【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
年が明け、新学期が始まった。
親睦会で私が『自棄(ヤケ)を起こして店を飛び出してしまったこと』については、絵里さんの仲介もあって、不問に付された。
一応『花陽先輩の具合が悪い中、パーティーするのはいかがなものか』という気持ちが強く出てしまった…とういうのが理由になっている。
絵里さんは『私の花陽先輩に対する真の想い』は伏せてくれたが、きっとみんなには、バレてしまったと思う。
私が逆に立場なら、あそこまで激高するには『何かある…』と考えるのが普通だろうと思うから。
でも、表立って私に何か言ってくる人はいなかった。
お姉ちゃんには
「あはは…他人の迷惑を省みず、ひとり突っ走っちゃうなんて、やっぱり私の妹だね」
なんて言われてしまった。
普段なら「どこが!?」と言い返すところだけど、さすがにこれは、認めざるを得ない。
血は争えないのだ…。
ちなみに今回の件については、花陽先輩の耳には入れないよう、協定が結ばれた。
自分のインフルエンザが原因で、ひと悶着あった…なんて聴かされれば、いい気はしないだろうし…責任感の強い先輩のことだ、どこまでも堕ちていってしまう恐れがある。
花陽先輩は、暖かな春の陽だまりのような存在でいて欲しい…というのは、全員の共通認識だった。
「…えっと…改めまして、あけましてめでとうございます。…年末はみんなに心配させちゃって、本当にごめんなさい。お陰さまで、すっかり良くなりました。…とはいえ…まだまだ流行のピークは過ぎてないみたいなので、みんなも体調には充分気をつけてください!!…なんて…自分のことを棚に上げて言うのもなんだけど…」
…不幸にもインフルエンザに罹り、年末年始は『寝正月』だった…という部長がそう挨拶した。
「まずは、元気そうでなによりです」
「うん!ちゃんとお顔が見れて、ホッとしたよ」
「本当だよね!」
新年最初の部活…ということで、3年生も部室に顔を出している。
「その節は…ご迷惑をお掛けしました…」
その上級生に対し、花陽先輩は深々と頭を下げた。
「いやいや…迷惑とか言わなくていいから」
「はい、私たちが何か手伝えたわけでもありませんし」
「本当はお見舞い行きたかったんだけどね…」
「えぇ…インフルエンザでは…」
「そうですね…うつしちゃった大変ですもんね」
「そうなんだよ、私たち、こう見えて受験生だからさ」
とお姉ちゃん。
「こう見えて…って、見た目で受験生かどうか、区別は付かないにゃ」
「いや、凛ちゃん、そこはほら…」
「…って、穂乃果ちゃん、大学行くの!?」
「えっ?今、それ言う!?行くよ、行く」
「でも、試験に受からなきゃ、大学なんて通えないんだよ」
「知ってるよ。その為に一生懸命勉強してるんだから」
「へぇ、受験生みたいにゃ…」
「だから、受験生なんだって」
似た者同士のお約束の会話だけど、やっぱりおかしい。
私たち1年生も含め、部室内がドッと沸いた。
「でも…私は少し落ち着いたように見えるわ」
ひとしきり笑いが収まったあと、真姫先輩が言った。
「誰がにゃ?」
「穂乃果がよ」
「だよねぇ!だよねぇ!さすが真姫ちゃん、わかってる!」
「って、抱きつかないでよ!」
「あはは…照れない、照れない!」
「…前言撤回…やっぱり何にも変わってない…」
「あちゃぁ~」
そう言ってお姉ちゃんは天を仰いだ。
「…でも、たまに…以前に較べれば、同じ時間を過ごすことが少なくなって…『μ'sの仲間』…って言うよりは『先輩』って感じる瞬間はあるわよ。校内で見かけた時『あっ…』って思うもの…上手く言えないけど…話し掛けるのに躊躇する…みたいに」
「にゃ?そもそも真姫ちゃんが自分から話し掛ける相手なんて、かよちんぐらいしかいな…」
「そ、そんなことないわよ!」
「確かにそうかもしれませんね…」
「ちょっと、海未!」
「あ、いえ…凛の発言を肯定しているわけではありません。真姫のその気持ちはわかるような気がする…ということです。…昨年は絵里たちが卒業間直まで一緒にいてくれたので、そこまで距離を感じませんでしたが…」
「うん、むしろ3年生が卒業したらμ'sの活動をどうするか…っていう意識は強かったけど、結局最後まで一緒だったもんね…」
「今の私たちは、すでにOBみたいな感じになっちゃってる?」
…そうなんだよね…
…こうして学校で制服を着ている姿を見ると…
…やっぱりお姉ちゃんも『先輩っぽく』見えるんだよね…
…なんだろう…
…ひとつ屋根の下に暮らしていると、その変化にあまり気が付かないけど…
…それでも一歩ずつ大人に近づいてるんだろうなぁ…
…どこがどう?…って言われても、明確には答えられないけどさ…
「いや、大丈夫!受験生っていうのは事実だけど、今まで通りに遠慮しないで、声掛けてくれて全然構わないから!」
「はい!気遣ってくれるのはありがたいのですが、他人行儀に扱われるのは御免です」
「だからねぇ…ことりにも全然話しかけてくれていいんだよ?花陽ちゃんだけじゃなくて…」
「だから違うから!!私のは話し相手は、別に花陽だけじゃないの!!」
「うふふふ…」
ことりちゃんは時折『さらり』と他人を煽って、その反応を楽しんでいるように見える。
振り返ってみると…それは圧倒的に真姫先輩に対する場合が多い。
その次に…にこさんかな?
