黒龍伝説 ~The Legend of Fatalis〜   作:ゼロん

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ミラボレアス……ああ、ミラボレアス。
なぜあなたはワールドに出ていないの……?

マップが完成してないからさ(推測)
デスヨネー。


シュレイド、最後の戦い

 ミラボレアスに占拠されたシュレイド城。

 

「……静かだ」

 

 生き物の気配を感じさせぬ死の場所。

 人間は愚か、黒龍の気配すら感知できない。

 

 かつてこの国の栄華を象徴する巨大な城は、以前の様子とは様変わりしていた。

 

「……なんだ、これは……」

 

 食い残しのように打ち捨てられた鎧、風に吹かれても消えることのない赤い火柱。腐臭に紛れなにかが焦げる匂い。

 

 だがそれはほんの触りに過ぎない。

 

 城内の広場──俺が以前セシリアと紅茶を飲んでいた場所。暖かな日の光に照らされ花が生い茂る美しかった場所。

 

 それがまるで数百年前の姿であったかのように、黒に染まっていた。

 

 空には暗雲が立ち込め、陽は黒く暗闇が支配する世界。

 城は瓦礫とともに崩れ広場を石畳へと変えていた。

 

「……おかしい。奴がいない」

 

 ルイスが異常を感知しボウガンを構える。

 

「警戒!!」

 

 彼の動きと俺の指示に合わせ周りの兵士も武器を抜く。

 

「……静かすぎる」

 

 これは──────

 

「上だ!!」

 

 突如暗雲が裂け、黒雲の渦の中心から地へと黒き槍が放たれる。いや、あれは────

 

「うわああああああああああっ!!!!」

 

 ミラボレアス。

 叫び声が聞こえたその瞬間、後ろにいた兵士の一人がすでに火あぶりにあっていた。

 

「一瞬の隙を突かれたか!」

 

 目を凝らし奴の一挙一挙を見逃さず。

 ミラボレアスは翼を折りたたみ、こちらへと飛び込む。

 

「飛び込んでくる! 散れ!!」

 

 武器を仕舞い、多くが散ろうとする中、一人だけ盾を構えミラボレアスの前に立つ奴がいた。

 

「なにをしている!」

 

「おい黒トカゲ野郎! こっちに来やがれ!」

 

 無謀にもミラボレアスの前に躍り出たのは巨大な盾と槍を身につけた重装歩兵。

 

 その歩兵の合図と共に散った兵士が歩兵を囲むように位置をとる。

 

「受け止める気か……!? よせ!!」

 

「騎士団長殿! 下がられよ! チャンスは一度だけ……絶対に逃すな!」

 

 ミラボレアスは口から高速で炎球を吐き、重曹兵の方へ突っ込んでくる。

 

「ぬぉっぉおおおおおおぉおお!!! この程度ぉぉぉっ!」

 

 あの炎を大盾で受け切った……! 

 何という硬さと耐熱性……だが、それも限界に近い。

 

 ミラボレアスが前脚を上げて突っ込んでくる。あれほどの質量。衝突すればまず命はない。

 

「これしきぃぃぃ──────くぁっ!!」

 

「──────!?」

 

 後ろに大きく後退しつつ再び受け切った。

 なんという力の持ち主だ。ミラボレアスも目を見開き動揺している。当然だろう。

 

 今まで戦ってきた相手に自分の攻撃をまともに受け切れる奴などいなかっただろう。

 

「……騎士団に欲しい逸材がこんなところにいたとはな……!」

 

 飛び込んできた隙を突き、槍が黒龍の眼を貫く。

 

「……今だ!!」

 

 怒号と共に囲んでいた兵士が突撃。ミラボレアスへと向かって攻撃をしかけていく。

 

「胸と頭、届かない奴は後ろ脚を狙え!」

 

『了解!!』

 

 以前との戦いで得た情報をもう一度声に出す。

 眼を傷つけられ悶えるミラボレアスに次々と斬撃と弾が打ち込まれる。

 

「滅龍弾特化とはねぇ……もう調べてる暇もねぇな」

 

