Alchemiastory 【故郷を忘れた2人の秘密の冒険記】 作:rekko
レッコとラトはフランク達の悪事を話した。トッポの事や、酒場で話していた事も全て。
そしてレッコは濡れ衣を着せられた事も訴えたが、前者のショックが大きくて耳には入れてもらえなかった。
「ふむ。フランクが魔物に盗ませた武器を、マルクが魔物から安く買い取り、それを我が国が買い取っている。そういうのだな?」
「はい。あと武器を盗んだ犯人を私たちに」
「フランク、それは真実か?」
「滅相もございません」
「ねえ」
彼女の小さな(レッコにとっては小さくないかもしれないが)不満は無かったかのように話は着々と進められていく。
「では説明してもらおう。我が国はマルクから武器を買っている。それに相違はないか?」
「仰せの通りです」
「ではそのマルクはどこで武器を仕入れている?」
「これマルクピンチじゃない?」
レッコはどこか嬉しそうな声でラトに囁いた。
そんなレッコを見てラトは不思議そうな表情をする。
「なんでそんなに嬉しそうなの……」
「だって仕入先聞かれて嘘ついてそれがバレたらまあ……面白いかなって?」
「性格悪いな……」
「ではマルク。答えよ。武器は魔物から買い取っているのか?」
ちょっとワクワクしているレッコと、それに呆れているラトはマルクに視線をやった。
どんな嘘をつくのか少し楽しみにしていたレッコだが、マルク表情を見ると、特に焦っているわけでもなく、平然としていた。
「そのようなことも、あるかもしれやせん。しかし仕入先は商売が種。王様といえど明かすわけにはまいりませんや」
「主の言う通りだ。理解しよう」
「え、アリなの?」
「アリ……っぽいね」
予想外の2人のやりとりに、レッコはもちろん、ラトも驚いた。王に隠し事をするのはいけないとは思っていたが商人でこの理由は通じるらしい。
ドレイク王もそれは仕方ないと納得すると、フランクに視線を移した。
「ではフランク。何度も盗まれ続ける武器。警備を強化しても一向に被害が減らないのは何故だ?」
「それは……」
フランクにはマルクと違い、誤魔化すための言い分が無いようだ。
「盗んだのが魔物ならば、人間の法では裁けぬ。しかし、人間が手を引いて、誘導しているのであれば……」
ドレイク王に睨まれ、フランクは息を飲んだ。
「その人間は裁くべき存在である」
「まさか陛下は、我々がわざと武器を盗ませていると仰りたいので?」
「では我が国の兵士はそれも防げぬほど無能なのか?フランク」
だんだんとドレイク王が不機嫌になってきている事が、言われなくとも皆がわかる程度になってきた。
兵士が無能ということは兵士長も無能と思われてもおかしくない。
「滅相もない事でございます」
フランクは必死に首を振って否定した。
「そうだ!そそのかしたのはこの冒険者ではないでしょうか。商人が武器を届けに来たことが、その証拠です」
素早く切り替えてキリッとした顔で、またもやレッコ達に濡れ衣を着せようとするフランクに、レッコは思わず反論した。
「そうだ!じゃねぇよ逃げんな。お前また……」
「気持ちはわかるけど落ち着いて」
「ミーナはどう思う?」
王の考えている事はわからない。いきなりメイドに、しかもミーナに話を振った事に、レッコは不思議に思った。
ミーナはわざとらしく、
「あれぇ、そう言えばぁ。マルクさんのお財布、フランクさんとおそろいなんですねぇ。仲良しさんですぅ」
といつも以上にニコニコして言った。
マルクに矛先が向くとは思わなかったレッコは、首をマルクに向けたまま固まった。
マルクもまさか自分に、しかも財布について触れられるとは思っていなかったのか思わず声が出る。
「おそろい!?え!?」
「私の財布が……ない!」
マルクは財布を、フランクは自分のポケットや小物入れなどを焦りながらキョロキョロと見回す。
しかしこれはチャンスでは、と思ったフランクは直ぐに怒った顔をしてマルクを睨みつける。
「マルクめ!私の財布を抜いた不届き者め!きっと犯人はこのマルクです!」
「とんでもねぇ。この冒険者が持ってたんでさぁ」
「でも僕達盗んだわけじゃなく………」
ラトが説明しようとすると、すかさずミーナの助け舟が入った。
「さっき冒険者の人が届けなきゃって言ってたのを聞いたんですぅ。その事を前もって陛下に伝えておいたんですよぉ」
そういったミーナの表情は先ほどと同じようなニコニコした顔で、でもどこかイタズラが成功した子供のような笑みも含まれていた。
そんな彼女の意外な有能さにレッコは心の中で感謝した。
「フランクよ」
「はい」
「あの財布には相当な大金が入っているのではないか?」
「左様で」
フランクが答えると、ドレイク王は先程と別人のように声を張り上げた。
「どうやって稼いだ!?」
「そ、それは……コツコツと貯めて……」
「……先程から話に真実が無きこと。気づいておるか?」
「は、ははぁっ!」
ついに誤魔化しも効かぬ状態で追い詰められ、ようやく彼は観念した。
そこに追い打ちをかけるようにメイド長が酒場の主人、チップを連れて来た。
「あ、どーも。これはこれは陛下。ああ、このお二人さんねぇ、よく来てましたよ。うちの店に」
「この2人はどんな事を話していたか申してみよ」
「いやぁ、いくらなんでもお客さんの話に首を突っ込むほど私も野暮じゃないんでねぇ」
いつも陽気なチップも流石に王の威圧には負けたようで。頭を困ったようにかいていたが、やがて遠慮しながらも口を開いた。
「でも、そこの兵士長さん。近頃随分と羽振りがいいみたいですね。何年も溜まってたツケも全部払ってくださったし、最近は頼まれるお酒も高いものが多いと来た」
チップが機嫌良さそうにフランクの行動を話していく事に、フランクの焦りはもはや目に見える程になっていた。
「何年も溜まってたのを全部?高いお酒も頼んでるの?」
「ああ。全く上得意様ですよ」
「お前……!客である私のことをペラペラと……!」
チップは悪気のない 、素直な笑顔で言うが、フランクにはそれが怒りにも、恐怖にも感じられた。
「申し訳ないですねぇ。陛下の話せというご命令は断れませんよ、さすがにねぇ。」
「兵士長、随分と羽振りがいいようだがその金はどこから手に入れた?軍の給与はそれほど変わってないようだが」
王のフランクへの呼び方が変わった。疑われた者の証言、メイドの証言、そして酒場の主人の証言を聞いた上で、もう兵士長を悪と確定したかのような質問だった。
「いや、その……ちょっとした臨時の収入が……。……どこからでもいいじゃないですか!」
「そうもいかぬ。疑惑がかかっている今、そなたにはそれを明確にする責務がる」
「ちゃんとした理由があるなら言えるよね?しっかり証明しなよ」
「それとも、証言できないんですか?」
「そ、それは……」
冒険者2人と王の冷たい目線、声、メイドやチップの視線、グルだったマルクさえも全て敵に見え、フランクはもう手の打ちようが無かった。
この場にいる全員が自分の敵。フランクにはそのプレッシャーに耐える精神はもうなかった。
「兵士長を連れて行け。そこの商人もな。裏で話を聞かせてもらおう」
「待ってくだせぇ。安く買って、高く売ることの何が悪いんです?」
「国の財政に無用な負担をかけたのならば、国として罰を与えるが適当ではないか?」
何とか商人のルールで先程のように罪を回避しようとするも、ドレイク王に一喝され、黙って奥へ連れていかれた。
ようやく、長い裁きが終わった。