◇◇◇
せせらぎの丘。
「ではソウさん、今日はどうしましょうか?」
合宿、四日目。早朝。
スイレンの試練製作も今回で三回目。
内容も具体的に固まりつつある。ぬしポケモンの用意も順調だ。
「その前にさ、スイレン」
「はい?」
「体の方は大丈夫なのか?」
彼は心配する。
昨日の非日常から一転して今朝は通常運転。彼が私の身を案じるのも無理はない。
「大丈夫です。それよりも私にとってはソウさんと一緒に居られるこの時間の方が大事ですから」
「なら良いけどさ………」
「体調もこの通り!元気一杯です!」
くるりん、と一回転。
ここまで見せられ、彼も渋々納得した様子。
「では、始めましょう!」
彼と相談した結果。
まずは昨日の大雨による被害がないか、周囲の点検となった。
それを早速、小耳に挟んだ彼の
◇◇◇
合宿、四日目。昼の部。
「唐突だけどさ、スイレン」
場所は砂浜。
四日目のスケジュールはバトル大会。
ククイ博士から生徒一人に一個、ランダムにモンスターボールが配布された。
初対面となるポケモン達と協力しあい、生徒同士で真剣バトルをしてもらうのだ。
午前中は各員、ボールの中にいるポケモンとの触れ合い兼作戦会議に当てられた。因みに優勝者には景品もあるそうで張りきる生徒もちらほら。
私を含めたサポート係の仕事は主にポケモンとトレーナーの関係性を築き上げる助言をしてあげる事。またはポケモンの特性や特徴を活かした戦闘スタイルを持ち主の生徒と一緒に考えてあげる事。
あちらこちらで生徒の悲鳴が上がった。なんで?
―――そして、現在に至る。昼過ぎ。
イワンコとニャビーの対決が繰り広げれていた。
一世一代、アローラスクール生のトーナメント戦が開催されたのだ。
一回戦を順調にポケモンと息を合わせて突破する者。本番に慌て吹いて、指示すらまともに出せなかった者。
百人百色までとは行かないが、見応えある試合展開を繰り広げていた。
「どうしたの?マオ?」
私やマオは試合を見守る担当。
審判はククイ博士やカキ、彼が交代で担当していた。リーリエは試合で怪我をしたポケモンの治療担当。
あ、それと私はピーチパラソルの陰に隠れるように立っている。絶好の海日和で燃えたぎるように暑いのだ。
マオは水着姿のまま、私の隣に来る。
それはマオのイメージ色、緑を基調としたビキニスタイル。肌の露出が多い。
随分と攻めた格好だ。
私は自然と、本気で自然と女の子特有の膨らんだ胸部に視線が移る。
立派に出ていた。
両手を自分の胸に当てて己に問うてみるが返答はない。なんて理不尽な格差だろうか。
「快くして聞いてね」
「う、うん………」
顔が近い。
「スイレンって………好きな人いるの?」
「………え?」
「ほら、相手が男の子としての話」
「きゅ、急な話………」
動揺が走る。
この話題は過去にも度々上がったはず。なのに、何故私はここまで心を揺さぶられなければいけない。
「その反応………手応えありと見た」
「そんなこと………ない」
ぷいっ、とそっぽを。
「カキ?え?まさか、マーマネだったり………はないか!」
「だから、マオ、違うって」
若干失礼な発言があったような。
「だとすれば、
「なっ………!!」
「固まっちゃった。やっぱりね~。長い付き合いのマオ様を舐めちゃ駄目だよ、スイレン」
咄嗟に確認。聞かれていたらと思うと。
良かった。彼はあっちで試合の審判をしていた。
「合宿中のスイレン、ずっとソウ君にベタベタしてるもん。分かりやす過ぎるよ」
「ベタベタって………」
表現が酷くないだろうか。
「勿論、応援するよ。女は度胸が肝心って私のお母さんが口癖のように言ってたし、ファイトあるのみ!!」
