デビルサマナー 人修羅事件譚   作:烈襲

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第一章 高校教師ペルソナ殺人事件 その五

 ◆

「もっとわたしは目立ちたいの! だから邪魔しないで!」

 綾乃のシャドウは手に持った光剣を大きく振り下ろす。それと同時に剣の切っ先から稲妻が放たれる。美鶴、明彦、アイギスの三名はそれを躱す。

 明彦は非常に焦っていた。さっきまではシャドウ化三島友紀と彼女に魅了された人々と悪魔たちだけに対応すればよかったものが今や、多川綾乃のシャドウとも戦わねばならない三つ巴の状況になってしまっている。先ほど進は自身の仲魔に魅了された人々や悪魔を狙うように指示し、明彦、美鶴、アイギスの三名に綾乃のシャドウを何とするように言った。

「不味いな…」

 思いの外、戦闘能力の高かった綾乃の影に辟易しながら明彦は言葉を漏らす。

「それにしても、真田さんはダメであります」

 いきなりアイギスから明彦に駄目だしが入る。

「な!? 何がだ!」

「確かにな。あの状況で『戯言だ、無視しろ』はないだろう。もう少し言葉があったはずだ」

 美鶴からも明彦に指摘が入る。

「もっと真田さんは乙女心を理解するべきだと思います」

 アイギスから更に追撃が入る。

「お、お前ら……」

 言われたい放題である。しかし、救出対象からある意味、敵を生み出していしまったのだ。仕方が無い。

「とにかく、今はこいつを倒すぞ! 折角、間薙の仲魔が露払いをしてくれているんだ」

「了解」

「その通りだ」

 気合を入れ直した、三人に綾乃のシャドウは「やれるものならやってみなさい」と言葉を吐き捨てる。

「行くぞ! 合わせろ美鶴、アイギス!」

「ああ!」

 明彦のを皮切りに美鶴、アイギスらは綾乃のシャドウに向かって切り込む。

「『マハジオダイン《全体上級電撃魔法》』」

 綾乃のシャドウはその三人の姿をみて、電撃魔法で迎撃する。

「しまっ……!」

 気がついた時には遅かった。強力な電撃魔法をもろに受け、アイギスと美鶴は感電し、まともに動けない。ましてアイギスはその体が機械であるということも合わさり、戦闘への復帰は当分難しそうである。 唯一、耐えられたのは電撃攻撃に対し、無効能力を持つ明彦ぐらいなものだった。

「へぇ。耐えられるんだ」

 綾乃の影は明彦を切りつける。明彦はそれをギリギリのところで躱し、自らの拳を叩きこむ。

「くっ……。やったわね」

 拳を叩き込んだ明彦はすぐさま距離を取る。一撃の重さでは分があっても、体の大きさ、攻撃のリーチでは敵わない、しっかり距離をとり、安全な場所に避けた。否、つもりだった。

「それで逃げたつもり? 『ヒートウェイブ』!」

 綾乃のシャドウは剣を振り下ろし、そこから強烈な熱波が放たれ、明彦を襲う。

「うっ!」

 明彦はシャドウの攻撃をモロに受け、ふっ飛ばされる。

「こんなもの? じゃあ、先にあっちを殺すわ」

 綾乃のシャドウは、次の標的を自らの本体――多川綾乃に切り替えた。

 綾乃は一人座り込み、呆然としながら「違う違う違う」と呟いていた。

「さようなら。『わたし』じゃない、『わたし』」

 綾乃の影は自らの本体に刀を振り下ろす。

「君! 逃げろ!」

 明彦は、綾乃に言葉を投げかける。

「……っ」

 しかし、綾乃は恐怖で体が竦んでいるのだろうか、動こうとしなかった。明彦は必死で綾乃のもとに向かう。

「(間に合え! 間に合え!)」

必死の想いも虚しく、明彦の手『は』届かなかった。しかし、綾乃のシャドウの剣もまた、綾乃のもとには届かなかった。

「間薙!」

 綾乃と彼女のシャドウの間に入り、シャドウの剣を持っていた刀で受け止めていたのは進だった。

 

 綾乃は死を覚悟した。いや、今の絶望が心の中を支配する彼女はむしろ死を望んでいたのだろう。故にシャドウもまた、その願望を汲み取って、剣を振り下ろしたのかもしれない。

「なんで……。なんで助けたんですか!」

 今、彼女の目の前に立ち、シャドウの剣を受け止めている進に綾乃は怒鳴る。一度は死を望んだ、自分を救った事だけではない。進はシャドウの剣を受け止めたことで受けた隙を突かれ、全身をシャドウ化三島友紀が伸ばした樹々に貫かれていた。

