幻想物語=八雲紫の物語=   作:ライドウ

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夏の終わりまで、27日。


酒呑童子・・・

一条天皇の時代、京の若者や姫君が次々と神隠しに遭った、安倍晴明に占わせたところ、大江山に住む鬼(酒呑童子)の仕業とわかった。そこで帝は長徳元年(995年)に源頼光と藤原保昌らを征伐に向わせた。頼光らは山伏を装い鬼の居城を訪ね、一夜の宿をとらせてほしいと頼む。酒呑童子らは京の都から源頼光らが自分を成敗しにくるとの情報を得ていたので警戒し様々な詰問をする。なんとか疑いを晴らし酒を酌み交わして話を聞いたところ、大の酒好きなために家来から「酒呑童子」と呼ばれていることや、平野山(比良山)に住んでいたが伝教大師(最澄)が延暦寺を建て以来、そこには居られなくなくなり、嘉祥2年(849年)から大江山に住みついたことなど身の上話を語った。頼光らは鬼に八幡大菩薩から与えられた「神変奇特酒」という毒酒を振る舞い、笈に背負っていた武具で身を固め酒呑童子の寝所を襲い、身体を押さえつけて首をはねた。生首はなお頼光の兜を噛みつきにかかったが、仲間の兜も重ねかぶって難を逃れた。一行は、首級を持ち帰り京に凱旋。首級は帝らが検分したのちに宇治の平等院の宝蔵に納められた
(Wikipedia参照)


第五話 酒呑童子の恋の行方

結局、鬼二人に突撃された師匠は今日も起きる気配がない。

むしろ、鬼二人に突撃されて無事というのは多分どこの世界を探しても師匠ぐらいしかいないだろう。

そんなことを考えつつ、縁側で真ん丸のお月さまを見る。

 

「となり、いいですか?紫ちゃん。」

「あ、文さん・・・どうぞ」

 

と、文さんがお酒をもって私の隣に座った。

私を誘って月見酒だろうか?

 

「・・・一杯、どうです?」

「・・・もらいます」

 

小さいお猪口をもらい、それをちびちびと飲む。

文さんも同じような飲み方だ。(枡だけど・・・)

 

「・・・ナンパですか?」

「私には、そっちのけはないよ。紫ちゃん・・・」

「ま、そうですよね。」

 

また、私たちの間に沈黙が流れる。

私と文さんは、姉妹弟子とはいえ昨日までは赤の他人だった存在だ。

急に二人にされても、どうすればいいのかがわからない。

 

「紫ちゃんは・・・」

 

文さんが、悲しげに口実を作った。

 

「紫ちゃんは、どうやって。師匠に出会って、なんで、師匠に恋したの?」

「・・・」

 

文さんが、気まずそうにそう聞く。

おそらく、天狗の情報網で知ったであろうそれは、確かに私のトラウマだ。

でも、今の私は昔の私ではない。

 

「私は、気が付いたら。この世界にいたの。」

「・・・自然発生型妖怪」

「その言葉の意味は、よく分からないのだけれど・・・多分、それがあっているかもしれないわ」

 

自然発生型妖怪。

恐れを必要としないタイプの妖怪で、それらの妖怪はすべて強力な力を持つと言われている、よくある話(妖怪たちの都市伝説)だ。

偶然、私はそうして生まれた。

 

「まだ、幼かった私は、いろんなことをした。

 人里に紛れたり、外国へ行ったり、能力を使って神隠しをしたり・・・

 あの頃は・・・まるで」

「社会を知らない・・・子供」

「そう、社会を知らない子供のように・・・・・・だけど、それがいけなかった。」

 

 

「私は、この容姿とこの能力、そしてこの種族のせいで捕まった。」

 

 

「普通に生まれた妖怪・・・えっと」

「伝承発生型妖怪?」

「ええ・・・その妖怪たちの力の源は、捕食。他者の肉を食らい、他者を取り込むことで能力や力を持つことができる。」

「自然発生型と伝承発生型の典型的な違いですね。」

「その伝承発生型の力の源が、捕食と恐れなら。自然発生型の力の源は、なんだと思う?」

「??さあ、私も伝承発生型の生殖種なので、よくわかりませんが・・・」

 

そう、文さんの場合は天狗という種族の伝承発生型“生殖種”だ。つまりは、伝承で生まれた妖怪たちの遺伝子を引き継ぐ妖怪。

だから、この問題は文さんにとってとても受け入れられない事実かもしれない。

けれども、彼女が知りたいと言っているのだから、言うしかないのだろう。

 

 

 

「そこに、八雲紫()がいるかどうかで、私の力は増幅されるの」

 

 

 

「え、それって。それに自然発生型は・・・っ!」

 

流石、勘のいい文さんだ。

 

「そう、それこそが自然発生型妖怪の唯一欠点。」

 

 

「「自然発生型妖怪は、他者に認知されないと消滅する」」

 

