デビルサマナー 人修羅事件譚   作:烈襲

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第一章 高校教師ペルソナ殺人事件 その四

 ◇

 

「裏がとれたか……」巨大な鳥の背という現実離れした状態で進は現実を確認していた。米山に確認したところ、やはり秋吉幹彦と三島友紀は不倫関係にあった。そして事件の前々日二人でホテルに入る姿の目撃情報もあった。完全に警察は痴情の縺れによる犯行と断定し、三島友紀追っているらしい。進もおそらく動機はそうだろうと考えている。現状問題なのは、『なぜ』殺したかではなく、『どうやって』殺したかの方だ。

 もちろんシャドウワーカーに連絡及び応援の要請は出している。

阪井駅に到着するが当然そこ多川綾乃と三島友紀の姿はない。かなり上空から探しており地上からはスパルナの姿は少し大きめの鳥にしか見えない。しかしそれ程の高さからであっても半分悪魔となり、五感が常人より遥かに研ぎ澄まされている進にとっては問題にもならない。

「もう遅いとは思ったけどな……」

「では、地上に降りて探されますか?」

「いや、一旦、事務所に行こう。丸腰で行くのは不用心な気がする」

「かしこまりました」

「俺も混沌王みたいに異次元に倉庫みたいの持っていて道具とか武器とか出し入れできるようになればいいんだがなぁ」

「やむを得ないことだと思います。混沌王様の分身とは言え我が王は未だ未熟な身なので」

「未熟ねぇ」

「しかし、今より更なる力をつければできるようになると思いますよ」

 スパルナは微笑みながら進に語りかける。

「俺自身、これ以上強くなるつもりはないんだけどなぁ……」

 

 ◇

 

 進は服装こそ先ほど変わらないものの、腰に下げた日本刀と肩にベルトで掛けてあるサブマシンガンが、異様な雰囲気を醸し出していた。

「しかし、一体どこ行ったんだ?」

 あたり一帯にある人が来なさそうな廃屋や森を上空から探しているが、成果はない。

「振り出しに戻っちまうが……仕方ない。駅前に戻って聴きこみをしよう。スパルナ、俺が地上で聴きこみをしている間、武器を持っていてくれないか?」

「かしこまりました、我が王。しかし……」

「ん? どうした?」

「ここより北北東よりかなりの速度で飛来するものが……」

「北北東?」

 進はその方角に目をやる。かなり激しく、機械的な空気の流れを感じた。

「これは……多分、ヘリコプターだな。それもかなり早い」

 進は再び目を凝らし、その方角を見る。

「まじかよ……」

 ヘリコプターはものすごい勢いで、進のもとへ向かって来ている。速度、大きさから考慮するに軍用ヘリだろう。自分たちを不審に思い攻撃しにきたのだろうか。否、それならば攻撃機だろう、今自分たちのもとに飛んで来ているのは見たところ同じ軍用機でも輸送機である。

そのヘリが普通の人間が視認できるほどには近づいて来たとき、そのヘリから半身を乗り出し、こちらに手を降っている男がいた。真田明彦である。

 進はスパルナに風圧で吹き飛ばされないように慎重にヘリに近づくように指示した。

「間薙! 悪いがこっちに入って、仲魔を下げてもらえないか!?」

 明彦はヘリ駆動音に負けないような大声で進に叫ぶ。

「あぁ! なんで!?」

 進も負けず劣らずの大声で理由を問う。

「入ってくれたら話す! 今、ロープを渡すから捕まれ!」

 明彦の言葉通り、進のもとに持ちやすいように輪が作られたロープ投げ渡される。

進はロープの輪に身を通し、しっかりと固定し、スパルナの背から飛び降りる。そして万が一落下した時のことを考え、スパルナを自身の下方に待機させる。進は宙吊りのような形になるが、中から釣り上げられているので、少しづつヘリのもとに上昇している。進もされるがままではなく、ロープを手繰り寄せ、自身の力でも上に登っていく。

