【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
確かに…ことりちゃんは、時々私たちの為に、差し入れをしてくれる。
それは、ほぼ引退状態になった今でも変わらない。
そこで、いくら先輩と言えども『貰いっぱなしは悪いから』…とお返しをしようとしたけど
「いいから、いいから…ことりは趣味で作ってるだけだから、気にしないで♡」
と断られたことがある。
「食べてくれる人がいなければ、作っても意味ないから…これで『行って、来い』ってことで…ね?」
とも言われた。
私たち後輩としては…その言葉をありがたく受け入れるしかない。
いやもちろん、決して嫌々…というわけではなく、それはそれは美味しく頂いている。
最初は恐縮しきりだった織音たちも、今はすっかり「次は何を作ってくれるんだろう」と待ち詫びていたりする。
私はといえば「やっぱり、ことりちゃんは女子力高いなぁ」…と羨む反面、でも実は「花陽先輩の為だったりして」…なんて勘繰ったりもする。
わかってる。
それは私の単なる嫉妬だということを。
でも…
逆に花陽先輩がことりちゃんの為に、お菓子を作ってる…なんて聴かされちゃうと、なんとも言えない気持ちになる。
胸が締め付けられる。
残酷すぎませんか?
家にまで呼んでおいて、そんな話をするのは…。
…はっ!…
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
「す…すみません、失礼します!!」
きょとん…とする先輩を横目に、丁寧に整理された本棚の中を眺めた。
自分の隣の部屋の人とは比べ物にならないくらい、きちんと並べられている数々の本…。
その大半は、アイドル関係の雑誌や書籍が占めている。
注目すべきは…それ以外…だ。
占星術の本…心理学の本…医学書…西洋美術の本…スポーツ雑誌にファッション雑誌…グルメ本。
さっき話のあった天文学の本もある。
…これって…
「ん?この中で雪穂ちゃんは、どれか興味あったりする」
私の行動を『勘違いした』先輩は、穏やかに声を掛けてくれた。
いつも通りの、とても優しい声で…。
「えっ…あっ…」
どれも、私の管轄外だ。
オシャレもスイーツも、興味がないわけじゃないけど…だからと言って趣味と言うほどハマっているわけじゃない。
「良かったら貸そうか?」
「えっ…あっ…はい…」
「そう言えば、雪穂ちゃんの趣味って?…穂乃果ちゃんは前に『シール集め』って聴いたことがあるけど」
「あはは…子供っぽいですよね?もう高校も卒業しようか…っていう人が」
「そうかな?」
「特別、こだわりがあるみたいなです。シールならなんでも…みたいな感じなんで。…整理もされてないし、あれを趣味って言えるかどうか…」
「そっか…」
「あっ…いえ、別にバカにしてるわけじゃ…」
先輩にはあまりお姉ちゃんのことを悪く言うな…と注意されている。
私は慌てて、取り繕った。
「…うん…」
それに気が付いたのか、先輩は小さく頷いた。
「私の趣味…ですよね…」
実は…これと言って…ない。
漫画は好きで読んだりはしてるけど、さりとて『これだ!』と人に言えるようなものは、何もない。
だから、子供っぽいといえども堂々と『シール集め』と言えるお姉ちゃんは、ある意味羨ましく思えたりする。
尊敬はしないけど。
「強いて挙げるなら…先輩を見てることですかね…」
「ありません」とも言えず、無理やり振り絞った言葉がそれだった。
…ストーカーか!…
なんて間抜けな回答だ。
告げた私も恥ずかしさで顔が熱くなったが、先輩の顔も一瞬にして真っ赤になり「ぴょえ…」とおかしな声を出して、固まった。
「困りますよね…そんなこと言われても…。大丈夫です、何かあってもプロフィール欄に、そうは書きませんから…」
「あはは…」
と先輩は愛想笑いをした。
「正直、私…人に自慢できるような趣味ってないんです。こんなこと言ったら怒られるかもですけど…スクールアイドルだって趣味とは言えないですし…。でも…でも…先輩のことをずっと見てるのは、本当です!それが楽しいと言うかなんというか…いや、確かに…それは趣味とは言えないかもですけど…」
「う~ん…じゃあ人間観察ってことで…」
「いえいえ、格好だなんて滅相もない。そんな失礼なことは…」
「だけど…少しわかる気がするなぁ…」
意外な言葉が帰ってきた。
