Alchemiastory 【故郷を忘れた2人の秘密の冒険記】 作:rekko
「おお、お前らか。大変な情報が入ってきたぞ!」
そう騒ぐのは公国の酒場の店長、チップ。
濡れ衣騒動でお世話になった事もあり、レッコ達との距離はかなり縮まっていた。
「紅茶2つとゲルミアヒージョ1つ!で、大変なことって?」
「以前、お前らが倒したネズミの魔物覚えているか?」
昼過ぎだったので客はあまりおらず、チップとも話しやすい。普段はあまり使わないカウンター席に座り、チップと話しやすい環境を作った。
「あぁ!あの武器盗んだやつか!」
「その魔物が、トッポ、と名乗ったというのは本当だな?」
チップはそうききながら、2人に紅茶を差し出した。
「んー。どうだったっけ?」
「確かにトッポって言ってたよ。忘れたの?」
本気で忘れていそうなレッコの脳に、濡れ衣事件の事を叩き込むと、彼女は徐々にに思い出した。同時に、苛立ちも湧いてきたらしく、トドメに嘘をつかれたことを言うと、苛立ちが絶頂に達し、完全に思い出したらしい。
「アイツかぁ!確かにトッポって言ってたな!」
「うん。思い出してくれてよかったよ。だから一回落ち着こ?で、それがどうかしたんですか?」
ギャーギャーとあの時の文句をぶちまけるレッコを抑え、ラトは問う。
レッコが机をバンバンと叩くせいで紅茶がカップの中で波を立てる。
「魔物に名前はない。知っているな?」
ここまで言ってまだ気づかないか?とチップは目で訴えるが、ラトは流石に気づいたようだ。だが、レッコはよくわからない、という顔をして眉が八の字になっている。
「てことは」
「トッポと名乗ったそいつは、魔物では無い。あいつは……」
アヒージョを作る手を止め大袈裟に言葉をためたので、思わず2人は手に取りかけていたカップから手を置き、ゴクリと息を呑む。
「魔王だ!」
「えぇ……あれが……?」
どんな事かと思えば、なんとなく想像していた事で、なおかつトッポは全く魔王という感じがしなかったため、レッコもラトも呆れ返ってしまった。
それに、トッポが魔王という事は直接張本人の口から聞いていたので、特に驚くこともない。
「魔王……それは魔物を支配し、人類に戦いを挑んでくる恐るべき存在よ。魔王は決して死ぬことは無く、倒してもより強くなって再び人類の前に立ちはだかる永遠の敵なのだ」
真剣な顔をしてゲルミアヒージョをレッコの前に置くチップを、レッコはただただアホなんだろうと思い半目で見ていた。
熱々のアヒージョをふーふーと冷ましながら口に運ぶレッコを見ながらラトは魔王についての話を聞き流していた。
「トッポが再びあの地下に現れたらしい。やつが魔王であるなら危険だ。二度と関わらない方がいいだろう」
そこで言いたい事を全て言い切ったであろうチップは、皿などを洗いに彼女達の席から離れた。
カチャカチャと食器の音が聞こえる静かな酒場で、アヒージョを頬張る少女は、自分を見る少年とゆっくり話す機会が出来た。
「ていうかさ、滅びの村ならリッティ達がなんとかしてるんじゃない?」
「まあ、確かに……。でもほんとに強くなり続けてたらどうするの?」
「あの二人もそんなにヤワじゃないと思うけど?一応伝えるだけ伝えとく?」
「不老不死の村の事も言っときたいし、挨拶がてら見に行こうか」
「おっしゃ。んじゃ行こう」
レッコは残りのアヒージョを全て口に詰め込むと、チップ手を振り酒場を出た。