デビルサマナー 人修羅事件譚   作:烈襲

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第一章 高校教師ペルソナ殺人事件 その最後

「――で、どうなったの?」

「おいおい。俺のことをもう少し心配してくれても良いだろう。『食いしばっ』ていなければ死んでいたんだが?」

 進は自身の自室のパソコンの前でボイスチャットをしていた。どうやら相手は女性らしい。

「何言っているの。自業自得でしょ。変にカッコつけて死にかけるなんて。しかもそのまま『この程度で俺はくたばらん!』なんて意地を張るなんて……」

「あらそ」

「なによ、心配してほしかったの?」

「別に」

「まったく、すぐ『俺は人間じゃないから』って無茶するんだから。でも戦闘になったってことは報酬に色はつけて貰ったんでしょ? 進に戦闘の依頼をするなんてそれこそ百万円じゃ足りないでしょ」

「いや経費別で当初の報酬しかもらっていない」

「なんでよ。使ったマグネタイトや武具の調整とか含めたら手取りで五十万切りかねないわよ」

「問題ない。そこも全部経費で落とさせた」

「落ちたんだ、ならいいけど。そう言えばさっき話に出てた周藤くんは無事だったの? 結局、森谷は一人の力で脱走したって話だけど……」

「ああ。流石にそこは力に傾倒するガイア教らしく、森谷自身もかなりの手練だったらしい。結局、森谷はPEAの人体実験がしたかった。で、脱走したときPEAを使用したペルソナ発現の成功例として周藤俊哉を拉致して研究しようとしたんだと。で、キョウジがキッチリ保護。だから最終的にはヤタガラスに保護されたんだ。つまり、シャドウワーカーは今回の一件で薬を盗まれ、それがヤタガラスにバレ、犯人も逃げられた。そして新しいペルソナ使いはみんなヤタガラスに持って行かれた。踏んだり蹴ったりって訳だ。経費は落とさせたが追加報酬なんて死体蹴りをする気にはなれねぇよ。まぁ、今回逮捕された三島友紀はシャドウワーカーには荷が重すぎるから仕方ないかもな」

「ありゃま、そっか三島さんも多川さんもキョウジさん経由でヤタガラスに保護されたって言っていたもんね。で、三島友紀って何者だったの?」

「それがな、そいつ、母子家庭ってのは話したよな」

「うん。だから父性を求めて先生を好きになっちゃったんでしょ」

「らしいな。で、三島友紀の両親が十四年ぐらい前に離婚して母方に付いて行ったんだ。問題は父親の方だ。三島友紀の父はその一年後に逮捕され、獄中で割腹自殺したんだと」

「え!?」

「その男の名前は五島。五島公夫。ここまで言えばわかんだろ」

「五島って……十三年前の自衛隊の東京クーデターの首謀者だったって噂のあのゴトウ一等陸佐!? それってかなり不味くない?」

「ああ、非常に不味い。五島本人の意思に関わらず、未だ奴を心酔するカオス勢力は多い。だからガイア教団は彼女にご執心だったんだ。そりゃ、シャドウワーカーじゃ荷が重すぎるわ。彼奴等は納得していなかったが、わざわざ爆弾持たせるわけにもいかねぇだろ」

「で、ガイアは彼女の血筋の持つカリスマ性を利用して再起を図ろうとしてたってこと?」

「ああ。ガイア教含めカオス勢力はその性質上、誰か強大なカリスマ性と実力があるものが纏めないとバラバラになっちまう。しっかし、まさかあんな大物の娘だったなんて」

「でも、なんでキョウジさんはそれを知っていたのかしら」

「それは簡単。ずっと葛葉の方で三島親子を監視していたんだ。ところが事件の前日……それもペルソナ能力に目覚めたぐらいのとき、三島友紀は監視を振り切り、消息不明になった。だから親友である多川に情報を渡して、協力してくれるよう頼んだんだ。それを聞いた本人は何を間違えたのか、阿修羅会に乗り込むハメになったんだがな」

「なるほどね」

 そこで階下からインターホンの呼び鈴が鳴り響く。

「ん? なんか人が来たみたいだ。エルマは今買い物に行ってるし、ちょっと行ってくる」

「了解。解ってると思うけどもう少しこっちでホームステイしたいから帰るのは七月ぐらいね」

「おう。じゃあ、こっちも後で報告書をメールで送っとく。それじゃあな」

 チャットが終了する。進は、二回目の呼び鈴に「はいはい」と答え、部屋を出る。

 

 ◇

 

 玄関先に出た進は思わず顔をしかめる。

「こんにちは!」

「こんちわ……」

 そこにいたのは綾乃と俊哉だった。

「何しに来たの?」

 進はやや脱力気味に答える。

「あの間薙さん、いえ先生! あたし達を弟子にしてください!」

「はぁ!?」

 進は綾乃の言葉の意味を理解できないでいた。この二人はヤタガラスに保護されたのではずである。此方側に世界に入るにしろ、日常に帰るにしろヤタガラスが主にバックアップをするはずである。

