そして、この小説にサトシはいない設定であることを頭の片隅に置いといてください。ただ、別に覚えていなくてもそれほど問題はないかと。
他にも細かい設定などは地の文に程よく散りばめているつもりなので、頑張って探してくださいね。
では、どうぞ。
◇◇◇
ポケモンスクール。
「ここも今となっては懐かしい………」
卒業したのあの日の思い出が蘇る。
恵まれた親友達とわいわい騒いだ教室に、何度も競い合ったグラウンド。今も昔と変わらず静かに建っていた。
つい、あちこちを眺めてしまう。
「あっ!!スイレン!!」
やがて、目的地が見える。
そこで一人の緑髪を二つ結びにした褐色少女がピョンピョン跳び跳ねていた。
彼女もスクール時代の同級生の一人。
「こっちだよ~!!」
「分かってるから」
「時間もちょうど五分前………うん。スイレン、今も昔と変わらないね」
うんうんと彼女は頷く。
一体、何処に視線を向けての発言だろうか。普通に失礼である。
彼女の名前は"マオ"。
料理上手であり、アローラが過疎地域へ加速する中、実家の店は相変わらず繁盛しているらしい。
同じ家業する娘同士としては普通に羨ましい。
「それにしても、急にククイ博士から連絡が来た時はびっくりしたね」
「うん。夏合宿するから生徒達のサポートをお願いしたいって話だったかな?」
卒業生のマオと私が母校にいる理由もこれ。
何でも、スクールに通う子供達全員参加の四泊五日の夏合宿が今日から開催される。
残念ながら生徒数に自信はまったくないアローラのスクール。でも、流石にククイ博士一人では生徒全員ぶんの面倒は見切れないらしい。
妹を持つ身としてその気持ちは大いに分かる。二人だけでも既に限界なのだ。それが二桁を越えちゃうとなると、考えるだけでも恐くなる。
「そうそう!!で、私としては特に気になるのが夏合宿の間だけ居てくれる先生が来てくれるらしいんだって」
「へぇ~………そうなんだ。初めて聞いた」
「カッコいい人かな~?」
ナオが妄想に走ってしまう。
夏合宿限定の先生。ククイ博士も粋な計らいを頑張って考えているんのだなぁ、と思った。
どんな人だろう。
まさか、昨日会った彼とか。夢話にも程があるか。
思い出した。そう言えば、彼のことだけど。
今日は一度も会っていない。朝から姿を眩ましている。母親にはちゃんと挨拶を済ましていたらしいが、私に一言も無しに居なくなるとは誠に不謹慎ではなかろうか。
彼の行動が気に入らないせいか、どうも少しだけ私は不機嫌気味らしい。
「―――スイレン?」
「えっ!?何!?」
「もう皆集まってるから行こっか、って言ったんだけど………大丈夫?」
「大丈夫。早く行こ」
ククイ博士からの指定時間ももうすぐ。
マオと二人一緒に学校のグラウンドへと足を進めた。
足取りは不思議と軽い。
これから始まる何かにこの時の私はウキウキしていたんだと思う、きっと。真夏の日差しのせいで。
◇◇◇
夏合宿、集合場所。
「皆、揃ったかな?」
そう投げ掛けるのはククイ博士。
体操座りで整列した子供達が元気よく返事を返す。嬉しそうにしている博士。
"ククイ博士"はアローラ随一のポケモンを専門にした博士資格を持つ人物。技関連を得意分野に持ちつつ、アローラ独特の進化を遂げたポケモンを毎日、謎解明に向けて研究している。
服装は短パンにアロハシャツ。ぶっちゃけ、博士から想像出来る服装ではない。
「こちらも全員揃ったようですね」
そして、少し離れて見守る私達。
一緒に来たマオ。それと綺麗な白髪の少女に、真っ黒な肌が特徴的な青年がいた。
前者が"リーリエ"。後者が"カキ"。
どちらもマオと同じスクール時代の同級生だ。
「久しぶりだね、リーリエ」
「はい。マオさんもスイレンさんも元気そうで何よりですね」
リーリエはスクール卒業後、アローラ地方を飛び出してしまった経歴を持つ。ところが、夏合宿を含めた今期間中は帰省しており、偶然にも懐かしい再会へと繋がった。
大声で会話してしまうと、生徒達の気をそらしてしまう為に小声でのやり取りになっちゃったけど。
「カキも。元気にやってる?」
