裏ヒロインの登場です。
◇◇◇
グラウンド。
「出ておいで。"クーちゃん"」
愛嬌のある小人みたいなポケモン。
それが私の第一印象であった。次に目に映るのは後頭部にある巨大な金属製の大口。
あざむきポケモン『クチート』。
最大の特徴はその大顎。油断した相手を一口で捕食する物騒な生態を持つらしい。でも、ちゃんと顔に口はあるので普段はそちらで食べるのが主流。
彼のクチートには首元に青く光る玉の付いたネックレスがあった。
「クチートか………これは面白い展開になるぞ」
冷静に分析するククイ博士。
クチートは"鋼タイプ"に最近判明した"フェアリータイプ"を備え持つ。つまり、"炎タイプ"のバクガメスとは相性で言えば最悪に近い。
「バクガメスは炎タイプ。クチートでは圧倒的不利な状況ですが、本当に大丈夫でしょうか………?」
「ソウ君、バクガメスを知らないみたいだけど炎タイプだってことは流石に分かるよね?」
「だとすれば、あえて不利になるように選んだと言うことに………?」
彼の真意は分からない。
よっぽどの自信があっての選択か、もしくは単なるバカなのか。
様々な憶測が過る中、当の本人である彼の様子はというと―――
「クチ?」
「おいおい………まだこっちに来るなよ?せめて、バトルが終わってからにしてくれないと………」
「チー」
「待て。次のバトルに出せって言ったのは君だ。ご褒美はそれが終わってからでも―――」
「クチーー!!」
「少しは言うこと聞けぇぇ!!」
容赦ないクチートのタックルに彼は避けるのに必死だ。クチートは大顎を器用にジャンプに使ってる。
予想外のやり取りにカキとバクガメスも目を点にして、その光景を見守ってしまっていた。
「………何してるの、あれ?」
「さ、さぁ………?」
マオの疑問も当たり前。
彼の手持ちは主人に当たりが何かと強いブラッキーと言い、一癖強いポケモンが勢揃いしてそうな予感が。
あのクチートはどうやら女の子。彼を大好きでその気持ちが爆発してしまって、あのような行動に出ているようだ。
一旦、場を元に戻す。
どうにかクチートのじゃれつきから逃れた彼はバトル前なのにもう疲労困憊の様子だ。逆にクチートは元気そうにその場を跳ねている。
もう何が何やら。
「すまん………始めようか」
「あ、あぁ………」
本題はここから。
ククイ博士の合図の元、カキと彼による、バクガメスとクチートのバトルが今、―――
「では………試合開始!!」
―――始まる。
◇◇◇
バトル開始。
「行くぞ、バクガメス!!」
先手を打つのはカキ。
バクガメスもまた呼応して、鋭い目付きを見せる。
「"火炎放射"!!」
灼熱のビームが発射される。
ヒットすれば、クチートにとって大ダメージは逃れられない窮地の一手。
彼はここからどう動くか。確かめようと視線を向ければ―――
―――クチートは既に其処には居ない。
「あれ………?」
「カキ!!後ろ!!」
マオが叫ぶ。
あの一瞬で距離を詰めたクチートはバクガメスの背後に潜んでいた。
甲羅を攻撃する仕草は見せず、クチートは跳び跳ねて頭に大顎を渾身の勢いで振り当てる。
明らかに弱点のみを狙っての攻撃だ。
「くっ!?バクガメス、"トラップシェル"だ!!」
「………ん?クーちゃん、下がって」
「チー」
驚くことに、一撃で巨体がふらついた。
だが、バクガメスは体勢を瞬時に整えると、トレーナーの指示に従い、防御の姿勢へ変更する。
クチートは後ろへジャンプし、定位置へと帰る。
びっくりした。
カキのバクガメスの耐久は島一番だ。
それを一撃で破ろうとして来たクチートの攻撃力は侮れないぐらいの高さであると想像がつく。
「今のは、凄い攻撃です………」
「うん、移動する瞬間が見えなかった」
「クチートの素早さってそんなに早かったかな?」
「それは少し違うぞ、マオ」
「どういうことでしょうか、ククイ博士?」
「さっきのクチートがしたのは"不意打ち"と言う技だろうな。相手が攻撃技を発動する前のみにおいて、邪魔をするように出せる技であり、なおかつバトルにおいては賭けに近い技だ」
「なるほど………相手が攻撃技以外の時に"不意打ち"を使ってしまうと逆にこちらが失敗に終わり、大きな隙を見せてしまうことでも有名な技ですね」
バクガメスが"火炎放射"を選択したので、クチートの"不意打ち"が見事に決まった。そうククイ博士は言いたいらしい。
カキが必ずしも攻撃してくるとは限らない。なのに、彼は躊躇なくカキは攻撃すると判断したとなる。
判断力もトレーナーには必要不可欠な能力。
彼はそれが人一倍備わっているのだろうか。
「でも、それだけだとあんなに威力の出る理由にならないよ?」
「バクガメスを少しとはいえ、体勢を崩させる程の威力を持つ"不意打ち"を私は今まで見たことありません」
「そこなんだよな………単純にソウのクチートが強すぎるのか、それとも他に何かのカラクリがあるのか………」
"不意打ち"はリスクが高い。でも、成功すれば先手を取れると言う意味ではスピードの遅いポケモンに重宝される技でもある。
でも、威力面ではそこそこ。あくまで最後の止めに利用する方法が一般的とされている。
「そちらのポケモン、なかなかの固さだね」
「お褒めにくださりありがとうございます。ですが次はこうはいきません」
