デビルサマナー 人修羅事件譚   作:烈襲

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第一章 高校教師ペルソナ殺人事件 その二

 

 ◇

 

 翌朝、七時半ごろ。進は眠り足りないのかリビングで考え事をしながらボーっとしていた。

 昨晩、進は以前、依頼を受け、そして達成したことから縁がある暴力団、阿修羅会のツテを辿り、平崎を中心に動く麻薬の売人を訪ねて回った。幸い、森谷が薬を渡したという売人は阿修羅会の息のかかった売人であり、すぐに辿りつけた。そこまでは良かった。事態は進の予想以上に大きくなりつつあった。

 進は昨晩、ブローカーから聞いた言葉を思い出しながら「半分ほど売ったとか……マジかよ……。しかも相手は高校生、というより森谷の方がわざわざ条件つきで指定」と呟いた。

 多感な思春期だからこそ、心に多くの抑圧された感情を抱え、そしてそれを乗り越えやすい。完全にペルソナ能力の発現を狙ったものとしか思えない。

「森谷の奴がブローカーに提示した条件は思春期の高校生もしくは中学生相手に売ること、そして何処に通っている把握しておくこと。完全に判っていてやっているな……」

「マスター。コーヒーが入りました」

 独り言を漏らしていた進を気遣ってか、エルマがコーヒーを用意してくれた。ちなみに彼女は造魔なので定期的に生命エネルギーの結晶である生体マグネタイトを補給すれば睡眠や食事を必要とはしない。

「おお! ありがとな」

「確か、売人の言葉によればPEAを買った高校生は市立南高校の生徒だったそうですね」

「だな……。家から歩いて二十分も掛からない場所とか……。世間は狭いというか……なんというか……。取り敢えず行ってみるか」

「私もご同行いたしますか?」

「あー……。いや、留守番していてくれ。シャドウワーカーの奴らが回収できた一部の薬を取りに来るからさ」

「かしこまりました、マスター」

 その時、部屋に呼び鈴の音が部屋に響く。

 恐らく、シャドウワーカーの人間だろう。

「なんだ。もう来たのか?」

 

 ◇

 

「おっはようございます! 間薙進さんですよね!」

 玄関に現れたのは、短髪に野球帽をかぶった、まるでこれから大学に登校しますといった感じの青年だった。

「真田先輩のから話を聞いて、PEAを取りに来ました!」

「あ、ああ。えっと……君は?」

「オレっちは伊織順平っす! 先輩から聞いたこと無いっすか?」

 進はシャドウワーカーの前身である特別課外活動部のメンバーだったか、と確認する。そして彼は「そうっす!」と明るく答える。

「ふむ……。思ったより早かったな。ま、いいかここで立ち話もなんだから、入んなよ。コーヒーぐらいなら用意できる」

 進は順平を家の中に案内しようとする。

「ホントっすか! じゃあ頂いちゃおうかな」

「マスター。失礼いたします」

 進が順平を招き入れようとしたとき、後ろから、エルマが声をかけてきた。

「あ、間薙さんそちらは?」

「ん? ああ、造魔でメイドのエルマだ。で、どうした、エルマ?」

「ええ。先ほどニュースを拝聴していたところ、先日殺害されたという秋吉幹彦氏の勤務先が市立南高校との情報が……」

「何ぃ!?」

 意外なところで近所で起きた事件と今回の依頼に繋がりができてしまった。

「悪魔ではなくペルソナか……。悠長にしている暇はなさそうだな……」

 進は急いで家の中に戻ろうとする。

「ど、どうしたんですか!?」

「薬のブローカーが、薬を売ったという高校生が南高の生徒なんだよ! 近所の殺人事件にペルソナが発現した生徒が関わっている可能性がある!」

「な!? ええっ!」

「悪いコーヒーはナシだ。すぐに調査に向かう!」

 

 ◆

 