「ありがとう、マオ………でも、正直な所、まだ分からない。人を好きになった経験なんて私には無いし………ソウさんを好きかどうかだなんて余計に………」
「そっか………スイレン、残念だけど気付いてる?」
「何が?」
「悩んでる時間そんなに無いんだよ?明日で合宿は終わり。ソウ君は特別講師だから、その後どうなるかは分からない。アローラにもう少し滞在するかもしれないし、直ぐにホウエンに戻ってしまうかもしれない。どちらにせよ、ソウ君との別れは近いってこと」
「あっ………そっか」
合宿も明日で最終日。
つまり、彼と一緒に過ごせるのも明日で最後。マオの言う通り、タイムリミットはすぐそこまで迫っていたかもしれない。
「さっきも言ったけど、全力で応援するから!何か困ったら直ぐに相談して?」
「うん」
「ほら~スイレン~元気出して~。ソウ君、こっちに来てるよ」
「えっ!?」
「う・そ♪」
怒りゲージ、上昇。
「マーオー!!」
「えへへ~、ごめんなさ~い」
「許さない………!!」
「あら?マオさんにスイレンさん、どうかしました?」
「あっ、リーリエ!!ちょっと聞いてよ~、スイレンが―――」
「黙る。ね?」
「あの………スイレンさん?」
余計な口出しはさせまいと。
リーリエの困った表情が視界に入る。ごめんなさい、と心中で誤りつつ、マオを懲らしめにかかる。
そして―――女子会(物理)が始まった。
◇◇◇
マーマネの部屋。
「来たみたいだね」
宿の部屋を開けると主の声が。
キャプテン兼幼馴染のマーマネだ。言わずと知れず、実験に没頭する電気バカ。
そんなマーマネだが、夕食の時に部屋に来るように耳打ちされた。まるで誰かに聞かれるよを避けるかのように。
回る椅子に座るマーマネ。あんな椅子、本来は部屋に設置されてない筈なのだけど。
「それで話って?」
詳細は全く語られてない。
ただ、私にだけしか話せない内容らしい。
マオやリーリエ、カキには秘密にしておけとマーマネから出された条件にあったから。
「合宿の先生について………だよ」
「ソウさんのこと?」
「うん、その人。スイレン、最近だとその人と特に仲が良いんだって?」
「えっ………た、多分………」
急に問われ、また動揺が走る。
胸辺りがいきなりチクッと刺された感触が全身を駆け巡った。
「あまり良くない傾向だね」
「………どういうこと?」
つい、怒気を含んだ私の声。
昔から付き合いあるマーマネでも彼を侮辱するのであれば容赦はしない自信だってある。
でも、その私の返しすらマーマネの予想通りであったのか、長くため息を吐いた。
「怒らないで聞いてほしい」
「うん」
「スイレン、君はその人に頼りすぎだ」
「………私が?」
「うん。合宿が始まってからのスイレンはずっと、あの人の近くに居ようとしている。しかも、挙げ句の果てには、試練さえもその人に援助してもらってるって話じゃないか」
「………で、でも!!」
「でもじゃない。僕達はキャプテンだ。伝統ある試練に外部の人間が関与するなんて事態すら、有り得ない」
「外部の人間って………!!ソウさんはそんな人じゃ………!!」
「なら、スイレン。僕から一つ質問」
マーマネの指摘は正論。
試練は島巡りにおいて、当初から引き継がれる伝統の証の一つ。キャプテンとしての務めは試練を通して、挑戦者を迎えること。
私はそれを放棄したのも同然の行いをした。外から訪れた彼に甘え、今抱えていた問題を彼に擦り付けてしまった。
私にはぐっと堪えるだけしか出来ない。
「彼についてスイレンは何を知ってるの?」
「ソウさんは………バトルも強くて、頼りになって、優しい人………です」
「ホウエン出身で地元のポケモンリーグでベスト4まで勝ち進んだ経歴も持つ、もあるんだよね?」
「うん」