凛先輩をからかうようなところは、あまり見たこと無い。
…ん?…
…「花陽ちゃんだけじゃなくて?」…
…あっ!…
…今の発言ってもしかして…
…暗に『私の花陽ちゃんを、真姫ちゃん盗らないでね…』…っていう牽制なのなか…
…ライバル心ってヤツ?…
…凛先輩に対してそうしないのは…
…やっぱり別格に見てるから?…
…なんて、変に勘繰ってみたりして…
「ところでさぁ…花陽ちゃん、少し太ったんじゃない?」
私が少しの間、そんなことを考えていると、突然お姉ちゃんの声が耳に飛び込んできた。
「えっ…そ、そうかな…」
と慌てて自分の身体を見回す先輩。
「うん!休み前より、少しふっくらしてる気がする…ね?ことりちゃん!」
「どうだろう…そんなに変わらないと思うけど…」
「え~?じゃあさ、海未ちゃんはどう思う?」
「私?私ですか…そうですね…言われて見れば…という程度でしょうか…」
「ほらね?インフルエンザは熱が下がったら、特にすることないじゃん。もちろん、外出はしちゃいけないけど…さ。だから花陽ちゃんはお休みの間『おこた』に入って、お餅やお雑煮を食べまくってたんだよ!羨ましいって言えば、羨ましいけど…これは新年早々、厳しいダイエットが必要となりそうだね…いっひっひっひ…」
お姉ちゃんは嬉々とした表情で、意地悪く笑った。
「ですが…」
「ん?」
「花陽は、病み上がりですし、げっそりとやせ細って出てくるよりは良いかと思います。それだけ元気になったという証でしょう」
「いや、海未ちゃん、病み上がりって言っても、たかがインフルエンザだし…」
「それに…スマートな花陽というのは、花陽ではない気がします。花陽は適度にふっくらしていてこそ花陽なのです。適正体重が大幅に上回るとか、ダンスができなくなるほどであるとか…そういうことなら問題ですが…これはひとつの個性ですから…花陽の場合はこれくらいのふくよかさは許容範囲かと…」
「えっ?海未ちゃん…」
予想外の答えが返ってきて、お姉ちゃんは目を丸くいている。
もちろん、私も、真姫先輩も凛先輩も…そしてことりちゃんも…。
いや、一番びっくりしてるのは、花陽先輩かもしれない…。
口をポカーンと開けて、呆けていた。
「おお?やっと海未ちゃんも、かよちんの魅力に気が付いたにゃ!」
その横で、まるで我がことのように喜ぶ凛先輩。
この人は…本当に純粋すぎるくらい先輩のことが好きなんだろうな。
今の発言を聴いて、海未ちゃんも先輩の争奪戦に名乗りを上げる可能性があることを、気にも留めていないようだ。
「そうね。花陽の身体やわらかさは、唯一無二の存在と言ってもおかしくないわね」
「身体だけじゃなくて。ほっぺもね…プニプニしてて…」
「も…もう、真姫ちゃんも、ことりちゃんめ…そんなところを褒めないでよ」
先輩は、恥ずかしそうに俯いた。
「テレテレのかよちん、可愛いにゃ~!!」
「あぅ…」
その顔が真っ赤になっていく。
「いいなぁ…花陽ちゃん…穂乃果もプニプニになって、みんなに褒められたいよう!」
「あなたは子供ですか!!」
「穂乃果ちゃんだと、プニプニじゃなくて、ブクブクって感じにゃ」
「想像付くわね」
「あぁ…後輩からひどい言われようだよ…ねぇ、ことりちゃん、この差って何?」
「う~ん…キャラクター?」
「グサッ…穂乃果は今、ことりちゃんの嘴に刺さって死にました…」
そう言って、お姉ちゃんはヨロヨロと崩れ落ち、部室の床へと倒れたのだった…。
~つづく~
海未ちゃ…じゃなかった…みもりん、結婚おめでとう!
この作品の内容について
-
面白い
-
普通
-
つまらない
-
花陽推し、ウザい
-
更新が遅い