黒龍伝説 ~The Legend of Fatalis〜   作:ゼロん

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災厄の使者 ガブラス

「おい! バリスタの弾はどうだ!? まだ残っているか!?」

 

 死体となった同胞を共食いしようと、むざむざ地面に降りて来た五匹のガブラスを俺は容赦なく大剣でなぎ払う。

 

 骨ごと肉を裂く刃の感触が手に残る。

 

「あぁ! まだ大丈夫だ! たんまりあるぜ!!」

 

「ならよかった!!」

 

 俺の同僚……ルイスは俺の後ろから飛びかかってきた数十匹のガブラスにバリスタの弾を打ち込む。

 

 バリスタの弾が直撃したガブラスは蚊トンボのように地に落ちていく。

 

 ガブラスの体に開けられた穴から血が流れ、砦を真っ赤に染めていく。しばらく痙攣した後、奴らはすんとも動かなくなった。

 

「ったく、根性ねぇ奴らだ! これじゃあバリスタの弾の方がもったいねぇぜ!」

 

 ルイスの打ち込んだバリスタの一撃で次々と落としていく。

 

 ルイスの言うことにも一理ある。この対空、対巨龍用のバリスタは一撃で鋼鉄のような飛竜の甲殻を貫けるのだ。弾も有限であり、ガブラス相手に使うにはもったいない。が……

 

「ううううあああああっ!! くくるなぁ!」

「ぎぃやあああっっ!! くるし、た、助け……ぁ!!」

 

「外に出るな!! 砦に隠れて戦え!! 解毒剤を持っていないやつは!?」

 

 この大群相手ではそうは言ってられない。

 

 指示を柔軟に出して被害は最低限に抑えてはいるが……それでも酷い。

 

 すでに騎士団にも何人もの死傷者が出ている。

 今も大量のガブラスに毒液を浴びせられ、飛びかかられた者達がいる。

 

 質はともかく数は力なのだ。これほどのガブラスの大群など今まで出くわしたこともない。

 

「死体だ!! 奴らの死体を投げろ! そうすれば奴らは死体に気をとられて隙が出る!!」

 

「う、うわあああっっ!! だ、団長! グリム団長!! 助け……あああああっっ!!」

 

 ーーキシャァァァァッ!!

 

「マルコムゥゥゥッッ!! 待ってろ! うォォォォッッ!!!」

 

 俺は近くにいるガブラスにとどめを刺した後、自分の大剣を引き抜き、持ち上げたままマルコムの元へ向かう。

 

 毒液を吐きつけられ弱ったマルコムに三匹のガブラスが飛びかかる。いや三匹だけではない。五匹……八匹……マズイ、どんどん集まってくる。

 

「これっ……でも喰らえぇ!!」

 

 ーーキシャッッ!?

 

 驚き、マルコムに飛びかかったガブラスが矢継ぎ早に空へ離れていくーーが。

 

「逃すか」

 

 俺は大剣で斬り上げ、飛び上がった何十匹のガブラスを斜めに裂く。

 

 彼らは絶命したことに気がついていないのか、まだヒクヒクと上半分となった体を動かそうとしている。

 

「立てるか!? 今すぐ解毒剤を!」

 

「だ、団長……俺、」

 

「まだ喋る元気はあるみたいだな。ほら、はやく飲め!」

 

 俺は無理やりマルコムの口に解毒薬を突っ込み、飲み込ませる。フラフラと立ち上がったマルコムを他の団員に任せ、彼らの背中に飛びかかろうとするガブラスを叩き斬る。

 

「おいおい団長。俺の分も残せよ!」

 

 他の団員を襲うガブラスの頭をヘヴィボウガンを使い、マーカスはピンポイントで狙撃する。

 

「解毒薬か? ガブラスの方か?」

「両方だよ!! ボケェ!!」

 

「団長!! 弓矢部隊、到着しました!!」

「ようやくか! よし、一斉照射!! カタをつけるぞ!!」

 

 今までに討伐したモンスターの素材を使って作った弓矢を構え、弓矢部隊は横一列に並んでいく。

 

