真夏に咲いた一輪の恋花   作:ソウソウ

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-2-『宿泊×紹介』

 ◇◇◇

 

 海の家。

 

「あら!もしかして海にダイブしちゃった?」

 

 案内で辿り着いたのは一軒家。

 彼を連れて店へと正面から踏みいれば、全身びしょ濡れの彼を見て、そう声をかけられた。恥ずかしながら、こう見えて母親だ。

 ラプラス貸し借りの受付をしてもらった時はまさか母親とは思わなかったが、こうして二人を見比べてみると確かに雰囲気とか似ている、と言うのは彼の後日談。

 

「まぁ………はい」

「お母さん、この人、中に入れていい?」

「えぇ!勿論良いわよ!」

 

 やだぁ、イケメン!、と捨て台詞を残して店の奥に入っていた。あまりそういうことはしてほしくない。娘として恥ずかしい。

 ありがたいことに、彼は気にした様子はなく、くしゃみを一つ。相当、彼の体は冷えてしまったようだ。

 

「こっち」

 

 そう言って、店の奥へと入る。

 店と実家は兼用なので一歩踏みいれば、そこは普通の生活感溢れるスペースへと早変わり。

 リビングを素通り。妹達がいる可能性もあったがどうやら二階の部屋にいるみたい。都合が良かったので彼の案内を早めに済まそうとする。

 後ろへ振り向くと、彼は向こうのその場に立ったままであった。

 

「どうしました?」

「いや………ここまでしてもらわなくても俺としては日常というか………」

 

 彼は意外と頑固。

 こうやったらもう強行手段、と彼の元へと早足で戻り彼の腕をがっしり掴む。

 

「へ?」

「行く」

 

 一瞬の抵抗を感じたが、ようやく諦めたのか彼は素直に付いてきてくれた。

 再びリビングを抜けて、彼を風呂場へと連行する。彼本体を風呂場へ続く洗面所へと押し込み、私は扉へ行くと、手を扉へ、一言を彼に添えた。

 

「着替えは置いておくから先にお風呂に入っておいてください」

「………分かった。ありがとう」

 

 すんなりと動く彼。

 扉を閉めながら、次にすべきことを考える。

 まず、着替えの服。父親ので事足りるだろう。そして、妹達に今は絶対に風呂場に近づくなと忠告をしておく。

 ここでようやくあることに気付いた。

 

「あの人の名前………聞いてない」

 

 着替え、取りに行こ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 数十分後。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

 風呂から上がった彼がリビングに姿を見せた。ぽかぽかっと頭から湯気が出ている。

 父親の派手な服装に身を包んだ彼は普段の物と違うのか、何度も服を伸ばしたりと慣れない様子だ。

 

「どうですか?服は大丈夫?」

「ん、特に。サイズもちょっと大きい程度」

「なら、良かったです」

 

 首を彼は横に振る。

 

「洗濯までしてもらって………ほんと助かる」

「ううん、全然です。明日までには乾くみたいだからゆっくりしてってください」

「かたじけない」

 

 そう彼は頭を下げる。

 きっと彼は何時までも弁解の意思を示すだろう。短い付き合いでも分かるぐらいの誠心誠意、その気持ちが伝わってくる。

 

「ご飯の用意も出来てますよ」

「わざわざ俺の分まで………」

「食べない方が―――」

「分かってる。いただくよ」

 

 数々の料理が並ぶテーブルに彼を案内。

 長方形のテーブルに彼は私の隣の席へと腰を下ろした。

 その彼が座るまでの間、彼の前の少女二人の視線が釘付けとなっている。

 

「紹介しますね、左から妹の"ホウ"と"スイ"です」

「よろしく!!お兄さん!!」

「よろしく!!お兄さん!!」

「おぉ………見事な双子っぷりだね。よろしく」

 

 滅多にないお客さんに二人は興奮ぎみ。

 成長したとは言え、無邪気な子供に変わりはない。せめて彼の迷惑にだけはならないで欲しいとせつなに願う。

 ふと、彼の顔がこちらへ向いた。

 

「そう言えば………」

「うん?」

「君の名前を聞いてなかったなと思って」

「私の?」

 

 名前を知らないのはお互い様らしい。

 彼と出逢ってからずっと互いに名乗りはせずに来てしまっていたので当たり前なのだか。

 

「私の名前は"スイレン"と言います」

「スイレン………」

 

 噛み締めるかのように呟かれる。

 むず痒い思いに浸りながらも、今度はこちらから尋ねる。

 

「あなたの名前は何ですか?」

「………"ソウ"。俺の名前はソウだよ」

「ソウさん………ですか」

 

 はっ、と気付く。

 自身も先程の彼と同じ行動をとっていることに。

 彼の名前。"ソウ"。

 海にドボンした瞬間をたまたま目撃して、びしょ濡れのままに行く宛がなく寒そうにさ迷っていた人。

 

「おねーちゃん!!食べよう!!」

「お腹空いたよ!!」

 

 妹達も料理を前に空腹の限界だ。

 これ以上、二人を待たせてしまえば騒がれてしまい、参ったどころじゃない。

 彼も同じ結論に至ったのか―――

 

「まずは………」

「そうですね。先に食べましょうか」

 

 席に座り、両手を合わせた。

 

 ―――いただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 夕食後。

 

「お兄さん!!」

 

 妹のホウが座る彼の隣へ駆け寄る。スイはトイレに行って、此処にはいない。

 夕食はついさっき済ました。

 そして、ホウに至っては空の食器をシンクに運ぶように指示したら、いきなりのこれだ。早めに皿を水に浸けて欲しいのだが、子供に言うことを聞かすのは難しい。

 特に今日は彼がいる。

 自然と興味もそちらへ向いてしまうのだろうか。

 

「どうした?」

 

 ここは彼に任せよう。

 大人しく見守りつつ、ここは素直に自分で食器を片付けることにした。

 

「お兄さんはおねーちゃんのボーイフレンド?」

 

 ―――ガチャン!!

