【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
「ただいまぁ~」
花陽先輩がそう言って玄関を開けると、とたんに「ふわぁ」っと甘いご飯の炊けた香りが漂ってきた。
我が家で炊いたご飯のそれとは、明らかに違う。
…これ、絶対、美味しいご飯だよ!…
「くん、くん…」と鼻を鳴らせると、先輩はにこりと笑った。
「今日も美味しいご飯が食べられそうだよ」
「は、はい…」
激しく同意。
先輩は毎日これを食べているのかと思うと、ちょっと羨ましく思った。
「どうぞ、中に入って」
「あ…お邪魔します…」
花陽先輩の家に初めて訪れた私は、自分でもわかるくらい緊張した面持(おもも)ちで玄関に入る。
するとすぐに
「いらっしゃ~い!」
と先輩のお母さんが出迎えてくれた。
…うわぁ…
…若い!…
…綺麗!…
私は一瞬見惚れてしまい、言葉を失った。
先輩と『歳の離れた姉妹』と言ったら、みんな騙されちゃうんじゃないだろうか…。
そういえば、先輩のお母さんは『アイドルの卵だった』と誰かから聴いたことがある。
いつ結婚したかまでは知らないけど、早くに出産していれば、この美貌も納得だ。
うちのお母さんも不細工だとは思わないけど、これは全くレベルが違う…。
この親にして、この娘あり!ってところかな?
私もこういうお母さんから生まれたかったよ…。
「えっと…こちらが穂乃果ちゃんの妹さんで…雪穂ちゃん」
「あ、はい、こんばんは。高坂雪穂です!」
「いつも娘がお世話になっております」
「いえ、逆です!私が先輩にお世話になっていて…ついでにお姉ちゃんもお世話になっていて…」
「えぇ!?私は穂乃果ちゃんのお世話はしてないよ」
「いえいえ、花陽先輩は、ずっと頼りない姉を支え続けてくださってますので…」
「だから雪穂ちゃん、そういうことは言わない約束でしょ!」
「あっ…」
「うふふ…いきなり面白いこと言うのね?お姉さん讓りかしら」
「えっ?」
…先輩の…お姉ちゃんの評価(笑)…
「まぁまぁ、立ち話もなんだから…どうぞ中に上がって」
「すみません、突然、お伺いしてしまって…」
「全然構わないわよ。いつものことだもの」
…いつものこと?…
…それって凛先輩?…
…それとも…
先輩のお母さんが放った何気ない一言が、私の胸に突き刺さった。
「荷物を花陽の部屋に置いてきたら、早速お食事をどうぞ?お腹空いてるでしょ?」
「うん!」
「あなたじゃなくて、雪穂ちゃんに言ってるんだけど」
大きな声で返事した先輩に、うふふ…と笑いながら彼女がツッコミを入れる。
「あはは…だよね…じゃあ、行こう!」
と先輩は恥ずかしさを隠すように、私の手を強引に引っ張って、自分の部屋へと導いたのだった。
…
先輩の部屋で荷物を降ろしたあと、食卓に移動する。
そこには、色とりどりのおかずが所狭しと並んでいた。
和食と洋食と…。
「うちには『おじいちゃん』と『おばあちゃん』がいるでしょ?ふたりに合わせておかずも作るから、こうなっちゃうんだよね」
と先輩。
「は、はぁ…」
見ただけでお腹がいっぱいになりそうだ。
「そのお二人は?」
「先に食べ終わってるよ。前はね、家族全員で食べてたんだけど…私が高校生になってからは帰ってくるの遅くなったし、待ってられないから…」
「そうねぇ。みんな揃って晩ご飯食べることが、本当に少なくなったわねぇ。お父さんも今日は遅いって言ってたし」
話を聴いていた先輩のお母さんが、私たちの食事の準備をしながら、口を挟んだ。
「だから、最近は晩ご飯、私ひとりの時が多いんだよ」
「そうなんですね」
「今日は雪穂ちゃんと一緒だけど」
「でも花陽は炊きたてじゃないとうるさいから、タイミング合わせるのが大変なのよ」
…あはは…さすが先輩、すごいこだわり!…
「だから、帰る前に連絡入れてるでしょ」
「そうだけど…ということだから、遠慮しないで、いっぱい食べてね!」
と先輩のお母さんは、私に大盛りによそったお茶碗を手渡してくれた…。
