黒龍伝説 ~The Legend of Fatalis〜 作:ゼロん
ありがとうございます!!
すみませぬ投稿日時が間違えておりました。
シュレイド砦、王国城付近。
岩山に囲まれた砦の中、『老山龍』ラオシャンロンと王国最強の盾『シュレイド騎士団』の決戦の火ぶたは切って落とされた。
「てぇッッーーーーーーーーー!!!」
大砲が次々と火を噴き、ラオシャンロンに命中していく。轟音と共に火の粉が周りに飛び散り、炎の霧が吹き荒れる。
「どうだ!? これだけの弾だ。さすがに悲鳴の一つでもあげるんじゃねぇか?」
「……いや、そうはいかないらしい」
吹き飛ばしのは背中の一部の
「ここはもうだめだ! ルイス! 騎士団のみんなにB地点の集合を伝えてくれ!!」
「おう! ……ん? なんだ。ラオシャンロンの様子が……!」
ラオシャンロンはその巨体を左右に揺らし、低い唸り声を上げる。巨大な尾を大きく振り、岩山を崩す。
「あーーーー」
声を上げる間もなく、次々と団員が大岩につぶされていく。大岩が地に落ちる轟音と悲鳴。ラオシャンロンは潰れ息絶えていく人間を気にする素振りも見せず、俺のいた高台に突進。
建築に何年もかけたであろう鉄壁の砦があっけなく壊されていく。まるで砂の城を壊すが如く。
「アーノルド!! スピネラァッッーー!!」
「団長! 前を向け!! 絶対に後ろを振り返るな!! 止まってるとアンタも押しつぶされるぞ!!」
「くっ……!! すまない……みんな……!!」
幸い、巨体に見合う翼を持たないラオシャンロンの動きは緩慢だ。相手が気にも留めていないおかげで普通に走っても逃げ切れる。
俺達は怪我のせいでラオシャンロンから逃げきれず、潰されていく団員たちを見捨て作戦を第二段階へと進行させる。
「よし……! ここまではなんとか行けたか」
はしごをのぼり、大砲とバリスタのある発射台へと向かう。作戦第一段階が終わった後、ちょうど集合地点に決めていた場所だ。
「団長! ルイスさん!! 待っていました!」
「無事だったかマルコム! ……よかった」
「あれ……アーノルドさんや……スピネラ先輩は……?」
よく見ると、百名以上いた騎士団の半数しか集合地点には集まっていなかった。戦死者は……約四十名。
「……潰されるところを目の前で見た」
「……! 失礼、取り乱しました。団長……次の指示を」
マルコムは悲痛に顔を歪めつつも、俺に指示を仰ぐ。ほかの団員も同様だ。
まだ戦意は失われてはいない。
「半数は移動式大砲に移動!! 弾をありったけ詰め込め!! 射撃班はバリスタとボウガンで援護!! 俺とマルコム、剣士の数名はラオシャンロンに直接攻撃!!」
「ちょ、直接!?」
「あぁそうだ! モンスターには必ず弱点があるはずだ!! ヤツの弱点部位を見抜かなければ俺たちに勝機はない!!」
「団長が正気じゃないっすよ……!」
悪いな。もうあんな化け物と一戦交えるなら正気じゃいられないんだ。
「マルコムは俺と来い! ルイス! お前は滅竜砲の準備だ!!」
「おう! 任された!」
カヅチさんだけじゃない。滅竜砲はシュレイド王国の鍛冶職人、研究者たちが作り上げた超巨大大砲。『空の王』の火球器官を応用した対巨竜用兵器。噂では火に高い耐性を持つ『空の王』リオレウスでさえも灰にしてしまう程の威力とのことだ。
「……いくぞ!!」
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--逃げなければ。
ラオシャンロンは岩山と砦を崩しながら城の方へと近づいていく。
--破滅が。死がすぐ後ろに迫っている。
ラオシャンロンは意に返さず前へ前へと進む。何かを潰したという感覚も感じないまま。
--背中から痒い何かが飛んで来た。
体の横や正面から砲弾を浴びせられ、うっとおしい、と体を揺らす。
ラオシャンロンは容赦なく高台と砦の一部を確実に崩していく。尾を振り、足で大地を揺らして。
--この地を去れ小さきものよ。我より古くから生きる邪悪が来る前に。
大気を揺らすほどの咆哮を上げ、ラオシャンロンは進む。
--黒き破滅が、彼の龍が来る前に。
