【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
2階に上がると、凛先輩が『くじ』を持って待っていた。
…?…
「折角、絵里ちゃんたちが来てくれたんだから、同じ学年で固まってもつまらないにゃ!」
「そういうこと。ちゃんとバラけるようにしてあるわ」
貸し切った部屋は円卓が3つあった。
今日参加の人数は14人だ。
「1卓だけ4人になっちゃうけど、我慢するにゃ…」
「まぁ、そうは言っても、どうせすぐに散らばっちゃうだろうから…でも、少なくとも始めくらいわね…」
「じゃあ、絵里ちゃんから引くにゃ…」
「わかったわ…」
…ということで…
まずは絵里さん、海未ちゃん、真姫先輩…そして、那美。
…ここは誰が会話を廻すんだろう…
…那美もこれはキツいわね…
次が希さん、お姉ちゃん、凛先輩…亜里沙、つばめ。
…おっと…
…ここはここで…先輩たちが暴走したら誰も止められないわね…
…あら?…
…っていうことは…
「にこちゃんと花陽ちゃんがまだだけど…織音ちゃん、雪穂ちゃん、宜しくね!」
「は、はい!」
「早く来るといいですね」
「そうだね」
…花陽先輩と同じか…
…嬉しいような、そうじゃないような…
…で…
…2人が来るまで、ことりさんだけか…
…今の私にすれば、ちょっとした生き地獄だよ…
テーブルに…チャーハンやらエビチリやら酢豚やら…が運ばれ来た。
OGの3人が結構カンパしてくれたのだろう、思ったより本格的な中華のコースだ。
小ぶりの…瓶のオレンジジュース…が配られ、栓を抜きコップに注ぐ。
「それじゃ…乾杯の音頭は希ちゃんにお願いするにゃ!」
「ウチ?」
「まだ部長のかよちんと前部長のにこちゃんが来てないから…そうしたら乾杯は宴会部長の希ちゃんしかいないにゃ」
「誰が宴会部長やねん!」
あはは…と笑いが起きる。
「仕方ないなぁ…みんなコップに飲み物は入ってるん?」
「は~い」
「ほな…」
と言うと希さんは、コップの中に人差し指を突っ込んだ。
「う~ん…5℃くらいかなぁ…」
「にゃ?」
「乾杯の『温度』…」
「ハラショーだわ!」
「あははは…希ちゃん、いきなりボケるねぇ」
「そうきましたか…」
「ちゅん!」
「…」
「あれ?1年生にはウケてへん?…」
「唐突過ぎてびっくりしてるのよ…」
…真姫先輩の言う通り…
「え~…お願いやから、もっとリラックスしてほしいやけど…」
「ほらね、言ったでしょ?二人とも意外とポンコツだって」
「凛ちゃん、ウチをえりちと一緒にしないでほしいわぁ」
「ちょっと希、私を巻き込まないで」
「そんなん言っていいん?この間のこと、みんなにバラすでぇ…」
「えっ?えっ?何、この間のことって何のこと?」
「一緒に入浴剤を見に行った時の…」
「いやぁ、やめて!!そういうことは妹の前で言わないで!」
顔を真っ赤にする絵里さん。
「えっ?なに、なに?絵里ちゃんがどうしたの?」
お姉ちゃんが喰いついた。
「あの~…ずっとコップを持ったままなんですけど…」
「はい、その話は乾杯の後にしませんか?」
真姫先輩と海未ちゃんが食い止めた。
「…そやねぇ…」
「乾杯のあとも話さなくていいから…」
絵里さんが、プクッと膨れた。
…可愛い…
…でも、その表情は、いくら絵里さんでも花陽先輩には敵わないですよ…
「ほんじゃ…気を取り直して…」
と言ったあと、希さんはひとつ咳払いをした。
「まずは突然参加してごめんな。えりちが、どうしてもみんなを労(ねぎら)いたい…って言うてな」
「それはあなたたちでしょ…」
絵里さんが苦笑いをして呟く。
「1年生の5人は…ラブライブ予選、お疲れ様。残念ながら…見事本戦に出場して『祝勝会』…とはならず…『チクショー会』になってしもうたけど」
「上手い!!」
とお姉ちゃんが合いの手を入れた。
「…年末やし、今日一日だけはその悔しさを忘れて、楽しく盛り上がろうなぁ」
「は~い」
「『挨拶とスカートは短い方がいい』って言うから、前置きはこの辺にしてやね…」
「1年生を前に破廉恥です」
「オッサンにゃ」
「ほな…『カンパ~イ』」
「…って言ったら、コップを合わせるんやで」
「もう、希ちゃん!フェイントは無しだよ!」
「お約束にゃ!」
「危なく引っ掛るとこでした…」
「…ちゅん?…」
「…」
「…」
「絵里ちゃんと真姫ちゃんは、引っ掛っちゃったんだねぇ…」
「…不覚だわ…」
「…不覚ね…」