 市立南高校。なかなか設備の整った学校であり、偏差値は市内でも中の上から上の下に入る。

 事件の詳しい話を聞いた順平は進の調査について行くことにした。

「やっぱり、いろんなところのマスコミ関係者が揃ってるっすね」

 順平は本来あるべき朝の学校とは喧騒とはまったく別の様子に少し辟易していた。もっとも、昨日の早朝、ここに勤めている教師が殺されたのだ、仕方が無いことだろう。だが、どうしてマスコミというのは少なからずショックを受けているであろう生徒にどうして心無い言葉でコメントを求めるのだろうか。

 かたやスーツ姿でバッチリ決めている進は「さて。来てみたはいいものの、どうやって調査しようか」と顎に手を当て考えている。

「ああ、伊織。そういやなんでお前ついてきたんだ? エルマが留守番しているから、家で待っていてくれて構わないのに」

「ああ、一応ペルソナ絡みなら、やっぱりちゃんと俺っちも手伝ったほうがいいかなって……」

「あら? 進くん。こりゃ、あたしの勘が当たったかな?」

 そう言って進と順平に近づいてきたのは一人の女刑事――米山――だった。

「米山さん。捜査ですか?」

「ええ。村山は今、別の所で聴きこみに言っているから、多少、聞かれたくないことでも喋っても問題ないわよ」

「えっと……。間薙さん、こちらは……?」

「ああ。米山遥香さん。刑事だ。一応、『こっち』側のことは知っているが、知っている『だけ』だ。無闇に巻き込むようなことは避けてくれ」

「あ、刑事さんっすか。俺、伊織順平っす。進さんの同業ってわけじゃないっすけど『知っている』人間っす」

「なるほどね。で、やっぱり悪魔が関わっていそうなの?」

「厳密には違うとは思いますが、似たような話だと思います。杞憂であるのが一番ですが」

「そ。じゃ、今回もこれまでみたいに、ね」

「お願いします」

「とはいえ、派手にやり過ぎないようにね。あたしもそこまでの地位があるわけじゃないから」

「ま、警察のお墨付きの探偵なら大抵の高校生は飛びついてくれますよ」

「良くある探偵に関する誤解ね。じゃ、あたしは村田が戻り次第、捜査に戻るから」

「ええ。それじゃまた」

 米山は去っていった。

「間薙さん、これまでにみたいにって?」。

「ん? ああ。軽い裏取引だよ。俺は米山さんから情報をもらったり、あるいは俺が捜査しやすいように便宜を図る。で、悪魔がらみの事件って奴は大抵上から手を引くように指示され、そのまま表向きは迷宮入りだろ? それを俺が解くなり調べたりして真相を米山さんに教える。そういう取引さ」

「い、いいんすか、それ?」

「米山さん的には結果として加害者がちゃんと罪を罰せられればいいみたいだから、いいみたい。それに調べているのは米山さんじゃなくて俺だしなんも言われないだろうし。じゃ、入りますか」

「ちょ! ちょっとまってください! いくらなんでも敷地内に入るには不味いんじゃ……」

「そこでこれさ」

 そう言って進は懐から名刺を取り出す。そこには『間薙探偵事務所所長 間薙進』と書かれていた。

「普通、こうゆうの調べるのに肩書きがあったほうがいいだろ? デビルサマナーって名乗るもいかねぇし、それに近い霊媒師や拝み屋じゃ胡散臭すぎる。だから探偵を名乗るのが一番説得力ある。あ、ダミーとはいえちゃんと事務所はあるよ。普段はそこでサマナーとしての依頼の相談や報告書の作成はそこでやっているから」

「でも、それじゃ免罪符に……」

「なるんだなぁ、これが。事件があって探偵がいるとなると多くの人間は、良くも悪くも期待する、まるでドラマや漫画のような華麗な推理で事件を解決することを、ね。ましてこっちは個人の取引とはいえ事件を解決の協力を警察関係者から頼まれているんだ。大抵のことは『ああ、事件の捜査なんだな』と納得する」

「もちろん、米山さんに話を通してからじゃないとこの手は使わないけどね」と進は付け加える。

「じゃあいきますか。俺と行動している間は、君は探偵助手だ。頼むよ伊織君」

「え、あ、はい!」

 順平は進の後を追い、学校内に入って行った。

 

