黒龍伝説 ~The Legend of Fatalis〜   作:ゼロん

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この作品を生み出すモチベーションをくれた、しばりんぐさん に敬意と感謝を表して。

「ミラボレアスが出た時点で、このモンハン没ネタを出すことはもはや運命だったのだよ……!」




黒き龍と負の遺産

 

 俺は小さい頃はゴミ溜めで一人暮らしをしていた孤児だった。母を病気で亡くし身寄りもない。毎日物乞いをし、食えそうなゴミを漁るその日暮らしの毎日だった。

 

『……おい退けよ、ゴミ漁り!』

 

『ここは俺達、大人のたまり場だ。ガキは帰ってママのミルクでもすすってな!』

 

 同じ物乞いのくせに、誰も優しさのひとかけらも向けてくれなかった。

 ……向けられたのは憐れみと、蔑みの目だった。

 

『……知ってるか、先日お姫様が城を飛び出したってよ!』

 

『……わんぱくなこってぇ。見つけて人質にでもすりゃあ、豪遊間違いないだろうぜ、ひひ』

 

『ならオレは捕まえて報酬金を掛場で倍だ!』

 

 ……周りにいたのは、道徳も倫理観も持ち合わせないクズばかりだった。

 

 そんなある日に俺は、

 

『————ねぇ、あなた。大通りにはどこから出られるのかしら?』

 

 ちょうど城から逃げ出した彼女とスラム街で知り合いになった。

 

『……誰だよ、お前』

 

『ふふん。あたしはセシリア・ラ・シュレイド。姉はジーナ・アリア・シュレイドとレイチェル・リ・シュレイド。第三皇……もぐっ!?』

 

『ストップ』

 

 急ぎ彼女の手を口で抑える。

 

『……ぷはっ! な、なにするのよ! せっかく覚えた口上なのよ!?』

 

『黙ってろ』

 

 脅しにも近い言葉にセシリアは驚き口を閉じる。

 

『……いいか、セシリア。ここでは君の身分については一切口にしちゃいけない。ここにいるのはろくでもない連中ばかりだ。今度口に出したら君の命の保証はできない。わかった?』

 

 叱ると顔をしょんぼりとさせる。

 

『……わかったわ。ここについては貴方の方が詳しいのよね』

 

 スラム街を護衛したことから褒美として衣食住を彼女から提供すると言われた。

 

『グリム! 今日も遊びに来たわ!』

 

『だから来るなって言ってんだろうが!』

 

『ネバーギブアップよ! 今日こそ城に来てもらうわ!』

 

 俺は何度もその申し出を断った。

 いくら王女とは言えど貧民街出の庶民を城に住まわすのは、後々肩身が狭くなる可能性だってある。

 

『……グリム。命の恩人のあなたのためなら。わたしでよければ、いつでも助けになるから』

 

 俺みたいな相手のために迷惑をかけるわけにはいかなかった。

 

『おいグリム。てめぇ今度姫様がここに来たら教えろよぉ? たっぷりと金をわけてやるからよ……』

 

 けど、このまま貧民街にいるわけにもいかない。

 

『兵士の宿舎に入りたいだ?』

 

『雑用でも何でもします』

 

 だから俺は……雑用の合間の時間、ただひたすらに剣を振った。

 そうして十年。

 

『し、試験終了……』

 

『すげぇ……あいつ団長をぶっ倒しやがった……』

 

 俺は自分の力で彼女の傍にいる権利を勝ち取るために、俺は騎士となった。

 

 

 ***

 

 

 ぼんやりとした景色の中、ゆっくりとまぶたが上がり、視界が広がっていく。

 なんだか……体の下に石造りではない。ふかふかした感覚が。

 

「……ここは」

 

 意識が覚醒してすぐ周りを見渡す。ベッドだ。俺はベッドの上にいる。

 どういうことだ。

 

「俺は、ミラボレアスに……」

 

 ふと胸の近くに温かみを感じる。

 

「……一国のお姫様が騎士一人に固執する、か。前代未聞だな」

 

「……すぅ」

 

 どうやらつきっきりで看病をしてくれたようだ。

 起こす。

 

「……っ!!」

 

 起きた瞬間有無を言わさず彼女は抱きついてきた。

 肩の震えが伝わり泣いているのがわかる。

 

 

「……おっと。お邪魔して申し訳ねぇな隊長」

 

 しかし、そう暖かな時間は続かないものだ。

 ルイスが顔を逸らしながら目線だけをこちらに向けている。

 

「──!!!!」

 

 急ぎ姫の肩を掴んで引き離す。

 

 

「博士のジジイが呼んでたぞ」

 

 

 ***

 

 

 同刻、ミラボレアスは城付近の貴族の屋敷を襲っていた。

 

「た、たすけ……!! たすけてくれぇ……」

 

 膝から先は喰いちぎられていた。竜人族の奴隷、少女たちは首を左右に振る。

 

