異世界転移ソードテール! 作:バーティカルダンス
翌日、学校へ行くとやたらとざわついていた。
「師匠、おはよう。みんなどうかしたの?」
窓側の席に座っているグループに話しかける。師匠は、みんなの師匠だ。小学校が違うから由来は知らないけど、たぶん恋愛の師匠か何かなのだろう。女の子だから。
「ああ黒夢、おはよ。これだよ。この街に通り魔が出たんだって」
そう言って見せてきたのはネットニュース。
「通り魔って。ここ結構な田舎だよ?」
「それ関係ある?」
言われて見るとないかも。
「……それにしても、まだ捕まってないのは怖いね」
「怖いの? じゃあ帰り一緒に帰る?」
「いや逆方向じゃん」
しかし街中に出た通り魔が捕まってないというのは心配だ。一瞬、警察の包囲網をするするとすり抜ける忍者のような人物像が浮かび上がったがそれは幻視だろう。
暫くするとチャイムが鳴って朝礼が始まる。
◇
体育の授業で陸上競技があった。陸上も基礎体力を作るのにはいいけど剣道を取り入れるべきだと思う。今年のカリキュラムに剣道はなかった。胴着が高いからか。選択科目は柔道とダンス。それ二択で合ってるの?たぶんほとんど男女で分かれるよね。
「次」
おっと、私の番だ。まずはこのジャベリックスローを終わらせよう。
「行きます……たぁ!」
私が投擲したプラスチック製の槍はある程度の高さに到達すると、ぐるんぐるんと前後に回りながら着地した。この競技いる?
「お疲れ」
槍を投げ終わると木陰に戻る。師匠も先に終わったようで戻ってきていたようだ。師匠は水筒を取り出し、ティーカップを取り出して注いだ。
私がじっと見つめていたことに気がついたのか「飲む?」等と言ってきたが否定しておく。私はスクイズボトルで十分です。
◇
「こんなもので人が殺せるのか……」
「ひええ……」
「あ、兄さん。お帰り」
夕方、私は料理をしながらも通り魔の話を思い出していた。
犯行に使われたのは刃渡り20センチほどの刃物だという話だ。なんというか頼りない。
「家に帰ったら妹が刃物を持って殺人計画を立てていたときの気持ちが分かる?」
「わからん。いやさあ、通り魔事件があったでしょ。あれって使われたのこれくらいの包丁なんだって。使いにくくない、これ」
「なぜ通り魔の気分になって考えるんだ。危険思想すぎる」
兄はサッカー部に所属している。戦闘能力に直結しないから私は武道を進めているのだが。
指定鞄とエナメルバッグを置いて手を洗うために洗面所に向かった。
今日の料理は肉じゃがだ。
「鰹節で出汁をとるときは茶こしを使うのだ」
「兄さんうるさい」
戻ってきた兄は手に料理本を持っていた。「70億人の日本食」と書かれている。帯には「今まで誰も見たことがなかった料理!」と書かれている。それホントに日本食かな?
「暇なら冷蔵庫から漬物だして。二段目に入ってるから」
両親は海外にいることが多く、我が家は兄と私の二人暮らしに近い。料理は私がすることが多いが、兄もできないわけではないので心配ないだろう。ただ料理の度にレシピ本を持ち出してくるが。
まあ、どこにでもある普通の家庭だ。
◇
真夜中、私は街の中をうろついていた。
なぜ私はここにいるのだろう。ああ、また夢か。
小さな町というだけあって夜になるとほとんど誰も出歩いていない。
交差点の一角でビルが建設中になっている。鋼材を運ぶクレーンは独りでに動いている。車線の片側が封鎖されている。
目の前から若い男性が歩いてきた。
「こんばんは」
距離があるうちから挨拶を投げかける。通り魔とかあるからね。
「こんばんは」
男性は呟くように言葉を返す。怪しいぞコイツ。あまり外に出ない人なのかな。
男性はゆらゆらと私の横を通り過ぎていった。
キーという油の切れた金属音がする。後ろからだ。振り返るとクレーンのワイヤーがねじれて回転している。その下には今の男性が歩いていた。そこは封鎖されているのに。
ブチブチとワイヤーが切れる嫌な音がする。
「ちょっと、危ないよ!」
咄嗟に声をかけるが、遅かった。鋼材の束はバラバラに降り注ぎ、男性はその下に押しつぶされた。
私は、暫くその場を動けなかった。
「誰か、いませんか」
声が聞こえた。生きている。
