【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
お風呂から出たあと、先輩と一緒に髪の毛を乾かし、部屋に戻った。
「これ、見てみる?」
不意に先輩から差し出されたのは
「星座の本?」
だった。
「今の時期は、空気が澄んでるから、東京でもわりとハッキリと星が見えるんだよ!今の時期なら…特にカシオペア座とかオリオン座とか…」
「聴いたことあります。あと…『冬の大三角形』…なんていうのも、ありませんでしたっけ?」
私はありったけの知識を絞り出して、話を合わせてみる。
「うん、おおいぬ座のシリウスと、こいぬ座のプロキオン、それからオリオン座のベテルギウス…この3つを結んだのが…冬の大三角形!…雪穂ちゃん、よく知ってるね」
「いえ、たまたまです…」
…本当にたまたまた…
…それだけを覚えていた…
「折角だから…窓を開けて空を見上げてみようか…」
「あっ…えっ?…」
「な~んて言いたいところだけど…今日は…無理だね」
と自嘲気味に笑った。
「…ですねぇ」
先輩はインフルエンザ『明け』だ。
ここで、風邪などひくことはできない。
もちろん、それは私も同じである。
「ところで…花陽先輩って、そういう趣味ありましたっけ?」
もちろん、バカにしてるわけじゃない。
けど…先輩の口から、お米とアイドル以外の話題が飛び出すとは思っていなかった。
「趣味…っていうほどじゃないけど…少し、勉強し始めた程度…かな」
「全然知りませんでした」
「去年ね…真姫ちゃんと一緒にプラネタリウムに行ってから、興味が沸いてきて…」
「えっ?」
「知らなかったでしょ?真姫ちゃんって天体観測が趣味なんだよ!それでね…たまに一緒に星を見に行くんだ…あっ!みんな誤解してるかも知れないけど…実は、真姫ちゃんって凄くロマンチストなんだよ」
私が驚いたのは、真姫先輩の性格についてではない。
その話は、お姉ちゃんから多少なりとも『情報を得ている』からだ。
問題は…
「真姫先輩と2人で…ですか?」
「天体観測?うん…最初は凛ちゃんも誘ったんだけどね…性格的に合わないみたいで…」
「はぁ…」
と、その言葉を聴いた私は、間の抜けた返事をしてしまった。
「ん?」
「いえいえ…」
…
西木野邸のバルコニー。
1枚のブランケットにくるまって、肩を寄せ合う2人。
望遠鏡を覗きこんで、ひと言、ふた言、ボソッと呟く真姫先輩。
そんな彼女と星空に、目を輝かせて話を聴く先輩。
でも、この場合の星空は…凛先輩のことではない…。
頃合いを見て、魔法瓶からコポコポと温かいコーヒー…いや、日本茶…かな?…を淹れて「はい、どうぞ…」なんて言って、花陽先輩が手渡す。
「あ、ありがとう」
いつもの如く、ぶっきらぼうで短い返事の真姫先輩。
だけど、その表情は穏やかで…それを口に含んだ瞬間、思わず「ふふ…」なんて、笑みを漏らす…。
「真姫ちゃん?」
「ううん、何でもない…ただ…あなたが横にいてくれてよかった…そう思ったら自然と笑顔になっただけ…」
…
なんて妄想を、私はコンマ何秒かの間で行っていた。
真姫先輩が花陽先輩に、絶対の信頼を置いているのは知っている。
花陽先輩と話す時だけは、表現も言葉も穏やかになる事も知っている。
凛先輩やことりちゃんほど露骨じゃないからわかりづらいけど、真姫先輩も花陽先輩に対してだけは、異常にボディタッチが多いことも知っている。
まぁ、それは本人が意識してるかどうかはわからないけど…。
でも、ふたりがデートしているイメージは、あんまりなかった。
ことりちゃんとなら、お洋服見たり、スイーツ食べに行ったり…それは全然わかる。
凛先輩となら、ゲームセンターやカラオケ…あとは…やっぱりラーメン屋さんに行ったり…花陽先輩主導でアイドルショップに行ったり…なんていうのもわかる。
でも、真姫先輩とのそれは…今までまったく想像付かなかった。
まさか、こんな形でデートをしていたとは…。
しかし、それを聴いたら聴いたで、一気にさっきみたいなことが想い描かれてしまうから不思議だ。
