黒龍伝説 ~The Legend of Fatalis〜   作:ゼロん

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ちょっとマルコムの過去編も入ります。心配なく! ラオ戦もありますからね!




新入りの夢、そして……

 数年前、自分ことマルコムはただのクズだった。

 

「……ひっく、おい店主! もっとさけぇ持って来いってんだよ。……ひっく!」

 

 この時の自分はちょっとしたドジで職を失い、婚約者からも捨てられた。両親からも家から追い出され酒に逃げていた。

 

 これはそんな運命が変わったあの日の夜だ。

 

「お客様……もうこれ以上はお体に障ります。そろそろお勘定の方を……」

 

「今日もツケだ。いずれ返してやるよ……」

 

 道端でその日暮らしの毎日。だれも助けてくれず全てが嫌になった自分は自棄になっていたのだ。

 

「そ、そんな……前回の分もまだ残って……ひぃ!!」

 

 自分は酒場の店主の襟を掴んで持ち上げる。腕っぷしとすばしっこさだけが自分の取り柄だった。

 

「うっせぇ……よ。いいから出しやがれ」

「へ、兵士を呼ぶぞ!」

「好きなだけ呼べよ……むしょだろうと、シャバだろうと、僕にはどうせ何もねぇんだ……!!」

「ひ、ひぃ……」

 

 店主に掴みかかる自分を齢十も満たない女の子が叩く。

 

「やめて! おとうさんから手を放して!」

「み、ミリー! 下がっていなさい!!」

「うっせぇガキ!! 引っ込んでろ!」

 

 愚かにも自分はつかみかかる子供を突き飛ばしてしまう。ただ彼女は親を守りたかっただけなのに。

 

「ひゃっ!!」

「ミリーッッ!!」

 

 女の子が自分に突き飛ばされ、地面にぶつかる。

 

「よっと。怪我はないか? ミリー」

「あっ……」

 

 その直前で自分とほぼ同い年の少年が女の子を受け止める。優しく少女を立たせて『偉いぞ。いい子だ』と微笑んでいる。

 自分と同い年のこの少年こそが……グリム団長その人だった。

 

「ぐ、グリム君! この人をどうにかしてくれ!」

「……なんだよぉてめぇ。くんじゃねぇ」

「なるほど。マスター、事情は察しました。……おい!」

 

 自分は同い年とは思えないほどにしっかりした声に驚愕した。それと同時に……嫉妬も覚えていた。

 

「なんだよ……」

「憂さ晴らしをしたいんなら外に出ろ。酒よりも目覚めにいいやつをくれてやる」

「……どうなっても知らねぇぞクソ野郎!!」

 

 自分は余裕をかましている団長……いや、グリムを持っていたナイフで斬りつける。

 

「だから外でやれっつたろ……が!!」

「ぐほっ……ぁ!!」

 

 グリムはナイフを紙一重でかわし無駄のない動きで自分の腕を掴み、店の外まで片手で投げ飛ばす。

 

「いい動きだ。お前なかなか才能あるぞ」

「うっせぇぇッッ!! 死ねやごらぁ!!」

 

 自分はナイフを捨ててグリムを殴りにかかるが再びかわされる。全く攻撃が当たらず、自分は冷静じゃなくなっていた。

 

「なんで当たらねぇんだよ!?」

「悪いな。こちとら毎日手にナイフつけたような奴と戦ってんだ。一発でも当たればあの世行きな世界にいるんだよ」

 

 グリムに自分のあごに一発パンチを喰らわされた後、自分は地面に倒れ体が動かなくなってしまった。

 

「がっ……」

「ついでに弱みに付け込んで徹底的にその部分を殴る世界にもな」

 

 酔いがさめたのか、もしくは回り切ったのか。自分はついに心の内に溜まった不満、嫉妬、怒りを漏らしていた。

 

「ちくしょう……なんで……なんでだよ。なんで僕と同い年なのに、おなじはずなのにどうして……お前は幸せそうな顔をしているんだよ……!!」

 

「おまえ……」

 

「僕だって……僕だって幸せだったんだ。あんなところで酒なんて飲んまなくても笑っていられたんだ……!! なのに……お前みたいなただの税金泥棒なんかに……僕が幸せ度合いで負けてるって言うんだよぉ……!!」

 

