幻想物語=八雲紫の物語=   作:ライドウ

30 / 40
第二十九話 鬼人正邪(下)

青く、暗く、どこまでも絶景が広がる。

ここは、死にゆく者たちがたどり着く、魂の回廊という場所だ。

もちろん、私はそこに五体満足でいる。そんなことは、普通許されることではない。

体中が溶けてゆく感覚がする。自分が、ちっぽけに思えて死んでしまうように感じる。

だけど、私はそれを振り払い、ただ前を見て歩き始めた。

 

≪どこだっ・・・≫

 

歩く。歩く。美しく残酷で悲しく誰も救われない回廊をただ進んでゆく。

ここで行われるのは、主に穢れた魂の浄化。つまりは、悪人の落ちるべき場所だ。

元が、悪であった私にもそれは適用される。

私の左手が浄化される。歩いているはずなのに左足が浄化される。

まだだ、まだ私は、こんなところでは死ねない。死んではいけない

 

≪見るんだ・・・紫の作る幻想郷を≫

 

妖怪と人間が、お互いを滅ぼさずに済む理想郷を。手を取り合って笑いあう桃源郷を。

そのためには、今のままの”ヤクモユカリ”じゃだめなんだ。優しくて純朴でちょっと疎い”八雲紫”じゃないとダメなんだ。

八雲紫に狂気じみた笑みは似合わない、どこか悲しそうな笑顔は似合わない。

八雲紫に似合うのは幸せそうに笑う笑顔と、相手を心配する泣き顔とかだ。

 

≪だから・・・・・・紫が、自分の夢を作るまで。死んでたまるか!≫

 

意識をしっかりと持ち浄化された部分を再生させる。

だが、すぐに浄化され始める。再生させたとしても結局は、完全消滅までの時間を延ばしただけなのだ。

何分も歩き続けた、何時間も歩き続けた。されど、雨月時雨の・・・いや、洩矢時雨の魂はいつまでたっても見えてこない。

あいつは、確かに何万との人を災害により殺してしまった。いや、殺しざるを得なかった。

あいつは、国を護るために大和の国に大災害を起こした。疫病や飢餓など、許されざることをしでかした。

でも、彼は諏訪の国を護るがために悪党を背負った立派な奴だ。

そんな時雨にも、幸せになる権利はある。誰に殺されたかは分からないが、十中八九大和にいた神々がこれ幸いとばかりに殺したのだろう。

なんと、ふざけた理由なのか、大和にいた神々は自らの私腹を肥やすことしか頭にない。それと比べて時雨はどうだ。民草の為に田畑を耕し、民草の為に病を治し、民草の為に自ら悪役を演じた。この魂の回廊に真に落ちるべき相手は、間違いなく大和の神々なのだ。

 

≪洩矢時雨、お前は間違いなく、正しいことをした。もう贖罪は十分だ!お前は、お前の幸せをつかむんだろ!?≫

「もう・・・いいんです」

 

彼の声がした。間違いない、最初から私の近くに居やがった。

どこか泣いてしまいそうな声を出し、消えかかっている私の目の前に姿を現す。

 

「俺は、許されないことをした。諏訪の国の皆の為に悪役を演じた?違う!俺は、父さんを殺された復讐だけで大和にあんなことをした!!」

 

洩矢時雨の父親、洩矢海斗は大和の遣いによって殺された。

彼がそう捉えるのも納得ができる。しかし、洩矢海斗はただ殺されたのではない、守って殺されたのだ。

その大和の使者が、諏訪の国に赴いたとき、洩矢時雨はまだ3歳だった。それを見た大和の使者が、妖怪と難癖をつけて殺そうとしたのだ。

それを見た、当時諏訪の国の戦士であった洩矢海斗は間に割り込み背中を斬られた。致命傷の一撃を負い、間違いなく死ぬ。

その時、洩矢海斗は大和の使者に向けこう叫んだのであった。

 

【これが、大和の使者か!なんとも醜い蛮族のような国だな!!】

 