「無論。最近は特に張り合いもなく退屈してたからな。強いトレーナーが来ると聞いて、楽しみだ」
「トレーナーさん………ですか?」
「ククイ博士によると、な。どんなトレーナーかは一切教えてくれなかった。何でも、今の俺達、
「え?カキ、今、キャプテンって言った?」
「あぁ、言ったぞ」
「そっかぁ~………ククイ博士、そう来るんだ~」
"キャプテン"。
リリーエを除いた三人が該当する。
アローラ伝統の試練を各地で管理する役職を指す。重大な立場となるキャプテンは全員が相当の実力者であることが最低条件。
でも、マオとカキ、それと私は前キャプテンと世代交代したばかりの新米でもあった。ククイ博士はそれを考慮してくれて、カキにそのような伝言を残したのだろうか。
「皆さん、博士が私達の事を紹介するみたいですよ」
リリーエの一言で全員が黙る。
生徒達に夏合宿の概要を説明していたククイ博士が後ろへ体を向けるように指示を出していた。
一気に集まる視線に緊張が自然と高まってしまう。悪い癖だ。
「あそこのお姉さん、お兄さんが皆を引っ張ってくれるリーダーだ。皆、元気よく挨拶しとこうか」
―――アローラ!!
地元だけの挨拶。
こちらも手を振り、無難に挨拶を返しておいた。
合宿のメニューには班行動で行うのもあり、私達は各班の監視兼博士への現状報告担当を任される予定。
「そう言えば、マーマネは?」
マオの言う"マーマネ"は私の同級生最後の一人の名前。
一応この夏合宿には参加予定の手筈になっていたはず。
何故か、その姿は見えないが。
「マーマネは実験が佳境に入ってるから二日目から参加すると変更があったぞ」
「………へぇー」
「マオさん?」
「あっ!!見て!!あの人が先生じゃない!?」
マオの視線はククイ博士の隣に立つ人。
誰もがその人に何者か疑っている最中に私の目に映るその人は違っていた。
どうしても、あの人にしか見えないせいで。
―――ソウさんに。
彼は一歩出ると、自己紹介を始める。
「今回、
間違いない。彼本人だ。
昨日の会話に彼がアローラを訪ねた目的を聞きそびれていたが、まさか夏合宿の特別講師として招待されていたとは。
驚きに体が固まってしまう。彼はこちらに気付いたのか、手を軽く振ってきた。
そんなことをしてしまえば―――
「あっ、手を振ってきた!!」
「私達の誰かに向けて?………のようですね」
「あんな奴初めて会ったぞ」
「うん、少なくともカキには有り得ない」
「おい。トゲデマル並みのトゲが刺さったぞ、マオ」
「カキさんやマオさんでもないのですか?私でもないですし、だとすれば―――」
「あの………多分、私………」
「スイレン!?あのスイレンが!?」
「マオ?どういう意味?」
「いや………ねぇ~、スイレンに男の人の知り合いが居たなんて………びっくりしたと言うか」
「スイレンさん。あの方とはどういう関係でしょうか?」
リリーエの眩しい視線につい戸惑う。
正直に伝えるべきだろうか。でも、初対面に近い彼との関係性など具体的に語れない。
特別な事情があったから家に泊めた、でリリーエを含めた同級生達の同意を得られるだろうかと考えれば、上手くはいかない予感しかしない。
なら、はぐらかすのが一番。
「………よく分からない」
「嘘ぉ!?まさか、スイレンが………!?」
「マオさん?」
「スイレン………あの男を知ってるのか?」
「うん………一応」
「そうか」
カキはそれ以上口にしない。
この場を凌ぎきれたかどうかは曖昧。マオがまた妄想の世界に突入しているから余計な口を訊かないようにしないと。
「ソウにはホウエン地方から特別に来たもらった。俺が言うのも変かもしれんが、相当トレーナーとして強いぞ~」
「止してください、博士」
「本人はずっとこうだけどな。折角だし、皆にはバトルしてる所でも見てもらおうか?」
バトル。ポケモンバトル。
子供達にとって、それは禁句に近い。
何故なら、次に起こってしまう現状を見てしまえば分かる。
―――怒濤に沸き上がった無邪気な喚声。
スクールに通う本質はポケモンが好きの一点。そして、その証明としてポケモンバトルがよく利用されることが多い。