 ◆

 

「確か一時間目に体育館で全校集会って言っていたな……」

 何人かの生徒に聴きこみをした所、急な時間割の変更を聞くことができた。恐らく殺された秋吉幹彦の追悼及び説明だろう。

「チャンスだな。教室に忍び込んで、薬を持ってきていないか調査出来る」

「え! それって、いろいろ不味いような……っていうか出来るんですか!? そんなこと……」

「おいおい。おれはデビルサマナーだぞ? それぐらい簡単に出来る」

「えっと……どうやって?」

「悪魔ってのは天使、魔獣、魔神のような分類、そしてさらにそれぞれの種族に名前がある。まぁ、ペルソナでいうアルカナとペルソナ名みたいなものだな。だが、それとは別に使える技、魔法ごとに分類されることもある。紅蓮、銀氷、雷電、疾風、技芸、蛮力、外法等などって形だな、で、それぞれこういう捜査に有用な技が使える訳よ。因みにこういうときは……」

 そう言って進はスマホを取り出す。

「来い! パールヴァティ!」

「お呼びに預かり光栄よ、我が王」

「うわ!」

 順平が驚くのも無理は無い。進が取り出すたスマホを持った手を突き出したと同時に目の前にピンクの髪、そしてどことなくインド風なセクシーな服の女性が現れたのだ。

「御用は何かしら我が王」

「サマナーでいいよ。記憶はあるけど、俺は混沌王本人じゃあない。ちょっと探しものを、ね」

「あ、あの間薙さん……?」

「ああ。こいつ? 地母神パールヴァティ。インド神話に登場する女神。名前は山に属するものという意味で破壊神シヴァの后とされる。あー……むしろガネーシャの母って言ったほうがわかりやすいかな。ガネーシャが出ている小説やドラマがあるらしいし」

「よろしくね、ペルソナ使いさん。ではサマナー、『現場検証』でいいのかしら」

「ああ、これと同じ物があったら教えてくれ」

 そう言って錠剤が入った小さな袋を取り出す。

「では、そのように」

「あの、間薙さん。『現場検証』って?」

「雷電属が使えるフィールドスキルって奴だな。一定の範囲内に変なもんがあったら知らせてくれる魔法みたいなもんだ。じゃ、行くぞ。教室を虱潰しに探すんだ」

「ちょっと待って下さい。まさか中に忍び込む気ですか!?」

「いいや。受付で来客証をちゃんと貰ってく。だから口裏合わせろ」

「どんなふうにですか?」

「『いじめの調査でここに来ました。守秘義務があるので依頼人の名前は言えない。そちらとしても昨夜の事件で更なる問題発覚は困るでしょう。しかし、その事実を発見した際、表沙汰にならないように解決法を提案いたしますのでご安心ください。警察からは事件捜査の邪魔にならなければ構わないと許可を得ています』って言えば行けるだろう」

「いいんですかそれ」

「ん? フッフッフッ」

 進は悪戯を思いついた少年ような笑いを見せる。

 

 ◆

 

「本当にあれで行けるもんなんですねぇ」

「まぁな。あんまり喜ばしいことでもねぇが、校長が教育より保身の方が重要な屑ってのいうのが助かった」

 順平はそこまで言わなくてもと思ったが、確かに校長室で事情を説明していたときの様子を思い出すと概ね同意せざるを得なかった。何せ自分のところの教師が殺されたというのにも関わらず、まるで他人事のような態度に見えたからだ。それは順平の目からは慌てまいように努めて冷静になっているのではなく、厄介事が増えて面倒だという感じだった。

「学校ってのは厄介事を嫌うんだよ。まず、俺は依頼人の名前を伏せた。つまり本当にいじめが有ったとしても、誰が受けているのかわからないから知らぬ存ぜぬで通せる。しかも、自分が金出さず、内々に処理してくれると申し出ているんだ。喜んで通してくれるだろう。それにこっちはわざわざさっきまで聞き込みに来ていた刑事から許可を得て、しかもその裏付けもある。俺達が新たな問題を起こしても警察に責任を押し付ける事ができるしな」