「た、たのむ……!! わ、わしを持ち上げて城まで……」

 

 ————————————奴隷に逃げられる。

 

 奴隷の逃げた方とは反対側の壁が突き破られる。ミラボレアスだ。

 ミラボレアスが顔を覗かせ舌なめずりをする。

 

「……わ、わしは貴族だ!! わしは貴族だぞ!! シュレイド王国随一の権力者なんだ!! わしをだれだと心得るケダモノめぇっ!?」

 

『……』

 

 見下ろす。哀れな虫けらが喘ぐ様をあざ笑うように口元を歪めていた。

 

「え、衛兵っ!! 兵士よ!! どこにいる!? あの役立たずどもめ!! 早く来てわしの身を守れぇっ!! わしの価値もわからぬ、ただ喰うしかない脳みそのドラゴンをはやく殺せぇっ!!」

 

 ミラボレアスは……じっと目の前で喘ぐ獲物をじっと観察していた。

 そして、彼の者は結論を出した。

 

 ——————こいつは同族にすら見捨てられた哀れな豚であると。

 

「や、やめろっ!? よ、よせっ!!」

 

 無抵抗の獲物を前にしたクマは、一体なにをするのだろう。

 

 答えは二つ。

 獲物に反撃される前に迅速に息の根を止めるか、

 

「ぐぎゃあああああああああああっっ!!!! あ、しがぁあああああ!?!!!」

 

 ——————弄ぶだけ弄んで、遊び飽きたらゆっくりと殺していくのだ。

 

 ミラボレアスはデーブのもう片方の足を噛みちぎり、床に叩きつけ両腕を前足で押さえつける。口に入れたデーブの片足を咀嚼し、つい数分前に喰らったもう片方の足と同じ胃袋へ放り込む。

 

「やめろぉ!! やめてくれあぁぁぁぁあぁぁああぁあ!!!!!」

 

 軽くミラボレアスは前脚に体重をかけてデーブの両腕をへし折り、頭からかぶりつく。

 かぶりついた後は、おもちゃのように、ブンブンと左右に振り回す。

 

 まずは足を、次に腕をもがれ、最後に身体を口内の炎で炙られていく。

 五歳の子供が、無力なアリの四肢を引きちぎって遊ぶように。

 

 

 燃え盛る貴族の屋敷は、断末魔と喜びの咆哮を残し、崩れ去った。

 

 

 

 ***

 

 

 どうやら先ほどまでいたのは城から遠く離れた避難塔。

 王族の避難は完了し、残るのは意地を張ったセシリアのみ。

 

「城のほとんどは奴に占拠された……残ってるのはこの塔だけだ」

 

 避難塔には生き残った兵士だけではない。命からがら逃げてきたシュレイドの民もいる。

 

「……ミラボレアスがここに残っている人間を襲うのも時間の問題か。住民の避難を優先しろ。残る兵士たちを後で広場まで呼べ」

 

 ルイスは力強くうなずき、残る兵士の元へと走っていく。

 ……誘導が始まる。

 

「姫様……早く馬車の方へ……! ここも危険です」

 

「私の馬車、結構広かったわよね。私は後で行くから、先に乗せられるだけ人を乗せて」

 

 セシリアの従者が顔をしかめる。

 

「姫様!? 姫様の馬車に王族以外の方なんて……」

 

「これは命令よ。生きるか死ぬかの時に身分なんて関係ない。女子供を優先して乗せなさい」

 

 ぴしゃりと黙らせた後、彼女は走り、広場の方へと進む俺の方へと声をかける。

 

「グリム! あなた……一体何をするつもり!?」

 

「博士が大事な話があるとのことで」

 

「そうじゃなくて……! さっきルイスに話しかけてたでしょ!! 兵士を集めるって……まさかあの竜と戦うつもり!?」

 

「……姫」

 

「ダメよ。絶対にダメ。もうシュレイド騎士団はない。腕利きの兵士も、兵士長もみんな殺された! あんな化け物に立ち向かうなんて集団自殺も同然よ!」

 

「……」

 

「おねがい、無駄死になんてやめて。考え直して」

 

 

「二人とも……」

 

 俺とセシリアは声の主へと向き直る。

 

「病み上がりで申し訳ないが……見せたいものがある」

 

 そこには重々しい顔で博士が佇んでいた。

 

 

 *****

 

 

 避難塔の広場に隠された秘密の入口。

 その入口の先にあったのは地下へと続くリフト。

 

「城にこんな場所が……」

 

「……誰も寄り付かぬ避難塔の地下で極秘裏に研究が進められていたものじゃ」

 

 降りて行った先にあったのは鍵付きの扉。

 博士は開けた扉の先にあったのは、

 

 

「……こ、これは……!?」

 

「……な、なによ……これ……!?」

 