「嘘ついてんじゃねぇよ」

 進は冷静にそれだけ言う。

「嘘?」

「ああ。自分自身にだ。親友の為に、足がガクガクに震えながらもヤクザに噛み付いたときの気持ちは嘘だったのか? 親友の無事を祈っていたのは形だけだったのか? 俺はお前らのの仲がどんな知らねぇよ。だが、少なくとも俺から見たお前の親友への想いは本物だったんだが?」

「でも……」

「でも? でも、その想いは裏切られた? それは打算的な行為だと指摘された? だからなんだってんだ!」

 進は怒鳴る。

「親友が間違った道を進んでいたからといって『信じていたのに』とうなだれている場合か!? だったら今度はそいつが更正させるために全力を尽くすのが親友だろう! それに、そもそも情だけで作れる人間関係なんざ、親子関係ぐらいなもんだ! 打算的な気持ちがあった? まるでアクセサリーのような気持ちでいた? それで結構! そういう気持ちが全く無いと言う方が気持ち悪いし、信用できんわ!」

「でも、それで間薙さんが……」

 進はその綾乃の言葉を鼻で笑い、「こんなんじゃ俺はくたばらん! それに言ったろ? 打算的な気持ちが無い、情だけで動いている方が気持ち悪いって」と言葉を返す。すると、進は刀で剣を押し返し、思いっきり振り払う。進の攻撃により綾乃のシャドウは大きく後退する。それを確認し、進は自らの体を貫いていた、触手のような樹を掴む。

「『()()()()()』面積が大きいほど『吸収』しやすくなるんでな。むしろ串刺しのほうがやりやすいんだよ……」

 綾乃にはその言葉の意味が解らなかったが、進が樹を握ったことによりシャドウ化三島友紀は少しづつ力が抜けていっているようだ。それを確認し、進は体に突き刺さっている木々を一本一本抜いていく。

「あれはお前だ。辛い事実かもしれんがな」

 進は綾乃の影を見ながら、綾乃に言葉を投げかける。

「まずはお前があれを受け入れてやらなきゃ、誰が何を言おうとお前自身が前に進めなくなる」

「あれは……わたし……?」

「そうだ。辛いし、見たくもないかもしれないがな」

「おい、間薙。いくらなんでも無茶し過ぎだ。全身穴だらけじゃねか」

 そう進に明彦が言葉を向けながら近付く。

「まぁ……魔人ということなら大丈夫なのかもしれんが、確かに些か見るに耐えないな……」

「でも傷つき、ボロボロになりながらも、一人の女性を助ける姿はなかなか熱いものがこみ上げてきます!」

 綾乃のシャドウの電撃から復帰したアイギスと美鶴も進のもとに近付く。

「そうか? 取り敢えず、エルマ! 回復を頼む」

「かしこまりました。『ディアラハン』」

 気がつくと進の後ろにずらりと並んでいた進の仲魔の一人、エルマは進に回復魔法を掛ける。するとみるみるうちに進の体の傷が塞がっていく。

「な……何……? 今の……?」

 綾乃は目の前の光景に驚いている。

「知りたきゃ、全部終わってから一から十までキッチリ教えてやる。取り敢えず、今のお前には最後の大仕事をしなければいけないんだからな」

 進はそう綾乃に言うと、再び刀を構える。

「桐条! 真田! アイギス! 多川のシャドウは任せる! 今度はトチんなよ!」

「おう!」

「ああ!」

「はい!」

「セイテンタイセイ! シキオウジ! エルマ! 悪魔やシャドウ共から多川に指一本触れさせるなよ!」

「おうよ!」

「御意」

「かしこまりました」

「さぁ、仕切り直しだ!」

 進の言葉を皮切りにそれぞれがそれぞれの敵に向かっていく。

 

 ◆

 

「(間薙の言葉が効いているのか? 動きが格段に落ちている)」

明彦は綾乃のシャドウに決める一撃一撃に確実な手応えを感じていた。

シャドウの強さは、本体がそれを強く拒否すればするほど強くなる。逆に言えば、動きが悪くなっているということは少しずつ、多川綾乃が自らのシャドウを受け入れつつあるということだ。

