Alchemiastory 【故郷を忘れた2人の秘密の冒険記】   作:rekko

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救済者 ケイト

私達はしばらくその辺をブラブラと歩いていた。

あまり時間はないかもしれないが、ゆっくりと2人で自然の中を歩くのも悪くなかった。

もう少しこの時間が続いて欲しいと思う。

「冒険始めてからこんな感じで歩く機会、あんまりなかったね」

「うん。アブルにいた時は街の外には出してもらえなかったもんな。自然の中を歩くのってやっぱりいいな」

心地よい風に当たりながら、透き通った水が静かに流れる川の橋を渡りきる。

ちょうど村を一周し終わる。救済者はいなかったとエナに伝えるためエナを探していると、近くにある1件の家に、エナが誰かと言い合っている姿が見えた。

「エナ!」

「ああ、ちょうどいい所に来た」

彼女が話していた相手はなんと探していたあの救済者だっった。不機嫌そうな顔をしていたエナだが、私達が来ると少し自慢げに口角をあげた。

どうやらエナ達が立っている後ろの家に寝たきりの老人がいるらしく、その老人に奇跡をかけてもらい本当かどうか見極めたいので一緒に証人になってくれとのことだった。

寝たきりの老人が立つことが出来れば確かに本当だとわかるだろう。だが老人は不老不死になる事を望んでいるのだろうか。

その事を問おうとした時、既にエナは救済者の服を引っ張り家に入ろうとしていた。

「順番もありますから、その人だけ特別という訳には……」

「やっぱり不老不死は嘘か?」

救済者はかたくなに家へ入ろうとしない。

やはり怪しいと思っていた矢先、エナは威張るように

「こういう寝たきりの人ほど助けなきゃいけないんじゃないの?それとも、動ける人しか助けられないっていうの?」

と救済者を煽りまくった。拳を握りプルプルと震えている。これには温厚そうな彼女も我慢ならなかったのか、むっとして

「そんなことはありません!」

と、自分から家へ入っていった。

それを追いかけるように満足そうな顔をしたエナが家の中へ。

「私達も行こう」

「うん」

 

 

 

中に入ると、ベッドに老父が寝ていた。

機嫌が悪いのか、顔はしかめっ面。眉間にシワがよっており、いかにも奇跡を受け入れてくれそうな感じではない。

「私は「救済者」ケイト。頼まれて貴方に奇跡を授けに参りました」

ケイトと名乗った救済者は恭しくお辞儀するが、老父は表情を変えず、寝たきりの状態で

「そんな得体の知れんモノはいらん!帰れ!」

と、力強くも掠れた声で怒鳴った。老父は奇跡を断った。やはり受けたくなかったのだ。無理やり受けさせる事もない。なりたい奴にあたればいい。

「エナ、もうやめ……」

「あのさ、おじいさんさ、奥さんが可哀想じゃないの?」

奥さんの話が出た瞬間、老父の体が一瞬ピクリと動いた。エナは中々汚い手段を選んだ。

奥さんのためだ、奥さんを悲しませてもいいのかと言いたいのか。頑固そうなこの老父でも、奥さんの悲しむ顔は見たくないはずだ。

「フニエはワシがいない方がいいんじゃ!人のことはほっといてくれ!」

また怒鳴ったが、それはエナ達に言っている、と言うよりも自分に言い聞かせているような感じがした。

こんなに言っているのだからもう術は諦めよう。エナに言おうとするも彼女は止まらない。

「そのまま意地張ってポックリ逝くくらいなら怪しげな術でも受ければいいじゃない。怪しげな術が失敗したって、このまま逝ったって!結果は一緒なんだから。少しは未来を見なさいよ!頑固ジジイ!」

エナは未来を見ろと言っている。生き延びることが出来るかもと言っている。だがエナが見たいのは、純粋に元気になって立っている老父では無い。いや、元気になっている老父見て「術は本当だった」という事実が見たいだけだ。

「やめろ!」

「嫌なら逃げてご覧なさい。どうせ手一つ動かせないんでしょ!」

「エナさん落ち着いて……!」

エナが老父に近づこうとするのを、ラトが止めようと手を掴むが、エナは軽く振り払い老父の目をじっと見る。悲しげにエナ達を見つめるラトを見て、エナに怒りを覚えた。

「エナもういいだろ。他をあたればいい。わざわざ嫌がってる人に無理やりさせなくてもいいだろ」

「やめろというに!」

「ほんとに。口だけは達者なのね」

「ワシはそこまでして生き長らえたくない。死んだら死んだで、それがワシの運命じゃ!ほうっておけ!」

「ほら、あんたらもやっちゃいなさいよ。それとも、失敗するのが怖いの?」

こんなに言っても、エナはこの人に術をかけようとしている。ここまで来ると人を殺す気分だ。いや、実際命を奪うと言うよりも、その人の人生を奪うというのか。

この人は、世界というものを、人間というものをわかっている。

だからこそ、私はこの人の思うようにさせてあげたい。この人が嫌と言っている中、無理やりに不老不死にされている所を見るのは、きっと体を裂かれる人を見るよりも辛い。

体を裂かれる人はやがて死ぬ。動かなくなり苦しみはなくなる。だがこの人は死なず、苦しんだままになる。死ぬほど痛い拷問を、永遠とされているようなものだ。

覚悟を決める前に急に死ぬのは怖い。だが、永遠に死ななくていい、と言われるのはもっと怖い。エナは、人の考えを振り払ってまで自分の納得のいく答えを探している。そんなエナが1番怖い。

気づけば奇跡はかけ終わっていた。何故か特に、思うことはなかった。老父は意外とすんなり術を受けた。私が思っていたような光景にはならなかった。不幸中の幸いだった。

ぼーっとしていると、ガチャ、とドアの開く音がすぐ隣でした。

「あら、おばあさん。お邪魔してるわよ」

ドアを開けた者の正体は老父の奥さん、フニエさんだった。

優しそうな穏やかな顔。老父とは真反対だった。

「あら、貴方は冒険者の方……」

「希望通り、じいさんは素直に処置を受けてくれたわよ!」

「あら……。あんた。これで夢が叶うわね」

嘘つけ、と出来るなら大声で叫びたい。だが、嬉しそうなフニエさんを見ると、そんな事が言えない。言ったら、フニエさんは悲しむかもしれない。エナの汚い作戦にハマったのは、老父だけでなく私もだったようだ。

「なにがじゃ!」

「外へ出たい!また旅に出たいって。あんたの可愛いヨメも体が動くうちに、一緒に行くよ!」

「しわくちゃのくせに、誰が可愛いヨメじゃ?」

「そんなしわくちゃにあんたが一目惚れしたんだろ!?」

「そんな昔の話、忘れたわ!」

この2人の微笑ましい会話を聞いていると、さっきの感情が嘘のように消えていく。

老父の声も、先程の掠れた声とは違い、ハキハキとした強い声だった。

フニエさんも面白く、老いていくと気になるシワやなんやらを気にせず、それをチャームポイントとして自信満々に話している。

悲し気な顔をしていたラトも、いつの間にか微笑んでおり、こういうのが理想の夫婦なのだろう、と呟きあっていた。

「ウゥ………」

「フニエさん!?どうしましたか!?」

が、そんな素敵な時間は続くわけがなく、フニエさんは急に倒れた。

 

 

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