 ヘリコプターに無事乗り込み、進はロープを解いて一息つく。そしてそのまま言われたとおりスパルナを帰還させる。

 明彦は「悪かったな間薙」と言うものの、「お前ならできて当然だろ?」とも言いたげな表情である。

「お前ふざけんなよ! なんであんな地上八百メートルであんな危険な真似しなきゃならねぇんだ! 死ぬかと思ったわ!」と進は明彦に猛抗議するが「その地上八百メートルで日本刀とサブマシンガンで武装して、巨大な鳥の背に乗ってるような男がそんなこと言っても説得力ないぞ」と返される。

「しかし、スタント無し、命綱無しの手に汗握るハイレベルのアクションを目の当たりにして私のパピヨンハートが熱くなっているであります!」

「おわぁ!」

 急に後ろから少女に話し掛けられ進は飛び上がるように驚く。

「だ、誰だ?」

「ああ、お前は初め会うんだったな。ウチのアイギスだ」

「はい。対シャドウ特別制圧兵装七式アイギスであります。初めましてです。間薙さん」

「あ、ああ。君が、ね……」

 かねてから聞いていた、シャドウワーカーの抱えるペルソナの使えるアンドロイドである。

「ああ、初めましてだな。しっかし通りで……」

「ん? どうした間薙?」

「ああ。気にすんな」

 『殺気』も『敵意』も『命』もないアンドロイドだから、気が付かなかった、と口にするのは些か無礼だろうと思い、進はそれ以上、何も言わなかった。

「本当に申し訳なかったな間薙。だが、これでかなりやりやすくなった」

 そうアイギスの更に後ろで進に話しかけるのは桐条美鶴だった。美鶴はよく見ると既にペルソナを出しており、彼女自身もなにかヘッドホンのような機器をつけている。更にその機器はパラボラアンテナのついた無線機のようなものにつながっている。

「ん? これか? 私のペルソナ『アルテミシア』は本来は戦闘型のペルソナ何だが、こういった機械の補助があれば、索敵能力が使えるんだ」

 美鶴が進の聞きたそうなことを察知し、答える。

「ああ。美鶴の索敵能力を頼るのは随分久しぶりだな。ペルソナが『ペンテシレイア』から今の『アルテミシア』に成長して失ったの思っていたんだが……」

 明彦が続けて補足する。

「なるほどな。つまり、その索敵に俺の仲魔が引っかかったから。仲魔を戻してくれってわけだ」

「そういうことだ。今、この周辺でペルソナ能力を使った形跡を追っている。今しばらく待ってくれ」

「おう。頼むわ」

 進は焦る気持ちを上手く抑え、シャドウワーカーの面々を頼ることにした。

「ここは……」

 意識を取り戻した多川綾乃はあたりを見回す。何処かの廃ビルだろうか、非常に広い部屋である。窓はベニヤで打ち付けてあり、外の様子を伺うことはできない。また身体を動かそうにもロープのようなもので柱に縛り付けられ身動きは一切取れない。

「えっと……」

 綾乃は取り敢えず自身に何が起きたのか思い出す。

「えっと……。確か、駅前で友紀と待ち合わせしていて……そうだ!」

 そう、友紀が自分のもとに現れたとき、友紀の近くに幽霊のようなものが現れ、そこから先は覚えていない。

「あれ? 綾乃、正気を取り戻しちゃったんだ」

 そう話しながら綾乃前に現れたのは三島友紀だった。しかし、彼女のメガネの奥に光る目は綾乃がこれまで一切見たことがないぐらいの狂気に支配されていた。

「友紀……。なんでこんな事するの?」

 綾乃は恐る恐る友紀に訪ねてみた。

「なんでって……。綾乃が悪いんだよ……?

