デビルサマナー 人修羅事件譚   作:烈襲

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第二章 不思議の学校の怪談 その四

 ◇

 漁港にやって来た数台の車の中で一番先頭を走ってきた車から降りてきたのは鎌川市の教育委員長の根本だった。もう一台、つまり警察車両だと思われる方から降りてきた人間を見て、進は「マジか……」と呟く。

「仕方がないか……。さ、富岡さん。行こうか」

 進は富岡の首根っこを掴み、外に引き摺りだ出す。進は富岡を引き摺りながら根本と警察車両から降りてきた人物の前に立つ。

「昨日言った通り賭けはアンタの勝ちだ。約束通り、俺はアンタに証拠を渡すよ」

 進は左手に持っていた手帳を根本に渡す。

「こんなかにあの事件について調べた結果とあの日、富岡とアンタの息子が会った証拠写真が入ったSDカードがある」

「これで……」

 根本は感極まった表情をしている。

「ご協力感謝します。間薙進さん」

 警察車両から降りてきた人物は進に礼をいう。

「どう致しまして。白鐘直斗さん」

 警察車両から降りてきたのは先日テレビで見た、白鐘直斗だった。進にとってこのタイミングで直斗と顔を合わせる羽目になったのは計算外だった。まして顔と名前を覚えられているのだ。

「(こりゃ、ますますあの二人を連れて行ったほうが良さそうだな)」

「……僕の事をご存知だったんですか?」

 直斗は進に名前を呼ばれ少し驚いた様子で聞き返す。

「テレビとかで拝見させて貰ってたよ。ま、根本さんが頼んでいた探偵ってのが君だとは思わなかったけど」

「なるほど……。それでは、富岡幸三さん。あなたを単純収賄罪、公金横領罪などの罪で逮捕状が出ています。身柄を預からせていただきます」

 直斗は富岡に逮捕状を見せ、身柄を確保する。

「間薙君、有難う。これで息子も救われる……」

 根本は涙を流しながら、進に礼を言う。

「構いませんよ。むしろ身体に危害を加えてない分、『こちら』を敵に回した人間には甘い処置ですよ」

 進は半笑いで根本に返す。

 そのとき、進にスマホに電話が入る。相手は紗香である。

「ん? どうした?」

「シン、大変! 事務所にパソコンにメールが入っていたんだけど……」

 電話の向こうの紗香は非常に焦っている様子である。

「落ち着いて一から話せ。で、メールで何があった?」

「俊哉君からのメールで少なくとも小学生ぐらいの子供が少なくとも四人は岩船小の校舎に入った可能性があるって……」

「何……!」

「多分、進にメールしようとしたけど間違えて事務所にメールしちゃったんだと思う」

「マジか……」

 進は「まさか」と思い、スマホの通話状態を保ったまま、ホーム画面に戻る。確かに俊哉から不在着信が残っている。

 そのとき、進の後ろから、高笑いが聞こえた。進は笑い声のした方を向く。声の主は手錠をはめられ、車に載せられる寸前の富岡だった。

「間薙君! 残念だなぁ、君がここに居るせいで君の弟子とやらは死ぬ!」

「あぁ!?」

「岩船小を異界化させたダークサマナーとやらが言っていたよ! 彼処には『魔人』が出るとね。魔人とは人に死をもたらすものだろう?」

 そこまで言い、富岡は再び高笑いを上げる。それはすべてを失った男の最後の悪あがきだった。

「魔人がいるだと……」

 進はひとり呟く。

「シン!? シン、どうしたの!?」

 電話の向こうで紗香が必死に進の名を呼ぶ。

「紗香! 急いで岩船小に向かうぞ! 詳しいことは後で話すが、かなりこっちもかなり不味い情報を掴んだ!」

「わかった。シンの装備も持っていく?」

「頼む! じゃ、後で!」

 進はそこで電話を切る。

「根本さん!」

「うむ、後のことは私達に任せて行きなさい。足はあるのかね?」

 根本はすべてをわかった様子で進に出発するように促す。

「大丈夫です! そっちはお願いします!」

 進は走りだし、岩船小学校へと向かう。

 そして直斗は一人その様子を冷静に見ていた。

 

