真夏に咲いた一輪の恋花   作:ソウソウ

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 とある日のこと。
 ホウエン地方を旅するソウは現在、広大な森林をさ迷っていた。地図を見ようにも、肝心の現在地が不明なので一切役に立たずじまい。
 宛もなくぶらぶら歩くと、手持ちの子達が森に住むポケモン達の様子から不穏な空気を感じ取り始めた。
 原因を探ろうとソウが導かれ、進む先は森林の奥地。どうやら、森一番の大樹の根元に近付いているようだ。
 しばらくして、辿り着いたその先で―――

 ―――あいつと出会った。













過去編-ツタージャ(タッちゃん)-1-

 ◇◇◇

 

 森林地帯。

 

「あれは………」

 

 木々を抜けた先。

 地面が日差しに当たる程に広々と何もない空間が広がる。そして、その奥にはこの森林で一番の高さを誇る大木が堂々たる威風で聳えている。

 ただ、ソウが目に止めたのは大木ではない。

 恐らく、此処は森に住むポケモンの闘技場的な場所なのだろう。実質、今も二匹のポケモンが対峙していた。

 草木の茂みに隠れて、静かに伺う。

 

 片方は―――

 よこしまポケモン『ダーテング』。

 

 滅多に人前に出現しないポケモン。

 樹齢千年を越える大木と共に住む森の神とも名が高い。両手に備えた葉っぱの団扇を駆使し、風を変幻自在に操る。

 とは言え、飛行タイプではない。草タイプだけのポケモンでもある。

 

「ジャー!!」

 

 そして、ダーテングの対戦相手は―――

 くさへびポケモン『ツタージャ』。

 

「あれはツタージャ?えっ、というか、こんな所に居るのは変じゃないか………?」

 

 ソウがまず芽生えたのは疑問。

 キリッとした目付きに流線的なフォルムを備えるポケモン。森に住むポケモンとしては特に違和感はない。

 また、イッシュ地方では御三家の内の一体に属する程の有名ぶりだが、ここが一番の問題。ホウエン地方では棲息が確認されていないのだ。

 つまり、このホウエンの森林に外部からやって来たと推測して間違いはない筈。

 と、次の瞬間に、

 

 ―――二匹の刃が重なった。

 

 バトル開始の幕開けと共にツタージャが先手を取りに出る。"葉っぱカッター"でダーテングに軽い牽制代わりに仕掛けたのだ。

 ダーテングはそれを自慢の団扇で軽く一払い。即座に反撃に打ち出る。

 無数の種の発射―――"種マシンガン"がツタージャに襲い掛かる。

 

「タジャ!?」

 

 己の技が簡単に処理された事実を前に反応が一歩遅れたツタージャ。回避行動に移れたものの、足に幾つか種がヒットしてしまう。

 だが、諦めるものかと"蔓のムチ"を両脇に置いて接近戦に持ち込もうとダッシュで懐へ飛び掛かった。

 だが、ダーテングも既に動いている。

 相手に対して、接近戦は不利だと思っているのかその場で高速回転を始める。やがて、その場に立つのが困難なぐらいの風が吹き荒れた。

 

 ―――"暴風"。

 

 ツタージャ、射程圏内に入る直前で停止。

 身体全身を地面すれすれに平伏した体勢に移行し、ダーテングの技を耐える方向で持ち込む。

 耐えれば、勝機が見えて―――

 

「―――ッ!!!」

 

 一瞬、ふわりと浮いたツタージャ。

 その隙を逃さないとばかりにダーテングは全力の暴風を巻き起こす。

 一度、離れてしまえば結果は目前。あっという間にツタージャの小さな身体は吹き飛ばされてしまう。

 ゴロゴロと地面を転がる。力なく横たわるツタージャの姿がそこにあった。"暴風"はツタージャに効果抜群のダメージ。強力な技の前に成すすべが無かった。

 誰の目からも分かる実力の圧倒的な差。

 だが。

 それでも。

 