いっつも心の何処かで私のこと見下して……」

「そ、そんなこと!」

 綾乃は友紀の言葉に反論するが、友紀はそれを無視して続ける。

「でも、綾乃は私と違って明るくてなんでもできるから仕方ないと思ってた。我慢してきた。でも、でもね。もう我慢する必要がなくなったの」

 友紀が綾乃に向ける感情、それはかつてのような親愛ではなく、激しい憎悪。

「ねぇ、みんなこっちに来て」

 友紀の言葉を皮切りに何人もの人間が綾乃の前に現れた。

「じゃ、みんな。わたしの前に跪いて」

 綾乃の前に現れた人々は皆、友紀の言葉に「はい」という言葉に従う。

「何これ……」

 綾乃は目の前の異様な光景に動揺を隠せない。

「じゃあ、次にあなた。このナイフをを自分の胸に突き立てて」

 友紀はそう、目の前で跪いている女性に言いナイフを渡す。女性は友紀の言葉通りに自分の胸をナイフで刺そうとするが、ぎりぎりのところで踏みとどまっている。

「早くしなさい! 『ヘレネー』!」

 そのとき、友紀の背後に先ほど、綾乃の前に現れた女性の幽霊のようなものが現れた。その姿に何故か異常に魅了され、彼女のためならなんでも出来てしまうような気持ちにさせられた。それは綾乃以外の人間にとってもそうであるらしく今まで必死に抵抗していた女性は彼女の背後にいる幽霊の姿を見た途端、あっさりと、ナイフを自分胸に突き立ててしまった。

「……ッ!!」

 綾乃は目の前の光景に思わず目を背けてしまう。たった今、友紀の指示で女性が一人自殺したのだ。

「凄いでしょ? これがわたしのペルソナ、『ヘレネー』っていうんだ。ヘレネーのお陰でみんなわたしに魅了されて、言うこと聞いてくれるんだ」

 友紀はまるで自分がお伽話のお姫様のなったような、口調と動きで話す。しかし、急に両手を自身の体を抱きしめるような形にして地面に座り込み、悲劇のヒロインとなったような口調で「でもね、秋吉先生はわたしを捨てたの。あんなに好きだったのに、あんなに愛してくれていたのに、家族が大事だから別れようって……。ヘレネーを使っても魅了されてくれなかった。だから殺したの」と語りだす。

「やっぱり……友紀なんだ……」

 綾乃は友紀の言葉聞いて酷くショックを受けていた。当然「もしや……」という気持ちは有った。しかし、こうして面と向かって言われると辛いものがある。

「要らないの、わたしに魅了されない人間なんて。綾乃もわたしに魅了されてくれなかった。だから死んで」

 友紀の言葉は恐ろしく冷たい。そして彼女は先ほど女性が自殺に使ったナイフを抜き、自分の前に跪き続けている男性に渡し、綾乃を殺すように指示する。指示を受けた男は綾乃の前に立ち、ナイフで刺そうとする。そのとき、先ほど多くの人間が入って来た出入口の方から非常に大きい破裂音が響く。恐らく銃声だろう。

全ての人間がその音がした方を見る。そこには武装した四人の男女の姿があった。

「犠牲者一人か……もう少し早く突入したかったな」

 銃を天井に向け、威嚇射撃をしていたのは進である。脇には戦闘態勢に入っている、

真田明彦、桐条美鶴、アイギスの姿もある。

「間薙さん!」

「悪い、多川。もう少し早く到着するつもりだったんだがな」

「誰? まぁいいや。わたしのペルソナに魅了されて。『ヘレネー』!」

 そう言いながらペルソナを出してきたのは写真で見た、三島友紀である。

「間薙さん逃げて! 」

ペルソナを出して何かをしてきたようだが、進には何も影響はない。しかし、明彦と美鶴はその限りで無いらしく進とアイギスらの前に出たかと思えば、そのまま進達の方に向き変え、敵意をこちらに向ける。