「ゴメン! ホッントゴメン!」

「いや、もういいって……。コレぐらい」

 岩船小学校の廊下のとある一角で綾乃は俊哉に謝り続けていた。

 時刻は二十分ほど前に遡る。俊哉は怯えるコウ、ナオヤ、サツキという三人の小学生を宥め、事の経緯を聞いた。そして綾乃らと合流するため校舎の西側に向かったが、三階も他の階同様瓦礫の山によって分断されていた。幸い、他の階の瓦礫の山に比べ、瓦礫の量が少なかった為、俊哉は手作業で瓦礫を退かし道を作ろうとしたところ、ちょうど反対側から綾乃が魔法石を利用し、瓦礫の山を俊哉ごと吹き飛ばしてしまったのだった。

「しゅ、俊哉さん、大丈夫ですか?」

 メガネを掛けた大人しそうな少女――サツキが俊哉を心配する。

「まぁね。結構痛かったけど、薬で誤魔化せる程度だよ」

 俊哉は自らの傷の手当をしながら、返答する。

「なんだよ、あれぐらいで。ナサケネーなニーちゃん」

 ショータが俊哉に生意気な口を叩く。

「ショータ。そういうこと言わないほうがいいよ」

 利発そうな外見のナオヤがショータを諌める。

「だってよ、ちょっと、すっ転んだぐらいだろ?」

「いや……明らかに三メートルぐらい飛んでたから……」

「もうやめて~!」

 ナオヤとショータのやりとりを聞いて綾乃が更に凹む。

「と、とにかく。状況を確認しよう。まず、ショータ君達は二階の窓からサッカーボールを蹴り入れてしまった」

「おう!」

 何故かショータは自慢気である。確かに小学生で外から二階の窓にボールを蹴り入れるというのは大した身体能力とコントロールではあるが。

「で、取りに行こう中に入り、教室を覗いてみると、口裂け女がいたと」

「はい。で、私とナオヤくんとコウくんはは教室からでて右、つまり東側に逃げました」

 俊哉の問いかけにサツキが答える。

「東の昇降口から外に出ようとしても、何故か鍵が掛かっていたんでいろいろ回ったんですが、三階のある教室にはいったときなんか裁判みたいなことをしていて僕らはそれを邪魔しちゃったらしく、赤の女王に『不届き者じゃ! 捕まえい!』って言われてそのまま追いかけられたんです」とナオヤが補足する。

「なんで、ナオヤ君達は『あれ』が赤の女王という名前だと知っていたんだい」

「えっと……あの女の人が僕達を捕まえる様に言ったあとあのゾンビさん達が『赤の女王の仰せのままに!』って声を揃えて行ってきたんです」

 サツキがか細い声で答える。

「なるほどね。であの二足歩行の謎のウサギは確か気がついたら先頭を走っていて、やたら小さい扉があって、そこに入っていったってことでいいんだよね」

 俊哉は自分で言っておきながら訳がわからなくなっていた。

「ああもう、あのウサギのことは後回しにしてもう片方だ。ショータ君達は左、つまり西側に逃げたってことだよね」

「おう! 俺たちはそのままあのバケモンに追いかけられたんだ」

「で、あたしが助けたって訳。あれ? ちょっとまって。確か二階って……」

「それなんだ、多川さん。二階だけじゃなくこの校舎は今現在瓦礫の山によって東西に分断されている。それもショータ君達とナオヤ君達が二手に別れた直後ぐらいに」

「それに、俊哉くんは東の昇降口から校舎に入ってんだよね。でも、ナオヤくん達はそこから出ることは出来なかった……」

「うん。明らかに此処は可怪しくなっている」

「なぁ、そういえばよう、ユカ達遅くねぇか?」

 ショータが心配そうに俊哉と綾乃に尋ねる。

 ユカとアリスはユカの弟のコウがトイレに行きたいと言い出し、それについていった。最初は俊哉か綾乃が同行を申し出たが、アリスが「私が入れば大丈夫」と言ってさっさと行ってしまった。