 ルイスのボウガンが放つ龍属性の弾が次々とミラボレアスの頭に撃ち込まれていく。

 

「残された大砲があったぞ!!」

 

「弾込め──────────発射っ!!!」

 

 城壁に位置する大砲が火を吹き、轟音が木霊する。

 ミラボレアスの身体が砲弾の衝突と共に炎に包まれる。

 

「────!?」

 

 ミラボレアスは怯み、地に前脚をつく。

 

「よぉ……また会ったな」

 

「────!!」

 

 だがそこは俺の武器の射程内。

 下ろした奴の頭に絞れるだけの力を込め、全体重をかけて大剣を振り下ろす。

 

 顔に大きな傷ができ、ミラボレアスは呻き声を上げる。

 すかさずルイスのボウガンも撃ち込まれ間髪を入れない猛攻が叩き込まれる。

 

「いける……! 倒せるか……ミラボレアスを!!」

 

 だがその見通しは甘かった。

 

「──────―ォォォォォッッ!!!!!!!!」

 

 ミラボレアスが大咆哮を上げる。

 瓦礫の断片とチリが砂ぼこりとなって宙を舞い、咆哮は絶叫となり地の果てへと伸びていく。

 

 奴の咆哮に注意が割かれたその隙、

 

『うぉっあ!?』

 

 兵士の足が奴の尾で一斉に払われたのだ。

 攻撃の手を緩めた兵士の隙を突き、頑強な重装歩兵の方へと向き直る。

 

「ぬぅ……!!」

 

 マズい。ミラボレアスの力は未知数。どんな攻撃が繰り出されるかわからない。

 

 いくらミラボレアスの攻撃に数発耐えられたとはいえ、本気でやられれば突破される。

 

 そう思った俺はすでにミラボレアスへと飛び出していた。

 

 だがそれも予見されていたようだ。

 

「────ぐぅ!?」

 

 斜め横から鋭い一撃。尾ではない。火球でもない。

 鈍く、重い衝撃。爪だ。

 

 奴に前脚で殴られたのだ。

 

「団長殿……クソゥ! 何度やってもムダだ! 我が守りは鉄壁! 最後まで皆の盾となり囮となろう!」

 

 重装歩兵は再び盾を構える。

 ミラボレアスは首を前へと振り下ろし爆粉を撒き散らす。

 

「これは……団長殿の報告にあった……!」

 

 爆散。

 撒き散らされた粉が燃え盛り炎の列ができる。

 

「うぬっっっぉおおおおぉおお!!!」

 

 同じ攻撃が、爆炎が数度と歩兵を襲うが耐える。

 

「ムダだと……言って…………!?」

 

 だが、盾は持ちこたえられなかった。

 中心にヒビが入り、わずかながら隙間ができる。

 

 それを見逃さなかったミラボレアスは舌なめずりをする。

 

「しまった……!!」

 

 次にミラボレアスが放ったのは火球ではなく、炎。

 ──────────炎の帯。

 

 

 言葉もなく、重装歩兵は炎の渦に飲み込まれ灰と消え、

 ミラボレアスは勝利の雄叫びをあげる。

 

 ──────もう、邪魔な盾はいない。

 

 そう言っているようだった。

 

「……くそっ!! こっちだ化け物!!」

 

 盾になってくれた彼はもういない。

 ミラボレアスの手の内を少しでも知っている者が前に出なくてはならない。彼の役目は俺が引き継ぐ。

 

「……」

 

 ミラボレアスは顔につけられた傷を忌々しげに舐める。

 

「そうだ。俺がその傷をつけた奴だ」

 

「…………ルゥ」

 

 低いうなり声をあげ、ミラボレアスは喉から炎球を口へと押し上げる。

 

 だがその首が向いたのは俺とは別の方────

 

「……!!! 大砲!! にげろぉぉぉ──ーっ!!!」

 

『え──────』

 

 悲鳴が聞こえたのも束の間。

 別の高台からなにかが投げられ、一瞬眩ゆい光が辺りを覆う。

 

(……閃光玉……!!)

