【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
「花陽、来られないの?」
凛先輩がLINEを見て発した言葉に、先輩方が反応した。
もちろん、私たちも同じ言葉を口にした。
「うん…午後から熱が急に上がって…風邪かな?…って思ったみたいだけど…さっきお医者さんに行った診てもらったら『インフルエンザ』って言われたらしいにゃ…」
…インフルエンザ…
「予防接種は受けなかったのかしら」
と絵里さんが首を傾げた。
「受けたわよ…うちで…」
真姫先輩が反論する。
「型が合わなかったってこと?」
「かも知れないわね。まぁ…でも、こればっかりは仕方ないわ。どんなに気を付けてても罹(かか)る時には罹るのよ」
「インフルエンザなら、どうしようもないわね。むしろ、深刻なことじゃなくて良かったじゃない」
とにこさんは言った。
「深刻なこと?」
「事故にあったとか」
「!!」
その言葉に一瞬、会場の時間が止まった。
「な、なによ…そういうことじゃなくて良かった…って言ってるんでしょ?変な空気感を出すのはやめてよ」
にこさんは、不貞腐れたようにして口を尖らせた。
「にこちゃんの言う通りね…。インフルエンザなら、熱さえ下がれば、あとは特に問題ないから…」
「そうすると…花陽は完全に寝正月ですね」
海未ちゃんは、小さくため息をついた。
「うん…『みんなによろしく!良いお年を!』って書いてあるにゃ」
「良いお年を…ですか…」
「それはそれで羨ましいかも…」
「穂乃果?」
「だって『おこた』に入って、好きな時に好きなもの食べて、好きな時に寝ればいいんでしょ?ある意味天国じゃん」
…花陽先輩はアンタと違うわよ!…
「そうやね…花陽ちゃんが『ふにゃ~ん』ってなってる姿が頭に浮かぶわぁ」
…希さんまで…
「時期が時期だけに、お餅の食べすぎで、大変なことになっちゃうかもよ?そうしたらまた海未ちゃんのダイエット地獄が待ってるよね?」
「今の花陽は穂乃果と違って、そこまで自堕落な生活は送らないと思いますよ」
「あはは…わかってるって…」
「まぁ、外に出掛けられないのはつらいかも知れないけど…花陽にとっては、いい骨休みになるんじゃない?」
にこさんが口を挟んだ。
…いい骨休み…か…
「でも、インフルエンザだとお見舞いにも行けないね…」
「大丈夫よ、ことり。頃合を見計らって、アタシたちが行くわよ」
「にこちゃん…」
「三ヶ日明けたくらいなら、もう大丈夫だと思うけど…アンタたちは受験生だから、特に気を付けなきゃいけないでしょ…」
「うん、そうだね…」
「まぁ、大昔と違って、今は電話やらLINEは出来るから、コミュニケーションが取れないわけでもないし」
「う~ん、それは確かに」
「それじゃあ…花陽ちゃんが来られなくなっちゃったのは残念だけど…まぁ、大事には至らなかったとのことだから…パーティーを続けよう!…オー!…ってあれ?そこはみんなでオー!でしょ?」
「いや、穂乃果ちゃん…さすがにその掛け声はどうかと思うで?」
「はい、唐突過ぎて着いていけませんでした」
「だよねぇ…」
あははは…
…相変わらずバカだ…
そんなお姉ちゃんの言動を見た瞬間…私の中の…なんともいえない感情が…一気に爆発に向けて高まった。
まるで『空気入れ』を使って膨らんでいく風船のように…。
もうパンパンだ。
いつ『ばぁ~ん!!』と破裂してもいい状態。
「雪穂ちゃん、どうかした?」
「えっ?」
「なんか、具合悪そうだけど大丈夫かな?」
目の前にいることりちゃんが、私に優しい言葉を投げ掛けた。
私に対する接し方は、今も昔も変わってない。
でも、それを素直に受け入れられない。
心配されると、意地になって、平静を装う自分がいる…。
「そう言えばアタシも、来た時から思ってたんだけど、口数が少ないわね」