「私も、それに近いところがあるから…」
「えっ?」
「もちろん、それを趣味って言っちゃうのは、違うと思うけど…私の場合は…『どうやったら絵里ちゃんみたいに格好よくなれるかな?』とか『どうやったら希ちゃんみたいに場を和ませられるかな?』とか『どうやったら、にこちゃんみたいに強くなれるかな?』『どうやったら誰々みたいに…』って、ずっと思ってたから…。ここだけの話だけど…ひとりで、ちょっとモノマネしたりしてね」
先輩は「えへっ」と、ペロリと舌を出した。
「そ、そうなんですか?」
「たぶん…雪穂ちゃんが私を見てくれてる理由とは違うかも知れないけど…」
「はい」
「…でもないかな?根っこの部分は一緒かも…。さっきの話の繰り返しになっちゃうけど…みんな、自分にないものを持ってるから、そこに憧れてるというか、そういう部分が私の中にはあって…だから、少しでも近づけたらな…みたいなところがあって…」
「それがモノマネにつながるんですね?」
「雪穂ちゃんは知ってるかな?μ'sでハロウィンのイベントに出る前の時の話」
「何でしたっけ?」
「次の曲をどうしようか…って迷ってる中で…メンバーみんなでモノマネした話」
「あぁ!知ってます、知ってます!お姉ちゃんの真似を…希さんがしたんですよね?家に帰って来てからその時のことを話して…『ねぇ、雪穂!私ってあんなにだらしなく見える?』…って、メチャクチャ、ブー垂れてましたから。『見てないから知らないよ!でも、多分そう!』って言ったら喧嘩になっちゃって」
「あはは…穂乃果ちゃん…」
「先輩はお姉ちゃんのこと貶すな…って言いますけど、本当に幼稚なんです…あっ…その話はどうでもいいですね…えっとその時先輩は…」
「にこちゃんの『にっこにっこにー』をやらしてももらったんだ」
「…でしたよね?…それもお姉ちゃん愚痴ってみしたよ。花陽ちゃんだけ『得意分野のモノマネ』でズルイ!って…」
「うん!それは穂乃果ちゃんが正解!私はすごくやり易かったし、楽しかったかな…。他の人の真似だったら…かなり苦戦してたと思う」
「それはそれで見てみたいかも…」
「それがあってからかな…家で練習するようになったのは…」
「えっ?それキッカケなんですか?」
「うん!もし、あの時、誰々役になってたら…って」
「さすが先輩です!そんなことでも一生懸命なんですね」
「…っていうわけじゃなんだけど…そうすることで、少しでも自分のダメなところを変えていければな…っていう…」
「ダメなところなんて、ないですよ!」
「あるよ…いっぱい…」
「ないですよ!」
「あるから!…だから…こうやって、みんなに認めてもらえるように努力してるんだ…」
そう言うと先輩は、本棚の方に視線を移した。
「えっ?…あっ…」
「ふふ…この本ね…みんなの話に合わせられるように買ったものなの。元々はアイドル関係の雑誌とかしかなかったんだけど…μ'sのみんなと仲良くしてもらうようになるつれ、色々なジャンルの本が増えていって…」
「素敵です!やっぱり勉強熱心なんですね!」
「違うんだよ…私…みんなに『いつか捨てられちゃうんじゃないかなぁ』と思ったら怖くてね…」
「捨てられる…ですか?…先輩が?」
何を言ってるか、わからなかった。
こんなにも誰からも頼りにされて、いつも引っ張りだこで、休む暇もないほど人気者の先輩が『捨てられる』だって?
…だとしたら誰が?どういう理由で?…
そう思った時、自分の心の中の矛盾に気が付いた。
花陽先輩を捨てるような人は、例え誰であっても
許せない!
この人に悲しい顔をさせる人がいたら、例え先輩が許しても、私が許さない!
そう、やっぱり花陽先輩は『誰からも愛される存在でいてほしい』のだ。
だけど…
誰からも愛されるということは…私だけの先輩にはなり得ない…ということ。
私が先輩とお付き合いすることによって、誰がかなしむとしたならば…きっと先輩も心を痛めるに違いない。
そんな状態で一緒にいて、先輩は私に笑顔を見せてくれるのだろうか?
それとも…
それでも、そんな先輩を独り占めできたら、私は満足なのだろうか?
支配欲?
征服欲?
それをなんて言うか、わからないけど…人を愛する…って簡単じゃない…ってことは、この時少し
思ったのだった…。
~つづく~
この作品の内容について
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