「――――タージャ!!」

 

 ()()()()()

 

 その心を支えるのは意地かプライドか将又は別の理由か。他人のソウには計り知れない。

 しかし、これだけは言えた。

 あのツタージャの瞳は絶望など微塵もない。まだまだ燃え尽きる事の無い必死な色をしていた。

 ダーテングも静かに傍観するのみ。

 そよ風が肌に触れる。静寂の中、対峙する両者は互いに構える。

 緑白く照らされた刃がダーテング、ツタージャ共に腰辺りに出現した―――"リーフブレード"で最後の決着がいざ付かんとする。

 

 ………。

 

 動くは同時。

 残像が残るスピードで二匹が交差。

 どちらも緑の刃を振り切ったまま、敵に背を向けた状態で静止。

 数秒の空白が生まれる。

 そして、それを破ったのは―――

 

「タ………ジャ………」

 

 ツタージャの倒れる音だった。

 うつ伏せに倒れたツタージャの目はぐるぐると回り、戦闘不能となっている。

 対して、ダーテングはそんなツタージャを気に掛ける仕草を見せずに何処かへと姿を消してしまった。

 

「どうする?ロウ」

 

 一部始終を眺めたソウは問う。

 彼の足元に陣取っていた相方のブラッキーは小さく鳴いて返事をする。

 軽く手当てぐらいはしといてやろう、と。

 

「だな」

 

 ソウも了承する。

 隠れていた茂みを抜け、自然に出来た闘技場の中央へ歩み寄る。目を覚ます気配のないツタージャを近くで確認する。

 優しく、ソウはツタージャを胸に抱え、再びその場を離れようと歩き出した。

 このツタージャがどういう理由でダーテングに勝負を挑んだのかは分からない。森林のヌシと断定して良い程の風格を持つあのダーテングに挑む等、余程の理由がない限りはしない筈だ。

 

「タ~ジャ~………」

 

 少し、顔色が良くなった。

 楽しい夢の中なのか腑抜けた鳴き声もおまけで付いてくる。

 だがしかし、ソウは思った。

 このツタージャ、やけに身体が軽いな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 一時間後。

 

「………タジャ?」

 

 目を覚ます。

 また敗北したのかと自覚する。そして、軽く辺りを見回して、ツタージャは気づいた。

 あの場所ではない。木々に囲まれ薄暗い光の中、人間が用いる焚き火らしき物。

 一気に警戒心を強める。バトルの後遺症は無いので身体は自在に動く。此処まで連れて来た正体を確認するまでは簡単に油断は出来ない。

 

「おっ、起きたか」

 

 男の声。

 その男は器用に風景に違和感がないように設営されたテントから出てきた。人が立ち入らないこの区域で本物の人間とは久しぶりに遭遇した。

 

「タジャー!!」

「凄く警戒されとるな………無理もないか」

 

 男は近寄ってくる。

 ふんふんと蔓で牽制するツタージャの目の前で男はしゃがみ、そっと口を開いた。

 

「俺の名前はソウ。一応、ホウエンリーグを目指して旅してるトレーナーだが、まぁそこはどうでも良いんだ」

「タジャ」

「勝手で悪かったけどさっきの闘い、見させてもらったよ。完膚なきまでにボロ負けだったな」

「………タジャ」

 

 分かってはいる。

 あのダーテングには勝つどころか技の一つもまともに命中させていない。何回挑もうが結果は同じ。三十回目からは数えるのを止めた。

 だが、勝たなくてはならない。

 勝たないといけない。

 

「そこで、だ。俺が勝てるように指南してやろうかと思うんだがどうだ?」

「タジャ!?タジャタジャ!!」

「理由だって?トレーナー………勝負師の性ってやつかな。特に深い理由はないよ」

「タジャ?」

 

 正直、限界は感じていた。

 どんなに特訓や努力をしても辿る結末は同じ。強力を仰ごうにもタネボーやキノココでは意味がない。

 眠らせれば?とか。吸い取れ!とか。

 うん、役立たず。そんな小癪なやり方は根本的に気に食わない。

 