…
「ごちそうさまでした…」
「あら、もういいの?」
「はい、調子に乗って食べすぎました…」
「お口に合いました?」
「それはもう!特にご飯が!やっぱりうちで食べてるのと全然違うなって」
「良かったわ!」
「お米もそうだけど、炊飯器にもこだわってるから。ちなみに、これは私専用なんだよ」
…ですよね…
「じゃあ、私もそろそろ『ごちそうさましよう』かな」
「あら、花陽も?」
…そろそろって…
私が(山盛りによそられたとはいえ)お茶碗一杯のご飯を食べる間、先輩は何回お替りしたのだろうか。
毎度の事ながら、圧倒されてしまう。
…その栄養が…胸に集まってるのかな?…
「今日は腹八分目です」
「どの口が言うのかしら?」
「ん?」
2人は顔を見合わせた後、ニコッと表情を崩した。
「あ、お母さん、残ったご飯はおにぎりにしておいてね」
「わかってるわよ」
「おにぎり…ですか?」
「うん、お夜食だよ」
「や…しょ…く…」
…結局、食べるんかい!…
…でも、なんの問題もありません!…
…先輩ならOKです。…
…これがお姉ちゃんなら「おい!」って激怒しちゃうとこだけど…
…だけど…
…これだけ食べているにも関わらず、このプロポーションを維持してる…って、自己管理が徹底してるってことだよね?…
…ますます先輩を尊敬しちゃいます…
…
食後にお茶を頂き、一服したあと、先輩の部屋に戻った。
さっきは荷物を置いて、すぐに出てきちゃったから、観察しているヒマなどなかった。
改めて周りを見渡してみる。
室内には机とベッドと本棚。
どれも至ってシンプルなデザインで、色調も含めて思ったほど『ぷわぷわ』していない。
もっと女の子、女の子してる部屋かと思っていた。
「アイドルのポスターとか貼ってると思ったでしょ?」
私が不思議そうな顔をしているのに気付いて、先輩が声を掛けてきた。
「多少は…」
「そういうのは『にこちゃん』に倣って、全部部室に貼らせてもらってるから」
と先輩は照れくさそうに頭を掻いた。
そういえば、部室にあるアイドルグッズは、ほぼほぼ先輩の私物だったっけ。
真姫先輩が「にこちゃんの私物が無くなったと思ったら、あっという間に花陽のものでいっぱいになったわね…」って苦笑してたのを思い出した。
…
ひとしきり、たわいの無い話をしたりしているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
「さて…そろそろお風呂に入らなきゃ…」
「えっ!あ…はい…」
「どうする?一緒に入る?」
「い…一緒に!?」
…なんと大胆な!…
…まさか先輩の口からそんな言葉を聴こうとは!!…
…これって…誘われてるのかな?…
…そもそも、今日のお泊りだって先輩から、声を掛けてくれたわけだし…
…それって…私の気持ちを受け入れてくれた…ってこと?
…待て待て…
…早とちりするな!…
…私はお姉ちゃんみたいなドジじゃない!…
…冷静になるんだ!…
…きっと、この一緒に入る?にそれほど深い意味は無い…
…ごくごく普通の挨拶みたいなものだ…
…そう…
…きっとそう!…
「って、やっぱり嫌だよね?」
私が即答できずにいると、花陽先輩は寂しそうにそう呟いた。
「えっと…あの…そうじゃないんですけど…」
…入りたいような…
…入りたくないような…
…一緒に入ったら、先輩のそのナイスボディを目の当たりにすることになるわけで…
…そうしたら、あんなことしたりこんなことしちゃったり…
…きゃあ!…
…その後の自分がどうなっちゃうのか、想像付かないよぉ!!
「ごめんね、つい凛ちゃんに言うみたいに訊いちゃった…やっぱり、いきなりはね…」
…あっ…
…それ、ちょっと傷付きます…
「あ、いえ…じゃあ…その…はい、お言葉に甘えて…お先に失礼します…」
結局、私はお風呂にひとりで入ることにした。
~つづく~
この作品の内容について
-
面白い
-
普通
-
つまらない
-
花陽推し、ウザい
-
更新が遅い