【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇   作:スターダイヤモンド

14 / 22
バレてた…

 

 

 

 

抑えきれない感情が爆発して、店を飛び出した。

 

走っている最中、スマホが何度も鳴ったが、出るつもりはなかったから、電源をオフにした。

今は誰とも話したくない。

 

心配や迷惑を掛けたことについては、あとで死ぬほど詫びよう。

 

 

 

花陽先輩がインフルエンザに罹ったのは、他の先輩たちのせいだと思った。

先輩たちが花陽先輩を連れ回して…ゆっくりさせてあげないからだ…と。

 

でも次の瞬間

「…私が原因かも…」

という気持ちが強くなってきた。

 

一昨日の夜、家に帰る先輩を引き止め、寒風が吹きすさむ中、公園で長話をしてしまった。

今、思えば…あの時先輩はくしゃみをしていた…。

 

「あ…やっぱり私がやらかした…」

 

 

 

…最低だ…

 

 

 

自分のしたことを棚に上げて、にこさんやことりちゃんを罵って出てきたことに、激しい後悔が襲う。

それと同時に涙が零(こぼ)れる。

 

勢いに任せて、花陽先輩の家まで来たけど、このあと、私はどうしたらよいのだろう…。

 

お見舞いしたい。

インフルエンザに罹った原因が私にあることについて、謝罪したい。

 

 

 

インターホンを鳴らそうと人差し指をボタンに伸ばしたけど…直前で思い留まった。

 

ただの風邪ならいざ知らず…花陽先輩はインフルエンザなのだ。

どう考えても直接会うというのは非常識。

だからと言って、電話やLINEなどでは済ませたくない。

 

まったくもって八方塞がりだ。

 

途方に暮れ、花陽先輩の家の門柱に寄り掛かる。

 

 

 

時刻は午後7時を回ったくらい。

冬とはいえ、まだ人通りがないワケじゃない。

 

私は下を向いているけど、時折、通り過ぎる人の視線は感じる。

 

 

 

…こんなところにいたら…家から追い出された子供みたいに見えちゃうかな…

 

 

 

それはそれで、小泉家のイメージダウンになってしまう。

そんなことに気付いて、この場から離れることを決意した。

 

 

 

…かと言って、どこに行こうか…

 

 

 

当てがない。

 

 

 

「やっぱり、ここにいたのね…」

 

不意に聞き馴染みのある声を耳にして顔を上げた。

 

 

 

「絵里さん!!」

 

そこに立っていたのは、紛れもない絵里さんの姿だった…。

 

 

 

私は弾かれたように、彼女の胸に飛び込んだ。

頭で考えるより早く、身体が動いていた。

 

「あ、あの…その…」

 

でも何からどう説明をすればいいのか…混乱して言葉にならない。

 

 

 

…そもそもどうして絵里さんがここに?…

 

 

 

私は完全にパニックに陥った。

 

 

 

それまで目から静かに流れていた水滴が、堰を切ったように『どっ』と溢れ出る。

同時に『寂しさから開放された気持ち』と『昂ぶった感情』が入り混じり…それは激しい嗚咽へと変わった。

 

 

 

「うん、うん…大丈夫だから…」

 

絵里さんは子供をあやすかのように、私を抱きしめながら頭を撫でた。

 

 

 

「うっぐ…ひっぐ…」

 

 

 

痙攣するほどに身体を上下させて泣く私に

「これでも飲んで、落ち着きなさい」

と彼女はペットボトルのホットミルクティーを差し出した。

 

受取った私はキャップを緩めようとするけど、手元が震え、開けることができない。

 

 

 

「あらあら…まったく世話が焼けるわね…」

 

絵里さんは私の手に自分の手を添えて、ペットボトルを開けた。

 

「はい、どうぞ」

 

 

 

促されて、少しだけ口に含んだ。

 

 

 

「ゲホッ!」

 

気管に入った…。

 

 

 

「慌てて飲まなくても…ゆっくり…ね?」

 

背中をトントンと叩く絵里さん。

自分のあまりの情けなさに、今すぐ、ここから消えてしまいたくなる…。

 

 

 

「ここにいても仕方がないでしょ?」

 

彼女はそう言うと、私の右腕に自分の腕を絡め…半ば強引に歩き始めた。

私は引っ張られるように、足を前に出す。

 

 

 

…あれ?…

 

…一昨日の夜もこんな感じで花陽先輩と歩いたっけ…

 

 

 

あの時はドキドキして…ほんの一瞬恋人気分を味わったけど…今のそれは、完全にお姉さんに『救出』される妹のようだ。

 

だけど、それは高坂穂乃果のようなダメダメな姉ではない。

上手く言い表せないけど、とっても素敵な年上の…大人の女性…。

 

 

 

…この人にならどこに連れて行かれてもいい…

 

 

暗い闇から連れ去ってくれる気がした。

 

 

 

絵里さんが、歩きながら空いてる右手で器用にスマホを操作し、誰かに電話を掛ける。

 

「もしもし、私…予想通り、花陽の家の前にいたわ。だいぶ、混乱してるみたいだけど…そうね、ひとまず私の部屋に連れて行くから。場合によってはそのまま泊まらせるかも…うん…みんなには安心するように伝えておいて…ありがとう…じゃあ、またあとで…」