 通常の木の弓矢などモンスターには一切通じない。最弱とはいえど飛竜の一種。『災厄の使者』とも呼ばれる彼らもゴムのような皮膚を持つのだ。

 

「放てッッ!!!」

 

 だが、モンスター素材の弓矢は容易く彼らの皮膚を貫く。

 

 

 ====================

 

 

「……避難の方はどうだ?」

 

「順調です。残っているのは我々騎士団、城の兵士。貴族の傭兵部隊と……あとはーー」

 

「ガブラス如きにこの様とは……ふん。天下の『シュレイド騎士団』も随分と腑抜けてしまったらしいなぁ?」

 

 俺の言葉を遮るように小太りの男が大声で叫ぶ。

 

「デープ様……あなた自らがこのような場所にいらっしゃるとは」

 

「ふんっ。現騎士団の活躍ぶりでも見ておこうかと思ってな。だが……結果はワシの期待外れだったらしい」

 

 この男……デープは何とかして俺を騎士団長の地位から下ろそうとしてくる者の一人だ。王国でも大臣の次に権力を持つ、いわゆる大貴族。

 

 噂によると、剣もロクに震えない息子を名声拡大のために金とコネで騎士団長にしようとかしないとか。

 

 本当だとしたら、全くとんでもない話だ。さらにシュレイド騎士団団長には皇女の護衛、お側人の権限も与えられる。

 団長にした息子を使い、さらなる権力拡大を図っているとか。

 

「申し訳ありません。自分が不甲斐ないばかりに死傷者はいないとは言い切れません……。ですがご安心ください。ガブラスの群れは騎士団弓矢部隊が全滅させました」

 

「ふん……ガブラス如きに苦戦しおって。貴様の指揮官としての腕が知れるなぁ?」

 

「……」

 

 後ろで何人かの団員から殺意を込めた視線がデープに向くが、俺は彼らに目配せをし堪えるように頼む。

 

「それに死んでしまった奴らも奴らで使えんなぁ。貴様の騎士団員には強者揃いと聞いておったのだが……よほど採用基準が低いのだな」

 

 だが忍耐が得意の俺でもこの一言には堪え切るのが難しかった。他の騎士団員はもっと……特にルイスは。

 

「テメェ……黙ってれば好き勝手言いやがって……!!」

 

「ほう? 騎士団には騎士道精神をも持ち合わせぬゴロツキもいるのだなぁ?」

 

「ルイス!! ……デープ様。部下を挑発するような発言はお控えください」

 

 ルイスを制止したことで満足げになったデープの顔に苛立ちの色が加わる。本当に嫌な奴だ。

 

「それに……亡くなったものへの侮辱はおやめください。民や王を守るために戦った彼らが報われません」

 

「ほう? 『空の王』リオレウスの希少個体からこの王国を守り抜いたのだろう? ならば雑魚による死傷者の数をゼロにすることも容易いのではないか? 毒を吐くだけの雑魚に……」

 

 ついに我慢ができなくなった俺もついにデープに殺気を飛ばし始める。頭の中が赤一色で染まり、心臓が締め付けられる感覚がある。目尻が自然と険しくなる。

 

「そこまでです!!」

 

 ついに大声で叫び出しそうになる寸前、大気を揺らすように張り詰めた声が響き渡る。

 

 声の主は……セシリアだった。

 

「デープ。騎士団に無礼な発言は許しません。彼らはこの国の矛であり盾。命がけで任務を遂行している彼らをもっと敬ったらいかがですか?」

 

「こ、これはセシリア様。申し訳ありません。わたくしはただ騎士団の失態を指摘しただけでして……」

 

「無駄口を叩く暇があるなら貴方も早く避難なさい。騎士団の士気を下げるくらいなら貴方の傭兵部隊も作戦に加えたらどう?」

 

「し、失礼しました!」

 

 セシリアはデープの言い訳をピシャリと一蹴し、デープはそそくさと砦から出て行った。

 

「姫様……どうしてここに……? 避難の方は……」

 

 確かにガブラスの群れは全滅させた。だが問題はそこではないのだ。

 

