真夏に咲いた一輪の恋花   作:ソウソウ

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 夏ですね。暑いです。(お久しぶりです)



-18-『限界×誘拐』

 ◇◇◇

 

 洞窟。

 

「ソウさん………!!ソウさん………!!」

 

 何度も呼び掛ける。体を優しく揺らす。

 だが、彼は目を覚まさない。まるでぷっつりと切れた糸のように。

 胸はゆっくりと上下に動く。彼は意識を失っただけ。

 ―――でも、何で急に?

 

「キュゥ………」

 

 ラティアスの鼻先がそっと彼の頬に触れる。心配そうにしているのが伝わる。

 私はその光景を近くでじっと見ていると、ラティアスはこちらに首を差し出してきた。

 メガ進化に必要な素材。メガストーン。

 勿論、ラティアスもアクセサリーとして首もとに装備している。

 まるでメガストーンを見せびらかすようにラティアスは首を伸ばしてくる。

 

「もしかして………」

 

 ラティアス。ラグラージ。クチート。

 私が直接見ただけでも、彼の手持ち三体以上が確実にメガ進化をしたままバトルを同時進行で行っていた。

 よく考えれば、異常現象では無いだろうか。

 メガ進化はトレーナーとポケモンとの絆の象徴。生半可な関係では不可能とされている。世界中でも一握りのトレーナーしか出来ない技術の一つ。

 だがしかし。

 彼はあっさりとメガ進化を実行していた。

 それも三体同時。耳にした話では一体だけでも、メガ進化はトレーナーに途轍もない疲労感を襲わせると言われている。となれば、単純計算だけでもその三倍は彼の身体を常に蝕んでいたのでは無かろうか。

 そして、流石の彼も耐えきれない膨大な量に募ってしまったのではないかとすれば。

 

「………でも、どうしよう」

 

 彼の頭を私の膝に乗せる。そっと優しく髪を撫でる。呼吸は安定している。

 原因は予想がついた。次はその解決策。

 恐らくこのまま休んでさえいれば、いずれは自然と彼は目を覚ますだろう。

 だとすれば、私は何をすれば。大人しく時が解決するのを待つだけなのか。

 

「あ………他の子達………」

 

 不安要素はまだある。

 それは今、この場に居ない彼のポケモン達。戦闘中かもしれないのにメガ進化の強制解除が原因で、窮地に陥った可能性がある。

 現状、安否を確認出来るのは私のアシマリ。それにラティアス(ティア)とブラッキー、クチート。ボールに入ったままのマナフィ、アシマリ(マリー)だけである。

 応援に行きたいのは山々。だけど、彼をこのまま置いてけぼりには出来ない。

 

「オォウ!オォウ!」

「どうしたの?アシマリ」

 

 突然、鳴き声を突き上げるアシマリ。

 何かを伝えようとしている。アシマリのいる洞窟から海へと繋がる岩盤へ視線を向けた。

 すると―――

 

「ネンドール、"シャドーボール"です」

 

 鳴き声は悲鳴へ変わる。

 脳の整理が追い付かないまま、私の目の前にダメージを負ったアシマリが転がってくる。

 

「アシマリ!?大丈夫!?」

「オゥ………」

 

 慌ててアシマリを抱える。

 アシマリから返事があった事実に一安心。少なくとも命に関わる重傷では無い。

 私はアシマリをこんな風にした犯人のいる先、洞窟から海へと広がる空間へ視線を映した。

 

「もう一度です、ネンドール」

 

 ボートに乗った一人の男性。

 今回の主犯でもあるイカロスがネンドールに再び指示を繰り出す。

 主人からの命令にネンドールは忠実に遂行。またしても禍々しい黒い球体が私の方へと向かってくる。

 

「ラッ!!」

 

 と、いきなり爆発。

 そして私の前に仁王立ちして現れたのはブラッキー。さっきのシャドーボールもこの子が相殺してくれたと瞬時に理解する。

 

「ありがとう、ロウ」

 

 返事は尻尾の揺さぶり。常にクールだ。

 しばらくして爆発による砂煙が晴れる。状況はあまり変わらず。

 ブラッキーとネンドールの睨め合いが続く。

 

「さてと………」

 

 イカロスがボートを岸につけ、上陸。

 

「懸命なご判断を。私の要求はただひとつ。そこにひれ伏している彼を置いて、此処から立ち去りなさい」

「………」

「それとも見逃してやるからとっとと失せろ………と言われないと分からない愚か者ですかね」

 

 ギロリ、鋭い眼光が飛ぶ。

 普段の私ならそれに怖じ気づいて何も言えずじまいで終わっていた。

 でも、この状況で動けるのは私だけ。

 ラティアスとアシマリは負傷中。ブラッキーはネンドールを牽制してくれている。

 他の誰かではない。私が彼を助けないと駄目なんだ。

 