「あの……それがダメだったらどうしてました?」

「パールヴァティに『魅了』してもらって押し通した」

「……」

 今更ながら、そうさらっと言いのける進に、一見、見目麗しいクールビューティだが実際は金持ちゆえの常識の無さを持つ桐条美鶴と最初はクールでカッコイイと思っていたのに蓋を明けてみると熱血筋肉馬鹿の真田明彦の二人の先輩とは、別ベクトルで常識に欠けることに気がついた。もちろん二人の先輩に対するこの評価は高校時代ならば完璧に見える人の欠点として親近感を覚えたが、今こうして社会に出てみると一気に人として大事なものが欠如しているように見えてしまっている。

 余談だが、今日、進のもとに自分が来たのはあの二人が訪問するのはどう考えても碌な事にならないだろうと考えたからである。事実、美鶴はリムジンを準備していたらしいし、明彦もかなりワイルドすぎて通報されそうな恰好で来ようとしていた。

 様々な教室を探していくが、なかなかお目当てのものは見つからないようだ。『ようだ』というのは何か発見したときのサインを確認できるのは進と彼が使役するパールヴァティのみであり、順平はそれを確認することはできない。幾つか気になるものは見つけたが只の風邪薬などのいわゆる常備薬だったりして、ごく一般的な薬ばかりである。

「ここもないか……」

「ええ。反応はないわね。さぁ、次へ行きましょう」

 全体の半分も終わっただろうか。順平は一瞬おいていかれそうになり、急いで一人と一柱に追いつく。

「しかし、サマナーって便利っすね。こういう使い方っていうか動かし方っていうか……、羨ましいっすよ。俺っちのペルソナは俺っちがそういう性格だからなのか、もうまさに攻撃特化! って感じで」

「そうかぁ? まぁ、俺はともかく、世の多くサマナーはむしろお前らみたいなペルソナ使いが羨ましいんだぜ?」

「え? そんなもんすか?」

「ああ。結局デビルサマナーの強さの半分以上は使役する悪魔の強さなんだよ。まぁ、そこんとこ勘違いしているバカもいるけど、そういう奴は大体早死するな。だからそういう自身の力で高い戦闘能力を持つ異能者やペルソナ使いは貴重だし、まるで才能の塊みたいな印象を受けるんだよ。悪魔と戦う人間を悪魔召喚師、つまりデビルサマナーとそれ以外のデビルバスターで分類しているあたりそれが顕著に出ていると思わねぇか」

「へぇ……」

 順平はその話を聞いて自分少し自分に自信を持つと共に人口ペルソナ使いを生み出すということの重大性に気付かされた。

「あれ? 間薙さん、俺はともかくって?」

「え!? てっきり真田から聞いてると思ったんだがなぁ……」

「ん? 何がっすか?」

「あー、知らねぇんならいいや。気にしないでくれ」

「あら。私はお話しても宜しいと思いますわ」

「わざわざ吹聴するようなことでもねぇよ。ま、真田に聞けば話してくれるかもな」

「いや、その言い方凄く気に「静かに」

 教室に入ろうとした進は歩みを止め順平をに黙るように命じる。進は扉の横に張り付き、そーっと教室内を見る。

「嘘から出た真って奴か?」

そう言って進は教室内を親指で指す。五、六人の男子生徒が居た。それも只のサボりではない。何人かで一人を取り囲んで要る。会話を盗み聞きするに「なんでもってこねぇんだよ」だとか「この前みてぇな目に会いてぇのか」などと言っている。

「どうするんですか?」

 進はスマホ――さっき召喚に使用したものではないが――を取り出し、隠れて動画を撮り始める。

「こうやって動画を取る。リンチに発展したら、動画を取りながら中に入る。こっちに向かってきたら容赦なく叩き潰す」

「(あれ? この人デビルサマナーだよな。なんでこんな手馴れてんだよ! ガチの探偵の方法じゃねぇか!?)」

 順平は喉元まで出かけた言葉を飲み込む。しかし、その直後信じられない台詞と光景が飛び込んできた。

「ペルソナぁ!」

 虐めを受けているであろう男子生徒の上にまるで若い武者を思わせる姿のペルソナが現れた。

「な!?」

「マジかよ!? 行くぞ伊織!」

 進と順平、そして進の使役するパールヴァティは教室に飛び込む。

 