凛先輩と和気あいあいとした…ことりちゃんとの甘々なぷわぷわとした雰囲気…とはまた別の、とても静かでゆっくりとした…濃密な大人の時間。
そばにいるだけで、言葉はいらない…みたいな…。
そう!それこそが花陽先輩の魅力なのだ。
今さら私が力説する事じゃないけど、普段、騒がしいお姉ちゃんと暮らしている私にとって、花陽先輩に惹かれる理由はここにある。
ところが、そんな風に改めて自分の気持ちを確かめていたところ
「今度…雪穂ちゃんも一緒に、天体観測してみる?」
なんて先輩の無慈悲なひと言で、現実の世界に引き戻された。
「えっ?…雪穂も…一緒に…ですか?」
「うん!真姫ちゃんも、私とだけだと飽きちゃうだろうし、仲間はいっぱい居た方がいいと思うんだ」
断言しよう。
先輩は計算して、自分を卑下している訳ではない。
本当に、飽きられることを心配しているのだ。
断言しよう。
先輩は悪気があって、こんなことを言ってるのではない。
純粋に、私を誘ってくれているのだ。
それだけに、堪(こた)える。
私の心にグサッと突き刺さる。
そもそも、真姫先輩が花陽先輩に対して『愛想を尽かす』などということが、まず、あり得ない。
あり得ない、あり得ない、あり得ない。
絶対にあり得ない。
そして、そんなふたりの中に、私が入り込むことなんてことが、これまたあり得ない。
きっと、ふたりは歓迎してくれるだろうし、私がそこに居たからって、何も変わることなく、接してくれるだろう。
でも、私が無理だ。
意識しまくる。
ふたりが放つ言葉を、一言一句逃すまいと耳をそば立て…その一挙手一投足に目を光らせてしまう。
隙あらば、ふたりの仲を引き裂くようなネタがないかと、神経を尖らせるはずだ。
自信がある。
そんなことに自信を持ってどうするんだ!とは思うけど、それが高坂雪穂という人物だ。
お姉ちゃんと違って、私は自分の短所をちゃんと理解しているのだ。
「雪穂ちゃんは、興味ないかな?」
「へっ?…あ、天体観測のことですよね?…興味なくはない…ですけど… まだ、早いですかねぇ…」
「まだ、早い?」
「いえ、何でもないです…」
「そっか…その気になったら、声を掛けてみてね?」
「あっ!はい!ありがとうございます!」
…って、こんなにハッキリ、断っちゃったよ…
…もう、二度と誘ってもらえないよね…
しかし思いの外(ほか)、すぐに『二の矢』が飛んできた。
「それじゃあ…こっちはどうかな?」
そう言って先輩が次に私へと差し出したのは『お菓子作り』の本…。
「雪穂ちゃんに見せるのはどうか…と思うんだけど…」
と先輩はハミカミながら、微笑んだ。
「さっきの天体観測よりは、こっちの方がずっと興味ありますよ!」
『雪穂ちゃんに見せるのは…』の意味は、言わずもがな…私の家の商売を知ってのことである。
和菓子屋の娘として、口が裂けても「お饅頭はもう飽きた」なんて言えない。
そういうことを堂々と口にしてしまうお姉ちゃんは、やっぱりどこか変わってる。
自由すぎるにも程がある。
翻って私はといえば…年頃だもん、洋菓子は嫌いじゃない。
いや公言できないだけで、寧ろ好きだ。
大好きだ。
「雪穂ちゃんは。おうちでクッキーとか焼いたりする?」
「いや~…しませんねぇ…。買って食べる専門です。『あっちの方』は家の手伝いで作ったりはしますけど…『こっちの方』はしないですねぇ…」
「でも、和と洋の違いはあれ、作ったら上手そうだよね?」
「どうでしょう…」
「私は…何回かチャレンジしてるんだけど…いつも出来上がりがビミョーで…」
「そうなんですか?」
「うん。レシピ通り作ってるハズなんだけど…やっぱり、ことりちゃんが作るお菓子の味には届かないんだよねぇ…」
「ことり先輩?」
「うん、いつももらってばかっかりだし…たまにはお返ししなきゃ!…って頑張ってるんだけど…なかなか上手に作れなくて…」
…あっ!…
話の流れが自然すぎて、まったく気が付か‼️なかったけど…先輩が『お菓子作り』って…そういうこと?
私は、その意味を理解して、また少しブルーになった…。
~つづく~
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