真夏に咲いた一輪の恋花   作:ソウソウ

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-21-『襲撃×抗戦』

 

 ◇◇◇

 

 海底神殿。

 

「はぁっ………!!はぁっ………!!」

 

 走る。ひたすら。

 息が切れ、心臓が酸素の供給を訴える苦しみに耐えつつも私は決してその足を止める事はなかった。

 ブラッキーが先行してくれている。

 別れ道でも迷う仕草は無く、一直線に駆け抜けるその背中はとても逞しい。

 何度か角を曲がったその先。私の耳に徐々にだが、騒音が聞こえてくる。

 そして、石造の通路を抜けると―――

 

「クッチーー!!!!」

 

 広場の中央。

 沢山のマナフィが一ヶ所に集まる。どの子も身体が小さく震えていた。

 丁度私達に背を向けて、マナフィ達を守るように立ち塞がるのはクチート。此処で待機するように伝えていたのが良かった。

 実際、クチートが完全に威嚇している。私の警戒心が上がると同時にその対象もまた目で捉えた。

 

「何だよ、こいつ?というかこんな所で会うとかおかしくねぇか?」

「知らん。どちらにせよ捕まえれば、問題無しだ」

「おぉ~!同意!やるか」

 

 怪しい男二人が神殿入り口に。

 十中八九、ハンターの人間に違いない。となれば、この状況は芳しくない。

 どうやって海底神殿まで来たのか。そもそもマナフィの居場所の特定までされている事実に私は内心、焦りを感じていた。

 さっきの謎の地震もハンター達の移動手段である乗り物が海底神殿を覆う巨泡を強引に突破した影響だとすれば、説明がつく。

 イカロス本人が率いる援軍の到着ももはや時間の問題かもしれない。

 

「アシマリ!!"水の波動"!!」

 

 オゥ!の返事と共に。

 アシマリの水の塊がハンター二人の手前に着弾。同時に人を容易に流せる量の波が前方に広がる。

 

「何だ!?」

「後退だ。敵さんのお出ましだろう」

「ボスの言ってた通りだな!」

 

 折角の不意討ちも的確に対処される。

 

「居た。報告にあった巫女だ」

「およよ~。可愛い子ちゃんじゃ無いですか~?」

「そんな暇は無いぞ」

「いやいや。さっさと在りかだけ聞けば後は自由しょ?」

「………好きにしろ」

 

 嫌気が差す。女子的に無理。

 片方は沈着冷静なタイプで、もう片方はチャラチャラなタイプの男だ。ソウさんの方がよっぽどカッコいい。

 後者のチャラ男が腰に手を当てる。

 その仕草に私も意識を集中させた。危惧していた戦闘が始まるのは吝かなのだがなに不利構ってられない。

 

「来い!!ウォーグル!!」

 

 巨大な紺色の翼が出現。

 ゆうもうポケモン『ウォーグル』は体格が大きく、鋭い嘴と爪を持ち備えている。仲間意識が強く、死も恐れないその姿から空の勇者と呼ばれる事もある。

 こんな場面で対峙するとは。

 タイプはノーマルと飛行。手持ちで相性有利を取れるポケモンは居ない。

 

「アシマリ、任せても良い?」

「オゥ!!」

 

 クチートはマナフィの護衛。

 ブラッキーも相手がウォーグルだとあの技を使用するのは確実であり、苦手そうだと結論付けた結果、アシマリを選択した。

 

「"インファイト"だ!!ウォーグル!」

「来た………っ!!"アクアジェット"で側面に回って!!」

 

 格闘技"インファイト"。

 悪タイプに効果抜群の物理技であり、攻撃が得意なウォーグルなら必須並みに覚えている。

 事前の知識がなければ、一歩遅れていたかもしれないが私は咄嗟に指示を出すことに成功した。

 

「オゥ!!」

 

 正面から激突してきたウォーグル。

 対して、アシマリは噴射した勢いで左側から大きく回転して立ち回る。

 ウォーグルもそれに反応して、軌道を変更する。が、鳥ポケモンの割りに素早さが今一つなウォーグルでは修正が間に合わない。

 

「キュエエエェェェ!!」

「構わずに捕らえろ!」

 

 アシマリが技を命中させる。

 だが、ウォーグルを怯ませる事は叶わず。そのまま技が解除された一瞬を狙われて、立派な爪に捕まってしまう。

 

「"凍える風"!」

 

 焦る必要はない。

 拘束されたアシマリだが、顔は幸運にもウォーグルの身体へ向いたまま。なら、口から放つ技は使用可能。

 威力は低い"凍える風"だが、飛行タイプのウォーグルには二倍のダメージ。さらに素早さも下げる追加効果付き。易々と無視は出来ない筈。

 徐々にだが、ウォーグルの胸元辺りに氷が張り付いてくる。

 

「………っち。地面に叩きつけろ」

 

 事実、相手は手放す指示を出した。

 ウォーグルが只では放さないとスピードも添えてアシマリを落下させてくる。

 

「バルーンで衝撃に備えて!」

 

 鼻から膨らむバルーンで器用に着地をこなし、無事に解放されたアシマリ。

 どうにかバトルとして現段階では成立しているものの、やっぱり体格に差がある分、部が悪い。

 