 ◆

 

 周藤俊哉は驚くほどの高揚感と達成感に身を委ねていた。今の今まで自分を虐げてきたものが自分の力に怯えているのだ。

 数日前中心街を一人で歩いていた所、明らかにヤクザと関わりの有りそうな男が自分に「自分に潜在している能力を引き出してみないかい?」とある薬を購入することを勧められる。最初は半信半疑だったが、半ば押し切られる形で一錠だけ買ってしまった。だが、買って正解だった。自分の前に現れた自分の姿をした幻覚。彼の言葉は自分にとって酷く耳が痛いものだった。文武両道で優秀な兄、それと比較され続ける自分。エリート意識の高い両親は自分を見下し、兄にばかり期待する。そして兄はそれに応え続けてきた。常に比較され、家には居場所がまるで無く、それに加え学校では虐めを受けていた。幻覚は虐めを受けて安堵している事を指摘した。いじめられていても抵抗をしないのはそこに自分の居場所があるからだと、何処にもないと思っていた居場所があるからだと。最初は否定しようとした。しかし、自分はそれを認めた。そしてそれはペルソナという自分の力に変わった。周藤俊哉は決意した。今度はこの力を使って、自分で自分の居場所を作るのだと。その為に自分を虐げてきた奴らを消すのだと。その為にこの数日間学校を休み、力をつけてきたのだ。

「逃さないよ。やれ! クロウ!」

 自らをクロウと名乗るまるで漫画で見た『幽波紋(スタンド)』のようなもう一人の自分は、自分を虐げてきた者達の退路を断つ。

「『ドルミナー』」

 後ろから女性の声が聞こえてきたかと思えば逃げようとした奴らが何故か倒れ始めた。

「誰だ!」

 自分以外の誰かが居る。俊哉は後ろに振り向く。

「通りすがりの探偵さ」

 そこにいたのはスーツ姿の若い男とそいつ同じぐらいの年齢の野球帽をかぶった男、そしてスーツの男の近くには先ほどの声の主であろう姿形こそ人の形をしているが明らかに人ではない宙に浮いている女がいた。

「僕と同じ、ペルソナ、か?」

「いいや。こいつは悪魔さ。逃がさないでくれて助かったぜ。こうやって眠らせておけば全て夢で片付けられる」

 スーツ姿の男がそう言う。どうやら、彼らは眠らされているらしい。

「悪いがいくつか質問に答えてもらうぞ。どうやってその力を手に入れた」

 男の言葉には明らかに怒気が孕んでいた。だが、今の自分には力がある。なにも問題はない。

「只の薬さ。一錠しか無かったけど、たったあれだけでこんなにすごい力を手に入れられるなんて凄いだろう? アンタも欲しいのか? 僕がこいつらを殺すところを見逃してくれたのなら薬を売った奴を紹介しても構わない」

 男は無視して、質問を続ける。

「……次の質問だ。秋吉幹彦を殺したのはお前か?」

 

 ◆

 

「秋吉幹彦を殺したのはお前か?」

 進は単刀直入に質問をする。

 彼の言葉を聞く限り、彼は力に酔っている。

その姿をみて順平は三年前の満月の夜のモノレールの上でのシャドウの戦いを思い出していた。自分と同じぐらいの時期にで特別課外活動部に入った『あいつ』に嫉妬し、そして自分と力を過信して大惨事に成りかけたあの夜のことを。

「へぇ。あいつ死んだのか。そうか。だから今日の一時間目は学校集会なのか。男子に厳しく、女子に甘い糞教師だったが、どうやらここでこいつら殺す為のお膳立てをしてくれるなんて少しは役に立つんだな」