 過去に自分が会った兵士には、グリムみたいな真っすぐな奴はいなかった。いずれも金持ちに賄賂をもらって罪人を見逃して生きている、腐った奴らにしか見てこなかった。

 

 けど……正直に言ったこの言葉は……グリムには響いたんだと思う。

 

「……ちょっとついてこい」

 

 グリムは自分を立ち上がらせると肩を貸してくれた。

 

「な、なにを……」

「お前に教えてやるんだよ。俺の……笑う理由ってやつを」

 

 

 グリムに連れられた先はシュレイド騎士団の宿舎だった。

 

「ここは……王城じゃねぇか!」

「正確には兵士の宿舎だ。俺の部屋だから安心しろ」

 

 部屋のドアを開けると、そこには動きやすそうなドレスを着た赤毛の女性がベッドの上で本を読んでいた。

 

「やっぱりまた来てやがった……!! いい加減にしてくださいよ!」

 

「あっ、グリム! おかえりなさい! あれ? そちらの方は?」

 

「聞けよ!!」

 

 赤毛の女性はグリムに駆け寄り、自分を不思議そうに見つめていた。とても美しい女性だった。ガラスのように透き通った声。赤い緋色の瞳。天女が舞い降りたかと思う程のものだった。

 

 グリムとは随分と親しい仲のようだが……

 

「ま、マルコム……です」

「マルコムさんね! 私はセシリア。何もないところだけど、ゆっくりくつろいでいってね!」

 

 セシリアと名乗ったその女性はニッコリと自分に微笑みかける。

 

「姫様。さりげなく私の部屋をつまらないって言いましたね?」

「え、お、お姫様!?」

「そうよマルコムさん。と言ってもお姉様たちと違って継承権はだいぶ後ろの方だけど」

 

 それでも王女ということに変わりはない。なぜこんなにも高貴な人が兵士の宿舎なんかにいるのか。

 

「第三皇女と言ってもあなたは王族。早く自分の部屋に戻ってください! 私が責任をもってお送りいたしますから!」

 

「マルコムさん。お茶いる? ちょうど侍女のマーサにティーセットを持ってきてくれたの。とってもおいしいのよ?」

 

「聞いてくださいよ姫様ぁ……」

 

「姫ってどこの誰かなぁ~? このお城には姫ってあと二人もいるしぃ~」

 

 どうやらグリムが尻に敷かれる形のようだ。

 

「……喜んで飲ませていただきます。セシリア姫様」

「命令よグリム。もう少しだけここにいさせて?」

「職権……いえ、権力乱用です……!!」

 

 グリムはぐぐぐっと拳を握り、部屋の外へ。『何も見なかった、何も見なかった』とつぶやき声が聞こえる。

 

 姫様にはすべてを話した。仕事を失って婚約者にも逃げられ、家からも追い出されたことも。全部。

 

「……大変、だったのね」

「はは、その挙句が子供に乱暴をするなんて……恥ずかしい話です」

 

 テーブルの上には空になったカップと半分も減っていな紅茶。どれだけ砂糖を入れてあったのか、甘すぎて飲めたものではない。

 

「けど、もうそれは過去の話でしょう? 数分前でも数秒前でも時間は帰ってこない」

「おっしゃる通りです。もう、どうしようもない話です」

「でもそれはそれ。これはこれ」

「え……?」

 

 薄汚れた自分の手を姫は強く握ってくれた。細くて、力を入れればすぐ折れてしまいそうなのに……彼女の手はすごく強かった。

 

「過去は変えられないけど、大事なのはこれからよ。マルコムさん」

「これ、から……?」

「そう!」

 

 姫はその場から立ち上がり、両手を広げる。

 

「未来はどんな些細なことでも変えられるわ! 例えば、お昼ご飯の時間とか、明日何食べようかな、とか!」

 

「全部食べ物関連じゃないですか……」

 

「人もおんなじよ。これからの行い次第で、大きく変わっていける。やってしまった間違いは繰り返さないようにする。いわゆる、ニューマルコムさんよ!」

 

 とん、と軽く自分の胸を姫は拳で小突いた。

 

「なんですか、ニューって……」

「と~に~か~くっ! 過去の自分を気にしすぎないってこと! これからは新しいマルコムさんよ!」

 

 姫は『私も何か役に立てられればいいのだけど……』と困った顔をする。

 だが……もう十分だ。

 

 