激情した大和の使者は洩矢海斗をめった刺しにし、殺害した。

それを見ていた、天照大神はその死者を地獄に放り込み、八坂神奈子を代わりの使者として出した。

その時の洩矢諏訪子は、子供を護ろうと必死になって八坂神奈子を撃退しようとした。八坂神奈子は、反撃をせず洩矢諏訪湖の攻撃を甘んじてすべて受け入れていたという。

落ち着いた、守矢諏訪子に八坂神奈子は提案した。諏訪の国を形を残したまま大和の傘下に入らないか。と。

洩矢諏訪子からしてみれば大切な人を殺した大和の国の元につくなど侮辱行為でしかなかった。

洩矢諏訪子から放たれる罵声を八坂神奈子は、ただ聞き受け。父親を殺され怒り狂っていた洩矢時雨に殴られても八坂神奈子は激昂せずただその罪を受け入れていた。

八坂神奈子の傘下に入るなら、そういう条件で洩矢の国は大和の傘下に入った。

 

しかし、入った後は他の大和の神々からの嫌がらせが頻発していた。

他の神から、干ばつや飢餓、土の病や大洪水、ありとあらゆる災害で洩矢の国は滅亡寸前にまで陥った。

洩矢諏訪子はショックで倒れ、八坂神奈子は大和の国でそれ等を行った神々を弾劾していた。しかし、彼、洩矢時雨は行動を起こした。それらすべての災害を操り、大和の国にすべて返したのだ。

それにより、災害を起こした神々は全滅、八坂神奈子も3か月の静養を必要とし、天照大神はじめ、須佐之男命、月夜見などの最上位の神々も大怪我を負い、大和の民たちも間違いなく多くが死んだ。

洩矢時雨はそれを間違ったことだと理解しておりそれを行った後地獄に自ら出頭していた。

洩矢諏訪子と八坂神奈子は、地獄に赴き必死に洩矢時雨を説得した。しかし、時雨はこれは俺の罪だからの一点張りで甘んじて十王の採決”夏期間中の贖罪の旅”に出たのだ。

 

「本当は、今すぐ地獄で刑期を受けるはずだったんだ!俺は、みんな(洩矢の民)を護るためにみんな(大和の民)を大勢殺した!」

 

洩矢時雨は、ただそう叫ぶ。

子供の我儘のように・・・ただ叫ぶ。

 

「日の本一の剣豪?違う、それは父さんだ!父さんだったんだ!俺は刀なんて見様見真似で何とかなってるだけなんだ!」

≪だが、お前の剣は認められていた。違うのか?≫

「ああ、違うさ!!俺の刀は、ただの父さんの模範だ!真に称えられるのは父さんなんだ!」

≪じゃあ、紫はお前の父親の模範で好きになったのか!?≫

 

私は、怒りをここぞとばかりにぶつける。

洩矢時雨の生き方は、守矢海斗とひどく酷似している。仕方のないことだ。まだ生き方を習っていないうちに父親に先立たれ、自分は大勢を殺したから。

守矢海斗のように、優しく強くどこか天然で憎めない。時雨は、それを真似て生きていた。

だが、八雲紫を好きになったのは、そうではないはずなのだ。洩矢時雨が八雲紫を好きになったのは、間違いなく洩矢時雨の意思だ。

 

≪八雲紫はお前が好きだ!それに、お前は八雲紫が好きだ!違うのか!?≫

「っ・・・それは」

≪お前は、洩矢時雨(父親の模範)の意思で八雲紫(一人ぼっちの少女)を護ろうとしたんじゃないだろ!?雨月時雨(自分自身)の意思で好きになって守ろうとしたんだろ!!≫

 

顔を背ける雨月時雨の胸ぐらをつかみ上げる。

周りからざわつく雰囲気を感じるがそんなことはどうでもいい。

いつまでも亡き父親にすり寄って生きている洩矢時雨に説教をしなくてはいけない。

八雲紫(一人ぼっちの少女)は、こんな甘ったれが好きになっていい相手ではない。運命が違えば、永遠に一人だった彼女を護り通せるわけがない。

八雲紫(一人ぼっちの少女)を護るなら国ひとつを民の為に滅ぼすぐらいの奴でなければ、幸せになどできない。

ルーミアとアイリス(復讐に溺れたもの)のように悲しく辛い思いをさせないためにも、洩矢諏訪子(愛するものを奪われたもの)のようにただ無力感を感じないためにも、藤原妹紅と蓬莱山輝夜(死ねなくなったもの)のようにいつまでも待ち続ける苦しみを味わわないためにも、伊吹萃香(初恋が叶わなかったもの)のように失わないためにも、(下剋上の為にすべてを捨てた)のように血反吐を吐かないようにも。