「よし、交渉成立だな。早速っと行きたいとこだがその前に一つ。お前がそこまであのダーテングに勝ちたい真意を知りたい」

「タジャ」

 

 別に隠すほどではない。

 言葉よりも実物を見せた方が早いと判断したツタージャはどこからともなく一つのモンスターボールを持ってくる。

 

「お前、野生じゃないのか」

 

 驚いた様子のソウ。

 だが、モンスターボールがあるとは言いつつもその表面はとても汚れている。少なくともここ最近で手入れされた形跡はない。

 

「しばらくこれに入ってないのか。となると………捨てられた?」

「タジャ!?タージャ!!」

「違うって?いや、どう見ても………ん?」

 

 そこでツタージャは格闘ポーズ。

 

「ダーテングを倒すまではここで修行して来い………的なニュアンスかな?」

「タージャ、タジャ」

「正解かよ」

 

 その通りである。

 

「………言うべきか。お前をここに置いたそのトレーナー、どう考えてもお前を捨てた線が高いぞ」

「タジャ!?」

 

 そ、そんな………嘘だ!

 

「だって、お前弱いだろ。ダーテングに勝てないのもそのトレーナーは分かってたのにあえて置いていった。これってまるでお前が邪魔物扱いされてるようにしか思えないのだが?」

 

 稲妻以上に轟く衝撃が走った。

 確かにソウの台詞を裏付けるかのような行動はあった。バトル中でトレーナーの指示と動きが噛み合わない事も多々あったし、森林に来る直前になるとそもそもバトルに参戦した回数も極度に減っていた。

 バトルに出ても勝てない。だから、手持ちにいるだけの戦力外なポケモンへと変わり果ててしまったのだろうか。

 それでも勝ちに強く拘るからこそ黙って付いていったが、気付けば自分は手に余る存在としてそのトレーナーに認識されてしまったのかとツタージャはようやく認識する。

 

「………タジャ………」

「自分でも少しは自覚してたみたいだな。心中お察しします、と添えたいとこだが、その点で言えばお前はとても運が良い」

「タジャ?」

「俺と出会った事だ。少なくとも前のトレーナーよりかはツタージャの強さってのを引き出せる自信はあるぞ」

「―――タジャ」

 

 なら、証明してみせてくれ。

 ツタージャはきっぱりとした態度で思いを告げる。自分の魅力を読み取れず、邪魔物扱いして最後にはこの森に放置してみせたあのトレーナーに自らこの手で報復する為にも。

 まずは打倒、ダーテング。

 

「構わんよ。ツタージャ、お前はただ俺を信じて動くだけで良い」

 

 ソウが手を差し伸べる。

 この時、ツタージャに迷いはない。切り替えが早い性格より既に前のトレーナーなど眼中にない。むしろ、ダーテングに勝てる可能性があると告げるこの少年に賭けてみる価値はあるのではないかと考えていた。

 どうせこのままでは勝てない日々が続くだけ。ちょっとでも、勝利を奪い取る未来への道筋があるのならこの目で見てみたい。歩きたい。

 

「タジャ」

 

 ツタージャの蔦がそっと彼の手に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続く。




*本編かと思った人、申し訳ない。この話が浮かんでしまったのでとっとと書き上げてしまおうかと思いまして。
 感想お待ちしております。




『ネタ集紹介&雑な解説』
・「だって、お前弱いだろ。―――」
→あの某五枚揃えたら勝ちのチートカードを海に流しやがった野郎が髪型ヒトデマン主人公に言われた台詞をなぞってみた。


・リーフブレード
→まるで全集中・葉の呼吸・壱の型「深緑一閃」


・ツタージャ
→不器用で真っ直ぐな性格が故に言われた事は何があろうと全うしちゃう騎士的な馬鹿。旧トレーナーはこのツタージャの才能を引き出せず、森林へ置いてけぼりにしてしまう。
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