間抜けにも右手に持ったコップを高々と掲げている2人の様子を見て、さすがの1年生たちも爆笑した。
「おっ、少し緊張もほぐれたんやない?…ほんなら、フェイント無しで改めて…カンパ~イ!!」
「カンパ~イ!!」
「は~い、みんな、お待たせぇ!」
その途端、前部長が息を切らせて部屋に入って来た。
「おぉ、にこっち」
「にこちゃん、お疲れ!」
「にこ、遅いですよ!」
「お疲れさまで~す」
私たちは起立して彼女を出迎えた。
「はぁ~…相変わらず、タイミングが悪いにゃ!」
「なに?その『招かざる客』みたいな言い方は…」
「今、乾杯したばっかりにゃ」
「仕方ないでしょ!これでも一生懸命走ってきたんだから。そもそも、もうチョット待っててくれてもいいじゃない。『少し遅れる』って言ったんだから」
「『少し』じゃ5分か10分かわからないもの…」
やれやれ…という表情は真姫先輩だ。
「それより、どうして遅くなったの?」
「チビたちの面倒を見てきたからよ」
「おぉ、毎度毎度、子育てご苦労様!」
「いや、穂乃果、子育てじゃないから!!」
「あははは…」
「アタシはどこに座ればいいの?」
「にこちゃんは一番奥のテーブルにゃ」
「こっちだよぅ」
と、ことりちゃんが手招きする。
取り敢えず、にこさんがすぐに来てくれたことで『長い時間、ことりちゃんと重苦しい空気のなか過ごさなきゃいけない』…ということはなくなった。
もっとも、それは私だけが思ってることだけど。
「えっと…雪穂と…織音…だったわね?」
「はい、天川織音(あまかわおりお)です!」
「本当、いつ聴いても芸名みたいな名前ね」
「完全に名前負けしてます…」
「まぁ、名前に関しては…アタシもことりも、他人(ひと)のことは言えないけど」
「えぇっ?ふたりとも、とても素敵な名前だと思いますよ…」
「そう?ありがとう…。もちろんアタシも嫌いじゃないけどね、自分の名前」
「はい、私もそうです…ただ、やっぱり『おりおん』って読まれることが多いのが難点で」
「なるほど。そういう意味じゃ、アタシたちは平仮名だから、間違えようがないわね」
「花陽ちゃんも『かよう』って読まれたりするもんね」
とことりちゃん。
花陽先輩の名前が出ると、ドキッとする。
「あら、そういえば花陽の姿が見えないけど」
「うん、少し遅れてくるみたい」
「珍しいわね。まさか『アルパカの世話』だとか言わないわよね」
「あはっ…さすがにそれはないんじゃないかな?」
「アイツもアタシに似て、責任感が強いからね」
「ちゅん?」
「ちゅん?…じゃないわよ!」
「は、花陽先輩もこのテーブルなんですよ。新旧部長、揃い踏みですね!」
笑っていいのか、悪いのか…織音は少し誤魔化すように、そう言った。
「そうなの?ここ、そういう席?」
「席はくじ引きで決まったんだよ」
「へぇ…じゃあ、偶然?」
「うん」
「じゃあ、この席はいささか『衣装班』って感じね」
「あっ!そうだねぇ!」
「…って本来、衣装班ってアタシじゃなくて、アンタと花陽と穂乃果のハズなんだけど」
「でもお姉ちゃん、裁縫できないから」
思わず私は口を挟んでしまう。
「知ってるわよ」
「…ですよねぇ…」
「あの娘は家庭っぽさのカケラもないからねぇ」
「はい…」
…その通りなんだけど…
…そう面と向かって言われると、少し腹立たしい…
「ところで…これ、もう食べていいの?」
「うん」
「じゃあ、先に食べちゃいなさいよ!話なんてあとだってできるんだから。ほらほらアンタたちも遠慮しないで!花陽が来たら、あっという間になくなっちゃうわよ」
そう言ってにこさんは私たちの皿を取り上げると、素早く料理を取り分けた。
「すみません」
「…ありがとうございます…」
「さすが、にこちゃん!お母さん業が板に付いてる!」
「当たり前でしょ!って誰がお母さんよ!!」
「えへっ」
「あはは…」
私と織音は声をあげて笑った。
やっぱりμ’sのメンバーは面白い人たちの集まりだ。
常に誰かが漫才かコントをしている。
『花陽先輩のこと』さえなければ、私はもっと心の底から笑っているかも知れない。
「ことり先輩もボケたりするんですね」
「ん?織音ちゃん?」
「えっ?あ、私、あんまりそういう姿を見たことなかったから…」
「そうかな?」
「基本、この娘らはアタシを先輩扱いしてないからね。確かにμ'sは先輩禁止だったけど、リスペクトがないのよ、リスペクトが!」
「そんなことないよ…」
