真夏に咲いた一輪の恋花   作:ソウソウ

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 後、数話で完結する予定になります。
 台風やべぇー。


-12-『守神×王子』

 ◇◇◇

 

 岩場。崖の先。

 

「………今日も居るんですね」

 

 満天の夜空。

 かの下に座り、背中を向ける彼。先日と全く同じ場所に。

 彼の後ろに立つ。彼は振り返らない。

 走って、走って。走った結果。

 皮肉にも、涙の要因である彼の元へと辿り着いてしまった。

 

 ―――否、違う。

 

 可能性に悲願を掛けたのだ。

 きっと、彼処に居ると心の何処かで信じた私が自然と、それこそ無意識に求めた結果が成した現実。

 赤く目元は腫れている。涙はもうない。

 不幸中の幸いなのか。光源の少ない岩場では互いの顔をはっきりと目視出来ないのが唯一の救い。

 

「………好きなんでね、此処が」

 

 海を見つめたまま。

 黄昏るように、無の世界へ没頭するかのように。彼はそう応える。

 

「………」

 

 静寂が続いた。

 波の静けさだけが鼓膜を震わせる。夜空の星々がやけに輝いているように見えた。

 

「ソウさん………」

「ん?スイレン、お前………泣きそうな声だけど、大丈夫か?」

「えっ?あ、はい………大丈夫です」

 

 心がズキっと痛い。

 マオの恋のアドバイスとマーマネの忠告が心中をぐるぐると回り続ける。

 私は何を信じれば良いのか。ずっと一緒に居た彼なのか、それとも私の知らないまま存在している彼なのか。

 

「明日で合宿が終わります」

「だな~。あっという間って感じがする」

「それでですね………ソウさんは合宿が終わってからの予定とか………ありますか?」

「ん?明後日以降の予定か………そうだね。折角だし、アローラ諸島を観光巡りするのも有りかな。もしくはホウエンに戻るか」

「やっぱり此処から離れちゃいますか………?」

 

 隠しきれない本音。

 でも、これは只の我が儘だ。彼にも彼の事情ってものがある。知り合って間もない者が踏み躙るような無礼は許されない。

 不安に揺れる私の言葉。

 自然と彼も感じ取ったのだろう。背後へ黙って振り向く。

 

「………ごめんな」

 

 そして。

 視線を下げ、また夜空の海を眺めた彼が告げたのは、謝罪の言葉であった。

 

「そんな………私こそ、ソウさんを困らせるような事を言ってしまって………」

「そんなことはない。俺だってスイレンと仲良くなった今、合宿が終わってからも一緒に居たいと、釣りとかもっとしたかったと思ってるよ」

 

 一言一句。聞き逃すまいと私はした。

 

「でも、俺は此処に、皆と同じ場所に居ては駄目な人間なんだ」

「違います!!私を含めて、皆、ソウさんと一緒に居たいって、思って………」

「本当に?」

「………少なくとも私はソウさんと一緒に居たいと思っています」

 

 脳裏をよぎる光景に。

 恐れのいてしまった私は口を閉じてしまった。断言しきれなかった。

 そして、彼はその事実を当たり前のように受け入れていた。

 

「………大雨の日にね」

「え?」

「あの日、スイレンを探す途中に俺、あるポケモンと出会ったんだ」

「ポケモン………」

「名前は分からないけど、そいつ、島の守り神的なオーラがあったとだけ覚えてる」

「まさか………()()()()()()………?」

 

 とちがみポケモン『カプ・コケコ』。

 外殻とハサミを合わせたような両腕、頭に橙色のトサカの装飾がある。

 そして、このメレメレ島の守り神として奉られる存在。気まぐれで好奇心旺盛な一方、怒りっぽく責任感の強い性格の持ち主。

 上記に加えて、カプ・コケコと会える人物などそうは居ない。一部ではカプ・コケコに認められた者だけの前に出現すると噂されている。

 

「そっか………やっぱりね」

 

 でも、何故カプ・コケコは彼の前に。

 分からない事だらけで整理が追い付かない。

 

「あいつはカプ・コケコだったのかな?会ったのはほんの一瞬だったから微妙だけど。ティアの落とした雷を合図にすぐどっかに飛んで行っちゃった」

「………カプ・コケコは私達、島民の守り神です。何かを伝える為にソウさんの前に現れたのかもしれません」

「うん、そこら辺は分かってるつもり。だって、カプ・コケコと目があった瞬間にあいつの言いたい事、全てを理解してしまったからね。残念ながら」

「どういう………?」

「あいつは俺にこう言いたかったんだ。"この島から出ていけ"―――ってね」

「っ!?」

 

 嘘だ。きっと嘘だ。

 でも、これが事実であれば守り神のカプ・コケコは彼を島の害と判断した証となる。

 どのように害を為すのか。改善に向けて動きたいのに。カプ・コケコ本人のみにしか分からないのが悔しい。

 唇をぎゅっと噛み締める。

 キャプテンであろうと守り神のカプ・コケコに抗えるだけの力はない。出来るのは事の行方を静かに見守るだけ。

 島の長、島キングや島クイーンなら可能性があるかもしれない。そんな希望を微かに持ちつつ、迷惑をかけたくない思いもまた等しく。

 

「多分この解釈で間違いないと思うよ」

 

 彼はそう言う。

 そこに絶望の色はない。あったのは黙って受け入れるだけの覚悟のみ。

 

「流石は守り神。俺も一目見ただけで言われるとは思ってなかった」

「………どうしてですか」

「どうしてとは?」

「ソウさんはそれで良いんですかっ!?」

 

 語尾が荒れてしまう。

 彼の慣れた態度に疑問を抱いた。まるで初めから自分は邪魔者扱いされるかのような、彼の言い分に。

 