「真田さん! 美鶴さん! どうしたんですか!」

 アイギスは目の前の明彦と美の鶴姿に何が起きているのかわかっていない、が進は「そういうことか。面倒くせぇペルソナを持っていやがる」と全て理解しているようだ。

「あれ? あなた達効かないの? 効かないなら死んで」

 三島友紀はむしろ進とアイギスの姿に疑問を抱いて居るようだ。

 友紀の「やって!」の声に明彦と美鶴は進に襲いかかる。

 進は明彦の豪腕から繰り出されるストレートをすんでのところで躱し、カウンターを決めるような形で顔面に拳を叩き込み、その直後、横から飛んでくる美鶴のレイピアによる突きを躱し、腰に差してある刀を鞘に入ったまま、みぞおちを突く。

 明彦は吹っ飛び、美鶴は蹲る。

「間薙さん!」

 アイギスは明彦と美鶴を攻撃したことへの抗議をしようとするが、それを無視して、進は「目は覚めたか?」という言葉を二人に向ける。

「ああ。済まない」

「一体なんだあれは……」

「多分、只の『 マリンカリン(魅了魔法)』だな。ただし、恐ろしく強力なやつだ」

 進は明彦の疑問に答える。

「では、何故お前とアイギスは効かなかったんだ?」

 次は美鶴が進に尋ねる。

「俺は魔人『人修羅』だからな、そういう魔法に耐性はあるさ、アイギスは……わからん。アンドロイドだからか、他に魅了されないぐらい強く想っている人間がいるのか……」

 進の仮説にアイギスは納得した。

「あの人の事を想っているから……」

「なんで……? なんで、わたしに魅了されないの!?」

 友紀は進とアイギスが魅了されなかったどころか、明彦と美鶴の魅了されなかった事に混乱していた。

 その友紀の様子に進は「さぁな。だが女子高生の『ファイナルヌード』でも見せてくれたら魅了されていたかもな」と軽口をたたく。

「足りない。力が足りない……私の力が足りない……」

 そう言いながら、友紀は何かを取り出す。

「ん? ありゃ、まさか……」

 進の危惧は当たった。友紀が取り出したのはPEAだった。彼女はそれを全て飲み込んだ。

 進の脳裏にタヤマの忠告が浮かぶ。辺り一体に大量のマグネタイトが満ち溢れる。そしてそのマグネタイトに誘われ大量の悪魔があちこちに現れる。 明らかにこの世界のものとは思えない異様な空気が室内に流れる。

「これは一体……?」

 美鶴は室内の変貌に驚きを隠せない。まして自分たちが保管していた薬がこの事態を引き起こしているのだ、仕方がないだろう。

「異界化だよ」

 進が美鶴の疑問に答える。

「身体という器から溢れだしたマグネタイトは多く悪魔を呼び寄せ、実体を持たせる。そして実体を持った悪魔は周辺にいる生命体からから更に多くのマグネタイトを吸収しようとして辺り一帯からマグネタイトを集める。それが繰り返され、辺りは異界と化する」

「おい、間薙! それは本当か!?」

「ああ。過去に似たようなことがあったらしいからな。お前らとんでもないもの保管していやがったな」

そして薬を飲んだ友紀の姿は非常に美しい女性の姿をしていた。しかし、美しくも毒々しい色をした体色や体に巻き付く蔓、そして彼女自身の体から咲き誇る花々が、今の彼女が人外の力を手に入れた事の証明となっている。

「おいおい、高校デビューとかってレベルじゃねぇぞ!」

「あれは非常に危険であります!」

「シャドウを否定するのでも、受け入れるのでも無く飲み込まれてしまった人間の末路か……」

「取り敢えず、なんとかしないと不味い!」

 進、アイギス、美鶴、明彦は再び臨戦態勢に入る。

「さぁ、みんな。あの人達を殺して」

 シャドウ化友紀は自身が魅了し、下僕と化した人々をけしかける。さらにマグネタイトに呼び寄せられた悪魔たちもまた、シャドウ化友紀に魅了され、進たちを襲う。

「チッ! こうなったらしょうが無い。『シキオウジ』! 『セイテンタイセイ』! 『エルマ』!」

 すかさず進は西遊記に登場する孫悟空そのものである破壊神『セイテンタイセイ』、紙のようなものでできた式神の一種である鬼神『シキオウジ』、そして進に仕える造魔『エルマ』の三体の悪魔を召喚する。