 可怪しい。何故、秋吉幹彦が殺された事を知らない。こいつが殺したのではないのか、つまり秋吉幹彦が殺されたことと、彼の力は関係ないのだろうか。

「ほう。その様子じゃ、お前じゃないようだな。しかし、よくもまぁそうベラベラ喋れるもんだなぁ」

 進は質問こそ終えたようだが、明らかにその態度は相手を挑発しているものだった。

「まぁ。見逃してくれないんじゃあ殺すしか無いからなぁ」

 不味い。明らかに少年はこちらに敵意どころか殺意を向けている。順平は鞄の中に入っている銃型の召喚機を取り出そうとする。

「伊織」

 進は順平を呼ぶ。

「なんすか?」

「持ってろ」

 そう言う進はジャケットとネクタイを外し、順平に渡す。

「手を出すな」

 進はワイシャツの袖をまくりながら前に出る。

「パールヴァティ。あいつのペルソナを抑えろ、それだけでいい」

「了解、サマナー。『戻る』の?」

「ああ。今日は刀も銃も持ってきていない。折角だし『使う』よ。馬鹿にはいい薬だ」

 進は両手を何か拳大の大きさのものを握るような形にし、腕を胸の前辺りで交差させる。すると、進の体から黒い刺青のような模様が浮かび上がってきた。

「あの間薙さん? その姿は……?」

「ん? まぁ、後でな」

 相手の少年も進の姿に驚いている。

「な……なんだよ……お前……」

 進はそんなことは関係ないと言わんばかりに構える。

「さて、『殺る』気なんだろう? 『殺られる』覚悟もできてるよなぁ」

その言葉を言い終えると進は一気に少年の方に踏み込んで行く。そして戦いの火蓋は落とされた。

 

 ◆

 

 戦いはすぐに別のものに変わった。いや、そもそも最初から戦いでは無かったのだろう。

 理不尽で一方的な暴力。少年のペルソナは進の使役する悪魔によって何もできず、進はただただ少年に何もさせず殴るだけ。あらかた殴り、少年の意識が辛うじてあるが顔はボコボコにされ血と涙でグチャグチャになっていた。

「な、何もここまでしなくても……」

 その凄惨な様子に順平は思わず進に意見する。どう考えてもやり過ぎである。しかし、先ほど浮かび上がっていいた刺青が消えた進の返答は順平をかつての自身の失態を思い出させ、至極納得できるものだった。

「手に入れた力をひけらかすようなド素人に絡まれたなら、何もさせず一方的に叩き潰す。それがこの世界の習わしだ。こいつがテメェ一人で身を滅ぼすのは構わねぇが、こういう奴は大概周りに被害を及ぼす」

 受け取ったジャケットを着ながら、進はそう答えた。

「……」

 順平は我が家で待つ、自身の愛する女性――チドリとの出会いを思い出していた。駅前で絵を書いていた彼女に自分の力を話してしまったことで実はストレガの一員だった彼女に身柄を拘束され、特別課外活動部の面々に迷惑を掛けた。今、自分の前で仰向けになり虚空を見つめる少年はかつて自分と同じなのだ。

 進は倒れている少年の方を向き、声を掛ける。

「さて、お前はこれからどうする? お前がそこで何も知らずに眠りこけているイジメっ子どもに呼び出され、暴言を吐かれ絡まれている姿は録画してある。そのまま倒れたままなら俺はこれを利用し、お前をいじめから救ってやる。だが、ペルソナってのは心の力だ。心が砕けちまったままなら、ペルソナはお前を守らない。どんな形であろうとお前が立ち上がるならば、折れた心を直そうとするのならば、手を貸してやる。力の使い方を教えてやる。どうせ、お前は誰も殺していないのだろう?」

 その言葉に順平は確信した。進は彼なりにこの少年の事を気遣っているのだ。彼が取り返しの付かないことにならように、獅子が我が子を谷底に突き落とすように、挫折と試練を教えたのだ。

「戻れ、パールヴァティ。撤収だ。さて小僧。俺の名刺をくれてやる。折れたままでいいのか、それとも立ち直るのか答えが出たら、来い。だが、答えが出ないうちにこいつらになんかしようっていうのなら、そのときは覚悟しとけ」

