 4年間…結局俺はここで何を得たのだと自分自身に問いかける。

 それは友か?仲間か?恩師か?…たまた自衛隊という居場所か?

「ハイッチーズ!」

 同期皆で撮った写真、そこに俺や青木、同期のみんな、そして…黒木。

 皆それぞれ別の道を歩んだ、違う配属先に移り、部下を持ち、駐屯地を任される。

 俺も同じだった。

 その後は毎年夏ごろには台風などの気象災害による災害派遣と変わらぬ日々が俺を待ち構えていた。

 習志野空挺レンジャー養成訓練 資格検査

 

 その後は習志野に配属されレンジャー訓練に駆り出された。名目は駐屯地のレンジャー輩出、レンジャーと言う名はそれだけで隊内に大きな存在感を与える。

「屈み跳躍、始め!!」

 試験官の号令で一斉に始めたのは屈み跳躍という試験項目だ。

 他にもいろいろあったがこれが何よりもきつかったことは覚えている。

 そして…

「気を付けぇ!!担任官に敬礼!!」

 訓練生と成った俺はレンジャー教育課程に入った。

 驚くことにバディは防衛大時代の同期、黒木ショウだった。

『私は…君のような人が嫌いです』

 俺をずっと嫌っていたヤツがその時の俺のレンジャーバディだった。

「レ~ンジャ!レンジャ!レンジャ!レンジャ!」

 初日は走り込みからの基本と成り、担任官は常に俺たち訓練生に目を光らせていた。

 

 だが、ここはレンジャー訓練であって()()のレンジャーでは無い、『空挺レンジャー』過程である。

 俺と黒木が配属されたのは習志野の第1空挺団だ。

 従って精鋭部隊として全員がレンジャーを目指す。

 習志野駐屯地での苛烈な基礎訓練ののち、約4週間にわたって、駐屯地外での転地訓練が行われ、偵察行動、トンネル爆破、通信所襲撃、要人救出、降下誘導、燃料集積所襲撃、車両伏撃、レーダーサイト襲撃の8個に分けた想定訓練が行われる。

 レンジャー訓練でのバディとは運命共同体とも言える。

 いついかなる時も常に行動を共にするためトイレもとに同行する。

「婆羅陀くん、何故あなたは自衛隊を選ばれたんですか?」

 何気ない質問を黒木は俺に投げてきた。

「私はあなたが嫌いです。ですが嫌いなものをいつまでも引きずるつもりはありません」

 単に自分の為の苦手克服だったのか…それとも…

 だが、その行為こそ黒木が努力家である何よりもの証拠ともいえる。

 だが、俺は『暇だから』と答えると『そうですか』と納得したのか解らず俺と黒木は多くを語る事はなかった。

 レンジャー教育最後の行事である帰還行事は顔に迷彩フェイスペイントを塗ったまま帰るのが通例だ。

 家族や駐屯の仲間たちが出迎えるが…俺にはそんなものはいなかった。孤独感はいつも否めない。

 防衛大も…レンジャーも…結局俺には何もない…

 習志野駐屯地勤務 休憩室

 

『――にて発見された新たな怪獣娘はGIRLS北米支部にて保護され――』

 世間では既に怪獣娘と言う存在に対して認知を広めていた。

 駐屯の仲間はああでもないこうでもない怪獣娘の世界側の扱いに対して議論を重ねていた。

 だが、俺から言わせれば彼女たちの方がよっぽど人間らしい…純粋すぎる故に社会という魔物に食い物にだってされる…いずれはそう言った汚くも醜い現実を目の当たりにした時には存外脆かったりする。

「婆羅陀、ちょっといいか?」

 それは上官に呼び出され一通の封筒を手渡された。

 『特殊作戦群』通称:特戦群からの直々のスカウトだ。

 従来なら特戦群の訓練を受けるはずなのに特戦群は俺を喉から手が出る程の欲しい人材だったのか…俺はそれほどの人間では無いのにこんな手紙を送りつける上層の考えに俺個人が考えても仕方ない。

 俺はその手紙を細切れにして捨てた。

 以後の音沙汰は無く、時が経つにつれて俺に第一空挺団の中で多くの部下も持つようになった。

―パァアアン!

