Alchemiastory 【故郷を忘れた2人の秘密の冒険記】 作:rekko
「経済ってこうやって回るんだなー」
「ちゃんと経済の意味わかってんのか?」
下取りも無事終わり、2人と1羽は公国の外でレッコの占星術授業の為大きな門へと向かっていた。酒場の前を通る頃だった。
「あれ、ハンカチがない」
ラトがカバンやポケットをガサガサと2、3回ほど探る。今までの行動からハンカチを出した動作は1度もないが、何かに引っかかって落としたのかもしれない。
「えー。落とした?」
「かもしれない。市場かな?ちょっと探してくるから2人ともその辺ブラブラ歩いてて」
そう言った声は少しわざとらしかった気もしたがレッコはそれを気にしなかった。市場の方へ走っていくラトが見えなくなるまでレッコはその方向を向いていた。
「歩いててって言われてもなぁ。はぐれても困るしここで待ってようや」
「ベンチどこだベンチ」
キョロキョロと辺りを見渡し、レッコはベンチを見つけそこに座った。そのまま、市場やら酒場やらに向かう人々をぼーっと眺めていた。時間という概念を忘れ、ただただパートナーが帰ってくるのを待っていた。時々ボルシチが話しかけて来た気がするが、全てぼんやりと聞き曖昧な答えを返していた。どのくらい時間が経ったか分からないが、「おそい」と感じた。ラトがいないだけで時間が流れるのは遅いし、なんだかつまらない。一緒に暮らしていた血の繋がってない老人が、ある日突然疾走してしまった事を思い出す。あの時も、ラトが冒険に誘ってくれるまで1人で過ごしていた。老人がいなくなった家は広くて、冷たかった。今はその時の感覚にとても似ていた。
老人は親も家もなかった自分を拾ってくれた。料理が美味しくて、物知りで、炎の魔法のエキスパート。彼が出してくれる炎が好きだった。触れても熱くなく、優しく包み込んでくれるような炎。自分以外には見せない、自分と老人だけの秘密の魔法。
「じぃじ……」
どこにいるか分からない恩人を、隣にいるボルシチにさえも聞こえない声で呟いた。それもそのはず。ボルシチがレッコを呼ぶ声につぶやきはかき消されたからだ。
「なあ」
「あぁ?」
「なあって」
「うん」
「おいちゃんとこっち向いて聞けやドアホ!」
「いった!?何してくれてんだお前!」
全く話に耳を傾けないレッコに、とうとうボルシチは腹を立てレッコの顔に頭突きした。ほっぺたをさすり痛みを紛らわせながら、人を殺せるのではないかというレベルの睨みをレッコは目の前でパタパタと浮いているボルシチに向ける。
「やっと目ェ見たなお前」
「今ここでその目潰してやってもいいんだぞ」
公国という平和な空間で密かに行われるケンカに、目を向けるものは誰一人としていなかった。ボルシチはレッコの目をまっすぐ見て口を開いた。
「あの小僧、遅ないか」
「小僧?……あぁラトか……いや小僧って呼び方もうちょっとどうにかなんねぇの!?……確かにまあ遅い気もするかも……」
頭を左から右へゆっくり動かし、辺りを見渡して時計を見つけると、20分の時が流れていたようだ。ボルシチ曰く。
「さっき通ってきた道のり探すのに20分もいるかねぇ……?」
「ていうかそんなに探してなかったんなら戻ってきて一緒に探そって言わない……?」
「時間かかったんやったら言うけどな……。でも言うて20分や。もうちょっと待ってみようや」
少し落ち着きの無くなったレッコをなだめるように、ボルシチは彼女の隣に寄り添って座る。ラトが来るのが遅いという事を意識すると、それまでぼーっとしていたレッコはだんだんそわそわするようになった。何回も時計を見るしキョロキョロ辺りを見回す回数も増えてきた。
「遅い」
「まだ5分しか経っとらんやろが」
「もうこっちから探そうよ」
「それやと入れ違いになるやろ!おい!待て座れ!」
ボルシチの制止の声を聞かずにレッコはズカズカと市場へ向かおうとする。ボルシチはなんとか留まらせようと彼女の首の後ろの布を足で掴むが、人間の力には敵わない。人の服に掴まってパタパタと羽ばたいているかわいいフクロウの完成だ。
「下手に動くな絶対はぐれるで!」
「ラトよりも早く動けば追いつくか見つけるかできるでしょ」
「無茶言ってんちゃうぞお前」
やや早歩きで公国の入口を歩き回るフクロウ付の女の子。かなり目立つと思いきやここは数多の冒険者達が集う公国。ここではそんなもの、少し風が吹いた程度にしか思わない。
「ラトー!」
「やめろデカい声出すな!フクロウは耳ええんやぞ!」
「知るかボケ」
「占星術以外にも言葉遣いを教える必要がありそうやな……!」
言い争いながらも入口付近のテント、酒場の周りや中など街の半分が探し終わり、次は桜の木周辺を探しに行こうとそこへ向かっている時だった。
「まだ探してる場所が場所やし、そうと決まったわけちゃうねんけどさ」
「もしお前逃げられてたんやったらどうするん」
ボルシチの疑問の声にレッコは足を止めた。