「……行こう。僕はもう大丈夫」

 俊哉の言葉を皮切りに全員頷き、ユカたちを探しに行くことにした。

「なぁ、この学校なんか可怪しくねぇか?」

 可怪しいのは知っているが、ショータの言わんとしていることは俊哉、綾乃も理解していた。

「うん、トイレってもっと近い場所にあるはずなのに、まだ着かないって変だよ」

 サツキがショータの言葉に同意する。

現在、彼等が進んでいる廊下の位置はこの学校の外見上の構造からあり得ない位置に存在している。

「これって迷宮化しているってことよね……」

「うん。不味いね。ここまで来るとトラエストストーンで帰れるけど、全員揃ってないと三人をおいて行っちゃうし」

 その時、彼等の向かっている方から悲鳴が上がる

「またぁ!?」

 俊哉が「急ごう」と促す前に綾乃が飛び出して行ってしまった。

「ちょっと、多川さん!? こっちも『また』だよ……」

 しかし、綾乃は何故かある廊下の曲がり角を曲がってすぐ、引き返してきた。よく見るとどうやら、コウ、ユカ、アリスも一緒である。問題はその後ろに居る存在だが。

「なんじゃ、ありゃァァァァァァ!」

 ショータも叫ぶのは無理もない。

「ドラゴン……」

 ナオヤがポツリと呟く。サツキはただ怯えるだけである。

「いつか見るかもとは思ったけどこんなに早く見ることにはね……」

 綾乃、ユカ、コウ、アリスを追いかけていたのは鋭い爪とその細い首にはアンバラスな大きさの顎を持った、赤い目の四足歩行の首長竜だった。

 そのとき、地震がでも起きたのか何故か校舎全体が揺れる。全員はよろけるがそれは四人を追いかけていたドラゴンも同様で、足元がフラつき、一瞬動きが止まる。

「多川さん!」

「うん!」

 どんな形であれ全員合流出来た。おそらく綾乃がこのドラゴンから逃げていたのは『一人で』戦うより『俊哉と合流して』戦ったほうが良いと判断したのだろう。

「クロウ!」

「ギンチヨ!」

 俊哉は何処からともなく現れたカードを握りつぶし、綾乃は拳銃をこめかみに当て空砲を撃ち、ペルソナを呼び出す。

「ガル!」

「ジオ!」

 それぞれの得意とする攻撃魔法をドラゴンに当てる。

それなりの効果が有ったらしく、ドラゴンは叫び声を上げ、怯む。

「ユカさん! コウくん! アリスさん! 今です、こっちへ!」

 ナオヤの言葉のおかげで、ユカ、コウ、アリスはドラゴンと戦っている俊哉と綾乃の後ろに逃げる。

「斬り込む! 援護して!」

 俊哉が刀を構え、ドラゴンに突っ込んで行く。

「分かった!」

 綾乃は拳銃を構え、俊哉に当たらないように援護射撃する。

 ドラゴンは一人突っ込んできた俊哉を、引っ掻こうと前足を振り上げるが、綾乃のはなった銃弾がその足を打ち抜き、怯む。そして俊哉はその逆の前足をドラゴンとすれ違いざまに切り落とす。