「ここで一気に決める!」

 明彦は綾乃のシャドウの懐に潜り込む。そして、綾乃のシャドウの下顎に見事なジャンピングアッパーカットを決める。

 女武者の姿の巨体は明彦の拳により、宙を舞う。

「美鶴!」

「解っている! 『アルテミシア』!」

 中を待った綾乃のシャドウに追撃すべく、美鶴は自らのペルソナを呼ぶ。仮面を被り、鞭を手に持つ、女王のような姿をしたペルソナだ。

 アルテミシアはその手に持った鞭を、綾乃影に叩き付け、その体に巻き付ける。

「『ニブルヘイム』!」

 アルテミシアから放たれた最上級氷結魔法が綾乃の影の身を氷漬けにし、その動きを完全に封じる。

「アイギス! トドメだ!」

「はい! オルギア・改、発動!」

 アイギスはオルギアモードと呼ばれるいわゆる能力が強化されるが、制御ができないいわゆるバーサーカーモードに移行する。

「ファイナルシークエンス!」

 アイギスは自らのペルソナ『アテナ』を呼ぶ。そしてアテナは手に持った槍を氷漬けになっているシャドウに投げる。

「パラディオンナンバーズ、セット!」

 その言葉と共にアイギスは左腕を巨大なレーザー砲に変える。

「マキシマムチャージ、シュート!」

 そしてそのレーザー砲からレーザーが放たれる。放たれたレーザーは、先にアテナが投げた槍に追いつき、光の槍となる。そしてそれは氷で身動きの取れない綾乃のシャドウを完全に打ち砕く。

 

「うへぇ……エゲツねぇ……」

 綾乃のシャドウが倒される一連の流れを見ていた進は思わず、言葉が漏れる。

「で、お前はまだやんのか?」

 そう言葉を投げかけるのは、シャドウ化三島友紀である。彼女は生体マグネタイトを限界まで進に吸収され、伸ばした触手のような樹々も全て切り倒されており、もはや立つのがやっとという状態だった。

「なんで……」

「ん?」

「なんで、あんな奴を庇うの!? なんで!?」

「さっきも言ったが……、少なくとも俺から見た、多川がお前のことを思う姿に嘘偽りは無かった。確かにあいつに悪いところがあったのかもしれない。だがな、今あいつはそれを認め、前に進もうとしている。いい加減認めたらどうだ? 納得出来ないかもれしれんが、これ以上非難すると、お前自身が惨めなだけだぞ。ただえさえ、お前は自分の心の影に飲み込まれていんるんだからな」

「うるさい! 死ねぇ!」

 シャドウ化三島友紀は最後の力を振り絞り、右手を樹に変え、進を貫こうとする。しかし、進は微動だにしない。何故ならそれはわずか数センチのところで進の元に届かなかったからだ。

「それが今のお前の限界のようだな。だが、この距離なら、俺の攻撃は届く」

 進は刀を鞘に納め、左脚を一歩後ろに下げる。

「本来なら、この技は魔力で造った光剣でやる技だ。だが、それをやるには『混沌王』の力を限界まで引き出さなきゃならん。あれじゃ、ぎりぎりまで手加減しなきゃ間違いなく、お前は死ぬ。本気出しておいて手加減するなんて間抜けな話だろう?」

 進はそう語りながら、ゆっくりと腰を落とし、刀に手を掛ける。

「一撃で決める。『気合い』はもう入れているぜ」

 三島友紀は逃げようとするが、体が言うことを聞かないらしく動けない。

「『死亡遊戯』」

 その言葉と共に居合い斬りのように刀を横一文字に振る。そして剣筋は進の前方の空間ごと、シャドウ化三島友紀を切り裂く。

 