 

 光が無くなる。

 

 ミラボレアスの放った炎の先にあったのは……溶けた大砲の残骸。

 

 攻撃が当たる直前まで弾を込めていたのか、砲身が誘爆。高台が丸ごと吹っ飛んでいた。

 

「……くそったれ。あいつ、閃光玉も効きやしねぇ……」

 

 ルイスが苦々しい顔をしている。

 彼が投げてくれたようだが、試みは失敗に終わった。

 この龍には小細工など最初から効きはしない。

 

「……クルゥ……ッ」

 

 相当に狡猾な奴のようだ。

 あの龍。数度の戦いで人間がどのような戦法を取ってくるのか理解し学習している。

 

「集団戦においては各個撃破……班を一つずつ潰すつもりだ……!」

 

 まずは盾役の重装歩兵。追撃の大砲を撃つ班。

 

 次に襲うのは……

 

「おそらく……ルイス! 距離をとれ! 奴の次の狙いは──────」

 

「違う!!! 後ろだ、だんちょぉぉぉっ!!!」

 

 読み間違えた。奴が狙っているのはルイスじゃない。

 

「なっ──────!?」

 

 最も重要な指揮塔だ。

 次に俺が目にした景色は────────口と赤。

 後ろに大きな衝撃が走った後、再び俺の意識は途絶えた。

 

 

 *****

 

 

『こっちに来るな化け物!! うぁ──────』

 

 悲鳴が、聴こえる。

 

『しっかりしろ、おい! おい!』

 

 声が聴こえる。絶叫のような、断末魔のような。

 声を出す者たちが焼けて、ゴムまりのように跳ねていって。

 

「……」

 

 だめだ……もう身体が動かない。

 手の指先一つ……まともに動かせない。限界だ。

 

『グリム……どうしても行くなら、これを持って行って』

 

 この戦いに挑む前に、彼女には腕飾りをもらったんだったか……

 

 朧げな視界で、目線を腕へと移す。

 無骨な装飾もない、壊れた小手の隙間から覗く金色の腕輪。

 

『私の、大切な宝物。この腕輪はつがい。腕飾りの贈り物には再生と復活の意があるの』

 

 再生……

 

『一国の姫として、言うのはどうかと思うけど……もう運命は変わらないわよね』

 

 ……。

 

『グリム。国が滅びても構わない。必ず戻ってきて。これは……私の願い。足が無くなっても、腕が無くなっても。全身に火傷を負っても、私はあなたを愛します』

 

 唇の感触は……まだ生きている。

 

『──────────だから生きて。帰ってきて』

 

 

 *****

 

 

「……クソッ。ついに残ったのはオレだけか……情けねぇ。マルコムの約束も守れねぇとはな」

 

「グルルル……ゥァ」

 

 ミラボレアスが迫る。顔を近づけて一気に喰らおうと首をもたげて。

 

 ルイスは死を覚悟し目を瞑る。

 

「────────シュレイド騎士団に乾杯」

 

 みっともない叫び声はあげない。

 火を纏った炎の口がルイスに迫る。

 

「……まだ祝杯には早い」

 

「──────ギャフ!?」

 

 瞬間、ミラボレアスの横面が軋み吹っ飛ぶ。

 身体を大きく横に倒し、前脚で身体を支える。

 

「団長!! 生きて……」

 

「ルイス。まだだ。まだ倒れちゃいない。俺もお前も……当然あいつも」

 

 ミラボレアスはまだ健在だ。

 先ほどの一撃が虚を突いたものだからか、忌々しげにこちらを見ている。

 

「……銀火竜の鎧が……」

 

「こいつのおかげで命びろいした」

 

 ポンポンと鎧を叩くが、流石にもう限界だ。

 先ほどの直撃を再度喰らえば今度こそ死ぬ。

 

「……まだ視界もぼやけてる」

 

「団長、もうほかに武器はねぇ。バリスタも大砲も全部やられた。オレのボウガンもズタズタだ」

 

「オレのボウガンって表現……なんかエロいな」

 

「団長!!」

 

「分かっている。ちょっとふざけただけだ」

 