「あるわよ。アタシを先輩としてちゃんと敬ってるのは、花陽だけだから」
「なんか、先輩たちが揃うとパワーが違いますね」
確かに、部活をしている時と雰囲気がまったく違う。
テンポは数倍早くなり、温度も何度か上がった感じする。
「パワー?」
「はい…私なんか、さっきの乾杯で、もう圧倒されちゃって…」
「乾杯?何かあった?」
「うん、希ちゃんがね…ちょっと…」
「あぁ…やらかしたのね」
「いえ、すごく楽しかったです。噂には聴いてましたけど、あんなにお茶目な人だとは思わなかったです」
「アイツ、普段は『母性の塊』みたいに振舞ってるけど…根本的には『オヤジ』だからね…って、あのテーブルは凛と穂乃果が一緒なの?最悪じゃない」
「?」
「μ'sが誇る『お笑い班』よ、お笑い班」
「にこちゃんも、あっちのメンバーだと思うけど…」
「そりゃあ、頭の良さでは凛と穂乃果に『ひけ』を取らないかもしれないけど、アタシはどっちかと言えば『弄られる方』でアイツらみたいな悪ノリはしないから」
「確かに…」
「あの3人が暴走したら、誰にも止められないわよ」
「…でも上手い具合に、隣は絵里ちゃんと海未ちゃんと真姫ちゃんがいるし…」
「アンタ、馬鹿ぁ?」
と、にこさんはSFアニメの『アスカ某(なにがし)』みたいなセリフを、ことりさんに言った。
「巻き込まれるに決まってるじゃない!こっちはアンタと花陽なら、アタシが気を付けてればいいけど、向こうは完全に『もらい事故』を食らうパターンだわ。偶然とはいえ、よくそんな席になったわねぇ」
「そんな話を聴いちゃうと、逆にどうなるのか見てみたいですけど…」
「アンタたち1年生はいないの?そういうキャラ」
「そうですねぇ…私たちの中だと…わりと『つばめ』がお笑い系なんですけど…さすがに先輩を弄ったりとかそういうことは…だから羨ましいです。先輩たちのそういう関係…」
「まぁ、アタシたちと違って、花陽は先輩禁止を撤廃したからね」
「あっ…す、すみません!花陽先輩が悪いとか、別にそういう意味じゃ…」
「作ればいいじゃない」
「えっ?」
「自分たちで」
「はい?」
「アタシたちだって、一朝一夕でこうなったわけじゃないわよ。最初の頃はわだかまりもあったし、上手くいかないこともいっぱいあった。雪穂はよく知ってると思うけど、解散の危機だってあったわ。それでも、こうしてやってこれたのは…嘘偽りなく、お互いの気持ちをぶつけ合ってきたから」
「うん…」
ことりちゃんが頷いた。
「アンタたちは…μ'sメンバーに遠慮してる部分があるかも知れないけど、本当はこの娘たちも、もっと歩み寄ってほしい…って思ってるんじゃない」
「…それはきっと、私たちに責任があるかな…」
「そんな、ことり先輩たちに責任なんか…」
「わかるけどね。アタシもアンタたちと同じ立場だったら、きっと距離を取って接してただろうし」
「そもそも、にこちゃんは『ぼっち』が好きだから、自分から進んで輪に入ることなんて出来ないにゃ」
「そうね…って、凛!?勝手にこっちのテーブルの話に入ってこないでよ!」
「にゃはは…」
「アンタは向こうで、絵里でもからかってなさいよ!」
「了解したにゃ!」
「まったく…で…花陽はいつ来るのよ!?」
「うん、どうしたんだろうね」
とことりちゃんは首を傾げた。
その時だ。
「あっ!かよちん!」
と凛先輩。
その言葉に、みんなが部屋の入口を注目する。
「いないけど…」
「あ、ごめん…LINEが入ったにゃ…」
「なんだ、LINEか」
「…」
凛先輩はスマホの画面を見て、そのまま固まった。
「どうしたの?」
「かよちん…今日、来れない…って」
「えっ?」
…私の悪い予感が的中した…
~つづく~
この作品の内容について
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面白い
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普通
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つまらない
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花陽推し、ウザい
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更新が遅い