【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
趣味の話から転じて…話題は少女漫画に移った。
先輩は「穂乃果ちゃんの部屋の本棚にあるコミックは、大体、借りて読んだよ」とのことだったから、同じくお姉ちゃんの本棚のラインナップを熟知している私は、ようやく話の接点を見つけた感じだ。
どうしても学校では練習が主体になるから、あんまりこういう会話をする機会がない。
あの作品のあそこはああだよね…とか、この作品のここはこうだよね…とか、共感ポイントが一致したりして…ガールズトーク全開!!
ひとしきり盛り上がった。
「他にハマってる作品とか、ありますか?」
後から…訊かなきゃよかった…って思ったけど、ついそんな質問をしてしまった。
「そうだなぁ…〇〇は、面白かったよ!ネタバレしちゃうから、内容は教えられないけど…。あと〇〇とか…」
「純粋に恋愛ものが好きなのかな?って思ってたんですけど、意外や意外、冒険物とかホラー系とか、そういうのも読むんですね?」
「最初のは凛ちゃんから、次のは希ちゃんから薦められたんだけど…貸してもらったら結構面白くって…」
…やっぱり…そういうことでしたか…
…どこにでも出てくるんだなぁ、あの人たちは…
「先輩って感性が豊かなんですね。普通、薦められても、自分が苦手なジャンルは読まないじゃないですか」
「そうかな?…う~ん…そうかな…う~ん、そうだねぇ…そうかも…」
「えっ」
「どこかで…みんなの話題についていけるように…っていう意識が働いちゃってるんだろうなぁ…」
「えっ…あっ…」
この間からそうだ。
先輩の口からは…いかに自分がネガティブな人間か…という言葉ばかりが出てくる。
「そんなことないです」
そう答えると
「これもダメなところ…。そうやって誰かにして否定してもらうことで『自分を認めてくれる人がいる』っていう満足感を得てるんだ…きっと…」
なんていう始末。
違います!
先輩は絶対、そんな打算的な人間じゃありません!!
お姉ちゃんの…あのどこからくるかわからない、根拠のない自信を、ほんの数パーセントでもいいから、分けてあげたいです!
「でもね、それ抜きにしても、面白い漫画だよ!今度、雪穂ちゃんも読んでみたら?」
「は、はい…ありがとうございます」
そう返事はしてみたものの…それは結局、先輩たちの後塵を拝したことになる。
それはイヤ。
なんとか自分キッカケで先輩に興味を持ってもらう手段を考えないと…。
先輩の話を聴けば聞くほど、私の前に七人の敵が立ちはだかる。
あれも、これも…先輩が依存してるのか、みんなが依存してるのか…多分、そのどちらもそうなんだけど…とにかく私の付け入る隙がないというのを思い知らされる。
暗に「だから、私のことは諦めてね」と断られてるのかな?
呼んでおいて、それはない。
だとしたら、あまりに残酷なお泊り会だ。
私に希望も光もない。
その一方、先輩がそんなことをするはずがない…という気持ちもある。
いや、寧ろ、それに縋(すが)るしかない。
その気持ちを捨ててしまったら、私は…何をしでかすかわからない。
この間、いきなり店を飛び出して、先輩の家に走ってきたように…。
「先輩…」
「ん?」
「…あの…」
…私だけを見てください!…
言えないよね…。
それを言うのは、このタイミングではない。
だけど、今はもう…既に告白してしまった私は…これ以上何をしたらいいかわからない。
本当は…抱きしめ合ったり…その…なんて言うか…KISSをしたり…部屋に招いてもらった以上、そういうことがあるかもしれないという期待はしていたけど…先輩からしてくれそうな雰囲気はない。
何度「押し倒してしまおうか…」と考えたことか…。
でも結局そんなことはできなかった。
できるはずはない。
そんなことをしたら…先輩が悲しむのはわかるから。
それは本意じゃない。
じゃあどうしたら、私は先輩の気持ちを楽にしてあげられるのだろう?
それが出来たら、先輩は私の気持ちを受け入れてくれるのではないか?
出口のない答えを求めて、私の頭の中がフル回転する。
「あっ…こんな時間になっちゃったね!そろそろ寝ようか?」
「そ、そうですね…え、えっと…お布団出します!どこにありますか?」
「ん?あっ…ごめん、私の部屋に、お客さん用のお布団なんてないよ…」
「えっ…」
「狭いけど…二人で寝たらあったかくなるし」
「は、はい!すみません、お願いします!!」
「あは…お願いします…って」
「へ、変ですよね…」
そうだ、変だ。
何を意識してるんだろう?