 正直、こちらの武器も限界だ。

 今の一撃で斬れ味が落ちた。もう先ほどまでの威力は出ないし研ぐ時間もない。

 

「……もう一つ……試していないものがあるんじゃないのか?」

 

 広場から離れたずっと奥。

 巨龍を食い止めた最後の兵器がある場所を指す。

 

「撃龍槍……だがあそこまでどうやって」

 

「走るんだよぉぉぉぉっ!!!!」

 

 真っ先に駆け出し広場を突っ切る。

 

「なっ!?」

 

 驚くルイスを置いて、ミラボレアスは逃げた獲物を追いかけんと翼を広げる。

 

 本当に頭がおかしくなったのか、とルイスが怒鳴っている。その通り。

 

 無茶でもしなきゃ勝てない。どのみち死ぬなら……必死にあがいて死んでやるさ。

 

「もう追いついたか……!」

 

 ミラボレアスは俺を追い越して退路を塞ぐかのように俺の走る方向へと着地する。

 

「……もうここまでか」

 

 武器を落としたのを見て、黒龍はすぐさま攻撃を放とうと口に火を溜める。

 

 そして──────

 

 

「お前の命がなっ!!!! やれルイス!!!」

 

「合点承知!!」

 

 武器の落とされた音を合図に、ルイスは撃龍槍を起動。

 

 

「──────────ゥ!?」

 

 

 巨大な槍が両翼に穴を開け、鋼鉄よりも硬い鱗を大きく傷つける。

 

 黒い見た目に合わぬ赤い血が周りに飛び散り、ミラボレアスは悲鳴をあげ……龍は身体を横に倒した。

 

 舌を出したまま動く気配は……ない。

 

「……やった……! やったぞ……団長」

 

「……あぁ、これで……」

 

 しばらく経っても龍に動く気配はなし。

 

 これでシュレイドは蘇る。避難も無事に終わり、多大な犠牲にようやく向き合える。

 

 ……そう思っていたかった。

 

「……!!」

 

 龍はあくまでも仮死状態に過ぎなかった。

 首をあげて身体を起こす。四足状態だ。

 

 口から火を漏らし、怨みに満ちた咆哮……いや、叫び声をあげるミラボレアス。

 

「……怒っている」

 

 翼を広げ、口元に火を溜める。

 だがこれは……

 

「……待て。何を……何をするつもりだ……」

 

 今までにない攻撃の予備動作。口に火を溜める動きは今までにもしてきた。だが今回は規模がでかすぎる。

 

 口を地面へと向けているのだ。

 

「まさか──────」

 

 察した時には全ては遅かった。

 彼の者が口を開ききった時、全ては炎の中へと消えた。

 

 

 *****

 

 

 大地を焦土と化す一撃。

 

 シュレイドとミラボレアス。その一撃は双方の戦いの終焉を意味した。

 

 シュレイドが堕ちる形で。

 

 未だに耳鳴りが止まない。

 ミラボレアスが咆哮する。

 

「……負けたのか」

 

 ルイスがいない。

 撃龍槍も壊された。

 

 俺の足が……一つ足りない。

 

「……実際に、なくなったら戻れそうもないな……」

 

 足音と共にミラボレアスが去っていく。

 城の奥へと消えていく。

 

 折れた角、破けた翼。見るも痛々しい戦いの跡。

 だがまだ奴は死んでいない──────生きている。

 

 奴は最後にこっちをわずかに見た。

 その際、その奥の牙にある者が挟まっているのが見えた。

 

「……あぁ……っ……! そんな…………セシリア」

 

 それはつがいの腕輪。

 自分の腕にまだヒビの入った腕輪がある。

 奴の牙に挟まっているのは……俺のではない。彼女のだ。

 

「そうか……まず最初に奴がいなかったのは」

 

 逃げようとする者たちを追っていたんだ。

 だから……奴の気配は城にはなかった。

 当然だ。あの時、奴がいたのは城ではなく、避難場所だったのだから。

 

 絶望へ誘われるように手を落とした時、

 

 ——————ミラボレアスは器用にも牙の間に挟まっていた彼女の腕輪を噛み砕いた。

 

 

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