真夏に咲いた一輪の恋花   作:ソウソウ

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 本話で、二回目のバトル描写となります。
 私も試練でこいつがいきなり出てきた時は焦りました。てか、負けました。



-6-『試練×巨虫』

 ◇◇◇

 

 せせらぎの丘。

 

「此処が?」

 

 彼を現地へ案内した。

 合宿中だと昼や晩では時間に余裕がない。唯一空いている早朝の時間帯を使い、彼の希望を叶えるために試練の地へ向かった。

 ここは"せせらぎの丘"。

 海辺の近い岩場をベースに。滝があちこちに幾つもあり、滝から流れ出た水で大きな湖もある。

 

「はい。ここで試練を行います」

「んー。ジムとは根本的に形式自体が違うのかな」

「ソウさんのジム?が私にはご存知ありませんので何とも言えませんが………どうでしょうか?」

「見ただけだと………何とも、ねー」

 

 現場を査定していく彼。

 一言、的確なアドバイスが直ぐに飛び出してくれる等と、そんな簡単に話が進む訳がないのは承知。

 でも、心の何処かで無念と嘆いてみた。

 

「試練ってやらは前回まではどんな風にしてたんだ?」

「なら、実際にやってみますか?」

「出来るの?」

「はい、すぐにでも」

 

 彼だってポケモントレーナー。

 試練ときたら、クリアしたい。そんな野生の血が騒ぐぐらいは予想できる。

 理解はちょっと微妙だけど。

 

「大まかな試練の流れは昨日説明した通りです」

「了解」

「ですので、まずソウさんにはある課題をクリアして貰います」

 

 彼にある道具を手渡す。

 

「釣り?」

「はい。この区域一体に『ヨワシ』と言うポケモンが棲息してます。課題をクリアする為には、規定以上の大きさを持つヨワシを釣り上げてください。これが条件となります」

「………それだけ?」

「はい」

「次にぬしポケモンとのバトルに突入?」

「はい」

「まじか」

 

 正直、私も呆気ないと感じている。

 先代のキャプテンの試練方法を引き継いだ結果がこれ。初めて知ったときはてっきり冗談だと思った。

 

「先代曰く、ヨワシとの釣りを通じて挑戦者には己の弱い部分を見直して欲しい。そんな思いがあるそうです」

「へぇー………ごめんな。ヨワシってポケモンを知らないから、シンプルに感じた事言うけど良い?」

「………どうぞ」

「先代のやり方だとしてもさ、これが試練って………普通につまんなくね?」

「うっ………!」

 

 グサリ、と何かが突き刺さった。

 彼の意見は歴代の挑戦者からの指摘とぴったり一致していた。試練と脅すだけで実際は単なる釣りをするだけの楽勝案件。

 挙げ句の果てには、アローラの試練ランキングとやらで最下位を不名誉ながらゲットした過去もあったりする。

 問題は明確に判明している。後は具体的な改善策があれば万事解決なのだが。

 

「取り敢えずやってみるか」

「で、では、お願いします」

 

 彼による試練への挑戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 せせらぎの丘。下流。

 

「釣れたね」

 

 五分もせずに彼はクリアしてしまった。

 釣りの間にのんびりと世間話をするだけで課題のヨワシ釣りは特に引っ掛かることなく。

 ピチピチと跳ねるヨワシ。

 慣れた手つきで彼はヨワシを釣り針から外し、ぽいっと湖へ戻す。

 

「では、次に行きますよ」

「OK。折角だし、ロウで行くか」

 

 ここからが本番。

 

「んで?ぬしポケモンは?」

「もう、いますよ」

「え?」

 

 と、彼の背後にある湖で大きな水飛沫が弾けた。

 彼が視線を向ける。

 四本の巨大な昆虫の足。大きな泡に包まれた頭部。その中でギラリと光る眼。

 すいほうポケモン『オニシズクモ』。

 タイプは水と虫だ。

 

「………でっかいな」

 

 彼が見上げる程の巨大な甲殻。

 標準では人と同じサイズのオニシズクモだが、目の前に出現したオニシズクモは標準の倍ぐらいある。

 まさにぬしポケモンに相応しい姿が君臨する。

 

「気を付けてください。あのオニシズクモはぬしオーラで素早さが上がりますよ」

「あー了解、了解」

 

 辺りに木霊する主の鳴き声。

 それに順次したのか。雨がポツリと降ってきた。

 

「んじゃ、行くぞ。"ロウ"」

 