 ドラゴンは痛みがあるのか叫ぶ。

「ギンチヨ! もう一回ジオ!」

 綾乃はもう一度ペルソナを呼び出す。ペルソナから放たれた電撃はドラゴンを感電させ、その動きを止める。

「多川さん! ナイス!」

 俊哉はドラゴンが動きを止めたのを見て、ペルソナを呼び出す。

「クロウ! 疾風斬!」

 クロウの手に持った刀はドラゴンの体格に見合わない細い首を確実に捉え、切り落とす。

首が切り落とされたドラゴンはそのまま倒れ、マグネタイトの霧となって消える。

 俊哉は満足そうな顔する。

「良し!」

 そしてその直後、同じく勝利の達成感に酔いしれていた綾乃に抱きつかれる。

「やったね、俊哉くん! 勝ったよ!」

「ちょ、ちょ、ちょっと! 多川さん!」

 俊哉は顔真っ赤にして綾乃に離す様に諭す。

「あっ! ゴメンゴメン。思わず……」

「もう、さすがにもう少し緊張感もってよ……」

「うん、ごめんね。でも、さっきの揺れ、何だったんだろう?」

「さぁ、でも、この学校の校舎に何かが起きたんだろうね」

 俊哉と綾乃は自分たちの元に駆け寄る六人の子供たちを迎えながら相談する。

「すごいすごーい! お姉ちゃん達、ジャバウォークを倒せちゃうんだ!」

 アリスが俊哉と綾乃に言う。

「アリスちゃん、あのドラゴンの事知っているの?」

「うん! アリスとおんなじ名前の女の子が出てくる絵本に出てきた!」

「ジャバウォークにそれにアリス……。あっ! 不思議の国のアリスだ!」

 それを聞いてユカが答える。

「ユカさん。ジャバウォックが出てくるのは正確には鏡の国のアリスですよ」

「まぁ、どうでもいいじゃん。なぁ、ニーちゃんネーちゃん」

「そうだよ、こんな怖いところ嫌だよ。早く帰ろうよ!」

 ショータとコウが俊哉と綾乃に言う。

「それはダメ!」

 アリスが叫ぶ。

「アリスのお人形、まだ見つけてない!」

「そういえば、そういってたね。大丈夫、明るくなったらお姉ちゃんとお兄ちゃんが探してあげるから……」

 綾乃がアリスを諭す。

「うん。取り敢えず、今はここから逃げよう。じゃないと人形の前に自分たちの命が危ない」

 俊哉も優しく答える。

「ダメったら、ダメ!」

 アリスは尚も拒否する。

「大丈夫だよ、アリスちゃん。明日明るくなったら一緒に探そ。私達、もうお友達でしょ?」

 サツキがアリスに言う。アリスはサツキの言葉の「お友達」という部分に反応した。

「アリスのお友達になってくれるの?」

「ああ! つか、もう友達だろ!」

 ショータの言葉を皮切りに皆が頷く。

「ホント! じゃーねー、一つお願いがあるの!」

 アリスは皆に明るい笑顔を見せる。しかし、それとは対照的に禍々しい気がアリスから放たれていることに誰一人気が付かなかった。

「なんでしょう? 僕達にできることなら、なんでもしますよ」

 ナオヤが答えにアリスは満面の笑みだ口を開く。

「あのねー、 死 ん で く れ る ?」

 その瞬間、天井から槍を持った大量のトランプ兵が現れ、俊哉達に元に降り注いできたしてきた。

「なっ!」

「マカラカーン!」

 トランプ兵たちは俊哉たちの目の前ギリギリで謎の力場にかき消される。

そして俊哉達の目の前に蝶のの羽を持った中世欧州の王のような格好の男性悪魔とトンボのような羽に緑の美しいドレスを来た女性悪魔が舞い降りる。

「ヒートウェイブ!」

 男性悪魔は手に持った細剣を振り、アリスに向かって熱波を繰り出す。しかし、アリスはあっさりと避け、距離を取る。

「『トラフーリ』」

 そして女性悪魔が魔法を使い、アリスを除いた全員をどこかにワープさせる。

 

 男女一組の悪魔によって俊哉たちはどこかの教室へと飛ばされた。しかし、悪魔達からは敵意が感じられないあたり、どうやらこの男女の悪魔は敵ではないようだ。

「なに?! なんなの?! 今の! また、なんか増えたし!」

 とはいえ、ユカがパニック状態である。いや、ユカだけじゃない、子供たちは皆パニック状態である。

「お初にお目にかかります。周藤俊哉殿、多川綾乃殿。我が名は妖精王オベロン。我らがマスター、人修羅間薙進の命を受け、救援に馳せ参じました」

「同じく妖精女王ティターニア。間一髪のところでしたわね」

 二体の悪魔は俊哉と綾乃に恭しく、挨拶をする。 

「救援……。先生の?」

「よかった来てくれたんだ」

「なんだか訳わかねぇけど、味方なのか?」

 ショータが恐る恐る俊哉と綾乃に尋ねる。

「うん。それもとても頼れるね」

「いえ、『魔人アリス』相手では私達もどれほど時間を稼げるか……」

 オベロンは綾乃の期待を裏切るかのような言葉を発する。

「『魔人』……『魔神』とは違うのですか?」

 俊哉は進から教わったことがない悪魔の種族が出てきたことに疑問を抱いた。

「ええ。『魔人』とは大きく分けて二種類。我がマスターのような悪魔の力を得た『()』人間。もしくは死や不吉の象徴となる死神の一種」

 ティターニアが答える。

「アリスはその両方。とある二体の大悪魔が一人の美しい少女の死を悼み、悪魔として蘇らせた存在。そしてその悪魔は『友達を増やす』と称して自らと同じ死から蘇った存在を増やす『死の少女』。彼女の友達になるというのことは一度死を迎え、生ける屍となることと同意義なのです」

 オベロンが付け加える。

「そんな……」

 俊哉を除く全員がショックを受けている様子である。わずかな間とはいえ彼女とともに行動していたのだ当然だろう。まして小学生ぐらいの年齢なら「一度、遊んだらもうお友達」的な思想を持つものである。そのショックは計り知れない。

