【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
「私の憧れは花陽先輩です。先輩のことが大好きです」と言ったら、先輩は戸惑ったあと、でもすぐに「ありがとう」とニッコリ笑ってくれた。
だけど、この様子だと私の想いは全然伝わっていない。
きっとお世辞、社交辞令ぐらいにしか思われていない。
「違うんです!」
「?」
「もっと真剣な話なんです!」
「?」
「先輩の事が大好きで、大好きで…どうにもならないくらい好きなんです!普通の好きと違うんです!できればその…ずっとそばにいてほしいというか…特別な存在なんです!」
「あっ…」
「女の子同士でおかしいと思われるかも知れませんが…正直に言います…。先輩が色んな人と仲良くしているのを見ると…嫉妬しちゃうんです…」
「…雪穂ちゃん…」
「困りますよね…急にこんなこと言われても…でも、本当なんです!ずっとそれを言おう、言おうと思ってて…すみません、こんなタイミングで…」
「う、ううん…それはいいんだけど…いや、いいのかな?…えっと…雪穂ちゃんが好きって言ってくれはことに関しては、素直に嬉しいんだけど…」
「はい…」
「憧れてるとか…嫉妬してるとか…その辺がよくわからなくて…ちょっと混乱してるかも…」
「…なので…少し時間をもらっていいですか?」
「えっ?」
「説明させてください」
「あっ…はい…」
何故か敬語で返事をした先輩は、私の方に身体を向けると、ベンチの上で正座した。
それにならって、私も同じ姿勢を取る。
まさに膝を付き合わせる…という格好。
公園には誰もいないけど、もし目撃者がいたら、それはとてもおかしな光景に見えるだろう。
「まず、私にとって先輩が特別な存在だ…という理由のひとつが…」
「…」
「やっぱり、裸を見られたことですかね!」
「あっ!…あれは…本当にごめんね…」
…実際には身体にバスタオルを巻いていたから、直接裸体を見られたわけじゃないんだけど…
「忘れて下さい…ってお願いしたハズですけど…覚えてるんですね?」
私は性格が捻くれている。
それを話したのは、1年ほど前。
あの時は「ちゃんと案内しなかったお姉ちゃんが悪い」ということで、話をまとめたのだけど、またそれを蒸し返すなんて…。
「…えっと…うん…なんのことだっけ?」
と慌てて忘れたフリをする先輩。
「ぷっ!先輩、それはさすがに無理があります」
「あはは…だよね…」
「でも…実はあの時から『…これは、私をキズモノにした責任を取って貰わなきゃ…』って思いました」
「せ、責任!?…」
「結婚です!」
「うひゃぁ!」
「…嘘ですけどね…」
「あは…」
先輩はホッとした表情をした。
それが少し寂しく感じたりする。
「そして、二つ目の理由。こっちの方が大事なんですけど…前にも言ったと思いますが…お姉ちゃんは花陽先輩にすごく感謝してて…だからそれを聴かされていた私も、先輩は他のメンバーよりもちょっと違う存在だったんです」
「違う存在?」
「ダメダメなお姉ちゃんを救ってくれた人」
「雪穂ちゃん!だから、お姉ちゃんのことをそんな風に言うのは…」
「怒らないでください、本当のことですから。これは実の妹じゃないとわからない感情なんです!」
「それに私が穂乃果ちゃんを救ったなんて…」
「お姉ちゃんも…海未ちゃんも、ことりちゃんも…みんな言ってるじゃないですか…『あのファーストライブに花陽先輩が観に来てくれなかったら…今のμ'sは絶対に無かった!』って。それは希さんがどんなに画策しても、こうはなってなかったハズです」
「それは…結果論だよ…」
「…私はそうは思ってません…」
「…」
「あっ…すみません…生意気言っちゃって…でも花陽先輩がどう思っていようと、他のメンバーはみんなそう思ってますよ」
「…雪穂ちゃんに改めて言われると…なんだか恥ずかしいなぁ…」
「そんなこんながあって…私の潜在意識の中に、先輩への想いが高まっていって…それで本格的に意識し始めたのが、去年の今頃だったと思います」
「去年の今頃?」
「正確に言えば…お正月明けのことです」
「何かあったっけ?」
「お姉ちゃんが『雪掻きして応援してくれた音ノ木坂のみんなに、お礼がしたい』って言って、うちで『餅つきとニューイヤーライブ』をやったじゃないですか」