怯えるように。死と破滅から逃れるために。ラオシャンロンはひたすら前に進む……生きるために。
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俺はラオシャンロンの足を斬りつけるも刃が全く通らず、弾かれてしまう。
「クソッ……!! なんて硬さだ……!! 銀火竜の刃が全く通らない!!」
「後脚も硬いです!!」
「胴体も!! 全く効き目なし!」
ほかの団員も斬りつけるも効果なし。三連式移動大砲やバリスタを背中に受けているというのに、ラオシャンロンは歩みを止めない。どんどん最終防衛ラインまで近づいていく。
ラオシャンロンは低く唸り、その巨体を前足で持ち上げていく。
「なっ……!! ラオシャンロンが……」
「た、立……った……!?」
俺は我に返り、ラオシャンロンの目前を見る。なんということだ。俺たちが気づかないうちに、すでにラオシャンロンは最終防衛の砦の目前にまで迫っていたのだ。
「不味い!! 一旦たい……!」
遅かった。ラオシャンロンはその巨体を武器に、砦に向かって倒れこむ。前足と胴体で最後の砦を押しつぶす気だ。
「させっかよぉッッ!! くそだらぁぁぁぁぁッッ!!!」
ルイスの怒鳴り声がシュレイド砦に響く。
虫の羽が焼けているかのようなチリチリ……という音がする。
--滅竜砲、発射。
火竜の顔を模った巨大大砲から『空の王』の雄たけびと共にラオシャンロンの顔ほどの大きさの火球が打ち出される。
滅竜砲が命中したことに驚いたのか、ラオシャンロンはギャゥ! と小さな悲鳴を上げる。
爆炎がその巨体を包み、すべてを燃やし尽くしていく。ラオシャンロンの体から大きな黒煙が上がる。
「チッ……! クソ、なんて野郎だ……」
最後の砦を完全に破壊されることは避けられたものの、被害は甚大だ。ラオシャンロンの巨体が倒れる軌道がそれただけだ。
ラオシャンロンにぶつかった砦は跡形もなく粉々になっている。
俺は急いで最後の砦へ続くはしごを登る。
「すまねぇ団長。合図を待たずに撃っちまった」
「いやナイス判断だ、ルイス。おかげで砦の完全崩壊は免れた」
ルイスは倒れ伏したラオシャンロンに目線を移す。
「やったのか……!?」
「いや、まだだ」
「えっ……いや、よく見ろよ。あのデカブツがようやく悲鳴を上げて倒れたんだぜ? 身体中から火を上げてるしよ」
「……想定では跡形もなく吹き飛ばすつもりだったんだ」
ラオシャンロンは閉じた瞳を開き、その体から火煙をあげつつもゆっくりと起き上がっていく。
「う、うそだろ……!!」
「どうやら……『老山龍』の名は伊達じゃないらしい」
あの竜が太古から存在し、恐れられている理由がやっとわかった。それはあの巨体や被害の甚大さのせいなどではない。無尽蔵と思えるほどの体力としぶとさからきているのだ。
「どうりで……数千年も生きているわけだ」
「感心してる場合じゃねぇぞ……どうすんだよ団長。あの様子だと決定的な一撃を与えられたとは思えねぇぞ……!!」
……残るは最終兵器。撃龍槍のみだ。本当は使う前にラオシャンロンに決定的な打撃を与えておきたかったのだが……滅竜砲が果たした役割はどうやら少なかったようだ。
ラオシャンロンは半分身を起き上がらせた後、身体をフルフルと揺らす。濡れ犬が身体を揺らして水を飛ばすように、ラオシャンロンは身体から火のついた苔やシダを飛ばす。
「ラオシャンロンの、姿が……!!」
「あれが……本来の姿ってわけか……」
苔を飛ばしたことで本来の赤茶色の鱗が露わになっている。竜と呼ぶに相応しいその口からは白い息が漏れ、背中には棘だらけの甲殻。これが……『老山龍』。
ラオシャンロンは大地を揺らすほどの咆哮を放ち、再び起き上がろうとする。
「グリム君!! おぉよかった!! 間に合ったようじゃな!!」
「つ、ツベルシタイン博士!? なんであなたがここに……!!」
いつの間にか砦の裏から来ていたのか。俺の後ろに肩で息をした博士がいた。
「話は後じゃ!! こんなこともあるかと思って……ついに完成させたのじゃ! ……『アレ』を!!」
興奮した様子で博士が叫ぶ。そうか、『アレ』と撃龍槍があれば……いける!!