「な、なぁ。アリスの友達になるのに死ななくても良い方法ないのかよ」

 ショータが恐る恐るオベロンに尋ねる。

「ありません。あのような見た目でも彼女は悪魔。()()()()存在なのです」

「でも、なんかしらの方法は……」

 ユカもオベロンに尚も喰らいつく。

「ございません。我らがマスターが仲魔にできるような悪魔でもない故」

「殺らなきゃ殺られるってことですか」

 俊哉は最初から覚悟が決まっていたかのように答える。

「然り。……っ!?」

 オベロンとティターニアが何かに気が付いたようだ。いや、悪魔だけではない。その場に居る全員が恐ろしく、嫌な予感を感じた。

「見つかったってことね」

 綾乃の言葉にティターニアはコクリと頷く。

 綾乃は覚悟を決めたかのように拳銃を握り締める。

「見ぃ~つけた!」

 教室内に無邪気な少女の声が響く。全員声がした方に振り向く。そこに教卓の上に座る、アリスがいた。

「アリスのお友達になってくれるんでしょ? アリスのお友達はみんな死んでいるの。だからみんなも死んで」

 アリスは無邪気な笑みをこちらに向ける。その笑顔に俊哉は背筋が凍るのを感じた。

「(悪意のない無邪気な『殺意』がこんなに恐ろしいものだなんて……)」

 俊哉は恐怖を押し殺すように刀を握りしめる。

 ◇

 

「やり過ぎたか……?」

「やり過ぎかと……」

 スパルナの背に乗っている進は巨大な穴が貫通している岩船小学校の校舎を見て、スパルナに語りかける。

 よく見ると進の姿は既に普段の人間の姿ではなく全身に黒い模様が浮かび、項に黒い角が生えた『本気』の人修羅の姿であり、そしてその姿の進は年齢に対してやや幼くなっている。

「いくら『異界化』しているとはいえ、『至高の魔弾』を打ち込むのは……。射線上に何者かがいたら大惨事だったかと……」

「だよな。俺も撃ってから気がついた。ま、とにかく中に入ろう」

 進とスパルナは校舎に開いた穴から中に侵入する。

 進が入った教室は図書室だった。進が図書室の床に足を下ろした瞬間「ウワァァァン!」という悲鳴が上がった。

 進は中に迷い込んだ子どもかと思い、悲鳴が上がった方を見る。すると、そこには人間の子どもは居なかったが、子どもの悪魔である二体の悪霊『ポルターガイスト』だった。

「ウワァァァ! 来るな来るな!」

「あっち行け! あっち行け!」

 進は自分をここまで載せてくれたスパルナと顔を見合わせる。

「(こいつらならなんか知っているかもな)」

進は溜息を一つつき、その二体のポルターガイストに近づいていく。

 ポルターガイストは自身の持つ念動力のような能力を利用し、本棚に残っている本を進に飛ばす。しかし、進は顔面に飛んでくる本だけはたき落とし、それ以外を無視してポルターガイストに近づいていく。

「来るな! あっ! お前、それ!」

「あ! ヤベッ!」

 一方のポルターガイストはとある絵本を飛ばそうとするが、その絵本のタイトルを見てもう一方が静止する。

進はその隙をついて、中に浮いたままのその絵本を手に取る。

「ん? 不思議の国のアリス?」

 それは世界的に有名な『夢の国』が作ったアニメ映画の絵本だった。

「あ! お前、返せ!」

 ポルターガイストは進から絵本を取り返そうとするが、進の膝の高さと対して変わらない大きさのポルターガイストでは届く筈がない。

「これがなんだってんだ?」

 ポルターガイストは浮遊して進から絵本を取り返そうするが、進はひらりと躱しながら絵本を開く。

「魔人……不思議の国のアリス……。っつうことは……」

 進は何かに気がつき、僅かに顔が引き締まる。

「うわぁぁぁぁ! 返してくれ~!」

 進が何かに気がついたことを察したポルターガイストは尚も取り返そうとするが、進は気にも留めない。

「ム、トゥイードゥルディ、トゥイードゥルダム。ソノ者ナラ()()

「オソラク、ソノ者ナラ、ありすヲ止メラレル」

 再び、急にどこからか声がする。

進は辺りを見回し、声の主を探す。すると貸出カウンターの上に二体の外道『スライム』がいた。

「スライム? 元は一体なんの悪魔だ?」

人修羅として本来の力を開放している今の進には、その二体のスライムが何らかの大物悪魔が何らかの形で実態化に失敗したものであることにすぐに気がついた。

「オマエガワレワレノ知ル者ナラ、スグニワカル」

「オマエハ、『混沌王』ノ『ワケミタマ』デアロウ」

「……? ほぼ間違いなくここにいる魔人はアリスだろ? そしてアリスが居るってことは………え!? まさか、お前ら!? 何やってんの!? つか、どういうことだ? グルじゃねぇのか! いや、でも、そうか。ここに奴が居るのは人為的な理由だ、それならあり得るか」