私は慌てて鋼材の山に駆け寄る。スペードのエースの刀を一閃し、白い姿の私になる。刀を消して二本の腕で鋼材を持ち上げていく。変身していても重い。こんなものが当たって無事な人間がいるのだろうか。
なんとか鋼材の山を崩すと、男性が手から這い出てきた。なんか映画で見たことがある。
「助かりました。僕は――」
刹那、銀色の刃を視界に確認し、私は刀を振るって迫る銀閃を迎撃する。
ギンという金属音と共に刀とぶつかり合ったものを見ると、それは大きな鎌だった。
一瞬の押し合いの後、鎌はすぐに引き戻される。
「うわあ、何するのさ! 大事な商売道具なのに」
そういって鎌に傷がついていないか確認するのは黒いローブを纏った骨。声からすると少女のようだが骨だ。
「大丈夫か?」
男性に問いかければやや呆然とした様子で首を立てに振る。この状況に理解が追いついていないのだろう。
「お前は何だ?」
「それはこっちのセリフなんだけど……僕は死神。その人の魂を回収しに来たんだ」
「回収?」
回収される本人は上の空なわけだが。
「そう。その人、もう死んでるよ」
そんなことを言った。
「で、分かったら邪魔しないでくれる?」
「断る」
声もかけずにいきなり鎌を振り回してくるやつの話は信用できない。第一に、私は死神を見るのが初めてだから本物かどうかわからないし。
「はあ。貴女は天使? それとも悪魔? 邪魔するなら貴方も狩るよ?」
「私はソードテール。剣士だ」
死神が手を前に突き出す。辺りから金色の塵のようなものが集まり、輝く光球を作りだした。それはこちらへ向けて発射されると、右に左にと定まらない軌道で向かってきた。
「まずい。逃げるよ」
私は男性の襟首をつかんでその場から移動する。“え、ちょっと”と抗議する声が聞こえるが無視する。首が閉まったような声は聞こえない。そういえば、まだ名前聞いてない。
私が避けた場所に光球が着弾すると、金色の粒子が降り注いでその場所を塗りつぶす。あれに当たったらどうなるんだろう。存在が塗りつぶされる?そんなでたらめな。
向かって来る光球を二発三発と躱し、曲がり角を曲がる。
「しばらく隠れていて」
私は男性を下ろして死神へと向き直る。
両手で剣を握り直し、死神へと突貫する。光球が向かって来るが、それは速さが足りない。刀を振るって斬り裂きながら進む。
「わお! じゃあこれならどう?」
死神は驚いた顔……か、どうかは分からないがそのような声色で次の攻撃を行った。この相手を殺すことに何も感じていないような明るい声は正直に言って怖い。
金色の粒子が波打つように寄せ、それが津波のように地面を削る。そう来ると取れる手段はほぼない。うん?このボディスペックならいけるか?
“ゼロ・ステップ”
空中で強く踏み込み、空気を圧縮して踏み出す。意外といけたな。これなら近づける。踏み込みが足りんと言われることもないだろう。
死神は空に浮かび上がり、鎌に光の粒子を纏わせて振るう。死神って空も飛べるんだな。
“水心流・
身体を上下逆さにし、上空の空気を蹴って降下する。死神は鎌で防御し、私の間合いに入らないように動く。その上で光の球が飛んで来るのだから厄介なことこの上ない。
得物をぶつけあいながら間合いを測る。
“水心流・水陰”
鎌の内側に刀を滑り込ませる。相手が押し込む力に合わせ、こちらも刃を引く。そして反転するように鎌の内側へと入る。刀の間合いよりもさらに内側、密着するように拳を放つ。
“水心流・
加速が十分でないが、肘から繰り出すようにして胴に一発入れる。鈍い音がするが骨を折るまでには至らなかったようだ。相手が骨しかないので殴ったこちらの手もいたくなるのだが。
「このッ……離れろ!」
それ以上の追撃は不可能だった。光の粒子が死神の身体を覆うように広がり、私の方へも飛んで来る。
「君が何なのかはよく分からないけど、君の使っている力は魔法だね。それなら僕も魔法を見せよう」
死神が鎌をぐるぐると振り回す。その動きに意味があるのか、何かの図形を描いているようにも見える。
黄金の粒子によって、円形に星形を描いたような図形が浮かび上がる。それが輝きを強めると、そこから黄金に輝く無数の鳥が現れた。多分烏。
「これが魔法か?」
「そう。使い魔の魔法さ」
これ全てに当たってはいけないと考えると結構きつい。
まだまだ戦いは長引きそうだ。