「でもさ、言い換えれば、スイレンの知ってる彼はアローラに来てからの彼だけってことになるよ。過去に海の向こうで何をしていたのかも、全部本人の口からのみ。しかも断片的」
「マーマネ、流石の私も怒るよ。さっきから何が言いたいの………!!」
推理の如く、証言を並べられる。
徐々に私の気持ちを踏み躙られる不快感が増していく。本気で鬱陶しい。
マーマネは一拍置いて、口にした。
「
「え?」
「何も分からなかったんだ。僕の全総力を使って、調べてみたけど彼の個人情報すら掠りともしなかった。それどころか、ホウエン地方で上位に並ぶトレーナーなら噂の一つや二つはあっても良いのに見事に綺麗さっぱりないと来た」
つまり、身元不明。
「………ソウさんが嘘をついている?」
「うーん、それは断定しずらいかな。だって、元々はククイ博士の紹介だよ?嘘の経歴を語って博士に近づこうものならすぐにバレちゃう」
「確かに………」
「因みに僕の結論はこうだ。あの人には僕達ですら言えない重要機密を抱えている可能性があるんじゃないか、と。そして、それを死守する為に知名度の低いアローラに逃げるようにして来たんじゃないかって」
「………」
「ククイ博士も恐らく全部とは言わないけど、ある程度の事情は知ってる筈。だって、おかしい点がいくつかあるんだ。毎年恒例の夏合宿に今年からいきなり先生が派遣されるのもその内の一つ。きっと、彼からしてみれば口実作りには絶好だったんだろうね、先生という立場は」
―――違う!!ソウさんはそんなこと絶対にしないもん!!
………言えなかった。
マーマネが私の目を真っ直ぐ見る。
黒光りした私の瞳は大きく揺らいでいた。
私の知る彼と知らない彼の二つに迷いが生じてしまったから。小さい罅から繋がる矛盾に気づいてしまったから。
合宿中に私が見た彼は本当の彼だろうか。
それとも全て偽り?否定できない。
―――悔しさが芽生える。
マーマネが悪い訳でない。マーマネはマーマネなりにアローラを守ろうとしてくれているのは長年の付き合いで分かる。
原因は私だ。芽生えつつある気持ちに釘を打ち込んでしまった。マーマネの忠告に素直に頷けない自分がいた。
そして、気付かされる。
―――私は彼を好き、だと。
だから。だからこそ、とても悔しい。
何も知らず、ただ彼の隣に居て一緒に思い出を作るだけで満足してしまった自分。
故に彼は決して疑いをかけるような人ではないと叫びたいのに、いざとなると叫べない己の劣等感に。
「だから、スイレン」
悔しい。悔しい。
「彼と仲良くするのは………あまり………」
マーマネ、ごめんなさい。
「スイレン!?」
部屋を飛び出た。
背後から聞こえる幼馴染の声を無視して、宛もなく走った。
兎に角、走り続けた。今は誰とも会いたくなかった。
玄関を越えて、外に出る。
心の迷いから逃げたかった。全てを投げ捨てたかった。
でも、無理なのだ。
脳裏に浮かぶ私と彼との二人きりの光景に最後は躊躇して、結局、掌で握り締めてしまう。意外と私は優柔不断な女の子だったらしい。
そして、恋するのがこんなにも辛いだなんて。初恋だから、全然知らなかった。
彼と居ると、胸がきゅっと締め付けられたのも数知れず。その度に、誤魔化すかのように精一杯の演技で私は頑張り続けたのに。
全ては幸せを求めてだったから。不思議と彼との時間は心が落ち着いた。
運命さんはきっといたずら好きなんだ。私の悩んで、苦しむ姿を見て、今頃何処かで嘲笑ってやがるんだ。
こうなる結末だったのなら。
初めから操作されたゴールを目指すだけだったのなら。
だったら、一層―――
恋なんてしなければ――
-12- へ続く
*スイレン、山場を越えたと思ったか!
残念!!君が越えたのはバクーダ山の一つに過ぎないぞ!!わははは!!
………さっき、思い付きました。はい。