「え? 何々、知り合いなの?」

「それにアリスを止められるって?」

 トゥイードゥルダムとトゥイードゥルディと呼ばれた二体のポルターガイストが進のスライムの間に割って入る。

「そういや、こいつらなんだ? トゥイードゥルダムとトゥイードゥルディって呼んでいたな」

「ソウダ。ありすハ、コノ者達ヲソウヨンデイタ」

 片方のスライムが答える。

「なるほど……」

 そう言って進は絵本『不思議の国のアリス』を開く。その中に出てくる喧嘩をしている兄弟らしき瓜二つの小男がトゥイードゥルダムとトゥイードゥルディだ。

「で、なんでお前らはそんな姿になってんだ?」

 進は二体のスライムに尋ねる。

「我ラハココニありすがイルトキキ、ヤッテキタノダガ、ソノトキニハ既ニありすはココヲ異界ニ変エ、ココニ住マウアクマヲソノ書物ニデデクル者ノ名前ヲツケテイタ」

「ソシテありすハ『モット遊ビタイ』トイイ、我ラノまぐねたいとヲ人形ニ封ジコメ、鬼ゴッコトシテウサギノアクマニモタセ、コノ異界ノ中ニハナッタ」

「ありすニトッテコレハ、我ラノまぐねたいとヲ封ジコメタ人形ヲモッタウサギヲ捕マエルトイウ『アソビ』ナノダ」

「なるほど、鬼ごっこってわけか……。ったく、魔王と堕天使が聞いて呆れるな」

 進は思案に耽る。

「(はっきり言って、アリス相手に今の俺の装備や仲魔で勝てるか? と、尋ねられると答えに詰まる。となると、ここにいる人間を助けて一度退き、後日改めて『対アリス作戦』を考えて、挑んだほうが確実だ。だがこの今の状況は『使える』)」

 進の中で答えが出たようだ。

「よし、取引をしよう」

「トリヒキ?」

「俺の目的の達成の手段としてアリスの討伐はあるが、目的そのものじゃない。俺の目的はこの異界の処理と此処に迷い込んだ人間の探索、救出だ。で、俺はこの中にいる人間の保護しながら、その『マグネタイトを封じ込めた人形を持つ兎の悪魔』を捕まえ、お前らを元の姿に戻す」

「ソシテ我ラハありすを連レテカエリ、コノ異界ヲ消滅サセルトイウコトカ」

「ああ」

「ネガッテモナイコトダ。我ラモ元ニ戻レルナラ、ソレグライノコトハシヨウ」

 進の顔に笑みが浮かぶ。

「じゃあ、取引成立だな。戻れ、スパルナ! 召喚! オベロン、ティターニア!」

 進はスパルナを帰還させ、新たにオベロンとティターニアを召喚する。

「お呼びに預かり光栄です、サマナー」

「なんなりとお申し付けくださいサマナー」

「お前らは俺と手分けして俺の弟子である周藤俊哉と多川綾乃とこの異界に迷い込んだと思われる子ども達の捜索保護だ。お前らは魔法反射(マカラカーン)逃走魔法(トラフーリ)が使えるから、アリス相手でも『逃げ』に徹すればなんとかなんだろう?」

「「御意!」」

 オベロンとティターニアはその場から離れ、命令を遂行しようとする。

「マテ」

 片方のスライムがそれを静止する。

「コノ者タチヲツ連レテイケ」

 そう言って二体のポルターガイストの片方をオベロン達に近寄らせる。

「オイラ達、此処で生まれた悪魔なんだだ。此処が無くなるとオイラ達も消えちまう」

「仲魔にしてくれよ! 絶対役に立つからさ!」

 進はそれを聞いて、もう一度スライム達の

方を見る。

「コノ者タチハ二体デ一ツノアクマ。タトエ離レテイモ、互いノ意思疎通ナドガデキルハズ」

「本当か?」

 二体で一つの悪魔であるポルターガイストは大きく頷く。

「わかった契約しよう。トゥイードゥルダムとトゥイードゥルディだな。長ぇからダムとディでいいだろう。コンゴトモヨロシク」

「うん! 絶対役に立つよ!」

「コンゴトモヨロシク、サマナー!」

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