私だって亜里沙が家に泊まりに来たときは、一緒のベッドで寝てるじゃないか。
…全然、普通のことだから!…
普通じゃなかった…。
それこそ、慣れ親しんだ友人とは訳が違った。
「寒くない?」
横になった先輩が私に問い掛ける。
ここで私は人生の岐路に立たされた。
「はい、大丈夫です!」
実際、寒くない。
少し変態チックなことを言えば、ふかふかな掛布団は、雪穂のそれとはまた違う匂いがして…とても優しく穏やかな気持ちにさせてくれる。
何も考えなければ、すぐに深い眠りへと私を誘い…結果、何事もなく朝を迎えるのだろう。
そして、それはこれから先、平和に人生を過ごすための最も重要な返答であった。
「寒いです」って答えたら?
「じゃあ、もっと近づこうか…」なんて言ってくれるのかな…。
ただでさえ、お風呂上りの先輩の髪の匂いが鼻孔をくすぐるのに…密着しちゃったりなんかしたら…。
しかも、パジャマを1枚捲れば素肌に触れることが出来る、このシチュエーション。
…まさに雪穂の心は雲の上!…
ドキドキせざるを得ないでしょ!
一緒に入浴しそこなった…という後悔(?)も相まって、もう9割方、そういう返事をしたくなっていた。
しかし…残りの1割。
自制心が働く。
いいのか、本当に!
高坂雪穂という人格が、完全に崩壊するぞ!
そんなことになったら、二度と先輩の前に、姿を現すことができないぞ!
いいのか本当に!
何を言ってるんだ、雪穂!
ここを逃したら、二度とこんなチャンスは巡ってこないぞ!
後悔先に立たず!
当たって砕けろ!
壁は壊せるものさ!倒せるものさ!
待て、待て、焦るな!!
良く…良く…考えるんだ!!
どちらの意見も正しいし、どちらの意見も間違ってる。
「雪穂ちゃん?寝ちゃった?」
天使と悪魔の囁きから、先輩の声が呼び覚ます。
「えっ?い、いえ…」
「大丈夫?狭くない?」
「は、はい!大丈夫です!こういうのは慣れてますから」
「慣れてる?」
「たまに亜里沙と寝たりするんで…」
「なるほど」
「あっ!寝たりする…って言ってもそういう意味じゃ」
「あは…雪穂ちゃんって、そういう冗談言うんだね!」
「い、いえ…」
なんて馬鹿なことを言ったんだろう!
先輩がそんな勘違いするハズないじゃん!
先輩には見えていないだろうけど、自分の顔が真っ赤になっていくのがわかる。
顔だけじゃない。
全身が一気に熱を持った。
一瞬にして汗ビッショリだ。
これではとても「寒いです」なんて言えない。
「え、えっと…逆に先輩は…その…みんなと寝たりするんですか?」
「ん?…それは…どっちの意味かな?」
うわぁ!テンパって輪を掛けておかしなことを言ったやったよ!
…って先輩も先輩だよ!
どっちの意味って訊く?…
えぇ!?先輩!!
まさかそんな経験が!?
「ご、ごめんないさい!他意はありません!凛先輩とかがお泊りに来た時もこうしてるのかな?って」
「あは…わかってるよ!そうだねぇ…さっきも言ったけど…私の部屋にはお布団がないから」
「で、ですよねぇ!!」
「もう少し大きなベッドが欲しいな…とは思ってるんだけど…」
「えっ?この大きさで十分じゃないですか?」
「…3人で一緒に寝るとさすがに狭くって」
「3人で…」
凛先輩と真姫先輩が泊まる時かな?
「雪穂ちゃんは、亜里沙ちゃん以外とはお泊りとかしないの?」
「わ、私ですか…今のところは…はい…」
「そっか…」
「私と亜里沙は…先輩と凛先輩程ではないですけど、付き合いが長いので…。でも、まだ他の3人とは…」
「うん…ごめんね」
「どうして先輩が謝るんですか!?」
「雪穂ちゃんたちと3人の垣根が取り払えていないっていうのは…部長としての役割が果たせてないんだろうなぁ…と思って…」
…!!…
あぁ、もうダメだ!!
もう、我慢できない!
私が…私が先輩を癒してあげないと、この人は一生苦しみから抜け出せない!
「雪穂ちゃん!?」
気付くと私は掛け布団を撥ね飛ばす勢いで、上半身を起こしたのだった…。
~つづく~
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