 

 危うく、運ぶ皿が割れそうになった。

 急上昇した羞恥心のせいで、頬が熱く染まる感覚に見舞われる。

 すっかり油断していた。妹達に余計な事を言うなと口止めするのを忘れていた。

 

「残念だけど、違うかな~。お姉さんとはさっき出会ったばかりだしね」

「え~」

 

 彼は彼で呑気に返事を返す。

 これでは動揺してしまった自分がなんだか馬鹿らしく思えてきてしまう。

 ホウの質問は続く。

 

「だったら!お兄さんはポケモントレーナー?」

「ホウちゃんから見て、俺は強そうに見える?」

「うん!!とっても!!」

 

 元気よく答えるホウ。

 トイレに行っていたスイも戻ってきた。

 

「正解。俺は正真正銘本物のトレーナーだ」

「わー!!」

「なら、ポケモン持ってるの!?見せてー!!」

「ん~?見せるのは良いけど………」

 

 彼の視線がこちらに。

 ポケモンを室内に出しても構わないかどうかの承諾を求めている。

 

「全然大丈夫ですよ」

「いや、それもあるけど………皿洗い手伝おうか?」

「え?………あっ。妹達の相手をしてもらった方がありがたいですよ?私も作業に集中出来ますし、それに二人とも学校に通ってますので、ソウさんから勉強させてあげてください」

「あー、ならそうする。んで、二人とも学校通ってるの?」

「「うん!!」」

「なら………これは今はいっか」

 

 彼は立ち上がる。

 自分のバッグのポケットを手探り、懐から一つのボールを出した。

 これは普段なら腰のベルトに付けてあるのだが、水の中に落ちてボールを落とさないように予め手持ちボールを移動させ安全を確保する、釣り人の基本的な作法によるものだ。

 

「ほら、出ておいで、"ロウ"」

 

 リビングに出現したのは『ブラッキー』。

 気絶していた彼のお腹を躊躇なく踏みつけたポケモンだ。

 主に呼び出されたロウ(ブラッキー)は欠伸を一つ。床に居座り、眠たそうにしている。

 

「うわぁぁぁ!!」

「本物のブラッキーだ!!」

「もしかして、初めて見る?」

「うん!!」

 

 ギラリと目が光るホウとスイ。

 それに彼のブラッキーが子供の無邪気な好奇心に寒気を感じてしまった。ポケモンはこういうのには敏感だ。

 助けてくださいと訴えるかのような視線。

 彼はにんやりと笑って告げる。

 

「ほら、存分に触ってきてもいいよ」

「ラッ!?」

「「やったぁぁ!!」」

 

 裏切られたと跳び跳ねるロウ。してやったりとにやつく彼。

 どっちもどっちである。

 ホウとスイはペタペタとブラッキーの耳やお腹回りを触り出してはその独特な感触に何回もはしゃいでいた。

 

「本当に良かったんですか?」

「ん?何が?」

 

 皿洗いを終えたので、立ってロウの被害現場を見守る彼の隣へ。

 

「あの………あんなに触られてますけど」

「それは大丈夫。さっきの仕返しだってことはあいつも分かってるだろうから」

「へ?仕返し?」

「俺の腹にのし掛かってきたやつ」

「………」

 

 彼の台詞を証明するかのごとく、ブラッキーは仁王立ちスタイルをしたまま微動だにしていない。

 ………まさかの目まで瞑ってる。

 

「仲が良いんですね」

「あいつとは昔からの付き合いだしね」

「そう言えば、ソウさんはアローラに来たのは昨日って言ってましたよね?」

「うん、昨日」

「ってことはどこの地方から来たんですか?」

「ホウエンだね」

「ホウエン!!」

「ん?」

「あっ………何でも無いです………」

 

 つい大声が。

 ホウエン地方で真っ先に思い付くのはあの伝説のポケモン。

 

「二人とも楽しそうだね」

「はい」

 

 されるがままのブラッキーには申し訳無いが、ホウとスイは初めての生で会うポケモンに興奮が収まらない。

 

「お兄さん!!技が見たい!!」

「どんな技使えるの!?」

 

 触るだけでは懲りたらしい。

 ブラッキーの主人に詰め寄る二人。拷問から解き放たれたロウはぐてっと床に寝そべっている。

 

「此処ではだめ」

「「ええー!!」」

「でも、直ぐに俺のポケモンが技を使ってるシーンは見れると思うよ」

 

 片膝を地面につけた彼はホウとスイに優しく告げる。

 

「………どうして分かるんですか?」

 

 彼は答えなかった。

 この真相が判明するのはいつなのか。今の私に知る手段はないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -3- へ続く。




 ◇◇◇〔おまけ・家に入ってすぐの時〕

「ところでさ………」
「はい?」
「あそこのポケモンは?」
「ニャースのこと?」
「ニャー」
「へぇー、ニャースか。こんな見た目のニャースもいるんだな………」
「アローラの姿で一般的だけど、もしかして見たことないですか?」
「まぁね。アローラ自体に来たのも先日の話」
「そうだったんですね。あっ………無理に触ろうとすると―――」
「うわぁっ!?お前、電気出すんかよ!!」
「"10万ボルト"を使えます」
「………仲良くしような」
「ニャー」
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