「え~矢澤先輩、雪穂はいつもこんな感じですよ…ね?」
と織音は私をからかう。
「そうだっけ?」
「はい…大丈夫です。別に具合が悪いわけじゃありません」
「そう…ならいいけど…穂乃果がああだから、つい雪穂もあんたイメージで見ちゃうのよね。…姉妹でこうも違うもの?」
「お姉ちゃんとは一緒にされたくないです」
「でも、にこちゃんのとこだって、妹のこころちゃんは全然違うよね」
「どこがよ」
「ちゅん?」
「こころはアタシに似て、礼儀正しくて…」
「矢澤先輩の妹さん?…全然、似てないんですか?」
「こら織音、聴きなさい!」
「顔はそっくりなんだよ。初めてこころちゃんと会った時は、みんな、にこちゃんと間違えたくらいで」
「ぬゎんでよ!!アタシをどれだけ小さく見てるのよ」
「髪型と喋り方が違くて、みんな気が付いたんだけど」
「いやいや、わかるでしょ、ふつー」
「ははは…」
「あの…」
「ん?」
「にこさんも、ことりちゃんも…花陽先輩のこと…心配じゃないんですか…」
今日は、残念会と言う名を借りた忘年会だ。
OGも参加して、親睦を深めるパーティーでもある。
だから、そんな楽しい雰囲気を壊すつもりなんて、毛頭もなかった。
でも、どうしても訊かずにはいられなかった…。
それについてはホントに申し訳ないと思っている…。
「へっ?」
にこさんも、ことりちゃんも質問の意味を理解していない。
織音も不思議そうな顔をして、私を見ている。
「花陽先輩のこと…心配じゃないんですか?」
「そ、そりぁあ…ねぇ?」
「う、うん…」
「花陽はアタシの妹みたいなもんだし…心配しないわけがないじゃない」
「うん、ことりもまったく一緒だよ。花陽ちゃんは、大事な大事な妹だから」
「いや、花陽はにこの妹よ。こころたちも花陽のことは姉だと思って慕ってるし。つまり公認ってわけ」
「え~、にこちゃんと花陽ちゃんは『お師匠さんとお弟子さん』でしょ?妹って呼ぶのはあつかましいんじゃないかな?」
「この間だってうちに来て、一緒に食事を作って、ご飯食べて行ったんだから」
「ことりもおうちでご飯食べて、そのあと一緒にお昼寝したもん」
「…ってくらい好きだけど?」
「…っていうくらい、ことりも好きだけど?」
「だったら…よく平然としていられますね!?」
「ん?」
「へっ?」
2人は何のこと?…という感じで顔を見合わせた。
だが、すぐに私の言った意味を理解したようだ。
「あぁ…そういうこと?別に平然としてるわけじゃないけど…今は何もできないし」
「うん…」
「良くなれ~良くなれ~っていって、どうにかなるならそうするわよ。でもインフルエンザじゃ、熱が下がるまでどうにもならないし、下手なことして、こっちが罹されても仕方ないから」
「そうだね…」
「まぁ、だいぶ頑張ってたみたいだから、少し休めば…って言ってたんだけど」
「ことりも言ったよ。だから、この間は無理矢理、一緒にお昼寝したんだよ」
「それは、アンタが花陽と寝たかっただけでしょうが」
「え、えっと…」
「図星ね!」
…ダメだ…
…ガマンできない…
「花陽先輩がこうなったのは、先輩たちのせいじゃないんですか!!」
私はダンッ!とテーブルを叩いて立ち上がってしまった…。
声も、その音も自分が思ってた以上に大きかったらしく、ざわめいていた室内が一瞬にして静かになった。
「はぁ?」
「雪穂ちゃん?」
「わ…私、急用を思い出しました!…すみません、失礼します!」
「えっ?」
いきなりのことで唖然とするみんなを尻目に、私はそのまま部屋のドアを開け、階段を下り、店を飛び出した。
「雪穂!」
誰ともなく私を呼ぶ声が聴こえたが、振り返ることなくひたすら走った。
走って走って…
そして…
気が付けば、私は花陽先輩の家の前に立っていた…。
~つづく~
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