「分かってる。……古龍が来るのね」

 

「こ、古龍!? 」

 

 古龍。太古より生きる竜にしてモンスターの全生態系の頂点に立つ存在。各古龍が圧倒的な生命力と寿命、不明瞭な生態を持ち、人前には滅多に現れないである。

 

 だが、問題なのは古龍一体だけでも天災級の被害を出すことだ。他のモンスターとは一線を画する最たる脅威なのである。

 

「だ、団長、なぜわかるでありますか!?」

 

 新兵兼伝令係のマルコムが悲鳴をあげると、ルイスが呆れたように答える。

 

「バァカ。お前、あんなに大勢のガブラスがこっちに向かってきた理由がまだわからねぇのか?」

 

 ルイスはデコピンでマルコムの額を弾く。

 

「ルイス、あまりマルコムをいじめないでやってくれ。いいかマルコム。奴らは敵味方構わず死肉を喰う。そんな奴らが大挙して押し寄せて来る理由は何でかわかるか?」

 

「……あっ!」

 

 ガブラスが古龍のお零れを貰おうと考えているからだ。もし騎士団のような街を守る存在がいなければ古龍はそのまま都市に突っ込み、多くの死傷者が出る。

 

 そうやってガブラスはコバンザメのように生きているのだ。

 

 ガブラスの大群は災厄の予兆であり、古龍来襲の先触れなのだ。ガブラスが『災厄の使者』と呼ばれ不吉の象徴たる所以だ。

 

「わかったようだな。しかし姫、古龍が来るとわかっているなら……なぜ?」

 

「私は王族よグリム。国のために戦う貴方達がこの城に残るのに、国の王が逃げるの? ありえないわ。城が落ちる最後の最後まで貴方達を信じるわ」

 

「しかし、王は……」

 

「お父様も喜んで承諾してくださったわ。『王に相応しい心構えだ』ってね。お父様もそれだけあなたたち騎士団を信じているのよ」

 

「いいこと言ってくれるな姫さん。いや、セシリア様。俺たちも王様の期待に応えなきゃなぁ! みんな!」

 

『おぉっーー!!』とルイスの掛け声に合わせ他の騎士団員達が声をあげる。心配そうな顔をしているのはこの場で俺だけだろう。

 

「よし! 一狩り行こうぜ!! さぁ団長! 指示を!!」

 

「……だってさ、団長さん」

 

 ……やれやれ、どうやらセシリアは断固としてここを動かないらしい。

 

「滅龍砲と撃龍槍!! 念のため巨龍砲も準備を!! それ以外のやつはバリスタと大砲の弾をありったけ準備しろ!!!」

 

 

「「「「了解っ!!!!」」」」

 

 

 ====================

 

 古龍が攻めてくるとわかっているだけに、シュレイド騎士団は総力を挙げて対古龍戦に向け準備を進めていた。

 

 進めていたのだが……

 

「……厳重警戒態勢ってシュレイド騎士団からの報告だが……特に何も起こらないじゃないか」

 

「ガブラスがめっちゃ来たからって怯えすぎだろ? この方面からは飛竜はおろか、ランポスどもだって来やしないぜ?」

 

 シュレイド領砦の警備兵達は完全に油断しきっていた。昼の番である彼らは監視をもう一人の後輩に任せ、二人でトランプをしていた。

 

「よし! 俺は1000ゼニーだ! お前はどうする!?」

 

「うーむ、そうだ……? なんか……足元が」

 

 地面が一定のリズムで揺れ、天井から埃が落ちてくる。不快に思った二人は何事かと高台に方へ走ろうとする。

 

「「へっーーーー」」

 

 ただし彼らが外の光を見る事は二度となかった。唯一外の景色を見ていた後輩のみが言葉を残す。

 

「報告します!! こちらシュレイド砦!! 古龍です! 地中から巨大な古龍が現れーーーー!!」

 

 砂の城のごとく轟音を立てて、一瞬で砦は崩れ去った。

 

 シュレイドに歩を進める山のごとき巨竜によって。

 

 

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