故に生徒はみな、日々トレーナーとして勉強に実技をこなして、磨きをかけていく。となれば、実力者同士のバトルなど自然と大好物になってしまうのだ。
「誰か、ソウとバトルしてみたいやつはいるか~?」
だが、生徒の中で手持ちポケモンを所持する者はごく少数。育てる余裕もあまりない。
私達のスクール時代は同級生皆が少なからず一体は持っていたが、それはあくまで例外。
相当な戦闘好きでないと、そもそも彼に挑もうとする気にもならないはずであって―――
「俺がやります。やらせてください」
いた。しかも隣に。
立候補したのはカキだ。ここにいる全員の視線を集めながらも不動だにしない、彼に挑もうとするその姿勢はとても大きく感じられる。
「カキか!なるほど!どうだ?ソウ、いきなりな話だがやってもらえるか?」
「構いませんよ」
「オーケー!!それじゃあ全員、場所を変えるぞ!!」
こうして、急遽決まったポケモンバトル。
カキと彼が勝負する。応援するのは勿論、幼馴染のカキなのだが、彼を応援したい気持ちも芽生えつつある。
―――と、私は思い出した。
『でも、直ぐに俺のポケモンが技を使ってるシーンは見れると思うよ』
昨晩の彼が言っていた、この発言を。
◇◇◇
グラウンド。
「では!!試合を始める!!ルールは一対一のシングルバトル!!両者、手持ちのポケモンを一体出すように!!」
博士の一言がバトル開始の宣言となる。
特別講師としての肩書きを背負う彼は観客、生徒達にその威厳を示す絶好の機会でもある。
一方でカキは単純に強者との対戦が心待ちにしていただけあってヤル気が十分に燃えていた。一瞬、他の理由があるようにも見えたけど本人だけにしか分からない。
審判を任されたのは安定のククイ博士。
「来い!"バクガメス"!!」
カキが選んだのはカキの相棒。
『バクガメス』と名を持つそのポケモンは巨体に大きな刺々しい甲羅を背負っている。あの甲羅は衝撃で爆発を引き起こす性質を持ち、相手にするとなかなかの厄介ぶりを発揮する。
バトルではいかにあの甲羅の防御を彼のポケモンがくぐり抜けるかが勝敗の鍵となってくるだろうと予想される。
対策無しだと結構、苦戦が強いられる。
「あのポケモン、初めて見るな………」
「申し訳無いが、博士からは相当強いと伺ってる!!本気でいかせてもらうぞ!!」
「そういうのはホント勘弁してほしいわ………」
しかも彼はバクガメスを初見。
アローラに来たのが一昨日なので彼はアローラの知識が殆どないので当然ちゃ当然。が、より彼にとって分が悪くなりつつあると感じているのは間違いない。
「ソウ!!遠慮無しにやってもらって構わないぞ!!」
「いや、博士………やるからにはちゃんとやりますけど………本当に良いんですか?」
「あぁ。存分に教えてやってくれ!!」
博士の彼への信頼がどうも厚い。
彼は一息吐くと、腰元のボールを一つ手に取った。手で握れる大きさに膨らんだそれを彼は優しく放り投げる。
「出ておいで。"クーちゃん"」
彼が出したポケモンは―――
-4- へ続く。
◇◇◇〔おまけ・バトル前の移動中〕
「ソウ君!!よろしくね!!」
「うん、よろしくな。えっと………」
「マオです!!」
「マオちゃんか。それと………」
「私の名前はリーリエです。よろしくお願いしますね、ソウさん。それとこちらが―――」
「えっと、ごめんね。スイレンちゃんは知ってるから紹介は省いていいよ」
「なんと……ソウさんとスイレンさんはやはり友達なのですか?」
「友達?って言うよりかは昨日―――」
「っ!?それは言っちゃ駄目………っ!!」
「スイレンさん!?」
「―――っぷはぁ!!呼吸が出来ないって!!」
「ご、ごめんなさい………」
「ふふふ。二人とも仲が良いんですね」
「そそ、そんなのじゃない………から!!」
*作者のぼやき
→次回は初バトルです。当初はスイレンとバトルする予定だったんですが、カキへ変更になりました。彼から、どんなポケモンが出てくるかは作者の好みになります。てか、決まってます。
………やったね!!