「——————『竜機兵(イコール・ドラゴン・ウェポン)』。かつて人間が、あまたの竜の屍から造り出した古代兵器」

 

 鉄の鎧で覆われ老山竜ラオシャンロンに匹敵する巨体。

 大海竜ナバルデウスのような湾曲した大きな角。

 その巨体に見合う太い手足。長く太い尻。

 巨大な鉄で出来た翼を生やした背中には鋸のような刃が付けられている。

 

「かつて人間は、竜に対抗するために多くのモンスターを狩り、その屍を使い、兵器を作り出した。かの老山龍に匹敵する肉体を、海の巨竜に匹敵する大角を。飛竜をも焼き焦がす力を手に入れるために」

 

「……ひどい。いくらドラゴンに対抗するためとはいえ、こんな……」

 

「……」

 

 今の人間も……形は違うとはいえ、していることは変わらない。鎧と剣に彼らの甲殻と爪をまとい、武器としている。

 

「我々も、竜を狩り、対抗するための武具を作る。だがこれは……竜機兵は竜の完全なる撲滅のために造られたもの。自然を淘汰し支配しようとした……人間の傲慢そのものじゃ」

 

 人々に伝えられ、語り継がれた歴史。

 自然との調和を重んじるべきとする現代と、それに相反する古代の悪習。

 

「自然との共生……調和など、存在しえなかったのですね」

 

「……それが、今との違いなのじゃろうな。我々も、都市を守るようため追い払い殺すことはあれど、撲滅までは唱えてはいない。じゃが……一歩間違えば、時代はまた繰り返す」

 

 博士は竜機兵の焼けこげた後を指で指す。

 

「自然のなす強大な力の前では人間の浅知恵など無力だ。そして生命は、絶滅を逃れるために絶えず進化を繰り返す。だれにも予想のつかぬ形で」

 

「……なぜ、今これを見せるのです?」

 

「この焼けただれた大穴をよく見よ」

 

 操縦区画の心臓部にまで達している。

 

「外側からこの機体の許容をはるかに超えた高温で焼かれた跡じゃ。理を外れた古の古龍の力には竜機兵も手も足も出なかったのだろうな」

 

 ——————鋼鉄をも焼き尽くす業火を吐く古龍。

 

 いるではないか。今まさに。

 傷ついた巨竜を一撃で沈め、万物を焼き焦がし、国を容易に焼き払わんとするものを。

 

「……まさか」

 

「あのミラボレアス。大自然がおごった人間を屠るために作りだした、人間の罪の形なのかもしれん」

 

 バカな。ミラボレアスが……人を滅ぼすため、文明を消すために作られた竜たちの集大成……行きつく先だったと……!? 

 

「……おぬしらには、あの人の業そのもののような存在を相手にするには重すぎる。逃げる方が、ワシははるかに懸命だと思っている。それでも……いくか?」

 

 

 *****

 

 

「……グリム。本当に、行くつもりなの。無駄死になんて……馬鹿げてる」

 

 ……正直、あの話を聞かされた後だ。

 言うまでもないが、

 

「行くよ。それでも」

 

「……!」

「それと……俺は無駄死にはしない。セシリアたちが生きるために、俺は行くよ」

 

 

 

 ******

 

 

 人の業なんて難しいことはわからない。守るために俺は行く。

 俺が博士に突きつけた答え。

 ……そうでなくては、戦った仲間たちの死が無駄になる。

 

 ただ死ぬんじゃない。逃げる時間を稼ぐのだ。

 

 広場に集めた兵士には馬で逃げるように伝えた。

 命令に逆らってでも残ったのはほんの数十人。

 

「……残っただけでも、マシか」

 

「ほんとこいつら頭がおかしいんじゃねぇか?」

 

 ルイスはボウガンの整備をしながらおかしそうに笑う。

 

「そういうお前はどうなんだ?」

 

「オレは約束があるからな。破って逃げるわけにもいかないね」

 

「やっぱりお前もおかしい奴だよ」

 

 ルイスはその数十人の中の一人だった。

 

「マルコムがよ……自分になんかあったら団長を頼むってよ」

 

「……」

 

 マルコムは死んだ。ずっと目から背けていた事実はルイスの口から伝えられた。

 騎士団は壊滅。守るべき国の町も城も敵の手に堕ちた。

 

 

「それに、こいつもあの黒トカゲに仕返しがしてぇってよ」

 

 ラオシャンロンのボウガン。

 そして……新調した俺の銀火竜の鎧一式。

 

 

「──狩るぞ」

 

 

 男たちは、無言で武器を構えた。

 それが開戦の雄たけびとでも言うように。

 





今回出てきた『竜機兵』とシュレイド王国がメインの小説、

しばりんぐさん作『藍緋反転ストラトスフィア』(全30話完結済み)もよろしく!
https://syosetu.org/novel/155399/

名前間違ってないかな……ドキドキ、心配。
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