速かった・・・・
私には、何も見えなかった。
一瞬にして目の前を死が通り過ぎ、そして何事もなかったかのように
”藍”を吹き飛ばした。
目の前には、眩暈を催す木の根っこ。
だけれど、それが纏う雰囲気はどこか覚えのあるもの・・・
私は、防衛線のそのまた向こうの枝垂れ桜を眺める。
「貴女なの?幽々子」
紅く、黒い桜の根がまるで私を護るように地面から突き出ていた。
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side:ru-mia
「くくくく・・・はーはっはっはっはっ!!」
再び西行妖が目を覚ました途端、目の前のボロボロのゴミカス・・・アダムは笑い出した。
私とアイリスに”魔剣グラン”と”リィーンカーネーション”を向けられているこの状況で、だ。
「何がおかしいのじゃ?」
「これが笑わずにいられる状況?!あはははは!!おかしいね!!」
「ついに気が狂ったか・・・」
「君たちの負けだ。」
アダムがそう言った途端、私たちの足元から不気味な根っこが飛び出してくる。
私とアイリスはそれをかわし、ふわりと宙に浮かぶ。
「あーはっはっはっはっ!!」
そしてその根はどういうことなのかアダムを護るようにうねうねとしだす。
アダムは余裕そうに高笑いを続けるが、根はそれを介さないようにただ私たちに敵意を向けているのである。
どういうことだ・・・それに、この根から噴き出す死の匂いは・・・
「まさか、西行妖?」
「さいぎょう?・・・なんじゃそれは」
「あれ」
「ああ、納得」
おそらく封印が完全に戻った西行妖をアイリスに指さすことで分からせる。
さっきまでは少ししか華を咲かせていなかった桜の妖怪は、今やすべての桜の花を咲かせる凶暴な存在へと姿を変えた。
「この感覚、幽々子ちゃんね」
「わかるのか?」
そう、このどことなくほんわかな雰囲気、だけどどことなく強い風格を持つそれは幽々子ちゃんのそれだった
あの子は、もしやあの妖怪に取り込まれてしまったのだろうか・・・いや、それはないはず。
いくら死を誘う妖怪と言えど、人を食うはずなどはない。
ということは・・・
「何をした、アダム」
「あーはっはっ!!何をした、だって!?そんなのあそこにいた小娘をユグドラシルに捧げたのみ!!!」
「っ!?貴様!!」
「ユグドラシルが目覚めた今!!私は無敵なのだ――!!」
護りに集中してた根は私たちを殺そうと伸び始める。
私はそれを、人達で切り伏せアダムに切りかかる。
縦に振ったグランをアダムは左によけグランを左に振るがアダムはそれを屈んで避ける。
「っ!?」
そして私を弾き飛ばそうと攻撃してきた根をグランで防ぐ。
アイリスは、リィーンカーネーションを魔力媒介にして大量の魔法陣で根を焼き払う・・・
しかし、攻撃すればするほどアダムの高笑いは大きくなり、根の数は増えていく。
「いいぞ、いいぞ!!ユグドラシル!!私の邪魔をするものすべてを壊せ!!」
「くぅっ・・・近寄れないっ」
「ルーミア!!これ以上は危険じゃ!!引くぞ!!」
アイリスが転移魔法を発動させる。
アダムがいた場所から2キロ離れた場所に転移したようだ・・・
それでも、巨大に変質した西行妖がここからもよく見える。
おどろおどろしく禍々しく、そこら中から誰彼構わず悲鳴が聞こえてくる。
「・・・・・・あれが、そうなの?アイリス?」
「ああ、あれが呪いの樹、ユグドラシル・オルタ・・・じゃ」
アイリスの夫で、私の親友・・・クリスが最後の最後でユグドラシルについていた呪いを別世界の木として
定着させた姿、クリスが死んだ今、アイリスしか知らなかった最悪で災厄の樹。
全ての命を奪い、すべての命を呪い、すべての命を蝕む、暗黒樹・・・そして、この世界すべての必要悪
「あれを、倒すことは?」
「不可能じゃ、できるのは封印までじゃろうな」
今は元の半分しか力を出し切れていない、何せまだ紫ちゃんを取り込んでいないからだ。
おそらく、あれは西行寺幽々子と八雲紫の両名を取り込むことで真の力・・・
全ての命を無に帰す力を出すことができるのだろう。
「アイリス、私はこの世界なんてどうにだってなっていい」
「うむ」
「だけど私、最近気になる物があるの」
「奇遇じゃな、わしもじゃ」
「そのために、あれ。封印しよう」
「・・・そうじゃな」
私は、グランを。アイリスはリィーンカーネーションを構え直し西行妖の方へと向かう。
・・・おそらく、あれさえ倒せば」
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side:sigure
意識が段々と明らかになる。
目に入る空は曇天に包まれており、そしてとても禍々しい雰囲気を周囲に漂わせている。
体を起こしあげれば、周りには大量にある死骸の山・・・
それも、ただの死体ではない巨大な根に突き刺されて死んでいる。
死神も、使徒も、天使も関係なく・・・
「・・・この根は、あの子?」
ついこの前、いやおそらく昨日ぐらいだろう。
その時に紫ちゃんと幽香と仲良くなって、俺をあの屋敷に止めてくれた主・・・
西行寺幽々子、そのものの雰囲気を纏っているその根は、今や突き刺した死体から血を吸うようにたたずんでいる。懐に刺してある、形見の刀”雨簾”を軽くその根に向かって振る。
根はそのまま倒れ、死神の遺体が落ちてくる。
恐怖で固まった表情のまま死んでいるその遺体を、そっと目をつぶらせて西行妖のある方向へと向かう。
今自分がすべきことは、すべて理解している。
”あれ”を封印しないといけない。