 

≪だったらせめて、八雲紫(世界の運命)ぐらい救って見せろ!この大罪人が!≫

「っ!!」

 

私の叫びが届いたのか、雨月時雨の存在が濃厚になってゆく。

ああ、やっとだ。

 

≪行けよ、雨月時雨(手のかかるクソガキ)。お前を待ってる奴がいる。≫

「はいっ、ありがとうございました。それと」

 

時雨が、懐からとある布切れを取り出す。

これは・・・

 

「これ、ありがとうございました。貴女に受けた恩、魂に刻んで忘れません。お世話になりました!先生!!」

≪・・・馬鹿。≫

 

私は、一度か二度洩矢の国に立ち寄ってこの雨月時雨に勉強を教えてやったことがあった。

その時は、顔が見えないようにしていたがどうやら風格で分かってしまったらしい。

まったく、どこまであの守矢海斗(天然女タラシ)に似れば気が済むんだろう。

雨月時雨が出口に向かって走ってゆく、その後ろ姿は海斗に似ておりどこか憎めないでいた。

あのバカは、いつもああやって私の前を走っていたずらさせないようにしてた。そんなあいつが憎たらしくて下剋上しようと努力した。

そしたら、龍神様の目に留まってまさかの龍神様の右腕に昇進。

ほんと

 

≪どこまでも、海斗は憎めないなぁ≫

 

私も、大急ぎでこの魂の回廊から抜け出すのであった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ここは」

「よ、目が覚めたかい。正邪」

 

私が目を開けると、見慣れない天井。そして、右隣には小野塚小町がいた。

どうやら無事に戻ってこれたらしい、あと少しで全て溶けてしまいそうだったが。

 

「あれから、どうなった。」

「そうさね・・・あの事件から、もう10年近くたってるよ」

「じゅっ、十年!?」

 

忘れていた、魂の回廊の時間の進みと現実世界の時間の進みは全然違うのだ。

それにしても、こうしてこの世界が続いているということは・・・

 

「あの事件は・・・」

「ああ、アダムはあの後、ルーミアとアイリスによって死んだ。トップが死んだことによって使徒と天使は大混乱。そこを各国の妖怪・モンスターたちが一斉反撃。以降、使徒は全滅天使は天界へと逃げてった。」

「八雲紫は?」

「どうやら、あんたの一撃が聞いたらしくてね。常闇っていう、あの嬢ちゃんに似た妖怪がちょっと封印して元通りさ」

「・・・あいつが」

 

常闇、私と龍神様に交渉という名の脅しを吹っ掛け、世界を救った裏の主役。

結局のところ、正体はお察しの通りだが、まあいいだろう。

 

「そうか・・・」

「ああ、それと。あんたに朗報」

 

小野塚小町が新聞のようなものを突き出す。

私はそれを受け取り、中身をまじまじと見る。

すると、一番目立つ表現でこう書いてあった。

 

「あの子、無事に幻想郷を作り上げたらしいよ?」

【妖怪の賢者”八雲紫”、妖怪と人間が共存できる楽園を設立。名を”幻想郷”】

 

「・・・そうか。」

 

あいつは、10年もしないうちに成長したらしい。

10年前のあの幼さはどこえやら、大人の雰囲気を纏っている。

下手したら、私より大人じゃないか。

 

「あーあ、くやしぃねぇ。」

「ん?嬢ちゃんが美人になったことかい?」

「ちがわい、あの小娘に先を越されたってことだよ」

「あっはっはっまあまあ正邪、あんたにもいつかいい人がくるって。さ、行きつけの居酒屋イクゾー!!」

「おっさんかっ!まあ、今日はやけ酒じゃー!!」

 

私は小町と肩を組み、死神街に繰り出す。

小町の行きつけの居酒屋に行って、安っぽい酒でも自棄飲みしよう。

つまみを食いながらバカ騒ぎしよう。

ああ、楽しみだ。

 

「今日は飲むぞ~!」

「いいねぇ!割り勘だからな!」

「今日のあたしは機嫌がいいんだ!それでいこう!」

「小町、飲みすぎんなよ?」

「そりゃ正邪もだよ!」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。