「……! そうか、ルイス! 悪いがもう一仕事だ! すぐに移動式砲台の一つをこの高台まで移動させろ!!」
「あ、あぁだが……もうラオシャンロンが起き上がっちまう!! 移動するまでには砦が壊されちまうぜ!!」
ラオシャンロンはもうほとんど体を起こし、再び二足歩行態勢になろうとしている。
「俺たちがアイツを引き付ける!! その間に!!」
「ひ、引き付けるったって……お、おい、待てよ! 団長! だんちょおぉぉぉッッ!!」
叫ぶルイスを無視して俺は砦から降りる。
ここが正念場だ。なんとしてもあの竜の弱点を見つけなくては。
「まだ攻撃していないところ……」
思いつくところは大体攻撃した。前脚、後ろ脚、背中、頭はすべて。
「待てよ……アイツはなんで滅竜砲を受けた時に悲鳴をあげたんだ……?」
背中に大砲を連続して受けた時も、わずかに身体を動かすことはあっても歩みは止めない上、倒れもしなかった。なぜ滅竜砲を受けた時のみ、驚いて身体を逸らしたのか……
「まさか……!!」
もしや、と思い、俺はまだ四足歩行のラオシャンロンの腹……腹部を大剣で斬りつける。刃が肉に吸い込まれ、血しぶきが上がる。
--斬れた。
ラオシャンロンはわずかな悲鳴をあげて、一瞬体の動きを止める。
「そうか、腹だ……!! おい!! ラオシャンロンの弱点は腹だ!!! みんな、最終兵器の準備が終わるまでこいつの腹を斬って斬って斬りまくれ!!」
了解!! と騎士団の了承の声が周りに響く。
次々と他の団員が駆け付け、腹を目掛けて斬りつける。中には懐に潜り込んでボウガンを連射している者もいる。
「うぉぉぉぉっっ!!」
俺も他の団員に負けじと力を溜め、渾身の一撃をラオシャンロンの腹におみまいする。刃が肉を裂き、鮮血が俺の火竜の鎧をより真っ赤に染めていく。
ラオシャンロンは絶叫し、立ち上がろうとしていた身体を後ろへ後退させていく。
「おし!! いける! これならいくら奴で」
「団長ッッ!! よけて!!」
「えっーー」
俺はちょうど近くにいたマルコムに抱き抱えられ、ラオシャンロンの横に飛び込みをさせられる。
ラオシャンロンは身体を揺らすと、勢いよく先ほどまで俺たちのいた位置に飛び込んできたのだ。その巨体で。
「うっ……! 悪い。助かったよマルコム……」
「なんの! 自分はいつも助けてもらってますから!」
「あぁ……頼りにしてるよ」
俺はラオシャンロンの方に視線を移す。するとラオシャンロンの瞳と俺の目が合った。
「……! やっと俺たちに気づいたようだな。さすがにもう、無視ってわけにもいかないらしいな」
--ォォォォォオオオオオオオッッッッン……!!
ラオシャンロンは今までで一番大きな雄叫びを上げ、足踏みをする。本格的に俺たちを文字通り潰しにかかってくるようだ。
「怒ったか……いいぞ。効き目がある証拠だ……ってあれ? マルコム……?」
後ろを見たらもうすでにマルコムはいなかった。
「嘘だ、さっきまでそこに……」
気づけば俺はただ一人、戦場にとり残されていた。