「結構ですよ、姫。僕はもう--」

 

 

 あなたに多く(言葉)を貰いましたから。

 

 

 その後、グリムに騎士団に入れるかを尋ねた。むろん、あとで考えると我ながらバカなことを言ったものだと思う。

 

 すぐに騎士団入隊は無理で、訓練兵からのスタート。

 正直言って地獄だった。入隊できた今も地獄だが。

 もう自分には仕事も、家族もない。なら……せめて残ったこの命。

 

 

 ……自分を気遣ってくれた、この人たちのために使おう。

 

 

 

 ======================

 

 

 

 吠えるラオシャンロンの背中。

 ラオシャンロンの攻撃から緊急離脱したマルコム達、剣士部隊は高台に登り剣を構える。

 

 ――まだ背中は攻撃していない。

 

「よし!」

「お、おい! マルコム!! 何をしてやがる!!」

 

 マルコムは対巨龍爆弾を両手に持ち、ラオシャンロンの背中に飛び乗る。

 

「鱗の隙間は……どうだ!!」

 

 マルコムは手に持った片手剣をラオシャンロンの背にある鱗の隙間に突き立てる。肉が裂ける音。確かな手ごたえを感じるマルコム。証拠に突き立てたところから血があふれている。

 

「やっぱり……みんな! ラオシャンロンの弱点は背中と腹だ!!」

「お手柄だ、マルコム! 俺らも続くぞ!!」

 

 雄叫びをあげ、他の団員もラオシャンロンの背中に飛び乗り、攻撃を開始する。刃が肉を突き血が噴き出る。

 

 ――コルルルルルッッ……!!

 

 ラオシャンロンから不機嫌そうな唸り声が聞こえた瞬間、マルコム達の乗っていた背中が大きく揺れる。

 

 ――落ちる前に……! ダメ押しだ!!

 

「対巨龍爆弾!! 点火ぁっ!!」

 

 マルコムは導火線に火をつけ、地面に降りる。他の団員も爆弾を設置し地面へ。

 

 轟音が耳を裂き、ラオシャンロンの背中から火柱があがる。ラオシャンロンは鱗を辺りに飛び散らせ悲鳴をあげている。背中の数か所から煙が出ている。

 

「マルコム! 他のみんなも無事か!」

「はい! 団長もご無事で!!」

 

 再会を喜ぶ間もなく、老山龍は怒り咆哮する。強大な力を持つ竜の雄たけびは地をも揺るがす。空を暗雲が覆い、太陽を覆い隠す。

 

 ラオシャンロンはこれまでにないほどのスピードで砦に突出していく。

 

「ま、まずい!! あの巨体であれほどのスピード……!」

 

 砦が今度こそ崩されてしまう。

 

 砦に近い団員は腹や背中を攻撃するが、ラオシャンロンはそれを意に返さない。バリスタと剣を弾き、団員をアリのように踏みつぶしながら砦に向かっていく。

 

「きやがったなぁ……!!」

 

 ルイスは両手でつるはしを構え、砦のてっぺんに立つ。迫ってくるラオシャンロンが怒りの遠吠えをあげている。

 

「最終兵器なんて出すまでもねぇ! これでどてっぱらに穴開けてやるぜ、ラオシャンロン!!」

 

 既存の中でも最高兵器のスイッチ。ラオシャンロンが兵器の射程距離に入った瞬間、ルイスはその巨大なスイッチに向かってつるはしを振り下ろす。

 

 

「撃龍槍、はっしゃぁッッ!!」

 

 

 砦から突き出た巨大な二本の槍がラオシャンロンの胸を貫く。槍が老山龍の骨肉を砕く音共に、血の雨が辺りに降り注ぐ。

 

 ラオシャンロンは苦悶の表情を浮かべ、大きく後退する。低く唸り声をあげた後、ラオシャンロンは横に倒れた。

 

「おっしぁ! ラオシャンロンは、このルイス様が打ち取ったぁりぃぃ!!」

「いや! まだだ!!」

 

 ルイスのいた砦の頂上に登ってくる者がいる。グリムとマルコムだ。

 

 わずかだがラオシャンロンの身体はまだ動いている。おそらく気を失っているだけだ。

 

「ちくしょう! なんてしぶとてぇんだ……!!」

「言ったじゃろうが。あれを他のモンスターと同じように考えるな、と」

 