 彼が選んだのはブラッキー。

 舞台は揃った。自然とバトルは幕を下ろす。

 オニシズクモが脚を上げた。

 同時に大量の泡が猛スピードで襲ってくる。

 ―――"バブル光線"。

 彼の指示に従い、ブラッキーは華麗にその場を飛翔して避ける。

 続けざまに放つは真っ黒なオーラ。

 "悪の波動"がオニシズクモへ目掛けるが、当たらない。巨大な体格とは裏腹にオニシズクモは水面を駆け巡る。

 

「雨が問題だな………」

 

 雨足は強くなりつつあった。

 それが彼には少々気掛かりに思える。

 オニシズクモがまた動き出す。今度は不思議な行動を見せ始めた。

 何かを呼んでいる。そう受け取れる敵の行動に彼は迂闊に手を出さなかった。

 トレーナー同士の心理戦とは違う、純粋なポケモン勝負に手間取っているかもしれない。

 

 ―――と、また違うポケモンが出現した。

 

「あれは?」

「あのポケモンは『シズクモ』。オニシズクモの進化前です」

「まさか………共闘しに来た?」

「頑張ってくださいね」

「んな、聞いてない。それは卑怯」

 

 文句は一切受け付けてません。

 相手はぬしポケモンだ。普通のポケモン勝負と考えるなど甚だしい。

 

「ロウ、いけるな」

「ラ」

 

 短い返事。

 彼とブラッキーがバトルの間で行われたやり取りはこれだけだと私は後に知る。

 オニシズクモが再び、ブラッキーへ接近。鋭い脚先がしっかりと獲物を狙う。

 "吸血"。悪タイプのブラッキーには効果抜群。

 

「ラッ!!」

 

 だが、回避は最小限のみの動きのみ。

 ブラッキーは又してもオニシズクモの攻撃を余裕であしらう。追撃を予想してなのか、悔しそうにしつつもオニシズクモは距離を取った。

 が、ターンはまだ終わらない。

 子分のシズクモがこっそり放った"泡"がブラッキーに命中する。

 バトルで初の技の命中にオニシズクモ側へ好転するように思われたが、泡を全身に受けたブラッキーは驚くことに軽く首を振るだけで随分と平気な様子。

 

「"バークアウト"」

 

 刹那、ブラッキーが叫ぶ。

 悪タイプ特有の叫び声が二体目掛けて、解き放たれる。

 シズクモがふらふら目を回す。

 主のオニシズクモ、負けじとまたしても攻撃を仕掛ける。

 

「先に雑魚を片付けるか、"悪の波動"」

 

 が、彼は私の予想外な指示を下した。

 ぬしのオニシズクモを完全に標的から外して、狙いをシズクモに固定したのだ。

 勿論、オニシズクモの"噛み砕く"がブラッキーにヒットする。効果は今一つながらも攻撃力に秀でたオニシズクモの技にブラッキーは一瞬、表情を歪める。

 それでも忠実にブラッキーは"悪の波動"をシズクモへ。命中したシズクモは湖の向こう側へ吹き飛ばされた。

 なすすべなくして、シズクモが戦闘不能。

 

「―――――ッ!!」

「あれれ?怒った?」

 

 味方の撃沈に激昂したオニシズクモ。

 その様子に彼はにんまりとした笑顔を見せた。

 少ない付き合いでも分かる。

 あれは何かを企む顔だと。隣にいる私に伝わって来たのは強者の印である圧倒的な存在感。

 両手を合わせ、祈る。

 

「頑張って………」

「ん?………ロウ、仕上げだ」

 

 そして、彼は相棒に告げる。

 

 威張れ―――と。

 

 "威張る"。相手に自分が上だと見せつける行為を指し、バトルにおいてその行為は相手の頭に血を昇らせる無意味な行為となる。

 ブラッキーがふっ、と嘲笑う。

 はっきりとそれを見てしまうオニシズクモ。一気にボルテージが上昇。怒りに全てが狂いつかれ、攻撃力が向上した己を余所に容赦なく襲い掛かる。

 そして、次に目撃した光景に私は息を飲む。

 怒りに我を忘れたオニシズクモは冷静な判断力を損なっていた。

 つまり、"混乱状態"―――通常通りの行動は可能、一方で体の言うことが聞かないと錯覚した自身を攻撃してしまう場合もある極めて危険な状態異常。

 今回のオニシズクモは何とか攻撃へと移行できたが、ブラッキーにその攻撃は通じない。

 またしても、避けられてしまう。

 大ダメージを狙っての大振りはその見返りとして、隙が大きい。其処を一点に相手につかれてしまえば。

 