 

私と、林から出てきた萃香さんと言葉が重なる。

萃香さんの後ろにはぞろぞろと、萃香さんの手下であろう鬼が集まっている。

 

「そして、逆にこうして人目が多いと、力が増す。と、言いたいのか?」

「いいえ?逆に、認知が多ければ多い程、自然発生型としての存在が薄れ・・・次第に消滅する。」

「えっ、それじゃぁ、自然発生型妖怪が少ない理由って」

「ああ、こいつらは・・・自然発生型は少数に強く、大勢に弱い。そして、妖怪としても伝承発生型になれない出来損ないの妖怪。」

 

その言葉と同時に萃香さんの後ろに控えていた鬼が数名飛び込んでくる。

それを予測していた私はその全員をスキマ送りにした。

 

「お前、あたしの手下をどうするつもりだ?」

「どうもしません、これが終わったら返すつもりです。」

「そうかい・・・そいつは気前がいい・・・・・・だったら、さっさとやるぞ。」

「・・・鬼というのは、一対一で正々堂々と戦うと思っていたのに・・・・・・ええ、いいですわよ。私の本気、見せてあげる。」

 

 

「あやややぁ・・・これは、大変なことにぃっ!」

 

「文さん、お願いがあるの」

「あやっ!?なんです!?紫ちゃん!」

「今すぐ、ここから離れてこのことは、誰にも言わないで。」

「えっ、そ・・・そんな!死ぬかもしれないんですよ!」

「・・・お願い。」

「・・・・・・わかり・・・ました。」

 

文さんが、師匠に突撃したときみたいな速度で消えた。

 

「さて、ここじゃなんだ。場所を変えようじゃないか、八雲紫。」

「ええ・・・伊吹萃香。」

 

 

師匠・・・私、鬼にすら負けませんよ。師匠のためなら、ね。

 

 

side aya

 

 

私は、空を飛び身を丸くする。

なぜ、あの子はあそこまで強がりができるのであろうか。

相手は、鬼・・・しかもあんな数。萃香様の言った通りなら、確実に紫ちゃんは死んでしまう。

 

”自然発生型は他者に認知されないと消滅する”

”逆に認知をされすぎると妖怪としての存在が薄れ、消滅する”

”伝承発生型になれない出来損ないの妖怪”

 

なんと、なんと生きにくい体質なのだろうか。

紫ちゃんが、どれほど分かりやすくつらいのに教えてくれたか・・・

 

紫ちゃんたち自然発生型妖怪は、恐れを必要としない代わりに他者の記憶に存在することによって存在できる。

つまりは、私たち天狗や萃香様達鬼とは違い、ほかの”生物”が生きていれば永久に存在できる、ある種の完成された妖怪だ。

伝承では、月の民が月に行く前に存在した妖怪たちも、自然発生型とほとんど同じだという。

しかし、その妖怪と今の自然発生型はほとんど違う。

昔の妖怪は、一緒くたに”穢れ”として認知されていたから、強く存在出来た。

だが、自然発生型はその”一緒くたに”できないのだ。

それぞれの自然発生型が自然発生型で、系統も種族も全く違うものになってしまう。

だから、自然発生型は認知されすぎると”みんな知ってる。怖い奴じゃない”と思われ、その存在は恐れられなくなる。

語り継がれるのはそういう名前だけであって、容姿は記憶されない。言いくるめれば、他者に一度でもいいから見て記憶してもらわないと消滅するのだ。

いくら、自然発生型と言えども多少の恐れが必要らしい。

そして、萃香様が言った言葉、伝承発生型に慣れない出来損ないの妖怪。

あれは、自然発生型と伝承発生型の恐れの変換力の違いだろう。

恐れとは、すなわちエネルギー。それで、妖怪を機械と置き換える。

私たち、伝承発生型はとても頑丈に作られており、エネルギーがたまればたまるほど強くなれる存在だ。

しかし、自然発生型はいうなれば高性能で低エネルギーな繊細機械だ。低エネルギーなのに、普通の妖怪と同じ、高いエネルギーを送ればむろん壊れる。

つまりは、恐れられすぎると暴発して死ぬ。逆に恐れられなさすぎると力が働かなくなり死ぬ。

 

「なんて・・・なんて残酷なんだ。」

 

私は、無意識にそう嘆くしかなかった。

 

 

 




はい、紫さん。連れていかれました。
一体どうなるのかな・・・

妖怪の分類

伝承発生型
恐れ発生系:恐れから生まれた最初の個体。
生殖系:恐れ発生系から生まれた純粋な妖怪。

自然発生型
正体不明系:自然に生まれて人々から正体不明とされる系統
種族限定系:種族としての存在が一人に限定される系統
突然変異系:自然発生型でも多くの恐れを変換できる系統(純なる最強)
穢れ系:昔の妖怪たち、すでに絶滅している。

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