 ◆

「やっぱり、君はわたしなんだよね。どんなに目を背けても、今までずっと心の中に一緒にいた、悪いわたし」

 アイギスらの攻撃により、元の姿に戻った自らのシャドウに綾乃はそう語りかける。

綾乃に影はその言葉を聞き、無言だが笑顔で頷く。そしてその姿を勇ましくも美しい女武者の姿に変える。

――我は汝、汝は我、我は汝の心の海より出し者、雷の戦姫、『ギンチヨ』――

「どうやら受け入れたようだな」

 刀を納め、そして見た目も普通の人間に戻った進は綾乃の肩に手をおく。

「はい」

「で、そっちはどうなんだ間薙」

 明彦が三島友紀の安否について尋ねる。

 進は親指で自分の後ろを指差す。彼の仲魔のセイテンタイセイが、恐らく気を失っているであろう友紀の体を肩に載っけている。

「気を失っているだけだ。別に元に戻ったと思ったら、下半身と上半身がオサラバしていたなんてことは無い。断じて無い」

 進は目を逸らしながら答える。その額には明らかに体を動かした事によるものではない汗が浮かんでいる。

「……したのか」

 美鶴が若干呆れた様子で進に話しかける。

「エルマにリカームを覚えさせておいて正解だった……。ていうかリカームが効いてよかった……。本物の刀使ったら、彼処までの威力になるとは夢にも思わなかった……」

「友紀は無事なんですよね……?」

 今の進らの会話を聞いて、綾乃は恐る恐る友紀の安否を再確認する

「ああ、生きてるよ。呼吸も安定しているし、五体満足だ」

「良かった……」

 綾乃はそれを聞き、ほっとする。

「取り敢えず、身柄はお前らに渡すからよ、シャドウワーカー経由で警察に……」

 進はそこまで言うと急に真面目な顔になり、刀に手を掛ける。

「どうしたでありますか、間薙さん」

 アイギスが進の様子の変化の理由を尋ねる。

「……いるな」

 進は腰に刺してある再び刀に手を掛ける。

 

 ◇

進は部屋の外から、無数の殺気を感じた。

「いるって、何がだ?」

 明彦が進に尋ねる。

「真田様、桐条様、アイギス様。ご準備くださいませ。我らがマスターは『心眼』を持っております。半径数百メートルの圏内からならこちらに向けられる殺気や敵意を感じ取る事ができます」

 エルマが明彦らに説明する。

「ということは。つまり……」

「全員伏せろぉぉ!」

 進の言葉に反応し、その部屋に居る全員、地面に伏せる。何が何だかわかっていない綾乃はシキオウジに後ろから押し倒される。そしてそれと同時に部屋の入口から、爆発音と無数の銃声が鳴り響く。

 入り口の方から「やめ!」という声が響くと共に銃声は鳴り止む。

 それを確認し、進達は立ち上がる。部屋には爆発により、煙が立ち込めていた。

「さすがに人修羅だ。我らに気が付くとは」

 どうやら向こうはこちらが無事なことに気がついているらしい。

煙が晴れてくると、そこには赤い袈裟のような服を来た筋骨隆々の男に率いられた僧侶を思わせる装いの武装集団が居た。

「ガイア教か……」

 ガイア教。混沌《カオス》――良く言えば法に縛られない自由主義、悪く言えば弱肉強食の実力主義――を至上主義とする宗教組織である。とはいえ、その実態は教義からも分かる通り、ありとあらゆる法を破壊しようとする宗教的テロリストとも言える集団である。

「いかにも」

 そのガイア教の集団を率いている人間が進の言葉に答える。

「目的はなんだ?」

 進はその男に尋ねる。

「三島友紀の身柄」

「何故だ」

「言えぬ」

「なら断る」

 進は毅然とした態度で応対する。

「ほう……。我々はこの貴様らを完全に包囲している。それでもか?」

 進は気がついていた、今の自分達はこの男の言うとおり、完全に囲まれていること、そして綾乃と三島友紀を守りながら無事切り抜けるには些か難しいだろうという事を。

「お前らのやり方らしくないな、ガイアーズならガイアーズらしく、力ずくでで分捕りに来いよ」

 進はガイアーズ――ガイア教の信者のことである――を煽る。現在、進達はガイアーズに包囲され、彼らの持つ銃の銃口はこちらに向けられている。だからこそ、進は彼らを激高させ、この膠着状態を打破したかった。

「(外から援軍が来るなら話は別だが、そんなもん、望める状況じゃねぇ。多少のリスクを負ってでもこいつらの頭に血が上らせて、判断力を失わせれば……)」

 しかし、進の望みは断たれる。後ろのほうから薄汚れた白衣に無精髭を生やした研究家風の男が出てくる。

「力づくじゃ、ダメなんだよ。彼女がカオスに傾倒し、自らの意思でこっちに来てくれなきゃ」

 その白衣の男は、メガネを中指で直しながら答える。

「森谷!?」

 その男を見て、美鶴は叫ぶ。

「森谷? そうかテメェが例の盗人か……」

「そうだ。何故、ガイア教と共に……?」

「これはこれは桐条総帥。何故って? 私はガイア教信者なんですよ。先々代総帥に拾われるずっと前からね。今回、PEAを盗んだのは教団に上納するためです。その前にブローカーに売ったのは人体実験がしたかったからですよ」

「貴様……」

明彦は森谷の言葉に怒りを露わにする。

「それに間薙進。お久しぶりですねぇ。こんなところでアナタと再会するなんて」

 森谷の言葉に美鶴は驚く。

「間薙、お前森谷を知っているのか?」

「ああ、昔な。ただまぁ、こいつが森谷だって名前だってことも、桐条グループに勤める人間だなんて知らなかったけどな」

 進の顔にも明らかに怒りの表情が浮かんでいる。

「ふふふ。あの裏切り者の娘はお元気ですか? アナタが引き取ったんでしょう?」

 その言葉を聞き、進は腰の刀に手を掛ける。

「テメェ。どうやら、下半身と上半身がオサラバしたいようだな」

「おお。怖い怖い。まぁいいでしょう、こちらとしてもまさか三島友紀嬢という、思わぬ収穫があるとは思いませんでした。まさに棚から牡丹餅ってやつですよ。これぞ、運命! 彼女はカオスの象徴となるべき女性!」