「多川さん。いきなり過ぎるよ。間薙さん、これ、一応ヤタガラスの方から……」

「あ、ああ」

 そう言って手渡された書類には進のもとで一人前になるまで面倒を見て欲しいということとその間ヤタガラスの方から補助金を出すという旨の文章が書かれていた。

「やられた」

「「?」」

「そういうことかよ……」

「えっと……どうしたんですか?」

「あ、気にすんな」

 進は言葉にこそしなかったが、ヤタガラスの狙いが読めていていた。この二人は今回の一件を胸に仕舞わず、一人のペルソナ使いとして此方側に生きることにしたのだろう。しかし、今回の一件でシャドウワーカーのヤタガラスに対するヘイトは明らかに大きい。それを少しでも軽減するためにヤタガラスにもシャドウワーカーにも繋がりのある自分に丸投げしたのだろう。しかもこの様子では恐らく二人共自分に師事することを希望しているようである。進は、半分カッとなった状態で周藤俊哉に「力の使い方を教えてやる」と言った事を少し後悔していた。

「あの~お答えは……?」

 あれこれ思考を張り巡らせている、進に綾乃は恐る恐る尋ねる。

「ったく、どうしようかね」

 はっきり言って、この二人を魑魅魍魎が跋扈する世界に飛び込ませたくはない。しかしなんだかんだで自分も高校一年生のときにやむを得なかったとはいえ、人間を辞めこの世界に飛び込んだ。

「(自分のことを棚に上げてこちら側に来るなと拒否するのか? なんにせよ……)」

 進は二人の顔を見る。

「命を落とすかもしれんぞ?」

 進は二人に尋ねる。

「覚悟のうえです」

 俊哉は真面目な表情で答える。

「私もです。今回の事を無理矢理忘れさせられるなら死んだほうがマシです!」

 綾乃も意思が固いことを伝える。

進はため息を一つ入れ、「変な所に渡すよりは、近くで見ている方がいいか」と小声で言う。

 その言葉に二人は体を強張らせる。

「わかった。お前ら二人、俺が預かってやる。その代わり、色々やってもらうことはあるから覚悟しろよ!」

 二人の緊張は緩み、顔が綻ぶ。

「「はい!」」

 

 ◇’

 ――アマラ深界のとある場所

 マガツヒと無数の悪魔たちで溢れるアマラ深界に似つかわしくない、女子高生姿の少女が歩いていた。

 その少女がしばらく歩いて行くと広間にような場所に出た。その奥に多くのマガツヒが流れ込んでいる場所があり、そこに椅子を用意して座っている悪魔のもとに少女は歩いて行った。

「や! 元気でやってる?」

 その少女はその悪魔に近づくと、軽い調子で挨拶をする。

「……何その恰好?」

 多くの悪魔から混沌王と呼ばれる元人間の悪魔はその少女の正体を解っているようだ。

「ん? これ? 可愛いでしょ。いつもの『ルイ』じゃマンネリかなぁって。取り敢えずこの姿のときは『ヒカル』って呼んで」

 その少女は自分の姿を魅せつけるように一回転し、語尾にハートをつけるような口調で言う。

「いや、だからなんで女子高生なんだよ。普通にセツナ君の姿を借りるとかでいいじゃねぇか」

 混沌王――間薙シンは呆れた顔で自らをヒカルという少女に言う。

「何々? 私が可愛いから照れてんの? そ~いえば君、まともな女性経験ないもんね。君の分身と違って。なんなら私が相手してあげよっか」

 ヒカルは意地の悪そうな笑みを浮かべる。

確かに彼女の正体を知らない男ならドキッとするかもしれない。

「断る。つか、俺の女性経験の無さは半分以上お前のせいだろうが。で、何のようだ? 今はサムライに目をつけているんじゃなかったのか?」

「う~ん。彼、このままだと中庸な道に辿りそうなんだよね。彼の仲間に面白そうなのは居るんだけど。あ、話がズレたね。君の分身、また何か面白いもの手に入れたようだよ」

「あぁ、進か。彼奴のことも見てんのか。仕事はどうした」

「ん? 私が仕事をサボることで君に彼の近況報告が出来るんだから少しぐらい目を瞑ってくれると有り難いんだけど」

「それでルキフグスやベルゼブブの小言を聞かされる俺の身にもなれ。で、彼奴は何を手に入れたんだ?」

「仲間っていうか、弟子?」

「弟子?!」

「うん」

 シンはそれを聞き、少し顔を顰める。

「あまり、嬉しそうじゃないね。彼の経験は彼が人してその生を真っ当したとき、君のもとに還元される。弟子を取るなんてなかなか出来る経験ではないと思うけど」

「あの娘のときも言ったんだけどな、人修羅と共に歩くことで、『人間』ではなくなるのは避けてもらいたいからな。『超人』とかならまだしも。『英雄』とかになった日には……」

「気になるなら見に行けばいいじゃん。行くならいいよ。私とデートしているみたいな感じで一緒に行っても」

「アホか。お前がどんな恰好しても正体知ってりゃ、お断りだ」

「ま、いいや。『視察』に行きたいならいつでも言って。私はそろそろ行くから」

 そこまで言い、ヒカルは去っていっった。シンはそれを見送ると、「ま、何だかんだで元気にやっているんならいいか」とぽつりと言葉を漏らす。

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