「真田! 桐条! アイギス! 俺の仲魔と連携して魅了された人間と小粒の悪魔を頼む! 俺は三島友紀をなんとかする!」

「間薙!」

 明彦は進の身を案ずるように叫ぶが、進は「あいつのマリンカリン(魅了魔法)に耐えられるのは俺だけだろう?」と意に介さない。

「セイテンタイセイ! シキオウジ! エルマ! 露払いだ! 犠牲者をこれ以上増やすなよ!」

「おうよ!」

「わかったぞ!」

「かしこまりましたマスター」

 それぞれの返答を聞き、進は少し前に進み出てかと思えば、手を爪を立てるような形にし、腕を胸の前で交差させる。

「さて、こうなっちまった以上、容赦はしねぇよ」

 進の身体から黒い刺青の様な模様が浮かび上がり、進は人の姿から『人修羅』へと『戻る』。

「さぁ、おっ始めようか」

 そして半人半魔の人修羅は腰に下げた刀を抜き、脇目も振らずに標的へと切り込んでいく。 

 

 進がシャドウ化した三島友紀と戦いを始めたことで、戦いの火蓋は落とされる事となった。

「流石、間薙の仲魔だ」

 明彦は異界化に引き寄せられた悪魔と戦いながらも、進の仲魔の戦闘能力の高さに関心する。世に名高い斉天大聖孫悟空はその手に持った如意棒で確実に敵を叩きのめし、シキオウジは針のようなものを飛ばして魅了され、こちらに敵意を持った人々の自由を奪い、進の造魔であるエルマも、進から渡されたサブマシンガンで数多の悪魔を薙ぎ払う。そして何よりも凄まじいのは強大な力と引き換えに理性を失い感情に任せて暴れるがままとなっているシャドウ化三島友紀を文字通り一人で圧倒している進である。

とはいえこちらも負けてはいない。万が一のときのことを考え、アイギスに暴徒鎮圧用のゴム弾を装備させといて良かったものである。

「無事か君!?」

 ほとんど進の仲魔が状況を有利に運んでいる隙に明彦は多川綾乃の救出しようとする。

「何なの……これ夢でも見ているのかしら私……」

 なんとか縄を解いたものの、多川綾乃は目の前の光景に心ここにあらずといった状態である。とにかく明彦は綾乃に肩を貸し、安全な所に逃がそうとした、しかしそれを阻む存在がいた。

「いいや。夢じゃないよ」

 そう綾乃に語りかけ、逃げ道を塞いだのはなぜか多川と瓜二つの姿をした少女だった。

 

 ◇

 

シャドウ化三島友紀は、自分のマリンカリンが進に通じないと分かると、地面や自らの体から触手のように木を生やし、進を狙う。

「なるほど……。ヘレネー、古代ギリシャの都市国家、スパルタにおいて樹木崇拝に関わる女神だったな。秋吉幹彦を殺害したのもコレだな」

 進は一人で勝手に納得していた。当然、そこにできた一瞬の隙を三島友紀が見逃すはずもなく何本もの先端が鋭くなった木が進を襲う。しかし、進はその手に持った刀で一本残らず切り落とす。

「おいおい野郎の触手プレイなんざ誰も見たくないだろう?」

 刀を肩に担ぎ、余裕そうな表情を見せるが、実際問題、進の内心は非常に悩んでいた。

「(さて、どうしたもんか。殺すのは簡単だ。だが、できることなら殺したくない。となると、心を折る、マグネタイト枯渇させる。この二点を同時に行うしか無い。つまり、適当に攻撃を捌きつつ、吸魔でマグネタイトを吸収し、ある一点まで行ったら強力な一撃を叩き込み、ねじ伏せるのが一番か……)」