「苦戦しているようだが」

「うっせぇな、黙って見てろ!!」

「早くしないと俺も参加させてもらうぞ」

 

 男一人が若干キレ気味。

 片方はそんな相方に黙々と告げていく。一人ならまだしも二人同時はキツい。早期決着が好ましいか。

 

「とっととやるぞ、ウォーグル!"ブレイブバード"!!」

 

 ―――と、次の瞬間。

 

「待ちなさい」

 

 ピタリ、と全てが静止。

 音量も小さいのに場を支配したその一言の主は着実に私のいる広場へ足を踏み入れようとしていた。

 

 ―――イカロス。やはり、来たか。

 

 バトルの途中とは思えない空間。

 そして、戸惑う事無く躊躇すら見せずにイカロスはぐいぐいと私の方へ近付いてくる。

 

「久しぶりですね。数時間ぶりですが」

「………一つ聞かせて。どうしてこの場所が分かったの。普通の人には辿り着けない場所なのに」

 

 これだけはどうしても。

 私はマナフィの案内があった。だが、イカロスには私と同じ手段は選べない。他に手段があるとも思っていなかった。

 なのに現実は非情だ。私の目の前には見たくない光景があるのだから。

 

「えぇ、良いでしょう。貴女には恩義があるので」

 

 イカロスがニヤリと笑う。

 

「どうやって此処まで来たのか?という質問でしたね。簡単な話です。貴女が此処に来てしまったからですよ」

「………え?」

「私もここまで上手く進むとは思ってもみませんでしたけど。ほら、背中にあるじゃないですか、発信機」

「―――っ!?」

 

 慌てて背中に手を回す。

 ペタペタと確認するが、それらしき物体は一切無い。ただのハッタリなのか。

 と、私の後ろに回っていたクチートが私の背後で跳び跳ねる気配を見せる。

 

「これのせいで………ううん。私のせい………」

 

 クチートの顎が私の前に。

 咥えられていたのは小さな粒状の物。一見、塵にしか見えないがこれを頼りにイカロス達はここに―――

 

「―――っ!!」

「おっと怖い怖い。そんなに睨まれても手遅れですけど?」

「許さない。ここは貴女たちみたいな人が踏み入れてはいけない場所」

「実際にはもう居ますがね。こんな人数相手にも貴女は立ち塞がるつもりのようですが………」

 

 クチートの顎先から軋んだ音が。盗聴機を砕いたのだ。

 私一人だと思っているのなら大間違い。ここにいるのは私だけではないと知らしめてやろうではないか。

 

「相手はたかが少女一人。なら、大人げない行為をするのは流石の私も少しは遠慮したいところ」

「どういうこと」

 

 何を今更。

 くいっと持ち上げた眼鏡の奥で光る瞳は台詞とはうって変わって敵対心剥き出しだ。

 

「こうしましょう。この場を代表して私と貴方との一騎討ちバトルで決着を。貴方が勝てば、私達は諦めて大人しく撤退をすると約束しますよ」

「………その言葉だけで信じられると思う?」

 

 条件の提示に私はうん、と頷かない。

 イカロスの出したものは一見、私の立場的に有利だ。つまり、向こうにとっては不利となる。

 自ら首を絞めるなど意味のない行為に裏があると考えるのは自然と言えた。

 

「でしょうね。だがしかし、証明する方法もありません。とは言え、詮索しても無駄ですよ、私達にはこれで十分なのですから」

「………どう思う?クーちゃん」

「ッチー」

 

 微妙なライン、とクチート。

 明らかな罠。だけど私に残された選択肢はこれしか無くて。仮に大人数で攻められれば、強引な手段を使わざるを得ない。

 それだけはどうしても避けたかった。

 

「どうしますか?渋るようであるのなら、決裂と言う形になりますが―――」

「受けるよ、その交渉」

「懸命な判断を。では、早速バトルと行きましょうか」

 

 広場の中央で向かい合う。

 私とイカロスの間にはバトルするには十二分なフィールドがある。取り巻き達は全員、素直にイカロスの背後で待機している。

 不気味な程、ボスに忠実な部下達。信頼しているのかそれとも別の作戦があるのか。

 

「ラッ」

 

 ブラッキーが私の左足をペシッと叩く。

 気合いを入れろ、との事らしい。今は目の前のバトルに集中すべきだと。気にしてる余裕などない。

 

「来なさい、ネンドール」

 

 イカロスがポケモンを出す。

 相手は飛行する彼のラティアスを負傷させた程に正確な技を放つネンドール。強敵なのは確実。

 対して、私の手持ちは如何せん寂しい。その証拠に、アシマリしかいない。

 

「構いませんよ」

「………何の話?」

「彼のポケモンを使っても」

 

 勝利への余裕から、なのか。

 随分と舐めた真似をしてくれるな、と若干の怒りを感じつつも此処は黙って応じる。

 彼のポケモン、ブラッキーとクチートもまた私の戦力として足しても良いと。ならば、勝ちへの道筋もまだまだ見える。

 

「なら、お願い。クーちゃん」

「チー!!」

 

 絶対に勝ってみせる―――!!

 

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