逃げて、妖怪の山全力で逃げて!!
今日は、師匠の知り合いに会いに行くために妖怪の山へと向かうらしい。
今は、その妖怪の山に向けてのんびりと歩いている。
こうして歩いているだけでも、師匠と一緒にいると思うと胸の奥がほんのりと温かくなる。
でも、この暖かさは伝えちゃいけない、耐えろ、私。
・・・でも、どうしても・・・伝えたい・・・いや、だめだ。これは、絶対に伝えちゃいけない。
そんな考えが浮かんできたので空を見て気持ちを切り替える。
遠くには、入道雲が浮かんでおり夏の暑苦しさをどうしても感じてしまう。
「?どうしたの?紫ちゃん。」
「あ、いえ。カラスがとんでるなぁ。と思って。」
「え、カラス?ぐべらっ!」
私の隣にいた師匠が何かに突っ込まれて倒れ伏した。
「師匠?!」
「いてて・・・いきなりだなぁ。文ちゃん」
「師匠!会いたかったですよ!」
目の前の鴉天狗は、師匠に密着し師匠にべっとりとしがみついている。
あれ?なんだろう・・・イラッとする。
って、師匠?
「師匠?この人って」
「あ、紫ちゃん。この子は、僕のもう一人の弟子、鴉天狗の
「師匠!?いま、紹介がおかしくなかったですか?!」
「ん?気のせいだよ。」
師匠と、射命丸が仲良くしているのを見て、なぜだかイラつく。
だけど、その気持ちは投げ捨てて、私は射命丸さんにあいさつする。
「|こんにちは!初めまして、師匠の弟子の八雲紫です!《師匠ってカッコ良くないですか?》」
「|あやややや、それはどうもご丁寧に、姉弟子の射命丸文です。《分かってますねぇ》」
この人は、多分私とおんなじだ。
過去に師匠に助けられて、師匠に恋心を抱く女性。でも、この人は知っているのだろうか?
「師匠!ちょっと、紫ちゃんをかりますね?」
「ん?いいよ?弟子同士、仲良くね。」
「はーい!」
「え、ちょっ」
私は、文さんに手を引かれ師匠から離れた森の中に入った。
数歩進んで、止まり。うつむいた。
「紫ちゃん・・いえ、紫さん。師匠、死んでますよね?」
勘づいていた、多分。あの抱き着いたときに気づいたのだろう。
いや、むしろ。確認のために抱き着いたのかもしれない
「知ってるんですか?」
「・・・ええ、私の情報網は確かなので」
「・・・お答えします。半年前に既に死んでいて、今あそこにいる師匠は、やり残したことの清算のためにいる死人です。」
「・・・・・・」
私と、文さんとの間に沈黙が流れる。
文さんからは、涙がポロポロと零れており、そして泣き崩れてしまった。
私は、そんな文さんを抱きしめるしかできず。無力さを感じてしまう。
「なんで・・・何で師匠は!うぅ、うわぁぁあんっ!!」
「・・・・・・」
この人の想いも本物だからこそこうなる。
好きだから死んでしまって悲しい、好きだからまた会うのがつらい。
私も、本当なら泣いてしまいたい。このまま、年相応の少女のように泣いてしまいたい。
けれど、私は泣かないようにこらえた、私は、師匠が定めてくれた目標を達成するまでは泣かないことを決めたのだ。
「紫さんは・・・強いんですね。」
「いえ、私も弱いです・・・強がってるだけですよ。」
「そう、ですよね・・・だって、紫さんも今にも泣きそうですもの」
「・・・はい・・・」
本当は、師匠を見るだけでもつらい。
消えてしまうとわかっていても、この恋心は冷めることなく、むしろ熱くなる。
だから、私は強がって師匠の隣に立っている。
「ぐすっ・・・お見苦しいところをお見せしましたね・・・姉弟子の面子。丸つぶれですよ・・・」
「面子なんて・・・実際姉弟子がいるなんて、知りませんでしたよ。それに、泣いて当然です。あんな馬鹿師匠」
「そう、ですね。あんな馬鹿師匠のせいですからね。」
文さんが泣き止んだので、離すと。文さんは立ち上がってスカートを払った。
そして、小さく私に礼を言った後に二人して作り笑いをして師匠の元に戻る。
ズガァァァァァンっ!!
