◇◇◇
海中。
「凄い………!!」
滅多に見れない海の神秘。
私は数多の海ポケモンが繰り広げる幻想的な水の景色に見とれていた。
中には海上ではお目にかかれない貴重なポケモンもちらほら出現している。あっ、ジーランスだ。
海の案内人、マナフィによる泡旅行。
すいすいと海中を進むので、泡の耐久性に不安を感じていたのは一瞬だけ。その後は私が子供の頃からずっと憧れていた海の美しき世界へと没頭していた。
やがて、私達は―――
「マナ!」
―――見えたよ!
「あそこが………っ!!」
海底神殿。
マナフィの住処であり、伝承にも登場する伝説的な場所。そして、私にとっては見覚えのある場所でもあった。
夢に出現したままの光景。夢の世界の出来事なので、鮮明な記憶は残っていないがうっすらと過る記憶の欠片と目の前の景色が合致するような感覚に陥っている。
私を運ぶ泡の遊覧船はやがて、神殿の手前辺りで停止した。
と、次の瞬間に―――
「きゃっ!?」
泡が破裂。海中へと追い出される。
呼吸がままならないと焦る私であったが、特に息が苦しい等の症状はない。寧ろ、普通に空気もある。焦った自分が恥ずかしく思えてきた。
「これが………海底神殿………」
一先ず、立ち上がる。目上げる先は巨大な石造建築物。特別な場所、とばかりに醸し出すオーラに軽く足がすくんだ。
辺りを軽く見渡す。此処が深海に位置するとは言え、普通に澄んだ空気もあって実に快適な空間が広がっている。
原理は分からない。もしかしたら、マナフィの力の一端かもしれないが今は溺れる心配がないだけ一安心である。
すると、私の後ろを付いてきていたポケモン達も私と同じ地表に降り立って来た。どの子も現実離れした空間に戸惑いつつも私の近くまで歩み寄ってくれる。
「オゥ!」
―――アシマリ。
「ラッ?」
―――ブラッキー。
「クッチー!」
―――クチート。
この子達が今の私の現戦力。
来る前はラティアスも居たが翼へのダメージが響いてしまい、無理は強いられない。洞窟に残って安静にしてもらっている。
「マナ!」
そして―――マナフィ。
改めて、確認。
私の成すべき使命はこの色違いマナフィを海へと還す事にある。それを果たすべく、命の保証もままならないまま海の神殿へと赴いた。
正直、怖い。こんな現実離れした状況に頭の整理など出来る訳がない。今でもこれが全て夢だったと言われたら、あっさり納得してしまう程に参ってしまった自分も何処かにいる。
でも、目的は成し遂げないとならない。いや、成し遂げてみせる。
他ならぬ、ソウさんの為に。
◇◇◇
海底神殿。最深部。
「………何これ」
決意を固めた数分後。
未知なる土地に踏み入れる覚悟を決めた私に待っていたのは理解に苦しむ現状であった。
「マナ?マナマーナ!」
「マナ~、マナ?」
「マナマナ!!」
揺らめく沢山の触角。
古風の神殿入り口をくぐり抜け、全体の中央に位置する広場らしき場所。
そこで私が目にしたのは存在自体が不明瞭な伝説のポケモンであるマナフィ達がわいわいガヤガヤと賑やかそうに過ごす空間。
研究している学者が喉から手を出すレベルではないかと思うぐらいに非現実的な光景に遭遇していた。
何匹いるのだろう。
1、2………10………27………。
うん、無理。数えるのは諦めよ。
少なくとも数十匹以上を占めたマナフィ達は余所者である私達の来訪に対して、特に嫌がるような反応はしない。
寧ろ、仲間である彼のマナフィの帰還にいち早く察知したのかぞろぞろと一同に駆け寄って来たのである。一応、神殿内部は地上なのでペタペタ歩きで。
マナも久しぶりの再会に満面の笑みと声で喜びを表していた。取り残されてしまった私を含むその他勢はただひたすら傍観の姿勢に入る。
にしても神秘的な空間だ。
湧き水の如く透き通る水路に辺り全てが囲まれ、その内側ではカラフルな花々が咲き乱れている。
マナフィ達の容姿も相まって何とも言い難い不可思議な時間が流れている。
「マナ!」
マナが足元に来た。
どうやら、仲間との再会の挨拶は一通り済ましたらしい。こちらに付いてきてとばかりに腕を振る。
若干、戸惑いつつもマナの背中を追う。
その道中で私は咲き乱れる花畑の広場を抜けると、石畳で組み立てられた内装という急激な変化に驚く事になる。
神殿本来の重く苦しい空気を感じつつも、ペタペタ歩くマナはその歩みを止めない。
「何処に行くの?」
「マナ!」
「うーん………」
質問の返答はこれだ。
本人は意気揚々と答えてくれるがマナフィの言語など理解出来ない私に目的地の詳細は未だ謎のままである。
やがて―――ある場所へ。
「ここ………夢で見た所だ………」
通路を抜ければ、一気に視界が広がる。
第一に感じたのは既視感。初めて、よりも懐かしいという感覚が私の心を占めたのだ。
だが、実際に来たのはこれが初。
既視感の原因はすぐに分かった。昨晩の夢で見た光景と全く同じ場所だからだ。
空間の奥に聳え立つ祭壇。
階段を上がった先にあるそれは私の訪問を待っていたかのように鎮座していた。
「マナ!」
マナが指差す。
その先を目で追うと、祭壇の一番上にある台座が私の視界に入る。詳しくは分からないがどうやら近くまで寄って欲しいらしい。
ここは素直に従う。
あまりの神々しさについきょろきょろとあちこちに視線を向けてしまう。端から見ればせわしない様子になりつつもどうにか歩を進める。
「マナ!」
「これ?えっ!?これって………!!」
深青色した球体の物体。台座に供える形で置かれていた。
実物を目にしたのは初めての私だが、過去に資料越しに同じ物を見た記憶があった。知識としてはうろ覚えだが、やけに鮮明に覚えていた。
「"マナフィの卵"………!!」
青みがかかった透明に近い殻。その中にある赤く煌めく核のような物。
他でもない実物を前に私の手が震える。
貴重な代物だなんて次元ではない。あまりの伝説っぷりに贋作すらも世間に出回るぐらいだ。
「マーナ!」
―――スイレーン!
マナが私を呼ぶ。
まるでこの子を抱えて欲しいと言いたげなその仕草に私は本当に良いの?と尋ねる視線を送る。
マナは大きく頷いた。
優しくそっと包み込むように両腕を回した私は慎重に卵を持ち上げた。
見た目に反してずっしりとした重さ。生命の存在に何とも言えない想いが生まれる。
「あっ………動いたっ!」
こくっ、と少しだけ。
喜んでいるのか只の気まぐれなのか。真意は分からないが、私は何だって良い。
と、次の瞬間。
「うわっ………!?」
―――グラリ、と。
足元に震動が流れて来た。
地震、というか巨大な力の衝突の余波みたいな感じだった。一瞬の揺れだったのかすぐに収まる。
何事かと半分慌て気味のまま、私はそわそわと辺りを見渡すが特に変化した様子はない。
あるとすれば―――
「ラッ!」
ブラッキーの鋭い一声。
その方角は私でも分かる。あっちは確か、さっきまで沢山のマナフィが集まっていた広場があった筈。
となれば、必然的に答えは一つ。
「戻るよ、皆………!」
-21- へ続く。
*お久しぶりです。今年初投稿(笑)
完結するまでは走りきるので、その時までどうかよろしくです。