黒龍伝説 ~The Legend of Fatalis〜 作:ゼロん
ラオシャンロンの撃退後、警戒態勢が解除されたため避難民が次々と城下町に戻ってきていた。王国は活気を取り戻し、今は国中でお祭り騒ぎだ。
そんな中、俺とルイス。そしてマルコムの三人は王城に国を守った騎士団の代表として、王との謁見が許された。もちろん、外には警備のために他の騎士団も配備されている。
「グリム!! よかった……本当に生きてるのよね? 幽霊とかありえないよね?」
「落ち着いてくれ、セシリア。俺はここにいるよ」
『どう、どう』と落ち着きのないセシリアをなだめ、俺は笑みを浮かべる。
「勝ったよ。ラオシャンロンは追っ払った」
セシリアは笑みを深め俺に抱き着こうとしたが、城内ということもあり途中で動きを止める。
「俺達、シュレイド騎士団は無敵だ!! 姫さん、俺もほめてくれよぉ」
「じ、自分もです! だって最後は僕ら三人が決めたんですよ!?」
マルコムとルイスの二人は意地悪そうに俺を見る。わざとかよ。
「お前ら……空気が読めないのか……!?」
「はいはい、三人ともお疲れ様」
セシリアはクスッと笑い、三人の頭をえらいえらいと撫でてやる。しかし、すぐにセシリアはつらそうな顔に戻ってしまう。
「けど……全員ではないのよね」
「……」
全部言わなくてもわかる。セシリアは騎士団の団員全員に面識があるのだ。死んでしまった者たちに心を痛めて。
俺は自分のふがいなさに頭を下げてしまう。頑固者のアーノルドに博識家なスピネラ。優秀な仲間を何人も失った。もっと俺がうまく指示を出せていればさらなる被害は防げたのだろうか……
「ごめんなさい、グリム。あなたのせいじゃないわ。きっと……どうしようもなかったのよ」
「セシリア……。俺は、あいつらに誇れるような指揮官だったのかな……」
俺は助けられたかもしれない部下を死なせてしまった。
「なーに、弱気になってんの!」
セシリアは細腕にも関わらず、鋭いパンチを繰り出す。モンスターの一撃よりも応えるとは。
「そだ。ここは姫さんの言うとおりだな」
「グリム団長。あなたのおかげで自分たちは勝てたんです。きっと……あの二人も、他の逝ってしまった仲間たちも。だれも団長を憎んでなんかいないはずです」
「ルイス、マルコム……」
「自分はあの二人に剣を教わりましたから。一番彼らに近い自分に言わせれば……『勝ったか。よっしゃよっしゃ』ってとこだと思いますよ」
ルイスとマルコムは俺の肩に手を回し、ニッと笑う。
「二人の言う通りよ。決め台詞をマルコムさんに言われちゃったのは、ちょっと悔しいけど」
「えぇっ!?」
「ただ私たちにできるのは、忘れないでいてあげること。彼らの死も、生も背負って生きること。それが団長たるグリム、あなたが仲間たちにできる一番の大仕事よ」
……仲間の死も、生も、か。ずいぶんと重い役割を背負わされたものだ。
「セシリア皇女殿下、その任務……謹んでお受けいたします」
「また様付けに戻っちゃった」
「あ、あれは緊急事態だったから……です」
「ふふ、まぁそういうことにしておくわ」
セシリアとの対談の後、俺達は王との謁見を済ませ城の外へ。マルコムとルイスは一足先に宿舎の方へ。俺はセシリアと共に塔に。
「……あれが老山龍、ラオシャンロン」
「あぁ。今まで会ったモンスターの中で一番手強かったよ」
王国とは逆の向きに走るラオシャンロン。その雄大な後ろ姿を、俺たちは目に焼きつけていた。
「あの竜も、必死に生きてるのね。今の私達と同じように」
「……そうだな」
俺も本当のところ、生き物の命を好き好んで奪いたいというわけではない。王国を守るためならば、というだけで。あのモンスター達と共存できるような世界があるのだとしたら……それはさぞかし美しい世界なのだろう。
それにしても不思議だ。まだ昼のはずなのに空が暗い。雨が降るわけでもなかろうに。
空を見上げると、太陽に大きな影ができていた。博士が『日食』と呼んでいた現象だろうか。
「不思議ね……まるで黒い太陽」
セシリアは黒くなった太陽を見上げて微笑んでいたが―