 進は仲魔を戻し、教室をでようとする。

「ちょっと……何よこれ……」

 ちょうど、進と順平が扉の方に目を向けたとき、一人の女子生徒が飛び込んできた。見た目は結構可愛いがかなり気が強そうな感じの娘だ。

「やっば……」

 不味い。椅子や、机はなぎ倒され、男子生徒が六人ほど倒れていて、うち一人はボッコボコにされている。

「ちょ……ちょっと! アンタ何者よ! 人を呼ぶわよ!」

「違う! 俺は探偵だ。調査でここに来ている。来客証明証もちゃんとある!」

 さっきまでの物々しい気配は何処へやらかなり焦った様子で進は弁解する。勿論、探偵だという名刺と来客証明証は見せている。

「調査? 秋吉先生の事件のこと? じゃあ、この状況はどういうことなのよ!」

「……僕がこいつらに虐められているところを助けてもらったんだ。だからこの人達はなんも悪くないよ多川さん」

 倒れていた筈の少年が起き上がり自分たちを庇ってくれた。いやそれより、この女子生徒は多川というのか。

「ちょっと周藤! ボロボロじゃん! しゃべんないほうが良いって!」

 こんだけやりあって初めて彼の名前を聞いた気がする。

「あー、じゃあさ、多川さん? その……周藤くん? を保健室に連れてってあげてくないかなぁ。俺達、場所わかんないし、まだ調査しなきゃいけないし……。ねぇ、所長!」

 順平の機転を利かせた言葉に進も「そ、そうだな。お願いできないかな?」と同意する。

「……解ったわ。で、こいつらは?」

「あ、ああ。眠っているだけだからそのままでいいと思うよ。じゃ、俺達はこれで」

 そう言い、順平と進は廊下へと出て行った。

 

 ◇

 

「で、どうします?」

 順平が進に尋ねる。だが、進もいまだ次の一手を考えていた。

 あの周藤という少年は秋吉幹彦の事件に本当に関わっていないだろう。つまり、秋吉幹彦の事件にペルソナ使いが関わっていないと、考えるのが妥当だろう。しかし、彼は「一錠しか無かった」と言った。そしてブローカーは五錠売ったと言った。そうなると、進はかなりの失態を犯している事に気が付く。薬の出処を聞いていなかったのだ。

「そうだな……。あれ? 待てよ……。なんであいつ、事件を知らなかったんだ? しかもあいつ、ペルソナを普通に使っていたよな……」

「間薙さん? どうしたんすか?」

「なぁ、伊織。召喚機なしでペルソナ使う方法ってどうするんだ?」

「召喚機無しっすか? むしろもともと召喚機いらないみたいっすよ。あくまで召喚機は補助っていう形なんで。とはいえ、相当精神力が強くないと無理みたいです。もしくは、いわゆる人の精神世界って奴の中だとかなり出しやすくなるみたいっす」

「じゃあ。わずか数日で召喚機なしでペルソナだせるようになるのは……」

「理論上は可能じゃないっすか? それこそ寝食惜しむような努力すれば……。ああ、そう考えるとあの周藤くんかなり努力家なんでしょうね……」

「なるほど……そりゃあ、寝食惜しんで復讐心だけで行動すれば、何が起きたかわからねぇだろうな」

 進の心の底から沸々と怒りが湧いてきた。無論、周藤に対してではない。

「あんの野郎、まだ話してない事があるな……」

 あれだけの面倒をかけてまだ隠していることがある。進が怒るには十分過ぎる理由である。

「伊織、シャドウワーカーに報告とあいつの身柄を頼んだ」

「えっと……間薙さんは?」

「ちょっと行く所ができた。あと、これはもう少し預かっとく」

 そう言って進はPEAを取り出し、早足でその場から去る。

「取り敢えず、阿修羅会のタヤマに連絡しといたほうがいいな」

 進はそう独り言を漏らしながら、スマホを取り出す。

「あ、そういえば、伊織の奴に人修羅についての説明をして無かったな。ま、聞かれなかったし、いいか」

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