 森谷は手を広げ、笑いながら話す。

「(三島友紀……一体何者だ?)」

 進は森谷の様子に疑問を感じた。

「(そういや葛葉キョウジも三島友紀を追っていた。普通の女子高生が、もっともペルソナを使って、殺人を犯した時点で普通では無いのかもしれなねぇが、それはともかくなんでここまで追われる?)」

「ま、渡してくれないのならば仕方ありませんねぇ。アナタの言うとおり我々らしく力づくで奪い取りましょう。それに彼女に力を持つことの素晴らしさを知ってもらう必要がありますからねぇ!」

 森谷はそこまで言うと「後はお願いします」と言い、『トラポート《転移魔法》』が封じられた魔宝石を使う。

「森谷ァ!」

 明彦が叫んだ時には森谷の姿は無かった。

「逃げられたか……」

 美鶴は悔しそうに言葉を発する。

「美鶴さん。それよりも森谷が逃げたということは……」

 アイギスが有ることに気付く。進もそれには気付いた。恐らくシャドウワーカーはガイアの襲撃を受けた。

「ふふふ。我々ガイア教に数々の辛酸をなめさせられた人修羅を殺せる。なんと光栄なことか」

 ガイアーズを束ねる男は嬉しそうに口を開く。そして発砲を許可する言葉を言おうと口を開く。が、次の瞬間、進達を包囲していたガイアーズ全員がカードのような長方形の平面に閉じ込められる。

「な、なんだこれは! ええい、やれ!」

 男は指示を出すが、自身も含めカードに閉じ込められた人間は誰一人として身動きの取れるものが居なかった。

 明彦はそれを見て「間薙! 何だかわからんがチャンスだ!」と叫ぶ。しかし、進は微動だにしない。

チャンス(好機)? いいやこれはフィナーレ(終幕)だ」

 そう言う進はむしろ先ほどより体が強張っている。

「フィナーレ? どういうことですか?」

 綾乃が不思議そうに尋ねる。

「ぎゃああああぁぁぁぁ」

 突如としてカードに閉じ込められたガイアーズに灼熱の火炎が襲いかかり、そして焼きつくされる。 部屋の中は己の身を焼きつくされる人間の断末魔の叫びで満ち溢れる。

「相手をCARD化させるシャッフラーからの全体火炎魔法。このパターンは間違いない」

 進はそう呟く。

文字通り灰となったガイアーズ達の後ろから三人の人影が現れる。

「なんだ。三島友紀を殺さなかったのか。殺してくれたほうが処理は楽だったんだが……」

 そう言っているのは歌舞伎役者風の化粧と紫の喧嘩鉢巻をした派手な男。

 その言葉に「何言っているの、無事ならそれに越したことはないでしょ」とやや赤みがかった金髪にショートカットにスーツ姿の女性が答える。

 そして「しっかし、まぁ相変わらず容赦無いというか、大人げない男というか……」と灰になったガイアーズを見て、白いスーツに前髪を立てた軽そうな男がしゃがみこみ、灰となったガイアーズを見ながら話す。

「あ! この人! あのときの探偵さん!」

 進の予想通り、綾乃が会い、三島友紀の情報法貰った探偵とはこの男のようである。

「何者だ? こいつらは?」

 美鶴はこのなかなか濃い姿の三人組について進に聞く。

 進は「当代のライドウが居なきゃ、葛葉最強を名乗っていた男さ」と答える。

「つまり……この男が……」

「そう。葛葉キョウジ、そしてその相方のレイ・レイホゥと葛葉の仕置人と呼ばれるスケロクだ」

「よぅ、間薙。ワリィなもう少し早く来るつもりだったんだが……」

 キョウジは見た目通りのノリで、進に話しかける。

「キョウジさんも三島友紀ですか? 何なんですか、この娘。危ない人にモテ過ぎじゃないですか?」

 進はここぞとばかりにキョウジに質問をぶつける。

「それは俺が説明する」

 そういって前に出てきたのはスケロクだ。

「三島友紀が、母子家庭なのは知っているな」

 その言葉に進と綾乃が頷く。

「三島友紀の父親は――」

 その言葉に進の顔が歪む。

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