()()()()。俺は素直に受け入れるだけ」

「………分からないです」

「なら、スイレン………知りたいか?」

「えっ?」

「俺の隠す秘密の全てを………知りたいか?」

 

 彼がそう尋ねる。

 意図知れず、本人の口から知れるチャンスがまさに今、到来した。

 カプ・コケコが彼を排除する、そして、その事実を彼が容認する理由を。

 昨日、彼が言い止めた台詞の続きを。彼の抱える秘密の全容を。

 

「ただし、絶対に他言禁止。これを知るとなると一つの災害が起こるか否かの運命を知るのと同等だって、先に忠告しとく。

 それでも尚………スイレン、君に俺の全てを知りたいって思いがまだ消えないのであれば、後で俺に付いてきて欲しい」

 

 彼は立ち上がる。

 今、気付いたが彼の手持ちはどの子もボールの外に出ていない。

 ボールを一つ握り締めた。ぽん、と放つそれから出てきたのはブラッキー。

 そして、ゆっくりと彼は私の隣を通り過ぎていく。

 数歩歩いた先で彼の足が止まった。

 

「………今の俺、多分とても浮かれてる。普段なら絶対に喋らないのにスイレン、君なら………って考えてしまう」

「………」

「ここまで言わないのは、君を巻き込みたくない一心の行動。それだけは分かってくれ。俺の抱えるこの秘密は生半可に扱うと取り返しの付かない後悔を背負うことになる。そんなこと、島の女の子には重すぎる責任だってことも分かってる。

 これは甘えだ。スイレンと出逢った日から今日までの間で、心を許してしまった俺の唯一の甘え。

 じゃあ………また」

 

 彼は再び歩きだす。

 

「ロウちゃん………」

 

 ブラッキーは私の足元に。

 きっと私の護衛、彼への案内役として役に就いたのだろう。

 しゃがみこんだ私にブラッキーは頬をそっと寄せてきた。

 

「ふふ………」

 

 ブラッキーが小さく鳴いた。

 どちらを選んでも彼は気にしないから。たっぷり時間をかけて選んでね。

 そう伝えてきた気がした。

 

「ありがとね………でも、私もう決めてるから」

 

 軽く頭を一撫でしてから、私は立ち上がり、足を伸ばす。

 あれ程執拗に忠告するのも彼の優しさ。危ない事に巻き込みたくない思いが形となっただけ。

 

 ―――でも、それは私も同じ。

 

 私は歩き始めた。

 勿論、目指すは彼の待つ場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 砂浜。

 

「………後戻りは出来ないぞ?」

 

 波打ち際に立つ彼が背を向け、言う。

 ブラッキーと共に辿り着いた場所は私と彼が初めて出逢った海岸であった。

 

「はい。覚悟は………あります」

「そっか………あーあー、これがバレたらククイ博士にも怒られるだろうな………」

「ククイ博士も知ってるのですか?」

「いいや。博士は俺が特別な事情があるってだけで詳細は一切知らないはず」

 

 マーマネの推測は的中していた。

 

「スイレン、トレーナーが持ち歩ける手持ちポケモンの限界は?」

「………六体です」

 

 困惑した。常識過ぎる問いに。

 今更、彼は何を私に確かめたいのか。

 

「隣においで」

「はい」

 

 私は砂を踏み締め、彼の隣へ。

 ブラッキーは背後で静かに座った。周りの監視をするようだ。

 

「そう、六体が正解。勿論、俺も頼れる仲間達と一緒に居る」

 

 私の知る限りの彼の手持ちは―――

 ブラッキー。クチート。アシマリ。ラグラージ。ラティアス。

 計、五体。最後のポケモンは未だに目にしたことはない。

 

「でも、俺には更に守るべき存在がいるんだ」

 

 つまり―――()()()の存在。

 

 ポケモンが技を複数持つように。

 プロとなるトレーナーにはポケモンの所持数に制限は掛けられていない。中には育て屋に預けての育成、バトルによって使い分ける等するトレーナーも数知れず。

 あくまで、"六体"はフルバトルにおいてフィールドに出せるポケモンの数を示す。殆どのトレーナーはその誓約があるので、手持ちを普段から六体以下にして行動するのが基本とされる。

 だが、七体以上を手持ちに持つ行為も違法ではなく正式に許可が降りている。実行するかは別として。

 自分の実力に似合った手持ちの編成をするのが勝利への近道となる。

 彼は腰から別のボールを取り出した。

 

「それがこの子」

「マ、マスターボール………!!」

 

 彼の持つボール。

 紫に模様され、耳のような突起があるボールに私は震えた。

 どんなポケモンでも一発でゲットが可能とされる伝説のボール。

 

 "マスターボール"。

 

 そのボールが眼前に。

 

「出ておいで」

 

 刹那―――神秘が生まれた。

 光に包まれ、その子は徐々に姿を見せる。体格は一般の子供よりも小さい。

 頭から伸びた二つの触覚。クリオネの様な姿に薄い淡い色をしている。

 

「嘘………!!」

 

 私はその子を知っていた。

 海を好きであれば、一度は気になったかもしれない。

 海での頂点に立つ存在は誰だろうと。

 疑問に思った私はそれを昔に調べた過去を持つ。

 どうせ、カイオーガでしょと思っていた当時の私。ところが、あのカイオーガではなかったのだ。まさかの答えに度肝を抜かされた、あの記憶は今でも鮮明に思い出せる。

 海のポケモン達のリーダー。海の王子。

 その名は―――

 

「マナ?」

 

 ―――『マナフィ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -13- へ続く。

 

 




*映画を観たのは十年前。よって、覚えてません。
 最後の六体目はいずれ近いうちに登場します。作者独自解釈要素も入るので誰も当てられまいだろうと意気込んでます。
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