「ぎゃぁあぁぁっ!!」「「時雨ぇぇぇぇぇぇっ!!!」」
「「・・・あの
私と、文さんはこぶしを握り締めて同時にそう言うのであった。
そのあと、山の四天王の二人に突撃された師匠は気絶してしまい。
そのまま師匠と私は、妖怪の山の文さんの家にお泊りになったのだが・・・
「えっ、文さんって天魔なの?」
「ええ、一応。私がこの山の最高責任者です」
文さんが、まさかの天魔だった。
さっき会いに行ったのだけど、あの天魔の間にいたあのおじいさんは文さんのお爺さんで代理で座っているらしい。
もちろん、お爺さんがほとんどやっていて文さんはそのお爺さんのお願いで自由奔放に生きているとのこと。
「まあ、天魔といっても身分を偽って山を見回る仕事ですしね」
「いや、書類整理や組織運営があるでしょうに・・・」
と、嘆いたのは文さんの護衛隊長”犬走椛”さんだ。
文さんに振り回されるいわゆる苦労人で、妖怪の山のトップランキングの猛者らしい。
いや、貴女も白狼天狗の組織運営があるでしょ?
「「自由奔放が天狗の売りなので」」
なぜだか、ドヤ顔でいわれるとムカつく。
しかし、ここの天狗全体がそうなので反論ができない。
「あっはは、それでこそ天狗だね!」
「がっはは、そうだな!」
「「師匠に突撃して気絶させた二人が言いますか?」」
「「うぅ、申し訳ない。」」
そして、この二人は、
この妖怪の山の四天王の二人で、鬼と言えば、この二人だ。
「なあ、萃香。」
「ん?なんだい?勇義」
「少し、席を外してくれないか」
「えぇ?いいけど・・・」
勇儀さんが神妙な顔つきで萃香さんを部屋からだす。
おそらく、師匠の件だろう。
「なあ、お前たち。あたしは嘘が嫌いだから、嘘をつかずに頷いてほしい。・・・時雨は、死んでいるな。」
「・・・」
「・・・」
私と、文さんは同時にうなづいた。
すると、勇儀さんはわかっていたかのように顔を伏せる。
「・・・そうか、この嘘つきめ」
と、勇儀さんが優しく壊れ物を扱うかのように師匠を小突いた。
その目は、嘘をつかれていたことに対する憤怒の色と悲しみの色が混ざり合っていた。
「余命は?」
「いえ、師匠は半年前に死んでいて。ここにいる師匠は、やり残したことの清算のためにいる死人です・・・そして、昇天する日は今年の夏の終わり。」
「・・・・・・そうか」
勇儀さんは、悔しそうにこぶしを握る。
おそらく、勇儀さんも同じ感情を私たちと同じく抱いているのであろう。
山の四天王、語られる怪力乱神にまで恋心を抱かせる師匠は、本当にどうしようもない。
「このことは、萃香に黙っていてほしい」
「っ!?勇義様?!」
「・・・なぜ?」
「萃香は、こいつを愛している。あたしたちの恋より想いが大きいんだ。」
side suika
「萃香は、こいつを愛している。あたしたちの恋より想いが大きいんだ。」
襖の向こうから、勇儀の言葉が聞こえてくる。
いや、むしろ聞いていた。時雨が死んでしまっていることぐらい気づいていた。
伊達に、山の四天王にいるわけではない。人間の心臓の音を聞き分けることぐらいたやすいことだ。
「こいつが、今年の夏の終わりに死ぬなら。あいつは知らないほうがいい、あいつのためにも。」
「しって・・・るんだよなぁ」
小さく、自分にしか聞こえないように小さく嘆く。
ああ、私の恋は・・・なぜ叶わないのだろう、都に行った初恋の鬼、そのあと知り合った時雨との恋も・・・
総て、なくなってしまう。私が、恋してしばらくたった途端に。
「この通りだ!」
襖の向こうで、勇儀が土下座するのを感じる。
別に、見たというわけではない感覚でわかるのだ。
私は、鬼としての感覚は、並みの鬼とは桁外れであり見なくとも、服のこすれる音や空気の揺らめきでわかる。聴覚もかなり鋭いともいえる。
でも、紫の心臓の音、文の心臓の音、勇儀の心臓の音と、自分の心臓の音・・・だけど、その音の中に時雨の心臓の音はしない。
この耳を持ってしてもだ。私の能力では、命を再生させることなど不可能。
いや・・・紫の能力ならあるいは・・・
私は、立ち上がり襖の隙間から紫をにらみつける。
「必ず・・・お前の能力を奪って、時雨を救ってやる。」
私は、そう決意し文の屋敷から出る。
私の手下の鬼を、集めるために。
今度は・・・離さない、この恋だけは。絶対に。
はい、萃香ちゃんが紫の能力を知っており、奪おうと立ち上がりました!
しかも師匠は萃香と勇儀の突撃で気絶中!一体どうなる紫ちゃん!