「イヤ」

「………なんと?」

「イヤ!貴方にソウさんを渡す訳がない!」

 

 絶対的な拒否。

 私は臆する事無く、イカロスに叩き付けてやった。

 対するイカロス。ここまで明確に反抗されるとは予想外らしく、眼鏡越しに目が見開いていた。

 続いて、口元をひきつらせる。

 

「そうですか。なら遠慮はしません」

 

 私の警戒心が強まる。

 思わず口では豪語したが、端から見れば圧倒的不利な状況にいる。

 

「ネンドール"破壊光線"です」

「っ!!お願い、ロウ!!」

 

 ノーマルタイプ最強技。

 ネンドールが発射の体勢に移行すると同時にブラッキーも座る私の前にジャンプしてくる。

 空気が揺れる程の蓄積された高エネルギー砲がネンドールから解き離れたと同時にブラッキーは私とアシマリを包み込むドーム状のバリアを形成した。

 

 ―――"まもる"。

 

 どんな攻撃からも一度は必ず防ぐ技。

 バリアに破壊光線が直撃するもブラッキーが多少踏ん張るだけで空気の揺れはゆっくりと収まる。

 と、ホッとしたのもつかの間。

 

「今です。"催眠術"」

 

 ―――別のポケモン!!

 

 私の意識が遠退く前に見えた景色。

 イカのような巨大な体型に二本の長い触手。ゲソが髪の毛のようにゆらゆらと揺れている。

 

 ぎゃくてんポケモン『カラマネロ』

 

 催眠が得意。一方で物理技にも定評があり、全体的に天邪鬼な一面も兼ね備える癖の強いポケモンでもあった。

 勿論、アローラでは見掛けないポケモン。故にイカロスの手持ちの一体であると予想がつく。ネンドールの大技を陽動に使い、こっそりとカラマネロを接近させていたに違いない。

 やられた。せめて、彼とマスターボールだけは死守しないと………。

 

「………ソウ………さん………」

 

 伸ばした私の手はやがて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 数分後。

 

「っん………あれ………?」

 

 やけに重い体を起こす。

 起きた場所は意識を失くす直前と何一つ変わらない洞窟の中。特に目立った変化はない。

 いや―――まだ確認すべき事がある。

 

「………っ!!ソウさん!!居ますか!!返事してくださーい!!―――ない」

 

 彼が居ないのだ。

 彼の姿を辺り一体探りに探っても気配すら感じられない。そして、肝心のイカロスの姿もない。

 これはつまり、彼は何処かに………。

 不味い不味い不味い。彼の意識がないまま誘拐されてしまった。私の実力では救出はおろか追跡でさえ困難なのに。

 加えて、イカロスの狙いでもあるマナフィの入ったボールも一緒に敵の手に渡った可能性も浮上してくる。

 一気に募る不安に私の肩が思わず震える。

 ここは一度戻って、ククイ博士達に助けを求めるべきだろうか。でも、猶予が一刻もないこの非常事態。戻るだけでも相当なタイムロスへと繋がる。

 

 ―――ど、どうすれば………!?

 

「ラッ!!」

「あっ、ロウ………無事だったんだ。良かった………」

 

 ブラッキーが吠える。

 私のパニック思考も一瞬で落ち着きを取り戻す事に成功した。

 そうだ。

 まずはポケモン達の無事を確認すべきだ。

 

「アシマリ………は、うん居る。ティアも―――」

「キュゥ!!」

「上手く岩影に隠れてたのかな………うん、賢い。他にいる筈のポケモンは確か………モンスターボールにいるマリーだけ」

 

 どうやらイカロスは彼だけを狙いに絞っただけらしい。彼だけが被害に遭い、他のポケモン達に関してはあまり影響を受けていない。

 ブラッキーの参戦がイカロス側の作戦に大きく邪魔をしたのだろうか。彼を回収した時点で撤退を開始したようにしか思われない。

 

「出ておいで、マリー」

 

 彼から預かったボール。

 その中にいるのは彼がアローラで初めてゲットしたポケモンでもあるアシマリ。

 私とお揃いでもあった。それが何だか無償に嬉しくて、二匹のアシマリが揃って並ぶ時はつい微笑んでしまうことも。

 

「え?」

 

 ―――故に私は目を疑う。

 

 やがて、光が消える。ボールから出現したポケモンの全容が映し出された。

 少なくとも私の知るアシマリではない。

 アシマリにはない頭に二本の触角。本来ある筈のヒレはそこになく、代わりに小さな足があった。

 

「そんな………!?」

 

 ボールから出てきたのは―――

 

「マーナ?」

 

 ―――()()()()であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -19- へ続く。




*スイレンのアシマリ、アニポケではアシレーヌに進化しちゃったってマジですか?
 てっきり進化しないものかと………。
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