Alchemiastory 【故郷を忘れた2人の秘密の冒険記】 作:rekko
「昨日まで、あんなうさん臭いもの受けないって言ってたくせに。人がいない間に受けるなんてどんな当てつけさ!」
「あー……これは……」
「喧嘩……してるねぇ……」
2人が家に食事をもって戻った時、2人をパシッたエナはおらず、代わりに元気に起き上がっているフニエがおり、フジと口喧嘩の真っ最中だった。
さっきまで倒れていたようには見えないほど大きく声をだすフニエに、フジは負けじと張り合う。
「当てつけだと?違うわ!お前みたいなうるさいババァと暮らしとるのが嫌になったんじゃ!だから、元気になってもう1度、冒険の旅に出るんじゃ!」
フジは半ば無理矢理受けさせられたという事を話さなかった。意地を張っているつもりなのか、本心なのか、それはレッコ達にはわからなかった。
ただ、最後の「元気になってもう1度冒険の旅に出る」という言葉は嘘ではないと、2人は感じた。
「ハハッ!笑えない冗談だね!若い連中と同じように旅に出られると本気で思ってるなんてさ!」
「出られるぞ!そして、昔みたいにどこかの村の美しい娘さんとまた恋に落ちるんじゃ!」
「そんな危険な!あんたみたいなジジィの被害者が私の他に出ないよう監視について行くしかないね!」
「シッシ!ついてくるな!お前がついてきたら旅が台無しじゃ!」
「台無しなら、最初っから旅なんて出なくれいいだろ?」
老夫婦の口喧嘩の前では、若者のレッコとラトも蚊帳の外。止めることもできずただそこに突っ立っているだけだった。
老夫婦は2人が入ってきた事にも気付いていないらしく、目の前の相手しか眼中になかった。
「終わりそうにないし、外でちゃう?」
「うーん……僕達いない方がいいかもね……?」
勝手に出ていくのも失礼だと思ったが、終わる気配もないので、2人は仕方なく置き手紙でも添えてクロケットを置いていこうとした。
だがラトがメモを取り出そうとした時、急にフジが静かに言った。
「……一緒にいてほしいんかの?」
たった数秒前まで、頑固で、まるで喚く子供のように怒鳴っていたフジが、哀れむかのように言った。その豹変ぶりに、レッコもラトも動きを止めた。
「そんなんじゃないさ!」
フニエは否定するが、フジは聞かない。
「いてほしいんなら、しょうがない、いてやろう」
「違うって言ってるだろ?耳が遠いから年寄りは嫌だねぇ」
一瞬仲直りの雰囲気になったと思いきや、またまた雲行きが怪しくなってきた。
2人に気付く可能性も、だんだんと薄れてきている。
「自分だって年寄りだろうが!」
フジが怒鳴った途端、フニエは呆れてフジから目線を逸らし、ちょうどレッコ達の方を見た。
「あら、冒険者のお二人。ありがとうね。食事を持ってきてくれたんだね」
フニエは話題をそらすかのように話すが、レッコには幸いだった。
「いえいえ。お待たせしました。どうぞ」
ラトがバスケットを手渡すと、フニエは微笑んでフジに話しかけた。
「あらクロケット。久しぶりだねぇ。さあ、じいさん。お腹がすいてるんだろ?どうだい?」
「ふん。……こんなもの。いつものスープの方がよっぽどうまいわ!」
クロケットをかじりながらまた喧嘩か、と思いきや、フニエのスープを褒めた。
素直でないフジを見てフニエもフフフと優しい笑みを浮かべていた。
もう喧嘩などしていなかった。
「邪魔しちゃ悪いし、出ようか」
「うん」
仲の良い老夫婦の家を静かに出る。
家の外でも、少し開いた窓の隙間から2人の話し声が聞こえる。
そんな2人をラトは羨ましく思った。
「フジさんとフニエさんの夫婦喧嘩、なんだか幸せな喧嘩だったね」
「ん?そうなの?……よくわかんない……」
「レッコには難しい話だっかかな……」
「なに!私がバカって言いたいの!?」
「いや?相変わらず脳筋だなーって」
「はぁ!?」
ラトが、こんなやり取りも幸せだと気づくのはもう少し大きくなってからの話。