俺たちが笑っていられたのは……日食までだった。
ガブラスの大群がどこからともなく集まり騒ぎ声をあげる。
「な、なんだ……!? またガブラスが……」
謎の轟音と共に足元が大きく揺れる。
「きゃぁ!」
「な、なんだ!? 何が起こっている!?」
視線を戻すと、ラオシャンロンの歩みは……すでに止まっていた。体中から黒煙をあげ、白骨化した姿で。
「な、にが……」
先程まで大地を闊歩していた巨大龍は刹那の時で絶命した。肉は焦げ、皮膚は灰となっている。
かろうじて骨だけは残ってはいるものの、頭部以外は表面が解け始めている。あの焼死体だけがラオシャンロンの存在を確認するための唯一の材料。
混乱する俺達をよそに、黒い太陽から謎のモンスターが姿を現した。
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――妙だ。いつもはあの『巨大肉』を灰にするのに三発必要なのだが。
後に黒龍と呼ばれる存在は、首を傾げ焦げる肉塊となったラオシャンロンの元に降り立つ。
――どうでもいい話か。今は『食事』に集中するとしよう。
黒龍は首をもたげ、ラオシャンロンの焦げ肉にガブリつく。ぶちぶちと焼けこげもろくなった皮膚が黒龍の顎の力で引っ張られ、容易くちぎれていく。
わずかな時間、黒龍は口に含んだラオシャンロンの肉を咀嚼し、骨ごと肉を喰らいながらシュレイド城の方に振り返る。
――これで当分は餌に困らない。次は……新たな寝床の掃除といこうか。
舌なめずりをし、巨大な両翼を広げ再び空へ飛び立つ。すると黒龍の周りに千は超えるであろうガブラスの大群が集まってきた。
――邪魔だ。
黒龍は不機嫌そうな唸り声をあげ、口元に炎をちらつかせる。ガブラスに向かって首をなぎ、熱風を巻き起こす。慌ててガブラスは逃げ出すも……もう遅い。
熱風の飛び散った先が大爆発を起こし、炸裂音と共にガブラスの身体が爆散。一瞬にしてガブラス達は灰となり、黒龍の周りには何も残らない。
黒雲が黒い太陽を覆った禍々しい空に、黒き龍の姿のみが残った。
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「あ、あいつ……あのガブラスの大群を、一瞬で……!?」
あの黒い龍がラオシャンロンを喰っている間に姫は避難させた。部下たちには撃墜の準備とパニック状態の民衆の避難をさせている。
「ふ、ふは、ははは……」
「は、博士……?」
「グリム君。我らの存在など……大自然の前では小さすぎるとは思わんかね?」
博士は引きつった笑みをこちらに浮かべながら俺の方を向く。今の博士は壊れた人形のようで、ひどく不気味だ。
「そうだ……異国の神話にある女神と、北風の異名を持つ荒神の名をとって『ミラボレアス』というのはどうだろう。『避けられぬ死』という名前になってしまうが……」
博士がうわ言を呟いている。ダメだ。完全に壊れてしまったようだ。
俺は博士の肩を揺らすと彼の首がガクンガクンと一緒に揺れる。
「『避けられぬ死』だと!? 何をバカげたことを! こんな時に!!」
「ラオシャンロンは我々を意図的に襲ったのではない。ただ逃げていたのじゃ……」
「にげ……!?」
どういうことだ。博士が何を言っているのかさっぱりわからない。
「おそらくラオシャンロンは黒龍『ミラボレアス』から逃げていた。その進行ルートにたまたま我々の城があった。その程度の認識だったのじゃよ」
「馬鹿な!! あのラオシャンロンを凌駕する化け物がこの世に存在するはずがないだろう!!」
「現実から目をそらすでない!!」
アンタが言うか。さっきまで現実逃避していたくせに。
「とにかくアンタはここから逃げろ!! 城は俺たちが守る!!」
俺は博士を突き飛ばし、王城へ向かった。
「勝てるはずもないというのに……」
後ろから誰かの呟きが聞こえたが……俺は聞こえないふりをした。
この物語では正確に言えば違うサブタイ。
巨大龍の絶命により、黒龍は現れる→×
黒龍は巨大龍を絶命させ、現れる→○