【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
練習場所としている学校の屋上に照明は付いていないから、陽が落ちたあとは急に真っ暗になる。
そして一気に寒くなる。
ましてや部長は病み上がりである。
そういうことで、新年最初の部活は顔合わせ程度…早々に終わった。
普段は姿を見せないお姉ちゃんたちが、あれやこれやと騒々しくしていたせいで、収集が付かなくなったというのも理由のひとつなのだが、今日のところは、それで私は救われた。
私はといえば、あぁいう騒動を起こしたあとだ。
いきなりシリアスモードで練習に挑むのは、正直、厳しかった。
たまには、お姉ちゃんも役に立つじゃん。
「か~よちん!今日は寒いから、ラーメン食べて帰ろう!」
「あなたは暑い寒い関係なく、いつもそればかりじゃない」
凛先輩の呼びかけに、真姫先輩が間髪入れずツッコむ。
ほぼ毎日、同じようなやり取りをしているから、条件反射的に、そんな言葉が出てくるのだろう。
「よし!今日は…花陽ちゃんの快気祝いだ!みんなでパーっと行こう!」
「おぉ!穂乃果ちゃんたちも一緒に行くにゃ~!」
「たかがインフルエンザで、快気祝いもないと思いますが…」
「いいの、いいの!細かいことは気にしない!」
お姉ちゃんと海未ちゃんの会話も相変わらずだ。
その横でことりちゃんがニコニコと微笑んでいる。
こういう風に見守ってくれている…というのは、少し前までありがたいって思っていたけど…でも、本心はどうなんだろう?
「相変わらずバカやってるなぁ…もう、穂乃果ちゃんには付き合い切れないよ…」とか思ってたりして。
あ、だから花陽先輩に気が移ったんだっけ?
「1年生も一緒に行こうよ!」
お姉ちゃんも問い掛けに
「はい!」
「是非!」
亜里沙たちが次々と手を挙げた。
「ところで、穂乃果は…みんなの分のお金は持っているのですか?」
「みんなの分?」
「はい、快気祝いをしましょうと誘っておきながら、花陽や後輩にお金を出させる気ですか?」
「いや、そこは真姫ちゃんが…」
「なにそれ?意味わかんない!」
伝家の宝刀炸裂。
にべもない返事に、プッと凛先輩が吹き出した。
「大丈夫ですよ、自分たちに分は自分たちで払いますから」
1年を代表して、そう織音が大人の対応をすると
「おっ!悪いね!」
なんて、悪びれる様子もなく、お姉ちゃんが答えた。
みんなは、あはは…と笑ったけど、妹としてこの場から消えてしまいたくなる。
恥も外聞もないのかアンタは!
ここに妹がいるということを、全然わかっていない。
何気なく花陽先輩の顔を見た。
この間もお姉ちゃんのことで愚痴ったばかりだから、無意識のうちに同意を求めていたのかも知れない。
それを察していたのか、目が合った先輩は苦笑しながら「まぁまぁ…」という表情をして私をなだめてくれた。
…花陽先輩がいなかったら、タックルをぶちかまして、帰っていたところだよ!…
「じゃあ、かよちん、急いで着替えて、出発にゃ~!」
凛先輩の掛け声に、当然「うん!」という返事が返ってくるだろうと思っていたのだが、しかし花陽先輩は
「ごめん、凛ちゃん、穂乃果ちゃん…今日はちょっと…雪穂ちゃんと一緒に帰ろうかと…」
と断りを入れた。
意外な答えに、一瞬、その場の時間が止まる。
私も驚き、呼吸が止まった。
先輩には余計な負担を掛けたくないと、みんな、年末の一件は口を閉ざしていてくれているハズ。
リアクションを見れば「えっ?部長、雪穂のこと、知ってるの?」という感じだから、ここにいる人たちは、約束を守ってくれてるのだろう。
だとしたら…誰が一体?
…にこさんや希さんが漏らしたとか?…
…それは、充分ありえる…
…
「あのなぁ花陽ちゃん、こないだ、忘年会やったやん?あの時、雪穂ちゃん、メッチャ暴れてなぁ」
「そうよ!アンタ抜きで楽しむなんて、どういうことですか!って…それはもう大変な騒ぎだったんだから」
「まぁ、花陽ちゃんに心配かけるから、黙ってようってことになったんやけどね」
「って教えてどうする!」
「あははは…ホンマやね!」
…
こんな会話があったことが、余裕で脳内再生できるよ…
そうでなければ、今、この場でこんなことは言い出さないでしょ!?