「考え事している場合?」

 三島友紀は自らの腕から蔓を伸ばし、鞭のように振り回して進を攻撃してくる。進はその攻撃をぎりぎりのところで躱し、地面に叩き付けられた蔓を足で押さえつける。

「動くなよ『吸魔』」

 進は本来は相手の魔力を吸収するはずの技を応用して三島友紀の体内に満ちているマグネタイト吸収する。といっても吸収できるのは微々たるものである。しかも、本来効果とは違うものなので使う集中力が段違いである。すぐに振りほどかれ、吸魔は中断される。

「クソッ!」

 再び吸魔をしようとするが、三島友紀本人の抵抗や彼女に魅了された悪魔たちによって阻害される。

「(本気出して、地母の晩餐か至高の魔弾で吹っ飛ばしても良いが、まぁ間違いなく三島友紀も死ぬな。従って彼奴等がさっさと雑魚どもを無力化してくれるのを待つのが吉か……)」

 ふと進は多川の方を見る。どうや明彦が助けてくれているらしい。しかし、もっと多大な問題が発生していた。多川綾乃が二人いたのだ。

「最悪……」

「余所見している場合?」

 シャドウ化友紀が進を狙って攻撃してくるが、進はさらりと躱し、再び『吸魔』を始める。

「安心しろ、お前を無視なんてしないさ。きっちりマグネタイトを空っぽにしてやるよ」

 

 ◆

 明彦は非常に焦っていた。この状況で考えられる、この多川綾乃に瓜二つの姿をした少女の正体はほぼ一択だからだ。即ち多川綾乃の抑圧している影の部分『シャドウ』だ。

「夢じゃないんだよ。この状況も、友紀の言葉も」

「え? あ、あなたは……?」

「わたしはアンタ。母子家庭で、学校では孤立していた友紀を見下していたアンタ」

「そんなこと……」

 明彦はわざと聞かないことにした。これは個人の問題だ。彼女が超えるべき問題である。しかし、この状況では別だ。

「君、無視しろ! 只の戯言だ」

「戯言かどうかは私の話を聞けば解るよ。どんなに否定してもわたしの言うことはアンタ自身のこと、そうでしょ? 友紀に手を差し出すことで周りから周りは多川さんって良い子だよねって言われる自分に酔っていたんでしょ? 友紀は所詮自分が良い子扱いされて、目立つための道具。良かったね、今度は親友が犯罪者っていう悲劇のヒロインに成れるよ」

「違う違う違う!」

 多川綾乃は耳を塞ぎ、叫ぶ。

「違わない。どう? 親友の為に、ヤクザの事務所に乗り込んだ気持ちは? 怖かったよね? 予定外だったよね? いないってわかったらすぐ帰るつもりだったのに、重要なのはそれぐらいのことをした事実だったのに、そんなことして周りからみんなから同情を受けることが大事だったのに……」

「うるさいうるさいうるさい!」

「ショックよねぇ。そういう態度が、そういう気持ちで友紀と接していたことが、友紀にバレていたなんて。これで私は悲劇のヒロインから親友を見下す悪女に早変わり。だから今も間薙さんが友紀を殺してくれないかなぁなんて思っている」

 早口で捲し立てるシャドウに真田は対応しきれない。そして遂に多川綾乃は禁じられた台詞を口にする。

「そんなこと思っていない! アンタなんかわたしじゃない!」

 その言葉を聞き、綾乃のシャドウは嬉しそうに高笑いをする。

「そう! わたしはわたし! 漸くこれで!」

 シャドウは本体がその存在を否定することで孤立した一つの存在となる。そして一つの存在となったシャドウはまず、本体に成り代わろうとするために本体を殺そうとする。

綾乃のシャドウは黒い霧のようなものに包まれる。

「われは影……真なる我……」

 黒い霧のようなものが晴れ、そこにいたのは光る刀を装備した巨大な女武者のようなシャドウだった。

 

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