黒龍伝説 ~The Legend of Fatalis〜   作:ゼロん

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おわりのはじまり

 

 シュレイド歴XX年。

 

 黒龍ミラボレアス、シュレイドに降り立つ。

 

 ラオシャンロンを倒しその繁栄は永遠とも思われたシュレイド王国。今では世界一を誇った大国は見る影もなく、城下町は恐怖と絶望が飛び交う地獄絵図と化した。

 

「くそ……避難が間に合わない……! 騎士団は何をしている!?」

「すでに二個師団が黒龍の手によって壊滅!! 残る騎士団も時間の問題……!!」

「バカな……」

 

 塀も砦をも無視した黒龍の奇襲のため、住民の避難は間に合わない。

 黒龍ミラボレアスの襲来から数十分が経過。

 市街地に降り立ったミラボレアスの手によってシュレイド王国全人口の三割が炎の中に消えた。残る民も絶命の危機にさらされている。

 

 かろうじてミラボレアスの進行を食い止めているのは、グリム率いる騎士団精鋭部隊と数少ない王国兵士のみだった。

 

「た、隊長!! 後ろを!!」

「な——」

 

 ——ミツケタゾ。

 

 突如、近くの建物から顔を出したミラボレアスは火球を吐き、悲鳴をあげる間もなく王国兵士を消し炭にする。

 

 ミラボレアスは建物の陰で、焼け焦げ生前の姿が見る影もなくなった()()を貪る。黒い口からはみ出た足を放り投げ、落ちてきたところを鋭い牙でブチリとかみ砕く。

 

 ——ちと酸っぱいが、噛めば噛むほど味が出る。サルもおやつ程度にはなるな。

 

 事実、王国兵士たちは文字通りミラボレアスの『食事』となり文字通り()()()()()()()のが現状だった。

 

「あそこだ!!」

 

 数十名の王国兵士がミラボレアスに槍を突きつける。が、ミラボレアスは意にも返さず捕食行為を続ける。

 

「大槍構えぇッッ!!」

 

 後方に控える兵士の合図とともに長槍がミラボレアスの胴体に突き上げられる。

 

 だが槍の先端がミラボレアスに当たった瞬間、槍は音もたてずに砕け散る。

 

「な、そ、そんな……。純度100%マカライト製の槍だぞ!? 弾かれるどころか砕け——」

 

 まるで呼吸をするかのように、ミラボレアスは長槍隊を自分の胴体と同じ長さをもつ尾で薙ぎ払い、火球でもって一撃で灰にする。

 

「——ぁ」

 

 地がくだけ、轟音が響き、兵はひと時で灰と化す。

 

 ミラボレアスは満足げに身をもたげた後、集う恐怖の匂いを嗅ぎつけたかのようにまだ健在であったシュレイド城にその眼を向け——

 

 

「——ミラボレアスゥゥゥッ!!!!!!」

 

 

 視線を戻した先に銀色の大剣を持つ騎士がいることに気がついた。

 

 

 ======

 

 

「っ……!!」

 

 城の外は……地獄だ。

 一瞬でも窓の外を見てしまったセシリアの肩に手を置き、自分の方へ振り向かせる。

 

「姫様。避難の準備を……」

「ぐ、グリム……!? あなたも、あなたも!」

 

 お許しください、姫様。

 

「俺は……あの化け物を食い止めます。あの怪物……ミラボレアスは王族を含めたシュレイド民全員を食い尽くすつもりです」

「——無茶よ!!」

「セシリアッ!!!」

 

 あげた大声にセシリアは驚き、肩を震わせる。

 

「生きてくれ。セシリア」

「——ぇ」

 

 ——さようなら。

 

 隊員の一人を一瞥し、

 

「姫を」

「わかりました。団長も……ご武運を」

「待って……! グリム!! グリムゥ!!」

 

 ……あなたと会えてよかった。セシリア。

 

 庭に出ると、もうすでに騎士団員の準備は完了していた。

 

「……よぉ」

「……ルイス」

 

 ラオシャンロンの時でも保っていたひょうきんな態度は……もう彼には無かった。

 

「姫さんとのお別れは済んだかい?」

「……あぁ」

「そうかい……なら、行けるな?」

「行こう。——マルコム」

「ハッ! 準備はできているであります! 自分は……いつでも」

「いや、そうじゃない。……聞いてくれ」

 

 団員全員の目が俺に向く。

 

「……もしお前が最後の一人となった時。仲間とはぐれた時は、お前はすぐに王族の元へ迎え」

「——!! 団長……自分はいつでも死ぬ覚悟で」

「……なんだろうな。お前はこの中で一番若い。それに足も。この中では一番早い」

「ど、どうして」

 

 ……わかってる。団員に士気の下がるようなことは言いたくない。指揮官として間違っている。だが、俺の勘はこう言っている。

 

 

 ——『お前は死ぬ』って。

 

 

「ミラボレアスは……ラオシャンロンを凌駕する化物だ。もしかしたら、今回ばかりは俺も死ぬかもしれない」

「そ、そんな……いつもの団長らしくありません!」

「……なんだろうな。だが、今回ばかりは……状況が絶望的すぎる」

 

 城の窓から、一瞬で灰となる兵士を見た。

 犠牲になった多くの民を見た。

 そして……溶けたラオシャンロンを見た。見てしまった。

 

「……ッ! わかり、ました」

「はは……まぁ、可能性の話だ。俺達が敗北するなんて、な」

「……そ、そうですよね!」

「おうよ! シュレイド騎士団は無敗だ!!」

 

 恐怖を必死でかき消すように、怒りで塗りつぶすように。

 全員の雄叫びがあがる。

 

「……いくぞ!!」

『おぉーーーーーーっ!!』

 

 

 ======

 

 

 

 

 一斉攻撃を仕掛ける囮となるため前に出た俺を、ミラボレアスはじっと見つめている。

 するとミラボレアスはニヤリと舌なめずりをして。

 

 

 

『―――――――ツッッッォォォォッッ!!』

 

 

 

 きっと今回が……シュレイド騎士団、最期の戦いなのだろう。

 

 

 

 

 

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