「うん、やったね」
「あの時、そのアイディアを出してくれたのが…花陽先輩でした」
「そうだっけ?」
「そして…お姉ちゃんがやりたかった『No brand girls』のコール&レスポンスまで実現してくれて…」
「べ、別に…それは私だけの力じゃ…」
と真姫先輩みたいなことを言う。
でも
「いいえ!先輩の力です!」
と私は断言した。
「私は全部覚えてます。私がその前に『できることなら、お姉ちゃんにもう1回、ノーブラを歌わせてあげるチャンスが欲しい』って、先輩に言ったこともわかってて、あの曲をチョイスしてくれたんですよね?…知ってますよ、何もかも…」
「忘れちゃったよ…」
先輩はとぼける。
嘘を付くのがとっても下手だ。
「その頃から…です。小泉花陽という人に憧れるようになったのは…」
そう言ったとたん、先輩が可愛く1回くしゃみをした。
「あれ、私も誰かに噂されてるのかな?」
「はい、してますよ。私が目の前で…」
「あ、そうだね…」
と言って先輩は微笑んだ。
公園の街灯に照らされた先輩の柔かな表情を見て、私は急に切なくなった。
…抱きついていいですか…
…その豊かな胸に顔を埋めていいですか…
…よしよし…って頭をナデナデしてくれますか…
無性に甘えたくなった。
だけど、それを必死に圧し殺して、次の言葉を絞り出した。
「私…お姉ちゃんと比較されることもわかってたから、音ノ木坂に入ることを悩んだ時期もあったんです。でも、いつからか…花陽先輩のそばにいたい!って思うようになって…」
「雪穂ちゃん…」
「それからアイドル研究部に入って、花陽先輩のことを知れば知るほど、先輩が好きになっちゃって」
「…どうして…」
「…イニシャルが同じH.Kなんですよね?」
「えっ?」
「お姉ちゃんと」
「あっ…」
「だけど…なにもかもお姉ちゃんと真逆なんです…先輩は…。だらしなくて、ぐうたらで、いい加減で、自己主張だけ強くて…そんなお姉ちゃんの対極にいるのが花陽先輩なんです!」
「だから雪穂ちゃん!お姉ちゃんをそんな風に…」
「ごめんなさい!!わかってます、わかってます…。でも本当に…先輩は優しくて、あったかくて、頭も良くて、気配りができて、誰からも好かれて…柔らかくて…胸も…その…大きくて…それは事実なんです!憧れないハズがないじゃないですか!」
「そんなことないよ…私なんて小心者だから、常に周りを意識しながらじゃない生きていけないだけだし…」
「そういうとこもです!」
「?」
「その奥ゆかしさ…謙虚さ…それが先輩の魅力なんです!これ、お姉ちゃんだったら『いやぁ、そうかな?あははは…』とか言って、絶対調子に乗りますよ」
「…あ…いや、でも…穂乃果ちゃんはプラス思考の人だし…」
「入部してから、これまで…ずっと先輩のことを見てました。それで気が付いたんです。自分のことを犠牲にしてまで、私たちのことを考えてくれてるんだってことを…誰よりも早く部室に来て準備して、誰よりも遅く帰っていく…」
「部長として当然のことだから…」
「休憩中は飲み物を用意して、練習が終わったらタオルを渡してくれて…マネージャーさんみたいな仕事をして…本当は先輩だってステージに立ちたかったハズなのに…」
「それは気にしなくていいんだよ。そうするって決めたのは私自身だし」
「それなのに…先輩、すごく忙しくしてるのに…誘いがあれば、放課後も休みも、みんなに付き合ってあげて…」
「ん?」
「私たち1年生とまで食事に一緒に行ってくれたりして…」
「えっと…」
「何度も彼女たちには『先輩忙しいんだから、気を遣いなさいよ』って言ったんですけど…あれ、半分は私の嫉妬なんです…本当は私も仲間に加わりたかったんです…いえ、本当言えば…私も先輩とそうしたかったんです!」
「…うん…雪穂ちゃんが気を遣ってくれてたことは気付いてたよ…」
「はい…半分は…いえ大半は嫉妬なんですけどね」
「…そっか…ごめんね…」
「あ、謝らないで下さい!私が勝手に思ってたことですから…でも、それは1年生だけに対してじゃないんです。『希さんにも、にこさんにも…もう卒業したんだから、いい加減、先輩を引っ張り廻すのはやめて下さい!』って」