 避難所から発砲音で目が覚めた。

 仮眠が吹き飛んで慌てて駆け付けた。

『もういやだ!こんな生活はうんざりだ!』

「落ち着いて!銃を降ろして!」

 それは若い現地人が自衛隊支給の拳銃を手に持っていた。

 それと向かい合う形でまだ幹部として日が浅い三等陸尉のホルスターには拳銃が無かった。

「銃を…銃を降ろして」

 説得するも焦りの余り現地語では無く、日本語でジェスチャーしていた。

 混乱状態で言葉が違うと更に混乱を招く。

『殺してやる!殺して俺一人でも生き延びてやる!!』

 錯乱していた。危険な状態だ。

 この場に居る避難民も若い三等陸尉も危険だ。

「三佐!…撃ちますか」

 部下がホルスターに手をかけている。

 皆レンジャー故にこういった状況下でも狙える角度を取る。

「うぉおおおおおおおおお!!」

 そして三等陸尉もレンジャーである故に僅かな隙と決死の覚悟で錯乱する青年にタックルをした。

『放せ!放せ!!』

 パンッ!と銃声と共に拳銃が三等陸尉の頬を掠める。

 しかし、青年は更にナイフを隠し持っていた。

 恐らく咄嗟だったのだろう。

 三等陸尉はナイフを払いのけた…が、そのナイフは青年に突き刺さった。

『がぁああああ!!』

 ナイフは腹に喰い込んで出血していた。

 衛生兵が急いで駆け付け、担架で青年を救護所へ運んだ。

「あっああっあああっ」

 三等陸尉も混乱していた。

 自分の払いのけたナイフが不可抗力で青年に刺さったことは事実だ。現実だ。

 到底彼が明日の捜索に出れる精神状態では無かった為、変って俺が三等陸尉の穴を埋めるためにも指揮に出ることになった。

 ネパール 北部地域捜索

 

 北部地域は霧が掛かる場所だった。

 雨もゲリラの如く降りしきり何とか捜索を続けた。

「三佐、危険です!これ以上の捜索は瓦礫が倒壊します!」

 わかっている。歯痒い気持ちだが仕方ない。

 捜索は中断して一度避難所に戻ろうとした。

―ビュウウウウウウウンンンンン!!