 

…ということで、どうやら私は絵里さんの家に連行されるらしいことを理解した。

 

 

 

 

 

 

「さぁ…じっくり話を聴かせてもらおうかしら」

 

 

 

「…はい…」

 

さすがに私も、彼女の部屋に着いた時には落ち着いていた。

 

 

 

「ご迷惑をお掛けしてして、申し訳ございません」

と頭を下げると…まぁ、いいから座りなさい…と促され、私は小さなガラステーブルの隣に腰を下ろした。

 

亜里沙の部屋にはいつも来ているし、絵里さんの部屋も何度か覗いたことはあるけど、こうやって改まって入るのは初めてだった。

 

状況が状況だけに、とてつもなく居心地が悪い。

 

 

 

「あの…どうして絵里さんがあそこに…」

 

訊きたいことは山ほどあるけど、まず解決しておきたかった疑問をぶつける。

 

 

「そうねぇ…『雪穂が花陽に恋心を抱いてる』…って話を知ってたからかしら」

 

 

 

「えっ?」

 

全然、想像していない答えが返ってきた。

私はそんな話を誰にもしたことがない。

 

たまに冗談交じりで「花陽先輩がお姉ちゃんだったら良かったのに…」とは口にするけど、そんなにハッキリと『恋心を抱いている』なんて表明したことは、親友の亜里沙にだってない。

 

 

 

「そ、それは…その…花陽先輩は好きですけど…恋心だとか、そういう気持ちは…」

 

 

 

「ただの好き…じゃないでしょ?」

 

 

 

「…何故ですか…」

 

 

 

「それは、あなたが花陽と接してるときの目とか口調とか仕草とか…そういうのが明らかに普段とは違うみたいよ。いくら、恋愛事に鈍感な亜里沙だって…それは気付くわよ」

 

 

 

「…」

 

 

 

「ふふふ…知らぬは本人ばかりって感じかしら?…他の1年生だって知ってるんじゃない?」

 

 

 

「…はぁ…」

 

 

 

…そうなんだ…

 

…結構、自然に振る舞ってつもりだったんだけど…

 

…バレてたか…

 

 

 

「もっとも…花陽がそれを知ってるかはわからないけど…」

 

 

 

「えっ?…あっ…」

 

 

 

…知ってます…

 

…その想いを受け止めてもらえるかどうかは、また別の話ですけど…

 

 

 

「その…で、でも、それだけでどうして私が先輩の家にいるってわかったんですか?」

 

 

 

「あなたの背中に発信機を付けといたの」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「ふふふ…ロシアンジョークよ」

 

 

 

…笑えません…

 

 

 

「そうねぇ…『にこ』と『ことり』によると『花陽のお見舞いの話云々からこうなった』…って聴いたから…かしら」

 

「それだけで?」

 

「もうひとつ…一昨日、あなたに会って花陽の話題になったとき、どこか違和感を覚えたのよね…妙に感情的になったっていうか…」

 

「あっ…」

 

「亜里沙から、さっきのようなことは聴いてたから…ピン!と来て…だから『私、心当りがあるわ』って飛び出してきちゃったの。ひょっとしたら…とは思ってたんだけど…花陽の家の前に行ったら本当にあなたが立ってて、ちょっとビックリしちゃったわ」

 

「すみません…」

 

「私じゃ不満?誰か他の人に来てもらった方が良かった?」

 

「いえ…そんな…わざわざ来てもらってそんな…」

 

「穂乃果が行っても、きっと反発するだけだと思ったし…そんな、あなたを迎えに行くのに、亜里沙じゃ力不足だし…って」

 

「…ありがとうございます…」

 

 

 

「でも…あれね…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「後先考えずに、無鉄砲な行動に出るところなんて、さすがに姉妹ね。穂乃果にそっくりだわ」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「花陽のことが心配なのはわかるけど、家に行っても面会できなことくらいわかってるでしょ?」

 

「は、はい…そうなんですけど…」

 

「雪穂は嫌いかも知れないけど…血は争えないものよ」

 

「…お恥ずかしい限りです…」

 

「亜里沙も海未が倒れたりしたら…同じ事するだろうな…とは思うけど」

 

「…はぁ…」

 

 

 

それで…と絵里さんは一呼吸置いてから

「あなたと花陽の間に何があったの?」

と確信部分に触れてきた。

 

 

 

「それは…」

 

 

 

「話したくなければ話さなくてもいいけど」

 

 

 

「…」

 

 

 

「でも、打ち上げパーティーを飛び出して、好きな人の家の前で泣いてるなんて…ちょっと普通の状況ではないでしょ?それも…たかが…って言ったら怒るかも知れないけど、花陽はインフルエンザでしょ?…気にならないって言ったら嘘になるわ。妹の親友だもの、私でよかったら相談に乗るわよ」

 

 

 

「…はい…色々とすみません…」

 

 

 

「気にしないで」

 

 

 

絵里さんはそう言ったあと、少し間を空けて

「花陽のことは、私もずっと気にしてるから」

と私に告げた…。

 

 

 

 

~つづく~

 

 

この作品の内容について

  • 面白い
  • 普通
  • つまらない
  • 花陽推し、ウザい
  • 更新が遅い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。