「えっ?…あ、いや…それは私が好きでお付き合いしてることで…」
「知ってます!でも、先輩、誘われたら断れない人じゃないですか?希さんも、にこさんもそれを知ってますよね?だったら、もう少し先輩のこと、労(いたわ)ってほしいんです!私は…先輩が本当に忙しすぎて、いつか潰れちゃうんじゃないかって心配してるんです」
「…そんな風に思ってくれてたんだ…」
「凛先輩も、真姫先輩もそうです!」
「凛ちゃんと真姫ちゃんも?」
「何かと言うと、先輩に頼りすぎです!」
「う~ん…」
「特に凛先輩を花陽先輩を見てると、お姉ちゃんとことりちゃんみたいで…時おり、イラッてすることも…」
「あはは…ずいぶん手厳しいね…」
「そして、そのことりちゃんなんですが!」
「えっ?ことりちゃん?」
「さっき言ったかも知れないですけど…花陽先輩に出会う前は、ことりちゃんに憧れてました。ことりちゃんも先輩に似て…優しくて、ふわふわしてて…お姉ちゃんと真反対の人ですから」
「あ、うん…私と似てるか…は別だけど…」
「でも、お姉ちゃんをダメにした責任は、ことりちゃんにあるんじゃないか…って思い始めてから、そういう気持ちも無くなっちゃって…」
「ダメにした原因?」
「甘やかしすぎますから」
「う~ん、確かにことりちゃんは穂乃果ちゃんに甘いとこがあるけど…」
「あっ、もちろん断然悪いのはお姉ちゃんです!だけど…いえ…なんでもないです…」
「雪穂ちゃん…」
「そのことりちゃんは…今、あんまりお姉ちゃんと一緒にいません!なぜですか?それは、花陽先輩と付き合ってる方が楽しいからです!!」
「あひゃあ…」
「ことりちゃんは、お姉ちゃんを見捨てて、花陽先輩に走ったんです」
「ゆ、雪穂ちゃん…」
「いいんです。ことりちゃんが誰と付き合おうと…。お姉ちゃんなんて捨てられて当然のなんですから。でも、なんで花陽先輩なんですか?私が憧れてた人が、今、私が大好きな人とイチャイチャしてる姿を、私はどんな気持ちで見ていればいいんですか!」
「イチャイチャって…その…」
「先輩は誰にでも優しくて…そういう先輩を上も下も関係なくみんなが慕っていて…そんな先輩のことが私も大好きなんです!そんな先輩だから、私は好きなんです!でも、だからこそ、先輩には無理をしてほしくないんです」
「無理なんてしてないよ…」
「してます!ずっと…ずっと先輩だけを見てきたからわかるんです!みんな、気付いてないんです!いえ、違います。知ってて気付かないフリしてるんです!!だから、私が…私が…」
「雪穂ちゃん…ありがとう。私のことをそんなに気遣ってくれてたなんて…」
「いえ…お礼を言われるのは、おかしいです。全部、私の嫉妬なんですから…横恋慕ってヤツです」
「あぅ…」
「みんな、いなくなっちゃえばいいのに!って思ってました…死んじゃえ!って思ってました。そうしたら、私が先輩を独り占めできるのに…って」
「!!」
「すみません、性格が捻くれていて…」
言いたい事は伝えた。
長い間、ずっと秘めていた想い。
それを、今、やっと解放することができた。
だけど…
目から熱い雫が溢れ落ちた。
「あれ?あれ?なんだろう…この涙…」
どうして、こんなに悲しい気持ちになるんだろう…。
それは、きっと…一方通行な恋だから。
あまりに自分勝手で…そこに先輩に対する配慮なんてない。
「ごめんなさい!…えっと…お休みなさい!」
その場にいるのが居たたまれなくなって、ベンチから立ち上がり、私は走り出した。
「雪穂ちゃん!」
先輩は私を呼び止めたけど、それに振り向くこともせず、脚を動かし続けた。
想いを伝えたあと「私も好きだよ!」ってギュッと抱き締めてくれたらな…なんて思ったりしたけど…そう都合よくいかない。
あわよくば…出掛ける時に用意した長めのマフラーを一緒に巻いて、ラブラブできたらな…とか考えていたけど…。
やっぱりそう簡単にはいかなった…。
途中まで、先輩が追い掛けてくれたみたい。
だけど、そこからあとはあまり覚えてない…。
気が付いたら、ベッドの上で、枕を顔に押し付けて泣いていた。
お姉ちゃんに、悟られないように…。
~つづく~
この作品の内容について
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