 突如強い突風が吹き荒れた。

「おわっ!?なんだ!?」

「何が起きている!?一旦隊列戻せ!」

 部下が叫ぶ中で目の前のゴーグルに水滴が滴る中で俺はその突風に足元の濡れた足場に滑って転げた。

 バランスの良いはずの俺が足を滑らせた。

 気が付くとそこは寺院だった。

 転がって寺院に居た事に全く持って理解不可能だった。

 あれだけの大地震があったのにも関わらずその寺院は倒壊を免れていた。

 しかし、まだ避難していない人がいるやもしれない。

 俺は懸命に『誰かいますかーー!!』と叫んだ。

 すると置くから高齢の男性が現れた。

 恐らく寺院の僧侶なのか、それらしい着物を身に着けていた。

「待って居たぞ…風を統べる者、嵐を我がものとする者、わしは何年もお前がここに来るのを待って居た」

 老人は日本語で俺に語って来た。

 齢100はくだらない外見の男性が俺の腹に触れて来た。

「受け入れよ!婆羅陀魏山神の御魂を!!」

 突如、俺の腹に激痛が走った。

 まるで内臓をかき回されるような強い激痛が体中を駆け巡り、脳を直撃して来た。

 苦しい、痛い、そんな脳内をぐちゃぐちゃにされている気分の中で俺は幼少期の事を思いだしていた。

「じいさん、家族は居るの?」

 子供ながら何気ない素朴な疑問を村長のじいさんに尋ねていた。

「そうじゃのう…遠い異国の地に旅立った…弟が一人おる」

 その老人の顔にあの村での村長のじいさんの顔と重なった。

「風の戦獣よ、金剛の戦士の身衣を宿りて一つに為りたまえ…バラン・ビササム・ウンバラ…バラン・ビササム・ウンバラ」

 老人が何か訳の分らない呪文を唱え始めると周囲の空気が俺の周りを竜巻のように回りだして、その竜巻の目の中で俺の身体が変り始めている気がした。

 顔の周りの角と背筋に並ぶ透明な長いトゲにムササビのように飛膜が脇から生えだした。

 そこから俺の意識は無いが、記憶だけがあった。

 僅かに見えない世界で体がフワフワと浮いている気がした。

 気付けば避難所の門で倒れていた所を仮設の医務室で横になっていた。

 起きて早々にバシャバシャと顔を洗うと鏡を見た瞬間、トカゲのような角を何本も頭部に生やした怪獣の姿が俺と重なった気がしたが、瞬きすると俺の顔だけが映っていた。

「三佐、帰国命令です。ネパール災害派遣これにて終了です」

 日本からの帰国命令が下った。

 帰国する空港にはネパールの現地人が垂れ幕を掲げて現地語で『हामीलाई सहयोग गर्नु भएकोमा धन्यवाद(私たちを助けてくれてありがとう)』と見送ってくれたが…自分たちにどのような現実が待ち構えているのか…そんなことを考えていた。

 その現実とは『国民からの称賛』だった。

 この多くの称賛が良い方に捉える者も居るが、その後での自衛官は分からない。

 少なからず、俺は自衛隊を退いた。

「婆羅陀三佐」

 習志野駐屯地玄関では既に市ヶ谷に転属した黒木が俺を見送りに来た。

「私はあなたが嫌いです。そうやっていつも苦しみも辛さも何もかも自分から背負い込むあなたが…」

 結局、防衛大時代の黒木の言葉通りの展開となった。

 俺は玄関口で黒木とすれ違い習志野駐屯地を後にした。

「婆羅陀トビオ!」

 そう言うと黒木は俺に対して敬礼を向けた。

 おれもこれが最後の敬礼と黒木に向けて去って行った。

 経済誌の鷹栖防衛大臣が国民栄誉賞を与えた自衛官たちについてこう語った。

『名誉ある賞を受賞された方々は何処か漠然としない気配を感じた』と狐ばあさんも意外と気配に敏感であることが伺えた。

 

 俺は婆羅陀トビオ、あの日、怪獣バランの魂を宿した。

 それは誰にも分らぬ苦しみと痛み。

 この領域は俺たちだけの世界だ。

 誰にも分らない世界。

 故に孤高の突風だ。




「以上が俺のいきさつかな…」
 そう言うとバランは自分が担当する米海軍特殊部隊員養成名簿に目を通していた。
 その中には彼が学生隊として派遣された雀路羅市育ちのフォード・ブロディの名がある。
「それじゃぁ、俺はこれで…まだまだケツの青いひよっこどもを鍛えなければならないので、それじゃ」
 そう言うとサンフランシスコのファストフード店をバランは去って行った。
 婆羅陀トビオ、防衛大の担任官やレンジャー過程で担任官を務めた者が口を揃えてバランに対しての印象についてこう述べていた。
 あれは『突然変異種の怪物』だと…恐らく生まれ持っての怪獣の素質がある男だったのだろう。
 それがバランとの相性の良さが奴を完璧な怪獣に仕立て上げた。
 バランの村は現在ダムの下、過疎化が進み消滅した村の生き証人はもはやバランだけだった。
 孤高の突風を持つ怪獣バラン…か…
 奴を敵に回せばそれまでの航空戦力を大きく傾かせる。
 空挺は空間を支配する。バランの戦術は特にそれに特化している

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:50文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。