 即座に勝負がつくことだって―――

 

「やれ」

 

 ブラッキーがオニシズクモの足元に潜り込み、渾身の体当たりをかます。

 単なる"体当たり"に見えたが、そうではないらしい。

 ブラッキーが触れた部分に不思議な力が作用する反応が一瞬だけ起こる。そして、オニシズクモは背後へと吹き飛ばされた。

 その先には偶然、滝がある。

 滝が流れる横の壁に見事に衝突したオニシズクモはピクピクと脚を痙攣したまま動かない。

 それ以上、オニシズクモが立ち上がる事はなかった。

 

「勝負あり。ソウさんの勝利です」

 

 決着はついた。

 ぬしポケモンとは初バトルながらも長年の経験により、彼が勝利を掴んだ。

 褒め称えようと私はパチパチと拍手をしながら彼の元へと近寄る。

 

「なぁスイレン」

「はい?何でしょうか?」

「あのぬしポケモン、スイレンの手持ちポケモンでしょ」

「………」

 

 尋ねる訳でもなく、彼はそう断言した。

 

「一応聞いておきます。その根拠は?」

「バトル中にぬしポケモンがロウに向けた視線を逸らす瞬間が何回か確認できた。最初は俺を見てるのかと思ってたが………どうやらスイレンを見ていたらしい。それが一つ目」

 

 私は無言で答えない。

 

「二つ目。君が無意識に応援していたからだ。俺ではなく………あのぬしポケモンを、ね。その証拠に最後の決着のつく瞬間まで、君の手は震えていた」

「………流石ですね、ソウさん」

 

 私は素直に降参の意思を示した。

 昨日のカキ戦で判明した彼の実力的にバトルに負けるとは予想していたが、まさかぬしポケモンの持ち主まで見抜かれるとは。

 

「その通りです。あのオニシズクモは私の持つポケモンです。ごめんなさい、騙すような真似をしてしまって」

「んや、責めてる訳じゃない。ただ一つ気になったけど、ぬしポケモンってのは他の場所でも各地のキャプテンの手持ちから選抜されてるのか?」

「いえ。恐らくですが違います。正真正銘、野生のポケモンがその役目を担います。私の場合は適任が見つからずに、オニシズクモに代役をしてもらってますから」

「そっか。そこも考えないとあかんね」

 

 彼は気楽に言葉を返す中、私の心中は複雑であった。

 確かに彼には協力して欲しいと助力を求めた。だが、あくまでぬしポケモンとバトルするまでの過程、課題の用意が本題であり、ぬしポケモンの確保自体はまた別。

 

「あの………流石にそこまでは………ソウさんに迷惑かけるだけなので………」

「スイレン、何を今更。もう乗り掛かった船ってやつ。それに初めて二体同時にバトルしたし、それが結構面白かったからね………そのお礼として、最後まで付き合うよ」

「はい………ありがとうございます」

「さてと。思ったより時間がかかったな。課題の中身作りは明日以降にして、今日はもう宿に戻ろうか」

「分かりました」

 

 忘れずに瀕死のオニシズクモを回収する。

 私と彼はせせらぎの丘を後にした。

 こうして始まった、彼とのアローラ試練の製作作業。

 一体、私の試練はどうなるのか。

 完成したその未来の光景に期待の胸を踊らせつつ、私は彼の隣を歩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -7- へ続く。




 ◇◇◇〔おまけ・ヨワシ釣りでの会話抜粋〕

「ソウさんは今までどんな水ポケモンを釣ったこと有りますか?」
「ん?そうだね。珍しいのだと………黄金のコイキングとか、かな」
「ふふ。昨日から、コイキングばっかり話に出てきますね」
「うるせぇやい。そういうスイレンは?」
「私ですか?そうですね………例えば………カイオーガ、とか?」
「あー、俺もその経験あるわ」
「………えっ!?冗談ですよね!?」
「ん?あっはっは。冗談に決まってるやーん。カイオーガとかとっても重たいし、人間が釣れる限界越えてるよ」
「………ソウさんはバカ野郎です」
「何で!?」





*一応、参考までに。

ぬしポケモン『オニシズクモ』
《技一覧》
・吸血
・ねばねばネット
・噛み砕く
・バブル光線
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