「分かってるよ。んじゃ、早速次に行こうか。クーちゃん―――」
―――"
「クチー!!」
クチートが踊る。
剣の幻影がクチートの周りをぐるぐる囲い込みながらも躍り続ける。
「カキ、不味くない、これ?」
「はい。攻撃力が二段階強化されますので、油断すると一気に戦闘不能に陥ってしまう可能性もあります」
「………可愛い」
本体の小人が踊る姿は絵になる。
ただ、剥き出しになった大顎の獰猛さが余計に目立ってもしまう。
「"じゃれつく"」
彼が指示を出す。
クチートは即座に駆け出し、相手へと迫る。
カキもそれにしっかり対応。バクガメスは自身の甲羅に籠る姿勢を取った。
フェアリータイプの技"じゃれつく"。
クチートは見境なくバクガメスの甲羅へじゃれつこうと飛び付いた。勿論、そんなことをすればバクガメスの甲羅が爆発してしまう。
「クチッ!?」
「やっぱり爆発するんか………」
「トォォォ!!」
前半は爆発への驚嘆。後半は物騒な呟きをしたご主人への文句だろうか。クチートの叫びが木霊する。
一度とない絶好の隙を見せたその一瞬を、カキが見逃す筈がなかった。
「よし、バクガメス!!"ドラゴンテール"!!」
むっくりと起き上がるバクガメス。
尻尾をエネルギーのオーラで纏い、その先端をクチートへ向けて、振り下げる。
「"アイアンヘッド"で打ち返せ」
「チー!!」
「なっ!?」
"ドラゴンテール"はドラゴンタイプの技。
フェアリータイプのクチートにはあまり効かない。つまり、クチートに対して威力はあまり出ない。
彼はそこを付いて、クチートの大顎を使って正面から打ち返す算段に出た。
「バグっ!?」
勝ったのはクチート。
剣の舞で底上げされ、かつ元からあるクチート攻撃力の高さにバクガメスも付いていけていない。
再び、彼が指示を出す。
"じゃれつく"。
前回と違い、お腹を晒すバクガメスに容赦なきクチートのじゃれつくが炸裂した。
「バグ~………」
「まだいけるな、バクガメス?」
「バグ!!」
バクガメスが膝をつき、辛そう。
クチートは全くダメージがない。さらには主人にウィンクをする余裕があるほど。
「うわぁ………今のは痛いよ」
「はい、バクガメスも体力が心配ですね」
「クチート、ウィンクしてる………」
「カキー!!ファイトー!!」
まだ希望はある。勝てるはず。
私を含めた、マオ、リーリエもきっとそんな気持ちからカキを応援する。
「仲が良いのは構わんけど、あまり駆け引きの経験が無いのか?すんなり引っ掛かって貰っちゃうと此方もやりがいが無いぞ」
「挑発のつもりか。すぐにその発言を後悔させてやろう!!」
カキはある構えを取る。
アローラでしか見られないその光景に彼は知らないはず。
俗に言う"Z技"は選ばれし者のみが修得したトレーナーとポケモンが息を合わせて発動する奥の手。
「カキのやつ………すっかり忘れてるな」
「博士?何のことですか?」
「見れば分かるさ。もうすぐ決着がつく」
Z技は逆転の一手となるはず。
なんなら、劣勢からそのまま勝利へ、一気に形勢が覆ることもざらにあるぐらい。
それでも、ククイ博士の表情はあまり優れているとは程遠く、むしろカキの判断に同意しかねない態度だ。
「これが俺とバクガメスとの絆!!"ダイナミックフルフ―――」
その瞬間だった。
「はぁ………ここでそれはだめでしょ」
彼が溜め息を一つ。
そして―――
「クーちゃん、"不意打ち"」
初手で見せた技。
相手が攻撃する時のみ、強制的に先手を打てる賭けの技"不意打ち"。
瞬間移動の如く、バクガメスの眼前へ現れたクチートの強烈な一撃がまたしてもバクガメスに入る。
「バクガメス!?」
これが決め手となった。
完全に体力を持っていかれたバクガメスの巨体がごろんと地面へ倒れる。
バクガメスは目をぐるぐると回していた。
これは、戦闘不能を意味していた。
「勝負あり!!勝者、ソウ!!」
これが彼の実力。
否、その一部と訂正した方が正しいだろうか。
カキとバクガメスが全力で襲い掛かろうとあっさりと返す、目に見余る顕著までに浮き出た私達、キャプテンとの実力の差。
ククイ博士は言っていた。彼がキャプテンとしての私達に何らかの力になってくれると。
私は、その言葉の意味が今になって少し理解出来るような気がした。
「クチー!!」
「こっち来んなー!!」
………多分。
-5- へ続く。
◇◇◇〔おまけ・ご主人大好きクチート〕
「へぇ~、クーちゃんって言うんだ~」
「近くで見るとより可愛いですね!!」
「クチ~ト!!」
「てか、凄くソウに引っ付くね、この子」
「あの、ソウさんの左腕が食べられてるように見えるのですが」
「なんかなぁ………凄く気に入られたらしくて………ゲットして、暫くしてからはずっとこれ」
「大変じゃないですか?」
「慣れたらそうでも………初めの噛まれたときの痛さに比べたら………」
「「………」」
「………私も触ってみたいかも」
「クチーー!!!!」
「えっ!?何っ!?」
「もしかして、スイレンにだけ敵対心を見せちゃってる?」
「どうして………?」
「あぁ、それな。こいつ、女の子だと人間でも容赦なくライバルと見なしてしまう時があって………きっとクーちゃんから見たスイレンもそれに」
「そんな………」
「あれ?私とリーリエは平気だけど?」
「何故でしょうか?」
「クチー!!」