 呆然と立ち尽くす三人の前に現れたのは、ツベルシタイン博士だった。額が汗まみれだ。

 

「博士、まだなのか! もうこっちは手札切れだ!!」

「もう爆弾もない……。大砲の弾も残り少ないです……」

 

「準備は完了じゃ。これが……我ら人類の最終兵器、『巨龍砲』!!」

 

 博士は手に持っていたスイッチを入れると、ルイスの手によって移動させられた移動式大砲が変形。砦の奥から『滅龍砲』以上の巨砲が飛び出す。

 

「す、すげぇ……」

「さぁグリム君。幸いにもラオシャンロンはこの兵器の射程距離内。早くこの『滅龍炭』を――」

「おい!! マズイぞ、ラオシャンロンが動き出した!!」

 

 戦場の方へ視線を移すと、ラオシャンロンは地面に手をつき立ち上がる寸前だった。

 

「しまった!! ラオシャンロンが動いてしまってはおしまいじゃ!!」

「くっ……間に合わない!?」

 

 その時、何かがラオシャンロンの身体に引っかかる音がした。

 

 グリムが諦めきる直前、ラオシャンロンの身体がバリスタから出たワイヤーによって拘束される。

 

「団長!! ここは自分たちがひきつけます!!」

「早くぅ!!」

 

 ワイヤーがなんとかラオシャンロンの動きを封じ込めているものの、恐ろしいほどの力で一本ずつワイヤーがねじ切られていく。発射台ごと壊して拘束を解こうとする動きも見せている。

 

「たのむ……!! これが最後だ!!」

 

 一秒でも早く『滅龍炭』を大砲にねじ込み、発射スイッチを押そうとした瞬間。

 

 ――あのタフさでは……この兵器をもってしても、倒せないのでは……?

 

 グリムの手が止まった。恐れが彼の手を止めたのだ。

 

「やれることはやった。悔いはねぇぜ、団長」

 

 他の二人の手が、グリムの手に重なる。

 

「そうですよ。何も心配せずに、ドカンといってください。自分たちが誰にも何も言わせません」

 

 マルコムとルイスは『なっ?』とグーサインをつくる。

 

『けど、手柄は俺(僕)ら三人。ですよね?』

 

 ――そうだ。これが……俺達『シュレイド騎士団』の全て。やれることは……これで全部だ。

 

 

「あぁ。そうだな」

 

 

 スイッチを押すグリム達の手に、もう迷いはなかった。

 

 甲高い音が周りに響く。

 

 ――『巨竜砲』発射。

 

『巨竜砲』の発射口からどす黒い謎のエネルギーが集中し、巨大な球体を作り出す。

 

 赤い雷光をまとった黒球はラオシャンロンに向かって、大きな弧を描き飛んでいき――

 

 ――グォォォォォ……ッッ!!

 

 ラオシャンロンの頭部を直撃した。

 

「み、みろよ……」

「ラオシャンロンが……」

 

 逃げていく。砦に背を向けラオシャンロンは走り去っていく。

 

 

「や、やったぞ……」

 

 

『俺たちの、俺達の勝ちだぁぁぁぁ!!』

 

 

 辺りから歓声が響く。他の高台からも勝利の雄たけびがあがる。

 

「やったな……団長!!」

「あぁ……」

 

 ふぅとグリムは肩の力が抜けたのか、その場にへたり込んでしまう。

 

「あ、あれ?」

「団長、お疲れ様です」

「お疲れ、か。そうなのかもな」

 

 グリムはマルコムに肩を貸され、立ち上がる。

 ここにいるほぼ全員が勝利の余韻に酔いしれていた。歓声と奇声が飛び交う勝利の空気だ。

 

 博士を除いては。

 

「……。あのラオシャンロン。もしや……いや。考えたくもないが……」

 

 博士は頭に思い浮かんだ最悪の事態から目をそらすように、首を横に振る。

 

 博士は空を見上げる。禍々しい黒雲に覆われた太陽の見えぬ空を。

 

 

「あの巨竜は……実はもっととんでもないモノから逃げていたのではないか……?」

 

 

 天地に響くこの世の絶望の声を。あらゆる生の悲鳴を凝縮したかのような咆哮を、この場で聞けた者は……博士を含め誰一人としていなかった。

 







??????「やっと出番かよ」

遅くなりました。
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