…あ…いや…人を疑うのはやめよう…
…さすがにそれは考えすぎか…
私がひとりでそんな妄想に耽っていると
「前に、雪穂ちゃんと一緒に帰ろうねって約束したんだけど、なかなかタイミングが合わなくって…今日は早く終わったし…だから…」
と先輩が話し出した。
はて、そんな約束したっけ?と思いつつ、先輩の顔を見たら、左目を1回、高速でパチリと開閉させた。
「そ、そうでした…はい」
理由はどうであれ、先輩から誘ってくれた話だ。
断るわけにはいかない。
口裏を合わせてみる。
「そうだったの?なぁんだ、早く言ってよ!折角、穂乃果が驕ってあげようと思ったのに…残念だなぁ」
「はいはい、その気もないのに無理しないの」
「あぁ、真姫ちゃん、信じてないでしょ?本当は最後、穂乃果が支払ってあげようと思ってたんだよ。サプライズだよ、サプライズ!でも花陽ちゃんが来ないなら…いやぁ、残念、残念…」
「へぇ…じゃあ、花陽と雪穂には悪いけど、今日は私たちだけで行きましょ!」
「はい!穂乃果のおごりですからね。気が変わらないうちに行きましょう!」
「えっ!い、行くの!?」
「行っくにゃ~!!」
「ちゅん!」
「あわわ…えっと…全額はやっぱり…」
「問答無用です!!」
こうして、お姉ちゃんは…海未ちゃんと真姫先輩に引きづられようにして、屋上から姿を消したのだった。
あはは…と笑いながら、ことり先輩と亜里沙たち1年生がその後ろを付いていく。
「じゃあ、かよちん、また明日!」
「うん、ごめんね…」
バイバイと手を振ると、凛先輩も足早に「ラーメン!ラーメン!」と呟きながらいなくなった。
屋上は、騒がしい人たちがいなくなって、暗さと寒さが一気に増した。
「ごめんね…付き合せちゃって…」
「い、いえ…全然…」
「この間の返事…ちゃんとしなきゃって思って…」
「あっ…」
先輩が、あの騒動を知っているか、いないのか…今の段階ではわからない。
でも私が投げ掛けた言葉に対して、何らかの答えを用意してくれて、それを伝えてくれるらしい。
まさか、今日の今日だと思っていなかったから、ちょっと動揺が隠せない。
「い、今ですか…」
なんて当たり前のことを言ってしまう。
「…のつもりだったんだけど…」
「えっ?」
「みんながラーメンの話するから、お腹が空いてきちゃった…一緒に行けばよかったかな?…お話するのはそのあとでも良かったかも…」
「あ…そうですね…」
「そしたら…先に…何か食べに行こうか?」
「は、はい…」
「あ、そうだ!このまま私のおうちでご飯食べようよ」
「はい…そうですね…えぇ!!先輩のおうちで!?」
自分でもビックリするくらいの、ノリツッコミを披露してしまう。
「うん!この間は雪穂ちゃんちでご馳走になったし…そのお返しで」
「あ、いや、でも、ほら…そんな急に言っても、準備とか色々あるし…」
「大丈夫だよ!ご飯のことなら心配しなくても」
「はい、お米の心配は要らないかもですけど…あ、いえ、そういうことではなくて…この時間からというのは…」
「そっか!遅くなっちゃうといけないから、一旦、雪穂ちゃんちに行って、お泊りの支度をしてから行けば安心だね」
「と、泊まっちゃうのぉ!?」
…お、お泊まり?…
「明日も学校だし…遅くに帰って風邪引いちゃったら、私の二の舞でしょ?」
「その節は…」
「あ、別に雪穂ちゃんが悪いわけじゃないから…元々、風邪気味だったみたいだし…」
「いえ、私のせいです…私があそこで引き止めなければ…」
「じゃあ、その時の罰として…」
「えっ?」
「今日は先輩の言うことを聴きなさい」
「…」
「これは部長命令なのです!」
言葉だけ聴けばパワハラである。
でも全然恐くない。
むしろ、どうしてこんなに可愛く怒れるんだろう…なんて思ってしまう。
「だから、今日はご飯食べたら、お泊りだよ!!…うん!じゃあ決まりだね!」
「は、はい!」
うわぁ…
マジか!
花陽先輩の家にお泊り!?
うわぁ…
うわぁ…
いいのかな…
いいのかな…
ド…ドッキリ…ってことはないよね?
「にひひひ…大成功!!」とか言って希さんが現れたりしないよね?
半信半疑。
夢心地のまま、誰もいなくなった部室で着替えを済ませ…花陽先輩と一緒に家路に就いた。
心なしか、歩調が速くなっている気がする。
「ただいま!」
「おかえり…あら、花陽さんも一緒?」
「あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます」
「はいはい、こちらこそ…」
「ごめん、お母さん!今日、先輩のうちでご飯食べる!」
「えっ?」
「それで…多分遅くなるから、泊まると思う」
「どうしたの、藪から棒に」
「すみません、突然…私が誘ったんです。この間のお礼に…って」
「あら、そういうこと?いいのに気を使わなくても」
お母さんと先輩が会話している間、私はダッシュで階段を駆け上がり、自分の部屋に入ると、素早く宿泊に必要なものバッグに詰め込み、再び階段を駆け下りた。
「あとね、お姉ちゃんは、凛先輩たちとラーメン食べて帰ってくると思うから、そんなにご飯、食べないかも!」
「そうなの?それならそうと連絡くらいくれればいいのに…」
「お姉ちゃんだからね!じゃあ、行ってきます…とっ…とっ…」
履こうとした靴に突っかかりながら、なんとか踏みこたえた。
「雪穂ちゃん、そんなに慌てなくても…」
「いえ、先輩を待たせるわけには行きませんから!!」
「ふふ…」
「何かおかしなこと言いました?」
「ううん…そんなことないよ。ただ…」
「ただ?」
「普段はあんまり思わないんだけど…ふとした時の表情とか喋り方とか…仕草とか…穂乃果ちゃんソックリだな…なんて」
「似てません!一緒にしないでください」
「あはは…」
自分でもわかっている。
家に帰ってきてから、出てくるまでのドタバタした様子は、普段のお姉ちゃんと瓜二つである。
私に妹がいたら「ちょっと、お姉ちゃん!もっと静かにできないの?」と、愚痴のひとつも言われていただろう…。
「えっと…姉妹だから似てるのではなく…ずっと一緒にいるから、お姉ちゃんのクセがうつったんです」
どっちも大して変わらないけど、ひとまず似てると言葉だけは否定したかった。
それを聴いて、またも先輩は「あはは」と笑ったのだった…。
~つづく~
約1ヶ月半ぶりくらいの更新です。
すみません、遅くて。
忘れてるわけではないのです。
もう少しで終わる予定なので、もうしばらくお付き合い願います。
この作品の内容について
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